共有型成長

  • 2021.07.15

    第29回持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い

    下記の通り、第29回の持続可能的共有型成長セミナーを、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)公共政策大学院(CPAf)の共催により、オンラインで開催します。 関心のある方は直接お申込みください。   ◆「地域通貨の探求」 In_Search_of_Community_Currencies   日時:2021年7月27日(火) 午前9~12時(フィリピン時間)/午前10~13時(日本時間) 方法:Zoomウェビナーによる 言語:英語 申込:https://qr.paps.jp/LmclT   最初の講演は「コミュニティ経済と地域通貨」の著者である栗田健一先生。その他の講演者は、地域通貨を紹介してくださった中西徹先生(東京大学)、UPLBの同僚であるホセフィナ・ディゾン先生と私です。地域通貨は持続可能な共有型成長のメカニズムであると認識して2018年から研究を続けていますが、未だにフィリピンでは事例が発見されていません。このセミナーを通して、地域通貨の可能性をより深く探ることができれば幸いです。言語は英語ですが奮ってご参加ください。    
  • 2021.06.28

    エッセイ674:マックス・マキト「マニラ・レポート2021初夏」

    ワイリー・オンライン図書館の『情報システム・ジャーナル』で、「私達は研究の社会的効果(ソーシャル・インパクト)を気にしているか」というタイトルの社説を見つけた。この社説は「H指数の独裁政治」、つまりジャーナル・インパクト・ファクターへの批判が高まっていることをはっきり指摘しただけではなく、V指数(Value-indices)、つまり僕がソーシャル・インパクト・ファクターと呼ぶものに明快に言及している。学術的研究と一般社会の関係者をどのように結びつければよいか――これはアカデミズム尊重の根強い伝統に対する正真正銘の反乱であり、僕は以前から考えていたポリシーブリーフの作成に努力しようという思いを改めて強く感じた。ポリシーブリーフとは、さまざまな政策案件に関して、政策研究のエビデンスに基づき、政策の選択肢について簡潔に解説を行うものである。自分自身はもちろんのこと、「戦略的計画の理論と方法」の授業を受けている僕の大学院生たちにも持続可能な共有型成長に関するポリシーブリーフを作成してもらうことにした。   この動きは、コロナのパンデミックのために1年間中止していた「持続可能な共有型成長セミナー」の復活となって実を結んだ。2021年5月31日、フィリピン大学ロスバニョス校公共政策開発大学院(CPAf)と渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の共催で、第28回持続可能な共有型成長セミナー「持続可能な共有型成長へのポリシーブリーフ」が、初めての完全オンラインで開催された。   ロウェナ・バコンギス学院長と今西淳子SGRA代表の温かい開会挨拶の後、僕がセミナーの経緯と趣旨を説明し、最後に9人の大学院生が作成した5本のポリシーブリーフを発表した。9人は現役の教員や公務員で、ロックダウン中の最初の2学期間で僕が出したこの挑戦的な課題に真剣に応戦してくれた。   持続可能な共有型成長へのポリシーブリーフは次の通り。   1)ビバリー・デラクルスの「農場から食卓(F2F)までのロス削減:持続可能な食料システムのための3つの良い解決策」(“Farm to Fork FLaW (Food Loss and Waste) Reduction: A Triple Win Solution Towards Sustainable Food Systems” by Beverly Mae dela Cruz)。温室効果ガス排出の削減(SDG13)水(SDG14)と土(SDG15)の資源にかかる圧力の緩和、食料安全性と栄養による社会的状況の改善(SDG2)、責任ある消費と生産(SDG12)を通じた生産性と経済成長の向上(SDG8)をめざす。   2)マルク・イシップとダヤン・カベリョウの「強力な協同組合を通じるフィリピン国内の持続可能なハタ(魚類)の生産」(“Promoting a Sustainable Grouper (Lapu-Lapu) Production in the Philippines through a Strong Cooperative Sector” by Marc Immanuel G. Isip and Diana Rose P. Cabello )。海洋資源の保全、高価値のある海洋生産物の業者間の公平分配や、漁業部門の生産性の向上のために強い共同組合を提案。   3)ヨルダ・アバンティとジョセフィン・レバトの「イサログ山:共通の善か共通の対立か」(“Mount Isarog, A Common Good or A Common Conflict“ by Yolda T. Abante and Josephine R. Rebato)。 陸上の生物多様性の保全や中央・地方政府間の適切な権利分配やイサログ山コミュニティの活性化を促進する、適切な地方分権を提言。   4)フェ・アラザーとアイザ・スンパイの「公平な枠組みの構築:COVID-19時代に対応する採点方針(“Building a Framework of Equity: Responsive Grading Policy in the Time of COVID-19” by Fe B. Arazas and Aiza Sumpay )。学生達の多様な状況に配慮しながら、非正常でストレスが多いパンデミックの時代に合った採点システムを提言。   5)メルセル・クリマコサとカテリン・アルガの「栄養と教育:国の将来の決定要因」(“Nutrition and Education: Determinants of the Country’s Future” by Merssel F. Climacosa and Catherine N. Arga)。小学生とその親の世代間の関係に焦点を当て、子どもの栄養失調が国の未来に与える打撃を軽減するため、最近の栄養と教育の政策をサーベイ。   発表者たちのポリシーブリーフは、さまざまな完成段階にあったが、CPAfの教員であるメッリン・パウンラギ先生(Merlyne M. Paunlagui)、ジン・レイェス先生(Jaine C. Reyes)、マイラ・ダビッド先生(Myra E. David)とアジア太平洋大学のジョヴィ・ダカナイ先生からの適切なコメントを頂いた。ダカナイ先生と私は、アジア太平洋大学の前身である「研究とコミュニケーション・センター」時代の仲間である。当時はまだ大学院生であったが、今のポリシーブリーフに当たる「スタッフ・メモ」の定期的な執筆に動員され「火の洗礼」を受けた。あの時の熱気は、現在のアジア太平洋大学に立派に成長することになる魔法の種であった。あの時も今も、僕たちの関心は、誰かを置いてきぼりにするのではなく、全員を甲板に召集する事にある。これこそ、僕たちの社会が現在直面している深刻な問題を解決するために必要とされている。   当日の写真   本セミナーの報告書(英語)   <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._Maquito> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア 太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。    
  • 2020.06.04

