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楊淳婷「第8回ふくしまスタディツアー『ふるさとの再生』報告」

2019年9月21日から23日までの3日間、福島県飯館村の訪問を軸としたスタディツアーの一参加者として、非常に充実した時間を過ごした。震災/復興という漠然とした言葉で括られている、福島で起きた/起きている出来事、すなわち2011年福島第一原子力発電所事故による放射能汚染と住民の避難、そして近年、その除染作業の進行に伴う土地利用や住民の帰還について見聞きしたことを少しお伝えしたい。

 

原発事故の経過を回顧し、廃炉作業の現状や予定について紹介する「東京電力廃炉資料館」から我々のツアーが始まった。東電の旧経営陣の3人に無罪判決が下された数日後だった。当該資料館の解説員や映像紹介によって、「自然現象など外的事象が引きおこす過酷事故のリスクを軽視し、安全対策を継続的に強化してこなかった、申し訳ない」という弁解が繰り返された。しかし、福島県沖を震源と設定した場合、津波水位の最大値は15.7メートルという計算結果が東電に報告された2008年から震災の発生まで、特に対策を講じてこなかったという事実説明の方がむしろ印象深かった。

 

その後、原発災害による避難で日常を中断されていた飯館村に向かった。震災から6年後、2017年3月31日に、一行政区を除き、避難指示がようやく解除された村である。今年9月の統計によると、約6500名の登録人口の内、1200名未満の村民しか帰還していない。噂通り、美しい山に囲まれた村内には汚染土などを保管するフレコンバッグが大量に積み上げられており、農地の一角にはソーラーパネルが一面に広がっていた。

 

仮設住宅の木造建材を再利用し、飯館村内外の交流を図る宿泊施設「風と土の家」に我々は滞在しながら、「ふくしま再生の会」理事長の田尾陽一さんや、副理事長であり東京大学大学院農学生命科学研究科教授でもある溝口勝さんなどによるレクチャーを受け、農林畜産業を生業としてきた飯館村の現在を見学した。トルコキキョウなどお花のハウス栽培農家、遠隔監視装置が装備された牛舎、放射線セシウムの除染工事の跡が窺える「松塚土壌博物館」や、経済作物として見込まれて栽培実験中の漆(うるし)の畑などを見学した。さらに、桜やバラなど様々な花を谷一杯に栽培し、桃源郷のような花園を作ることに取り組んでいる大久保金一さんにご指導いただきながら花植え体験をした。また、我々が手作りした多国籍料理が並べられ、村民が即興で披露してくれた歌や踊りで賑わった佐須公民館(旧佐須小学校校舎)での交流晩餐会も思い出深い。

 

実は、飯館村の村民と数えられる人の中には、田尾さん一家などここ2年間新たに転入した移住者100人以上が含まれる。それゆえ、飯館村の再生をめぐって「外部の人」の見解に反感を抱く村民も見受けられるのだという。村中の人々が足並みを揃えている訳ではないが、「ふくしま再生の会」は村全体に影響を及ぼしかねない新しい取り組みに着手している。「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」のアートディレクターとして知られている北川フラムさんを迎えて、地域文化を掘り起こし、村に訪問者を呼び込む「アートプロジェクト」の構想がスタートしたのである。

 

なぜ震災後の農村の再建に「アート」を取り入れるのか、疑問を抱く方は少なくないだろう。けれども、アート分野で学ぶ筆者にとってこの考えは理に叶っている。アートは、普段人々が見えていない物事を「見える化」したり、既成概念を問い直したりして、あらゆる事象に独自の価値を付与する傾向がある。鑑賞者はアート作品によって思考が刺激され、さまざまな発見や再認識が促される。このような特性から、アーティストが持ち込む新しい視点によって地域の魅力が見出され、発信されるという期待のもと、既に日本各地で地域創生の手段の一つとしてアートプロジェクトが多く実践されている。

 

飯館村の再生は、田尾さんに言わせれば、決して「元のまま」に戻すことではない。放射能汚染ばかりが問題視されているが、原発事故が破壊したのは自然と人間の関係性であり、その関係性が断ち切られた人々の精神であると田尾さんは主張する。この意味において、アートプロジェクトは少なくとも人と人、人と土地の新しい関係性や愛着感を醸成する糸口となるかもしれない。

 

再生に向かう飯館村の取り組みは、農林畜産業から芸術活動まで広がっている。「内部の人」であろうとなかろうと、地についた研究・調査力から飛躍的な想像力を持つ多分野の協力者が重層的に展開している活動の数々は、市民の豊かな創造性が芽吹き始めていることを物語っているのではないだろうか。

 

スタディツアーの写真

 

<楊淳婷(ヤン・チュンティン)Yang_Chun-ting>

2018年度渥美奨学生。アートマネジメント/文化政策分野で研究・活動をしている。博士(学術/東京藝術大学)。修士(美術教育/福岡教育大学)。学士(日本語/台湾国立政治大学)。2019年度現在はNPO法人「音まち計画」の主催事業「イミグレーション・ミュージアム・東京」(略称IMM)の企画統括を務める。主な論文は「アートによる多文化の包摂-日本人の外国人住民に対する『寛容な意識づくり』に着目して-」(『文化政策研究』第10号、2016年)がある。(IMMのホームページ:http://aaa-senju.com/imi)

 

 

2019年10月31日配信