SGRAイベントの報告

第33回SGRAフォーラム『東アジアの経済統合が格差を縮めるか』報告

SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームが担当する第33回SGRAフォーラムは、2008年12月6日(土)の午後、東京国際フォーラムガラス棟G402会議室にて開催された。今回のテーマは「東アジアの経済統合が格差を縮めるか」であった。フォーラムは、研究チームのサブチーフの李鋼哲さんの司会で始まり、東茂樹先生(西南学院大学経済学部教授)の基調講演の後、SGRA顧問の平川均先生(名古屋大学経済学研究科教授)、ド・マン・ホーン先生(桜美林大学経済経営学系講師)、そして研究チームのチーフを務めるマキトの3名による感想と問題提起が行われ、休憩を挟んでパネルディスカッションというプログラムであった。

 

 
基調講演で東先生は、最初に、SGRAがめざす「誰にでも分かるように」という趣旨に則って、 FTA(Free Trade Agreement自由貿易協定)についての基礎的な説明をしてくださった。主流な経済学では、FTAは貿易を促進し、企業の生産性に対してあらゆる便益を与えるとしている。WTO(World Trade Organization世界貿易機関)もこのように考えているので、積極的に貿易の自由化を押し進めてきたが、いわゆるドーハ開発ラウンドという、貿易障害をとり除くための交渉にはいまだに決着がついていない。そこで、行き詰まった状況を打開するために、WTOが条件付きで容認せざるを得ないFTAが盛んに提携されている。さらに、「物」の国境を越えた売買だけではなく、サービスや貿易関係の取り決めまでを取り入れたEPA(Economic Partnership Agreement 経済連携協定)まで展開しつつある。

 

 
WTOが進めている多国間自由貿易と違って、FTA(EPAを含む、以下同じ)は二カ国或いは地域間の交渉になる。東先生はご専門の政治経済学の視点からFTAの交渉過程を検討し、国家間の戦略的なやり取りとして捉えた。つまり、2カ国間或いは地域間でFTAが結ばれることにより、第3国/地域が不利な立場に落とされる可能性があるのでFTAの獲得のラッシュが発生し、複雑に絡み合う貿易協定が生み出されている。その一つのデメリットとして、生産地の規制が取り上げられた。あるFTAの輸出国にとっての便益を得るためには、その輸出した製品の価値の一定の割合はその国で実際に生産されたことを証明する義務があり、その手続きにかかるコストが高くなるからである。東先生は、最後に、日本の自由貿易の交渉の仕方について触れ、東アジアと共生できるような新しい交渉戦略の構築を呼びかけた。

 

「感想と問題提起」のコーナーでは、3人のコメンテーターが東先生の論文を参考に、FTA・EPAの日本の交渉を中心に感想と問題提起を述べた。まず平川先生は東先生の分析方法が新しい視点からの分析だと評価し、JETROの最新の白書を利用しながら、交渉の非妥協的態度、日本の貿易自由化率の低さ、情報不開示と相互不信(フィリピンへの有害廃棄物の輸出を事例として)の3つの問題点をとりあげた。そして、このような態度で日本が東アジアと結ぶFTAは、果たしてアジア共同体を導いていけるのか、という疑問を投げかけた。

 

次に、東南アジアの研究者を代表して、ホーンさん(ベトナム)とマキト(フィリピン)が、引き続き、自由貿易に関しての意見を述べた。ホーンさんは、ベトナムにとっては、現段階まで、一部を除き、市場の開放による経済的な効果は大きくないと主張した。特に、FTAの交渉を、先進国同士の場合、企業と企業の戦いだが、先進国と途上国の場合、先進国の企業と途上国の政府との戦いとみなし、結局、現状の交渉し方のままだと、FTAの締結によるデメリット(被害)を受けるのは途上国の民間企業であるから、これを克復するため、FTAの交渉と同時に、先進国から途上国の民間セクターの振興への協力と支援が必要だと主張した。

 

 

マキトは日本の通産省とJETROの報告書を利用しながら、東アジアにおける国際分業という日本の構想と日本自身のそれに対する理解とのギャップ、構想と現場とのギャップ、というふたつのギャップの存在により、自由貿易の交渉が余計に困難になっていることを指摘した。そして、東アジアの経済統合が格差を縮めるために、日本の独自の構想を生かした「STOP 格差!」を呼びかけた。

 

10分間の休憩を挟んで、4人によるパネルディスカッションが行われた。進行役の平川先生は会場からいただいた質問を整理して、3人の研究者に振り分けた。取り上げられた質問は、格差の定義、格差の解決の可能性、日本の独自性を巡るものなどがあった。詳しくは来年の春に発行予定のSGRAレポートをご期待ください。

 

 
当日の写真を下記からご覧いただけます。
足立撮影
ナポレオン撮影

 

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<マックス・マキト ☆ Max Maquito>
SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。
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