    エッセイ634:フェルディナンド・マキト「マニラ・レポート2020年春」

      2020年3月12日、フィリピンの大統領はマニラ首都圏の隔離令を発動した。これは僕の人生で初めての経験だった。全てのレベルの学校が休校となり、教員と職員は在宅業務を促された。1月30日にWHO(世界保健機関)が、新型コロナウイルス感染症を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public_Health_Emergency_of_International_Concern, PHEIC)と発表した頃から僕が懸念していた最悪な事態が、この隔離令となった。隔離令が実施されるまでの猶予期間に、僕の大学のあるロスバニョスからマニラの実家に帰る選択肢もあったが、家族が分散するように僕と甥2人はロスバニョスに残ることにした。   幸いな事にインターネットはずっと機能していて、SNSなどから社会のあらゆる声が聞こえてきた。僕の研究テーマである「持続可能な共有型成長」と関連した課題を取り上げ、早速「持続可能な共有型成長ポリシー・ブリーフ(Sustainable_Shared_Growth_Policy_Brief)」を始めた。ここでは第1号の内容を簡単に紹介したい。   感染症はそもそも自然環境から生じたものである。中・米の対立による生物兵器という陰謀説もあるが、今のところこのウイルスは自然に発生したものだと見なされる研究論文が有力のようである。災害論では、脆弱性(vulnerability)と回復力(resiliency)という概念が重要である。時間的に言えば、脆弱性とは災害が起こる前の概念で、災害からいかに被害を受けやすいかを指す。回復力は、災害が起こった後の概念である。そして、多くの災害研究により、脆弱性や回復力を左右するのは、所得分配や経済発展の度合いが重要な要素であることが指摘されている。所得分配が悪くなると、そして経済発展の度合いが低くなると、脆弱性は高まり回復力は低下するという。その故に、フィリピンのような所得・富の分配状況が悪い発展途上国は、今回のパンデミックにおいて深刻な問題を抱えている。   パンデミックの衝撃を和らげるために、フィリピンの政府・民間組織・市民社会は、今に至るまで、あらゆる対策を模索しながら採用している。この激しい戦いから一歩離れて、今回のパンデミックを「持続可能な共有型成長」、つまり環境・公平性・効率という観点から評価してみたい。   さらに整理するために、持続可能な共有型成長を時間・空間・宇宙(universe)という3つの次元に沿って話を進めていく。     ◇持続可能性と時間   環境経済学では、現在の世代と将来の世代の間で自然資源をいかに分配するかが政策の重要なポイントである。この見方は、よく引用される「持続可能な開発」の定義にも見られる―将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発。これは、1987年4月に公表された環境と開発に関する世界委員会の報告書『Our_Common_Future』の中心的な考え方として取り上げられた。多世代間の自然資源の分配は、結局政策立案者の計画期間(短期か中長期か)によって決定する。   綺麗な空気や水などの自然資源のように、病気のない環境というものも自然資源として考えられており、それを多世代に渡って提供するためには、やはり資金が必要である。政策提案として取り上げられるのは、パンデミック対策のための中長期的な資金調達である。これは一種の保険であり、パンデミックが発生する時に、対策の資金として使用できるものである。市場本位の例として挙げられるのが、世界銀行のカタストロフ債である。発動条件が厳しすぎる等の批判を浴びたが投資家から3.2億米ドルを集めたので、実際に有効な概念であることを証明した。このようなファンドは市場本位なので、パンデミックのリスク評価、リスク分散、リスク削減のための投資促進という面でも役に立っている。     ◇共有型成長と時間   開発経済学にクズネッツの逆U字型曲線というものがある。これは、経済発展過程を大きく2段階に分け、第1段階では発展すればするほど格差が広がるが、第2段階では発展すればするほど格差が縮まっていくという仮説である。この説は、フィリピンにおいても妥当するのではないかという研究もある。   上述のように、被災に対する脆弱性や回復力においては発展段階や所得・富の分配が大事なので、クズネッツ曲線の平坦化が不可欠である。言い換えれば、発展途上国で共有型成長ができるだけ早く実現できれば、その分、脆弱性を低くし回復力を高めることができる。     ◇持続可能性と空間   環境問題には国境がない。それはパンデミックにも該当する。そのため対策を練る時に国境を越える協力が必要である。   この場合、やはりWHOのような多国籍の組織が重要である。フィリピンにおいてもWHOに対して批判はあるが、パンデミックに上手く対応するためには、依然として国際的な組織が不可欠であることは変わらない。WHOがこんな状況に陥ったのは、加盟国からの拠出金が減少し自発的な寄付が増加してきたからである。その故に、WHOは本来の使命を果たす余裕をどんどん失ってしまった。確かにWHOは構造改革が必要だが、まずは加盟国による拠出金の復活から始めた方が良い。WHOの西太平洋地域本部がマニラにあるだけに、フィリピンはこのロビー活動に積極的に参加できる良い位置にあると思う。     ◇共有型成長と空間   共有型成長の一つの基本原理は地方分散である。分散することにより、伝統的な成長ハブから成長が拡散して行き、成長が共有されるようになる。   今回のパンデミックは成長ハブを最初に狙い、無力化した。それは今のグローバル化の当然な結果とも言える。各国に成長ハブを発展させて、それらのハブを繋げていく。感染症があっという間に広がり、成長ハブが次々とやられて行く。このような構造をより頑丈にするためには、やはり成長の分散が有効であろう。     ◇持続可能な共有型成長と代替的な宇宙(alternate_universe)   以上で論じたように、社会がより持続可能な共有型成長(環境・公平・効率の調和)という軌道に乗れば、今回新型コロナウイルスの襲来で受けている苦労は軽減されるはずである。私が20年以上訴え続け、今年の1月にマニラとロスバニョスで開催した第5回アジア未来会議でも強調したように、フィリピンにはこのような発展が必要である。そして、今回のパンデミックでも明らかになったように、世界にもそれが必要である。   マニラもロスバニョスも、ようやく6月から隔離令が一部緩和されたが、パンデミックにおける厳しい生活は長引く覚悟が必要である。この難しい時期を乗り越えるためには、(1)何か夢中になって、(2)家族や友達との繋がりを断たないことが大事である。   対策(1)として、SGRAでやり残した持続可能な共有型成長セミナーのレポート3本を渥美財団のウェブページに掲載したので、下記リンクをご参照いただきたい。 SGRA Sustainable Shared Growth Seminar 25 Report SGRA Sustainable Shared Growth Seminar 26 Report SGRA Sustainable Shared Growth Seminar 27 Report   そして、ポリシー・ブリーフのシリーズを始めて、第2号まで発行した。このマニラ・レポートはその第1号のまとめである。次回は第2号について紹介したいと思う。 Sustainable Shared Growth Policy Brief 1 Sustainable Shared Growth Policy Brief 2   対策(2)としては、フェイスブック上での交流に今まで以上に参加している。友達と議論し、笑ったり、共感したりしているが、最近始めたのは、勤務する大学の合唱サークルのオンライン練習である(下記リンク参照)。この合唱サークルのヴィジョンは「多様性の中の調和」であり、これは渥美財団とSGRAのヴィジョンでもある。4つの異なる声(ソプラノ、アルト、テノール、バス)が一つのハーモニを作り出すという意味もあるが、様々な人が、歌う能力と関係なく、楽しんで一緒に歌うという意味もあるので、みなさんも、どうぞご自由に参加ください。   みなさま、安全を第一にしながら、これを機会により良い世界を作り出しましょう。     英語版はこちら     <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._Maquito> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。     2020年6月4日配信
  • 2017.12.21

