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エッセイ536:マックス・マキト「マニラ・レポート2017年初夏」

2015年9月、国連は17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDG)を定めた。その6番目の目標に「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ということが掲げられている。これを背景として、第23回SGRA持続可能な共有型成長セミナーが、「経済的に困窮しているコミュニティのための水の統合システム」というテーマで、2017年5月7日(日)にマニラで開催された。共同主催者は、雨水利用を推進するアメコス・イノベーション社(AMECOS INNOVATION, INC.)で、自社を会場として提供してくれた。

 

SDGのウェブサイトには、次のような統計がある。
・2015年の時点で、改良飲料水源を利用する人々の割合は、1990年の76%から91%へと増大しています。しかし、トイレや公衆便所など、基本的な衛生サービスを利用できない人々も、25億人に上ります。
・毎日、予防可能な水と衛生関連の病気により、平均で5000人の子どもが命を失っています。
・水力発電は2011年の時点で、最も重要かつ広範に利用される再生可能エネルギー源となっており、全世界の総電力生産量の16%を占めています。
・利用できる水全体の約70%は、灌漑に用いられています。
・自然災害関連の死者のうち15%は、洪水によるものです。

 

フィリピンでも水の状況はあまり芳しくない。今のままでは、フィリピンは今後10年以内に水不足が深刻な問題になり得る。不衛生な水しかなくて毎日55人が命を落としている。ボトルウォーターの使用が急増している。

 

SGRA持続可能な共有型成長セミナーの目標は「効率・公平・環境」の鼎立であるので、実行委員会ではKKKセミナーと呼んでいる。ちなみに、フィリピン語にしてもKKKなのである。毎年2回フィリピンで開催する共有型成長セミナーでは、1人の委員のKKKに関する研究とアドボカシー(主張)に焦点を当て、発表と議論が行われる。

 

第23回KKKセミナーの午前中の司会者は、フィリピン出身の元渥美奨学生のブレンダ・テネグラさんであった。彼女は暫くの間参加できなかったが、今西淳子SGRA代表の誘いで、前回のKKKセミナーから復帰してくれたので嬉しく思っている。今回のKKKセミナーの焦点は、アメコス社の社長で、元大学教授であるアントニオ・マテオ先生の雨水利用の活動であった。

 

マテオ先生と角田英一渥美財団事務局長の開会挨拶の後、マテオ先生が「イノベンション(発明+革新)と気候変動の影響」(Innoventions Versus Climate Change Effects)というテーマで発表した。雨水利用は家計の水道費を節約するだけでなく、気候変動によって頻繁に起きている湖水の被害を軽減できるという主張であった。水源に注目したマテオ先生に対して、フィリピン固形廃棄物管理協会(Solid Waste Management Association of the Philippines)のグレース・サプアイ会長と娘のカミールさんは、下水に焦点を当てた「浄化槽における環境に優しいイノベンション(発明+革新)」(Green Innoventions in Septic Tanks)を発表した。

 

ちなみに、KKKセミナーへの次世代の参加が増えていて嬉しく思っている。彼らには未来が託されているからこそ、積極的に参加してもらいたい。KKKセミナーは2004年にスタートしたが、その時から僕の兄弟たちはもちろん、姪と甥もできるだけ参加してもらうようにしている。今回も、マニラの大学の工学部を卒業した甥が参加した。別の甥は、セミナー前日の夜遅くまで仕事があったが、セミナー当日には運転手として手伝ってくれた(セミナーでは眠っていたけれど)。

 

サプアイ親子の発表の次に、「コモンズの管理と債務の開発のための交換 (Managing the Commons and Debt for Development Swap:コモンズとは誰の所有にも属さない資源を指すもの)についてジョッフレ・バルセ氏が発表した。彼は、100年以上も続く古いオーストラリアの「良き政府の協会」(Association for Good Government)の会長であり、セミナーのためにシドニーから来てくれた。バルセ氏は、汚職などが絡んで正しく使われなかった借入金はインフラ開発のため(例えば、水道システムの開発)に使えるようにすべきだと主張した。

 

最後に、フィリピン大学経営学部のアリザ・ラゼリス先生が「営利団体による水源の管理」(Water Resources Management by Business Organizations)について発表した。国連の「統合水源管理」が発表した理論的な分析枠組みを展開し、文化的要素を含む社会的な様相をその枠組みに導入しようとした。

 

昼食を挟んで、午後はSGRAフィリピン代表のマキトが司会を務め円卓会議を行った。他の委員のアドボカシーを事例として円卓会議の進め方を説明した後、発表者や参加者と一緒に、午前中の発表を1つずつ、5つの観点(つまり、効率・公平・環境・研究・アドボカシー)から論じた。その詳細と当日の写真は、セミナーの報告書(英文)をご参照ください。

 

円卓会議の後、マテオ先生にアメコス社をご案内いただいた。本社屋は多目的で、自宅でもありながら、発明用の研究室+展示施設でもある。獲得した特許はすでにご自分の年齢を上回っているほどで、「母の胎内にいた時にも発明をやっていた」と冗談を言っていた。

 

しかし、特許に関しては問題もある。あるフィリピン政府機関が無断で彼の発明を利用しているそうだ。知的財産の権利を守る番人でもある政府が、その役割を果たしていないのであるから問題の深刻さを物語っている。政府は国の発展のためにその発明を広めようとしているかもしれないが、さらなる発明や革新の妨げになるだろう。それでも、マテオ先生は国の発展のために発明や革新を呼びかけている。

 

アメコス社のプチ観光の最後に、子ども達や家族や友人たちを楽しませるために、再利用した資材を使って自分で作ったツリー・ハウス(樹上の家)に案内してくださった。マテオ先生が発明や革新の意欲を失わず、しかも、KKKセミナーの参加者とのネットワークがビジネスにも役立ったと話してくれたことを嬉しく思っている。

 

<マックス・マキト☆Max Maquito>
SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。

 

 

2017年6月1日配信