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張桂娥「第8回日台アジア未来フォーラム『グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性』報告<その1>」

2011年5月から8年連続の開催となる「日台アジア未来フォーラム」とは、「渥美国際交流財団関口グローバル研究会」(SGRA)主催の国際研究交流会議であり、台湾ラクーン(渥美財団の支援を受けた元奨学生)が中心となって活動している知日派外国人研究者の研究ネットワークである。本フォーラムでは、主にアジアにおける言語、文化、文学、教育、法律、歴史、社会、地域交流などの議題を取り上げ、若手研究者の育成を通じて、日台の学術交流を促進し、日本研究の深化を目的とすると同時に、若者が夢と希望を持てるアジアの未来を考えることを、その設立の趣旨としている。

 

グローバル化したマンガ・アニメ文化は、視覚芸術を極めた魅惑的なワールドを築き、世界中の若者を虜にした。非日常な世界に魅了された視聴者にとって、マンガ・アニメは、まさに自己と他者ないし世界を理解するための媒介である。サブカルチャーだったマンガ・アニメ文化は、一国の経済成長に大きな影響を与えるメインカルチャーに転換していき、我々現代人のライフスタイルをダイナミックに変えるソフトパワーの源でもある。

 

台湾では近年、マンガを通して各国の文化・社会への理解を深める教養講座が相次いで開設されている。東呉大学日本語学科は、コミックス蔵書を楽しむ「マンガ読書エリア」を開設した東呉大学図書館と協力して、マンガ・アニメ文化の可能性を探究する学術シンポジウムを開催してきた。他大学に先駆けて、マンガ・アニメ文化研究の最前線に立って、アカデミックな研究の未来を見据え、その可能性をさらに切り拓こうとしている。

 

第8回日台アジア未来フォーラム「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」は、世界の若者を魅了したマンガ・アニメのソフトパワーの真骨頂を解明しようとする台湾東呉大学日本語学科と同大学図書館との共同主催のもとで、2018年5月25日(特別講演会)、26日(国際シンポジウム)の2日間にわたって、台北市の東呉大学で開催された。

 

本フォーラムでは、世界規模・地球規模に広がったマンガ・アニメ文化の魅力に着目し、「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―」というテーマを中心に議論を展開した。25日午後の特別講演会を前夜祭に、26日の国際シンポジウム【午前の部】招待講演会×3講演、パネルディスカッション×1会場、【午後の部】招待講演会×2講演、3会場×2セッション(招待研究発表×2本+公募研究発表×16本)など、多様なプログラムを通して、情報の共有及び知的交流の推進を目的とした。

 

また、文化を発信するコミュニケーションツールとして共感・同調・共有されてきたマンガ・アニメが、いかに次世代の地球市民の手によって共創するコンテンツ産業へ進化していくかのプロセスや、それを実現させるあらゆる創発の原理を創造的に思考する場を提供し、あらゆる参加者による活発な議論・討議・ディスカッション・意見交換が繰り広げられるという、市民向けフォーラム的効果も期待している。

 

今回は、共同主催する3機関団体の他に、中華民国(台湾)教育部、科技部、外交部、中華民国三三企業交流会、台日商務交流協進会をはじめ、日本の(独)国際交流基金、(公財)日本台湾交流協会など、台湾と日本の公的機関から甚大なる支援をいただいた。また、第1回フォーラムから主要賛助企業である中鹿営造(股)を筆頭に、台湾日本人会の呼びかけを通して、ケミカルグラウト(株)(日商良基注入営造)、日商全日本空輸(股)台北支店、台灣住友商事(股)、台灣本田汽車(股)、台灣三菱電機(股)、みずほ銀行台北支店より貴重な協賛を頂いたお蔭で盛大に開催ができた。この場をお借りして改めて深謝の辞を記させていただく。

 

1日目の5月25日午後は、シンポジウムの前夜祭として設けた漫画家特別講演会であるが、一年間にわたる関係者の努力が実り、また幸運にも講談社より全面的なバックアップを受けたお蔭で、『島耕作』シリーズが代表作である漫画家――当代日本マンガ界きっての「神級名師」である弘兼憲史先生をお招きすることが実現できた。40年以上に渡って日本企業文化の神髄やサラリーマンの心得を伝授してこられる弘兼憲史先生には、「漫画から学んだこと」をテーマに、漫画の創作や企業の取材を通して身につけたことを伝授していただくことにした。