    エッセイ556:マックス・マキト「マニラ・レポート2017年秋:第24回持続可能な共有型成長セミナーinシドニー『人や自然を貧くしない進歩:地価税や経済地代の役割』報告」

      2017年9月23日(月)、SGRAフィリピンが開催する24回目の持続可能な共有型成長セミナーがオーストラリアのシドニー市で開催された。このセミナーの目標が効率・公平・環境なので、ローマ字の頭文字をとってKKKセミナーとも呼ばれている。日本語だけでなく、フィリピン語でも頭文字がKKKとなる。2004年3月にマニラ市で開催した第1回セミナー以来、年2回のペースで実施してきたが、今後は、フィリピン大学ロスバニョス校の協力を得て、より頻繁に開催する予定である。   KKKセミナーの実行委員のひとりで、オーストラリアに本部を置く「良き政府協会」の総書記のジョッフレ・バルセ氏(Joffre_Balce)の提案により、今回の第24回セミナーは初めてフィリピンの外で開催された。テーマはバルセ氏が第20回KKKセミナーで発表した「地価税」であった。本セミナーの共同主催者「良き政府協会」は19世紀米国の政治経済学者のヘンリー・ジョージ(Henry_George)の政治経済政策を提唱している。その重要な議論の1つが地価税である。今回のセミナーの開催地及び日時は、特別の意味があった。9月は1901年に設立された良き政府協会の設立月にあたり、開催地は地価税が課税される国である。   以下はバルセ氏からの報告である。 -------------------   このたび、1901年に設立された良き政府協会(Association_for_Good_Government、略してAFGG)の116周年に当たって「人や自然を貧しくしない進歩」というテーマで第24回SGRA持続可能な共有型成長セミナーを共同主催させて頂いて光栄です。   私どもの協会は様々なイベントを数多く開催してきましたが、このように、太平洋の国々から発表者を招いたセミナーは初めてでした。このセミナーの発表者たちは、今の世界で主流となっている考えを批判する私の同僚の主張に共鳴してくださいました。そして、学術や政治や民間など様々な立場からの参加者と活発な議論を繰り広げ、いくつかの争点は冷静な討論に取り込まれました。   司会を務めた私、ジョッフレ・バルセは、マックス・マキト氏の1980年代のフィリピン太平洋大学の同僚で、最近日本で再会の機会に恵まれました。2015年には東京の渥美国際交流財団を訪問し、その翌年に北九州で開催された第4回アジア未来会議に参加しました。このような交流が実現したのは、へンリー・ジョージ氏の次のような3つの教えが、SGRAフィリピンが掲げている効率・公平・環境と整合性があるからです。3つの教えとは(1)貧困なき経済進歩にとって社会正義が不可欠、(2)個人の自己決定の尊重や権利の平等性からなる民主主義、(3)コモンス(共有資源)の強調、です。AFGGとSGRAの理念に敬意を表して、本セミナーは「人や自然を貧しくしない進歩」というテーマで開催されました。   最初の発表者は、AFGG会長で、25年間事務局長を務めたリチャード・ガイルス氏(Richard_Giles)で、当日の議論の枠組みを設定しました。「ヘンリー・ジョージの社会的哲学」という演題で、個人の権利は大多数の合意に従わせる共同権利ではなく、個人の尊さを支持するものであるという権利平等の原理を丁寧に説明されました。この2つの権利の十字路において、人類の進歩発展が貧富の格差を生み出すか普遍的な繁栄をもたらすかが決まります。社会で共有されるものは2つあります。1つは、無料で誰にも所有されず、生きるために自由に使える自然界から豊富に提供された資源です。もう1つは、社会における協力が生み出す価値であります。そして、それが国の価値の唯一の源で、共有する富で、「単一税」の対象になるのです。   次に、マキト氏に代わって私が「地価税:理論や実証のサーベイ」を発表しました。これはリチャード・F・ダイ(Richard_F.Dye)やリチャード・W・イングランド(Richard_W.England)が編集し、2009年に出版した本のレビューでした。参加者はマキト氏の2つの結論に同感しました。1つは、税収の中立性という概念は、地価税の逆進性が福祉予算を減らすというイングランドの懸念を完全に払拭したこと、もう1つは、ヘンリー・ジョージの単一税という概念はより高度な収入の中立性としても考えられ、他の税金を無くしても政府の予算が足りなくならないことを意味しているということです。参加者は、既得権益が地価税の活発な研究や検討を妨げているという嘆きに同情的でした。   夫のサムエル・サプアイ氏(Sam Sapuay) の手伝いを受けながらグレース・サプアイ氏(EnP.Grace_Sapuay)は「フィリピンにおける地価税の実際の便益」について発表し、ケゾン市やマリキナ市の事例を紹介しながら、フィリピンのマニラ都における地価税の理解と実施の歴史的背景を議論しました。参加者はフィリピン社会の問題に大変同情的でありながら、数多くの税金や地価税に対するフィリピン立法者の誤った理解は社会的格差を生み出す重要な原因と指摘しました。サプアイ氏はその指摘を認め、AFGGの地価税のメカニズムについて、これから夫と共にさらに学びたいと答えました。   ランチを挟んで、私が「なぜ貧困反対が十分ではないのか:ジョージ流の改革の発展途上国との関連性」について発表しました。主な論点は、貧困緩和における政府援助の失敗、新古典派、新ケインズ派、近代金融論の欠点、そして、国民の経済活動と地価から、政府が「当然な分」だと称して獲得していくことの正当性に対する批判でした。ヘンリー・ジョージが提案する改革は、すでに次のような事例があります。ドイツのアドルフ・ダマスクク(Adolf Damaschke)による税制を中心とした土地改革、1930年代の世界大不況からオーストリアを救ったシルビオ・ゲゼル(Silvio Gessel)が提案したシニョリッジ政策(通貨発行益)、そして中国の近代革命を率いた孫文が提案したジョージ流の土地改革です。   最後の発表者はクアラルンプールにあるマレイシア大学法学部のヨギースワラム・スブラマニアム氏(Dr. Yogeeswaram_Subramaniam)でした。「先住の土地権利をジョージ主義に調和させる」と題する発表は法律の分野、特に先住の権利に、ヘンリー・ジョージの教えを適用する先駆的な試みでした。彼は先住民の法律の素晴らしい歴史とアメリカの先住民に対する支援について語りました。参加者はジョージ主義の妥当性とこれからの研究可能性に関する発表の結論を概ね受け入れました。ただ、先住土地権利の扱いにおける権利平等性や共同権利の意味について激した討論もありました。土地の権利は遺伝的ではなく平等であるという歴史的正義についても面白い議論がありました。   今回のセミナーの発表者および参加者は1人残らずセミナーの主催者のAFGGとSGRAに感謝し、今後の協力に期待しています。   当日の写真     <マックス・マキト☆Max_Maquito> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。       2017年12月21日配信    
  • 2017.08.24

