SGRAイベントの報告

林 泉忠「第5回日台アジア未来フォーラム報告:日本研究から見た日台交流120年」報告

2015年5月8日、第5回日台アジア未来フォーラム「日本研究から見た日台交流120年」が国立台湾大学で開催された。過去120年間の日台関係を振り返り、戦前の経験はいかなる遺産としていかに再認識すべきか、戦後東アジアが新たな秩序を模索するなか、台湾と日本との関係は様々な困難を乗り越えて再構築されたが、そのプロセスは如何なる特徴を有しているのか、そして、次の120年の日台関係を展望するには如何なるキーワードを念頭にいれる必要があるのか、という問題意識に基づき13の講演・論文発表と活発な議論が展開された。李嘉進亜東関係協会会長と沼田幹夫日本交流協会代表にご挨拶をいただき、200名の参加者を得て大盛会であった。

 

フォーラムは、「国際関係」、「語学と文学」そして「社会変容」という3つのセッションから構成され、台湾、日本、韓国、中国から第一線で活躍する学者を招き、斬新な視点から鋭い議論が展開された。

 

基調講演は、東京大学東洋文化研究所教授の松田康博氏が「日本と台湾の120年:『二重構造』の特徴と変遷」という演題で行った。松田教授は、冒頭で、最初の50年は宗主国と植民地の関係であり、後の70年は外国同士の関係であることに触れ、台湾の主体性の顕現という観点から見ると、日本と台湾との関係はほぼ一貫して「二重性」という特徴を有していたと指摘した。植民地期の日本と台湾の関係は、「中央政府と総督府」および「日本社会と台湾社会」という二重性であり、数年の過渡期を経て、1952年以降のそれはいわば「政府当局間の日華関係」と「社会間の日台関係」になったと力説した。最後に、今後、中国の台頭は日台関係にどのような影響を及ぼすであろうか、またそれは、台湾住民が台湾の主体性をどのようにとらえるかが鍵となるだろうと語り、基調講演を終えた。

 

第1セッションは、国立台湾大学歷史学系兼任教授の呉密察氏を座長に迎え、「政治環境・国際関係の変容から見た日台関係」というテーマで、台湾、日本、そして中国という3つの視点から「日台関係120年」を議論した。発表された3本の論文は、国立成功大学台湾文学科の李承機副教授による「『植民母国』から『国際関係』へ―台湾の文化主体論の変容と日台関係―」、東京大学総合文化研究科の川島真教授による「戦後初期台湾の日本研究/日本の台湾研究 」、そして中国社会科学院近代史研究所の王鍵研究員による「中国の視点から見た台日関係120年」(代読) という、いずれも刺激的な内容ばかりであったし、日中台の学者が一堂に会して「日台関係」を語ることも画期的であった。

 

第2セッションは、「日本研究の回顧と展望―言語と文学―」というテーマであったが、A「文学・文化」、B「言語・語学」に分けられ、前者の座長を務めたのは、国立台湾大学日本語文学科長の范淑文教授、また発表された3本の論文は、黃翠娥・輔仁大学外語学部副部長による「台湾における日本近代文学研究」、曹景惠・国立台湾大学日本語文学科副教授による「台湾における日本古典文学研究の過去、現在と未来」、藍弘岳・国立交通大学社会与文化科学研究所副教授による「台湾における日本研究―思想、文化、歴史をめぐって― 」であった。「時間軸」で台湾の日本文学を古代から近代まで検討すると同時に、「分野軸」で 台湾の日本研究を纏めるという実に多彩な内容だった。

 

Bは、林立萍・国立台湾大学日本語文学科教授が座長を務め、「言語・語学」というテーマで賴錦雀・東呉大学日本語文学科教授、外国語文学部長による「データから見た台湾における日本語学研究」、葉淑華・国立高雄第一科技大学外語学部長よる「台湾における日本語教育研究の現状と展望 ―国際シンポジウムを中心に― 」(データ、シンポジウムをキーワードとして日本語学および日本語教育の現状を考察)、申忠均・韓国全北大学日語日文学科教授による「韓国における日本語教育の歴史 ―朝鮮時代の倭学、そして現在― 」という興味深い報告が行われた。

 

第3セッションの「日台社会の変容と交流の諸相」では、文字通り、日台交流史における「社会の変容」と「交流の諸相」に焦点をあてた。張啓雄・中央研究院近代史研究所研究員が座長を務め、3本の論文が発表された。まず経済の視点からの佐藤幸人教授による「日台企業間の信頼と協力の再生産」では、日台企業間の協力関係について、複数の事例からアプローチし、その再生産のダイナミズムを明らかにした。また鍾淑敏・中央研究院台湾史研究所副研究員がアイデンティティの視点より、「根を下ろせし異郷、故郷となれり」という興味深いタイトルで、台湾生まれの日本人と台湾社会との交流を再検討した。そして、中央研究院台湾史研究所副研究員の呉叡人氏は歴史社会学の視点から、現実主義者の歴史的イデオロギーの操作による日台右翼民族主義者の結合現象を分析した。

 

最後の総合討論では、「21世紀の日台関係を展望する」というテーマで、座長の徐興慶・国立台湾大学日本語文学系教授兼日本研究中心主任のもとで、各分野を代表する6人の学者、すなわち范淑文、辻本雅史、 松田康博、川島真、呉叡人、そして筆者が、これまで120年の日台関係および日本研究のあり方や特徴をそれぞれ語り、今後の方向性を提示した。

 

今回のフォーラムを「ハイレベルだった」と評してくださった基調講演の松田康博教授をはじめ、多くの参加者が高く評価してくださった。今回の議論を通して新たな「日台関係論」の構築に資したいと思う。

 

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<林 泉忠(リム チュアンティオン) John Chuan-Tiong Lim>

国際政治専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年より2年間ハーバード大学客員研究員、2010年夏台湾大学客員研究員。2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、2014年より国立台湾大学兼任副教授。

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