 

台湾でも圧倒的な人気を誇る弘兼憲史先生のご著書を網羅的に所蔵している東呉大学図書館は、アカデミックな特別講演会をさらに盛り上げようと、学内外のコミックファンを対象に、4月から先駆けて「弘兼憲史先生全作品を読破する」という読書感想コンクール・「弘兼憲史先生/島耕作会長に聞きたい!」という質問大募集キャンペーン、弘兼憲史先生全作品特別展示ブックフェアなど、総力を挙げて盛りだくさんのイベントを開催する運びとなり、大学史上最高の盛り上がりを見せた。その成果か、講演会に出席したいと事前に申し込んだ人数は、想像を遥かに超えて、500名に迫る勢いなのを受け、定員340人の会場に収容できない来場者を受け入れるため、急遽隣接する戴氏基金会ホールに生放送する機材を運びこみ、臨時会場を特設することにした。

 

25日午後2時ごろ、講演会開始の前に、東呉大学図書館特設会場にて、弘兼憲史先生ご来学記念ボードのサインセレモニーが行われた。その後、講演会場に隣接する生放送する予定の講堂ホールに移動され、記者会見に臨んでいただいた。約30社のマスメディア関係者による囲み取材を受けた弘兼憲史先生は、地元記者からの矢継ぎ早で途切れぬ鋭い質問に、40分ほどよどみなく答え続けてくださった。日中台関係をめぐる政治がらみの敏感な質問にも決して嫌な顔をなさらずに、どんな細かい質問にも真面目に誠実に答えてくださった先生の謙虚で真摯な姿が、連日、台湾のテレビニュース番組の動画や各社メディアの新聞記事に報道された。「島耕作シリーズ」の高い知名度とともに、台湾の良き理解者として、リアルな弘兼憲史先生の人間性がさらに広く認識されるという印象深いエピソードである。

 

25日午後3時半、東呉大学の大学生・院生のみならず、台湾全土の大学関係者や社会人、約30社のマスメディア関係者や日系企業の台湾駐在員などで超満員の東呉大学普仁堂で、特別講演会の開幕式が行われた。入場できずに戴氏基金会ホールで生放送のモニターに釘付けの参加者たちにも見守られるなか、東呉大学董保城副学長、渥美国際交流財団今西淳子常務理事、日本台湾交流協会台北事務所広報文化部松原一樹部長のご挨拶があり、弘兼憲史先生特別講演会が始まった。

 

今回の特別講演会は、フロアとの交流、話しやすさにこだわる弘兼先生のご要望もあり、同時通訳ではなく、逐次通訳を壇上に同席させた上、取材メディアから寄せられた質問や視聴者から事前に集まった代表的な質問から司会者の朱廣興教授が選んだものに、先生に答えていただく【Q&A形式】で進行することになった。最初の10分間は、先生自らの生い立ちの紹介からスタートし、漫画家になるまでに経験したサラリーマン時代を振り返り、そして、約45年間にわたって無我夢中に打ち込んできた漫画家としての歩み並びに、膨大な漫画創作の業績及び多種多面な分野で活躍された成果などを振り返っていただいた。

 

その後、パートⅡ【Q&A】のコーナーに入り、(1)漫画創作にまつわる物語の背景・舞台設定、作業場の裏話・苦労話(2)漫画作品の世界や作中人物にまつわるエピソード・逸話(3)世界情勢・アジアの若者事情・仕事観・キャリア形成、といった3つのカテゴリーから、司会者が選んだ10の質問にお答えいただくコーナーにうつった。

 

まず、「激しい世界情勢や社会現状を背景にした作品作りに取り組んでいるが、リアリティーを持たせるための工夫や、想像力のトレーニング、そしてアイデアを枯渇させないコツは?」という創作手法をめぐる質問に、弘兼先生は、ラジオのニュース番組の視聴や映画予告編の鑑賞、取材を通して入手した材料、蓄積した人脈を活用したりして、日々の生活のどんなシーンでも周りの出来事に目を光らせている等、アイデアを保つヒントを隠さずに教えてくださった。