    第24回日比持続可能な共有型成長セミナー「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」へのお誘い

      下記の通り第24回日比持続可能共有型成長セミナーをオーストラリアのシドニー市で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンに事前に申し込んでください。   第24回日比持続可能な共有型成長セミナー ◆「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」 “Progress Without Poverty of People and Nature: The Role of Land Value Taxation and Economic Rents"   日時:2017年9月23日(月)9:00~17:00 会場:Sydney Mechanics School of Arts(オーストラリア、シドニー市) 言語:英語 共催:Association for Good Government (良き政府協会)AGG 申込み・問合せ:SGRAフィリピン ( sgraphil@gmail.com ) (詳細はこちら)   〇セミナーの趣旨   SGRAフィリピンが開催する24回目の持続可能な共有型成長セミナー。 持続可能な共有型成長セミナーは目標が効率・公平・環境ということで、KKKセミナーとも呼ばれている。現在まで、年2回というペースで開催されているが、フィリピン大学ロスバニョス校と協力し、より頻繁に開催される予定である。今回の24回目のセミナーは初めてフィリピンの外で行われることになる。オーストラリアに本部を置く、良き政府協会研究員のジョッフレ・バルセ氏(Mr. Joffre Balce)との議論により、第20回持続可能な共有型成長セミナーで発表された「地価税」がKKKの発表候補者リストに入れられた。バルセ氏は良き政府協会の総書記であり、この協会は19世紀米国の政治経済学者のヘンリー・ジョージ(Henry George) の政治経済政策を提唱している。そのなかの重要な議論の一つが地価税である。今回のセミナーの開催地及び日時は、特別の意味がある。9月は1901年に設立された良き政府協会の設立月にあたり、開催地は地価税が課税される国である。   〇プログラム 08:00–09:00 登録   09:00–09:15 開会挨拶   09:15–10:00 発表1「ヘンリー・ジョージの社会哲学」リチャード・ガイルス(Richard Giles)AGG会長   10:00–10:30 発表2「地価税:理論・証拠・実施に関する調査」 マックス・マキト(Max Maquito)フィリピン大学ロスバニョス校・SGRA   10:30–11:00 休憩   11:00–11:30 発表3「地価税の便益:マニラ都内の複数市の事例」 グレイス・サプアイ(Grace Sapuay)SGRAフィリピン運営委員   11:30–12:00 発表4「反貧困が少数派であり続ける理由:フィリピンに対するヘンリー・ジョージ流の改革の関連性」 ジョッフレ・バルセ(Mr. Joffre Balce)良き政府協会総書記   12:00–13:00 昼食   13:00–13:30 発表5「土地への平等アクセスやグローバルな移住の問題」 フランクリン・オべング・オドーム(Franklin Obeng-Odoom)シドニー技術大学   13:30–14:00 発表6「先住民の土地所有権に対するジョージ主義の含意の検討」 ヨギスワラム・スブラマニアン(Yogeeswaram Subramanian)マレーシア大学   14:00–14:30 発表7「貧困や金の番人」 ロン・ジョンソン(Ron Johnson)「The Good Government」編集長   14:30–15:00 休憩   15:00–17:00 SGRAのビジョン、近況報告+円卓会議(モデレーター:マックス・マキト)   セミナー終了後 シドニー見学  
  • 2017.06.01

    エッセイ536:マックス・マキト「マニラ・レポート2017年初夏」

    2015年9月、国連は17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDG)を定めた。その6番目の目標に「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ということが掲げられている。これを背景として、第23回SGRA持続可能な共有型成長セミナーが、「経済的に困窮しているコミュニティのための水の統合システム」というテーマで、2017年5月7日(日)にマニラで開催された。共同主催者は、雨水利用を推進するアメコス・イノベーション社(AMECOS INNOVATION, INC.)で、自社を会場として提供してくれた。   SDGのウェブサイトには、次のような統計がある。 ・2015年の時点で、改良飲料水源を利用する人々の割合は、1990年の76%から91%へと増大しています。しかし、トイレや公衆便所など、基本的な衛生サービスを利用できない人々も、25億人に上ります。 ・毎日、予防可能な水と衛生関連の病気により、平均で5000人の子どもが命を失っています。 ・水力発電は2011年の時点で、最も重要かつ広範に利用される再生可能エネルギー源となっており、全世界の総電力生産量の16%を占めています。 ・利用できる水全体の約70%は、灌漑に用いられています。 ・自然災害関連の死者のうち15%は、洪水によるものです。   フィリピンでも水の状況はあまり芳しくない。今のままでは、フィリピンは今後10年以内に水不足が深刻な問題になり得る。不衛生な水しかなくて毎日55人が命を落としている。ボトルウォーターの使用が急増している。   SGRA持続可能な共有型成長セミナーの目標は「効率・公平・環境」の鼎立であるので、実行委員会ではKKKセミナーと呼んでいる。ちなみに、フィリピン語にしてもKKKなのである。毎年2回フィリピンで開催する共有型成長セミナーでは、1人の委員のKKKに関する研究とアドボカシー(主張)に焦点を当て、発表と議論が行われる。   第23回KKKセミナーの午前中の司会者は、フィリピン出身の元渥美奨学生のブレンダ・テネグラさんであった。彼女は暫くの間参加できなかったが、今西淳子SGRA代表の誘いで、前回のKKKセミナーから復帰してくれたので嬉しく思っている。今回のKKKセミナーの焦点は、アメコス社の社長で、元大学教授であるアントニオ・マテオ先生の雨水利用の活動であった。   マテオ先生と角田英一渥美財団事務局長の開会挨拶の後、マテオ先生が「イノベンション(発明+革新)と気候変動の影響」(Innoventions Versus Climate Change Effects)というテーマで発表した。雨水利用は家計の水道費を節約するだけでなく、気候変動によって頻繁に起きている湖水の被害を軽減できるという主張であった。水源に注目したマテオ先生に対して、フィリピン固形廃棄物管理協会(Solid Waste Management Association of the Philippines)のグレース・サプアイ会長と娘のカミールさんは、下水に焦点を当てた「浄化槽における環境に優しいイノベンション(発明+革新)」(Green Innoventions in Septic Tanks)を発表した。   ちなみに、KKKセミナーへの次世代の参加が増えていて嬉しく思っている。彼らには未来が託されているからこそ、積極的に参加してもらいたい。KKKセミナーは2004年にスタートしたが、その時から僕の兄弟たちはもちろん、姪と甥もできるだけ参加してもらうようにしている。今回も、マニラの大学の工学部を卒業した甥が参加した。別の甥は、セミナー前日の夜遅くまで仕事があったが、セミナー当日には運転手として手伝ってくれた(セミナーでは眠っていたけれど)。   サプアイ親子の発表の次に、「コモンズの管理と債務の開発のための交換 (Managing the Commons and Debt for Development Swap:コモンズとは誰の所有にも属さない資源を指すもの)についてジョッフレ・バルセ氏が発表した。彼は、100年以上も続く古いオーストラリアの「良き政府の協会」(Association for Good Government)の会長であり、セミナーのためにシドニーから来てくれた。バルセ氏は、汚職などが絡んで正しく使われなかった借入金はインフラ開発のため(例えば、水道システムの開発)に使えるようにすべきだと主張した。   最後に、フィリピン大学経営学部のアリザ・ラゼリス先生が「営利団体による水源の管理」(Water Resources Management by Business Organizations)について発表した。国連の「統合水源管理」が発表した理論的な分析枠組みを展開し、文化的要素を含む社会的な様相をその枠組みに導入しようとした。   昼食を挟んで、午後はSGRAフィリピン代表のマキトが司会を務め円卓会議を行った。他の委員のアドボカシーを事例として円卓会議の進め方を説明した後、発表者や参加者と一緒に、午前中の発表を1つずつ、5つの観点(つまり、効率・公平・環境・研究・アドボカシー)から論じた。その詳細と当日の写真は、セミナーの報告書(英文)をご参照ください。   円卓会議の後、マテオ先生にアメコス社をご案内いただいた。本社屋は多目的で、自宅でもありながら、発明用の研究室+展示施設でもある。獲得した特許はすでにご自分の年齢を上回っているほどで、「母の胎内にいた時にも発明をやっていた」と冗談を言っていた。   しかし、特許に関しては問題もある。あるフィリピン政府機関が無断で彼の発明を利用しているそうだ。知的財産の権利を守る番人でもある政府が、その役割を果たしていないのであるから問題の深刻さを物語っている。政府は国の発展のためにその発明を広めようとしているかもしれないが、さらなる発明や革新の妨げになるだろう。それでも、マテオ先生は国の発展のために発明や革新を呼びかけている。   アメコス社のプチ観光の最後に、子ども達や家族や友人たちを楽しませるために、再利用した資材を使って自分で作ったツリー・ハウス(樹上の家)に案内してくださった。マテオ先生が発明や革新の意欲を失わず、しかも、KKKセミナーの参加者とのネットワークがビジネスにも役立ったと話してくれたことを嬉しく思っている。   <マックス・マキト☆Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。     2017年6月1日配信
  • 2017.01.30

    第22回日比持続可能な共有型成長セミナー「地方分権と持続可能な共有型成長」へのお誘い

      下記の通り第22回日比共有型成長セミナーをフィリピンのラグナ州ロスバニョス市で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンに事前に申し込んでください。 第22回日比持続可能な共有型成長セミナー   テーマ:「地方分権と持続可能な共有型成長」 “Decentralization and Sustainable Shared Growth”   日時:2017年2月13日(月)9:30~15:30 会場:フィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)公共政策と開発学部 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン ( sgraphil@gmail.com )   セミナーの趣旨 SGRAフィリピンが開催する22回目の持続可能な共有型成長セミナー。 第二次世界大戦後、フィリピンは東南アジアでトップの発展を遂げていたのに、残念ながら今では同級生に遅れをとってしまっている。フィリピン持続可能な共有型成長を妨げる3つの問題は、鈍い成長、格差、環境である。一方、戦後の開発の大半は、首都に集中する経済や政治的決断に依存していたが、この20年間には地方分権を目指す様々な努力が行われている。この努力を「持続可能な共有型成長」という観点から理解し、地方分権によって上述の問題が解決できるか検討するのが今回のセミナーの基本的な目的である。   プログラム   09:00–09:30 登録 司会:メルリン・M・パウンァラギ(Dr. Merlyne M. Paunlagui)、 ロウェナ・DT・バコンギス(Dr. Rowena DT Baconguis)   09:30–10:00 開会挨拶 ヴィルジニア・カルデナス(Dean Virginia Cardenas)UPLB公共政策と開発学部学部長 今西淳子(Ms. Junko Imanishi)渥美国際交流財団関口グローバル研究会代表   10:00–11:00 発表1「連邦制と地方自治」 ダニ・レイエス(Dr. Danny Reyes)UPLB行政ガバナンス学部教授   11:00–11:30 発表2「再建と復興の戦略の再検討:ジョージスムからの観点」 ジョッフレ・バルセ(Mr. Joffre Balce)良き政府協会研究員   11:30–12:00 発表3「フィリピン農業の現状」 エリセオ・ポンセ(Dr. Eliseo Ponce)国際コンサルタント、ヴィサヤス大学名誉教授   12:00–13:00 ランチ休憩 13:00–15:00 円卓会議 モデレーター:マックス・マキト(Dr. Max Maquito)SGRAフィリピン代表   15:00–15:30 ミリエンダ休憩 セミナー終了後 UPLBキャンパス見学   Program in English    
  • 2016.12.08

    第21回日比持続可能な共有型成長セミナー「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」へのお誘い(日程変更)