 

また、IOTによる産業革命に生き残るために企業へのアドバイスを求められると、多国籍企業文化の普及化に伴うモノづくりの多様化に柔軟に対応していきながらも、グローバル化した世界・社会に貢献できる人間の本質の生活に欠かせない不変なものの価値を見いだしてほしい。これから、もっと高度に進化し多様化していく人間社会にも通用できる、シンプルな喜びをもたらすモノづくりシステムの構築にたどり着くのではないか、という、遥か人間の未来社会を見据えた哲学者っぽいウィットな解答もあった。

 

そして、未来世界の国や会社を導く真のリーダー像とは?の問いに、弘兼先生は、山本五十六の人材育成に関する非常に有名な言葉――「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」を引き合いに、リーダーとしてこれからの世界を担う若者の人材育成・人材づくりに携わる際に最も大事な留意点(キーポイント)をかみ砕いて、丁寧に説明してくださった。

 

最後に、ご自身の経験を例に、台湾・アジアを歴訪した会長島耕作的目線を光らせ、「アジア均一化時代」に生きる台湾・アジアの若者の試練や未来につなぐためにしておくことも含めて、将来、新社会人として勤務する際の心得や取るべき行動などについて、時間をかけてじっくり語っていただいた。会場を埋めつくした参加者一同、瞬きもせず聞き入っていた光景が印象的で感銘深い特別講演会であった。

 

読書感想文の優勝者・最優秀質問の当選者の表彰式及び感想文朗読プレゼンの後、フロアからの質問を受けるコーナーも予定していたが、夢心地のような短い2時間の講演会は、余韻に浸る間もなく、あっという間に終わりました。第8回日台アジア未来フォーラムの初日を飾った弘兼憲史先生特別講演会は、東呉大学日本語文学科蘇克保主任の閉会式のご挨拶で、大盛況のうちに幕を閉じた。

 

同日夜、東呉大学の近くにある故宮博物院の敷地内に位置する「故宮晶華」という、現代テイストの中華料理と藝術的な創作メニューが魅力なレストランで歓迎パーティーが開催された。総勢40名の出席者でにぎわう会場で、気さくで話し上手な弘兼憲史先生を囲んで、美食・美禄を堪能しながら、歓談した。

 

実は、8年ぶりに公開された訪台活動である今回の特別講演会を機に、取材活動にも精力的に取り組まれた先生は、過密なスケジュールの合間を縫って、早朝から深夜まで台湾各地を歩き回られ、現地取材をこなしたと話された。そして、今回の取材で入手された迫真で斬新な材料を、今年8月(今月)発売の最新連載号「会長 島耕作」の<台湾編>に仕上げるという、会場一同を驚かせたサプライズなニュースをリークしてくださった。第8回日台アジア未来フォーラムにおける特別講演会のイベントが、何らかのシーンで紹介されるとすごいねと、関係者全員密かに期待しながら、愉快なエピソードをつまみに、とっても充実した長丁場の一日の幕下ろしを円満に迎えて、帰路についた。

 

以上、本フォーラム発足して以来もっとも記念すべき特別講演会の報告であった。引き続き2日目の国際シンポジウムの詳細を報告する。(つづく)

 

当日の写真

 

◇記者会見・講演会の動画:

 

日本「島耕作」漫畫家來台 取材台灣政治 20180525 公視晚間新聞-YouTube

 

島耕作漫畫作者來台 取景台灣立法院 – YouTube

 

◇記者会見・講演会の関連記事:

 

「島耕作」の新作は「台湾篇」 弘兼憲史さん訪台、大学で講演も|社会|中央社フォーカス台湾

 

《島耕作》作者東吳演講 想忠實呈現台灣政治|芋傳媒TaroNews

 

◇雑誌週刊誌:話題人物特集(報道)編/大学キャンパス通信

 

新世代職場求生 島耕作之父傳授三大祕技―今周刊

 

『東呉大学キャンパス通信』311号p.2.pdf

 

<張 桂娥(ちょう・けいが)Chang_Kuei-E>

台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。