    台風のため延期された第21回日比共有型成長セミナーを、下記のとおりフィリピンのベンゲット州で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンにご連絡ください。   ◆第21回日比持続可能な共有型成長セミナー テーマ:「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」 “Sustaining the Growth and Gains of Development Research and Extension”   日時:2017年1月6日(金)~7日(土) 場所:ベンゲット州コルディリェラ行政地域 1日目:ベンゲット州立大学農業研修所にて円卓会議 2日目:農場の現場視察 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン ( sgraphil@gmail.com )   セミナーの概要   SGRAフィリピンが開催する21回目の持続可能な共有型成長セミナー。今回は、アジア未来会議から習った新しい形式で開催。テーマは「開発研究・指導の効果や成長の維持」。SGRAフィリピンの運営委員でもある、フィリピン政府農業省のJane Toribio博士の研究調査の現場である、ベンゲット州(マニラ市から北へ車で約6時間の山岳地帯)を会場とし、1日目は関係者の円卓会議を、2日目は現場視察を予定している。 これからのマニラ・セミナーは、今まで続けてきた「持続可能な共有型成長」というテーマにさらに集中し、効率・公平・環境の3側面(3K)を重視している委員たちの研究・アドバカシーのみを扱いたい。従来は絨毯爆撃(carpet bombing)方式で「なんでもあり」というやり方で、課題に命中しないことが多かったので、今後は精密打撃 (surgical strike)方式で展開する。今回は、持続可能な農業という3Kの研究・アドバカシーである。お時間のある方、ぜひ奮ってご参加してください。   プログラム   1日目:1月6日(金) 発表1(09:45~10:15)「ベンゲット州における有機農業の実践と経験」 発表者:Jeffrey Sotero 発表2(10:15~10:45)「ベンゲット州における苺農業」 発表者:Felicitas Dosdos 発表3(10:45~11:15)「ベンゲット州における被災のリスク低減や管理」 発表者:Atty. Roberto Canuto, Winston Palaez, Erick Abangley 発表4(11:15~11:45)未定 質疑応答 円卓会議(13:30~17:00) モデレーター:Dr. Max Maquito 討論者:午前の発表者   2日目:1月7日(土) 08:00:バギオ市のR. Salda市長へ挨拶 08:30:Bahongの花畑と農園の視察 10:00:苺農園の視察 12:00:有機農業の食事 13:30: マニラへ向かいながら観光   詳細は プログラム をご覧ください。      
  • 2016.10.20

    エッセイ508:マックス・マキト「マニラ・レポート2016@アジア未来会議」

    (第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#3)   当初、日本の風景をゆっくり楽しもうと考えて、東京から鈍行列車で北九州まで行きたいと思っていたのだが、結局、仕事の関係で1日遅れて第3回アジア未来会議(AFC)に参加した。今回、フィリピンからの参加者は30人で、その4割ぐらいは何等かの参加補助をいただき、残りは自費でやってきた。意外にも、毎回自費参加者の割合が増しているようで嬉しく思っている。フィリピン人の中でAFCの評判が高まっている証拠といえよう。   僕は、10月1日(土)に発表者、座長、討論者として参加した。と同時に、できるだけフィリピンからの参加者の世話をした。このエッセイでは、討論者としての役目を中心に話したい。   それは、国士舘大学の平川均教授と北陸大学の李鋼哲教授が座長を務める自主セッション「アジア型開発協力」で、「東アジアを中心にして過去半世紀以上にわたって経済成長を実現してきたこの地域は、欧米とは異なる形の開発協力や地域協力の枠組みを創り上げてきたように思われる。しかし、そうした地域における協力や開発の在り方が欧米とはどう異なるのか、また独自の協力の在り方をどのように整理し、ひとつの理念あるいは哲学に育て上げるかは依然として課題である」という問題意識に基づくものであった。   午後の2セッションを使う長丁場であったが、僕は、午後2時から他のセッションで座長の仕事があったので、後半しか出られなかった。参加者の積極的な議論が続き、セッションが終わろうとしていた時、わざわざ会場まできた今西SGRA代表からフィリピンの参加者に関する事務的手続きについて連絡があったので、部屋から静かに出ようとしたところ、座長の平川先生から討論のご指名をいただき、逃げ道は塞がれてしまった。普段の研究や授業では日本語をあまり使わないので、学会などではできるだけ発言を控えているのだが、しかたなく、一生懸命書いておいた日本語のメモを思い出しながら、以下のような感想を述べた。   後半の最初の上海財経大学の範建亭先生の発表では、中国の国際政治関係が経済関係に影響を与える因果関係を特定する試みを興味深く拝聴した。因果関係をもっと突き止めるために、範先生は別の経済学モデルを取り入れると言われたが、今の方法論でもう十分ではないかとコメントした。ただ、心配な点もある。それは、範先生の分析にはさまざまな国が入っているのに、僕の母国のフィリピンが入っていないことである。単にデータがないのか、それともフィリピンと中国の外交関係が問題なのか。   残念ながら、時間切れで回答を聞けなかったが、その時に思い浮かんだのは、最近、領土問題でフィリピンと中国の外交関係が膠着状態に陥っていることである。仮に政治関係が経済関係に影響するという分析が正しいとしても、その背後にある考え方は危険ではないだろうか。つまり、国際政治関係が悪化したら、経済関係も悪化するという状況は好ましくない。両国の関係が悪くなった時にこそ、なんらかの形で両国の繋がりを保つのが賢明な方策であろう。   後半の最後の報告は、李鋼哲先生のアジア的モデルの提唱だった。欧米の援助や開発の考え方とアジア的なものとの区別を明確にするということは、大変意義があると最初にコメントした。援助理念を明確化するのは重要な作業だ。李先生の発表にも取り上げられた、世界銀行が1993年に発行した「東アジアの奇跡」報告は、実は、被援助国の自助努力を尊重する日本が欧米の援助や経済開発に対抗した結果であると指摘した。   僕の目から見ると、当時の日本は輝いていたのだが、その後の受身姿勢に対してはがっかりしている。最近のDAC(開発援助委員会:OECDの委員会のひとつ)の査読(ピア・レビュー)を読むと、日本が提唱してきた「被援助国の自助努力を支援する」という理念が、欧米でも認められるようになっていることがわかるのだが、その合理性がまだ十分に説明されていないという課題が、20年以上経っても残っている。日本人は曖昧さを好んでいるが、やはり国際的な場では、もっと明確に説明しないといけない。それは他国と違ったやり方をしている時にこそますます重要であるといえよう。   以上のように「政治外交関係が経済関係に影響を与えること」と「開発援助理念の曖昧さ」の2点を指摘したが、実は、これが今の南シナ海の緊張に不安材料を与えている。本来、被援助国の経済発展のために使うべきODAが別な目的のために使われかねないからである。具体的な例として、日本のODAがフィリピンの軍備に使われていることを取り上げた。すぐに会場から「まさか!」という反論を浴びた。「日本のODAにはそれを防ぐための装置があるはずだ」と。僕は一歩も譲らずに、平和憲法があっても武器輸出が始まっていると反論した。最後に座長の平川先生の「鶴の一声」によって、どちらかというと、僕の側が優勢で議論が終わった。   その夜、ホテルに戻ってオンラインで調べたら、記事を見つけたので、「会場から『信じられない』という反応があんなにあって驚いた」と書き添えて、その記事のリンクを平川先生にメールした。     2015年6月5日のフィリピンの新聞の記事で、「日本は来年から新哨戒船10隻をフィリピンに引き渡す」という題名である。駐日フィリピン大使が、「これらの船はODAの一貫として引き渡される。今までのインフラ整備中心の方針と違う」と語っている。領土問題になっている西フィリピン海(南シナ海)で活動させるという。2020年まで、日本、韓国、米国、イスラエルからの武器輸入でフィリピンは自国の防衛体制を充実させる構えである。   翌日の打ち上げ夕食会でも議論が続いた。同じような意見を述べ、同じような結論に辿り着いた。僕の主張は正しかったわけだが、全然嬉しくない。むしろ、これからどうなるか非常に心配である。   酒の勢いで陽気になったあらゆる国から来た狸たち(註:元渥美奨学生)は、僕の心配を少し晴らしてくれた。「あなたの国の大統領が大好きだ!」と、ミャンマー、内モンゴル、韓国の狸たちからエールが送られた。僕も暴れん坊の大統領を支持しているが、最近の行動は心配の種になっている。これからの難しいかじ取りを上手くしてくれるよう祈っている。   <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。     2016年10月20日配信
  • 2016.07.21

    第21回日比持続可能な共有型成長セミナー「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」へのお誘い

    下記の通り第21回日比共有型成長セミナーをフィリピンのベンゲット州で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンにご連絡ください。   ◆第21回日比持続可能な共有型成長セミナー テーマ:「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」 “Sustaining the Growth and Gains of Development Research and Extension”   日時:2016年8月26日(金)~27日(土) 場所:ベンゲット州コルディリェラ行政地域 1日目:ベンゲット州立大学農業研修所にて円卓会議 2日目:農場の現場視察 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン ( sgraphil@gmail.com )   セミナーの概要   SGRAフィリピンが開催する21回目の持続可能な共有型成長セミナー。今回は、アジア未来会議から習った新しい形式で開催。テーマは「開発研究・指導の効果や成長の維持」。SGRAフィリピンの運営委員でもある、フィリピン政府農業省のJane Toribio博士の研究調査の現場である、ベンゲット州(マニラ市から北へ車で約6時間の山岳地帯)を会場とし、1日目は関係者の円卓会議を、2日目は現場視察を予定している。 これからのマニラ・セミナーは、今まで続けてきた「持続可能な共有型成長」というテーマにさらに集中し、効率・公平・環境の3側面(3K)を重視している委員たちの研究・アドバカシーのみを扱いたい。従来は絨毯爆撃(carpet bombing)方式で「なんでもあり」というやり方で、課題に命中しないことが多かったので、今後は精密打撃 (surgical strike)方式で展開する。今回は、持続可能な農業という3Kの研究・アドバカシーである。お時間のある方、ぜひ奮ってご参加してください。   プログラム   1日目:8月26日(金) 発表1(09:45~10:15)「ベンゲット州における有機農業の実践と経験」 発表者:Jeffrey Sotero 発表2(10:15~10:45)「ベンゲット州における苺農業」 発表者:Felicitas Dosdos 発表3(10:45~11:15)「ベンゲット州における被災のリスク低減や管理」 発表者:Atty. Roberto Canuto, Winston Palaez, Erick Abangley 発表4(11:15~11:45)未定 質疑応答 円卓会議(13:30~17:00) モデレーター:Dr. Max Maquito 討論者:午前の発表者   2日目:8月27日(土) 08:00:バギオ市のR. Salda市長へ挨拶 08:30:Bahongの花畑と農園の視察 10:00:苺農園の視察 12:00:有機農業の食事 13:30: マニラへ向かいながら観光   Program in English