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  • Max MAQUITO “Manila Report 2022 Summer”

    *************************************************************** SGRAかわらばん944号(2022年11月11日) 【1】マックス・マキト「マニラレポート2022年夏」 【2】SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(11月19日、オンライン)(再送) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 *************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#720 ◆マックス・マキト「マニラレポート2022年夏」 パンデミックのせいで台湾は「近くて遠い国」になってしまった。プレカンファランスをオンラインで開催して1年延期された第6回アジア未来会議であったが、皆の祈りはかなわなかった。アジア未来会議の「現場」に行けなかったのは初めてだ。参加者もいつもより少ない気がした。 しかし、現場から離れていても会議ができるだけ成功するように、この狸(注:渥美財団のロゴに因んで元奨学生を「狸」と呼んでいる)は頑張った。一つの時間帯を除き、最初のセッションから閉会式まで参加し、分科会セッションでは質問をして議論を盛りあげた。国籍や専門分野や社会部門(大学・政府・民間・市民社会)を乗り越えることが狸の使命なのだ。狸はにぎやかな集まりを好んで、状況に合わせて化ける癖がある。他の狸たちも舞台の表裏で頑張っていた。皆と話したかったが、状況が許してくれなかった。 今回の会議でも僕にはさまざまな役割があった。共著論文2本の発表、セッションの座長、そして3時間の円卓会議を主催した。全て僕が日本留学によって学び、取り組み始めた「共有型成長」の研究と関係しており、研究とアドボカシーをさらに一歩進めさせてくれた。 8月28日(日)午前9時(台湾・フィリピン時間)からの分科会セッション「所得・富の地域的な格差」では共著論文を2本発表した。どちらもSGRAフィリピンが主催する持続可能な共有型成長セミナー(おかげさまで既に34回開催!)で取り上げているテーマである。1本目の論文は、地価税が伝統的な所得税などより効率的かつ公平でエコである税金だと主張し、いかにフィリピンで導入できるかを検討した。残念ながら優秀論文には選ばれなかったが、共著者と相談して発表することにした。共同研究者にも経験を積んでもらうため、地方公務員のミニー・アレハンドル(Minnie Alejandro)さんに発表をお願いした。2本目の論文は、地方分権政策が共有型成長の重要な原理の一つだという考えから、コロナ禍のインドネシア、タイ、フィリピンの地方分権政策を比較したものである。優秀論文に選ばれ、フィリピン大学ロスバニョス校の同僚ダムセル・コルテス(Damcelle Cortes)先生と共同で発表した。 29日午後4時からのセッションでは座長を務めた。テーマは「国際的な観点からみた所得・富の格差」で、発表論文は3本しかなかった。1本目はロシアからの研究者で、移民の移民先に対する影響についての研究成果を発表した。2本目は日本の大学を卒業したインドネシアの研究者たちが、金融危機における銀行の機能を巡って日本とアングロ・アメリカとの銀行管理システムを比較した。3本目はフィリピンの大学の研究者の発表で、フィリピンの出稼ぎ労働者からの送金が母国の危機における緩和役を果たした報告である。 自由討論の中で、フィリピン大学オープン大学のセザー・ルナ(Cesar Luna)副学長から1本目の発表に対してとても良い指摘があった。「なぜ移民先(先進国)への影響に注目したか」。まあ、先進国の立場からの研究だから無理もない。 3本目の報告は逆で、出稼ぎ労働者の海外からの送金の母国への影響を調べていたが、僕は「問題意識をもっと深くしたほうがいいではないか」と指摘した。フィリピンの出稼ぎ労働者の英雄的な存在は以前からよく取り上げられているので、今度はフィリピンの社会・経済コストを研究したほうが良いのではないか。頭脳流出もよく指摘されている。今日のニュースでは「パンデミックに対応するフィリピンの病院設備は十分あるが、医療スタッフがすごく足りない(看護婦が全国で12万人ぐらい不足)」と言っていた。社会的なコストも高い。出稼ぎ労働者で一杯の国際空港の出発ロビーは旅行気分で賑やかではなく、むしろ愛する家族・友達としばらく離れる悲しい場所である。そして、政策により出稼ぎ労働者が外貨稼ぎの主な手段として使われているため、政府は他の経済部門(農業や工業)の育成を怠っている。気が付かないうちに、いわゆるオランダ病に落ち込んでいる。このような課題の方をもっと研究するよう発表者にお願いした。 2本目の日米の比較研究は、内容も良く時間も守ってくれたので優秀発表賞に推薦した。僕が研究していた日米経済の根本的な違いを確認してくれたので、僕の研究をシェアして続けるよう奨励した。 僕として一番大事なセッションは、29日午前9時からの円卓会議だった。アジア未来会議では毎回さまざまな円卓会議が開催され協力してきたが、初めて僕が主催者となった。1年以上前から準備を始めたが、その難しさを肌で感じることになった。渥美財団の角田英一事務局長と相談しながら、新しい円卓会議を立ち上げた。この円卓会議はシリーズ化する予定で、総合テーマは「世界をアジアから東南アジアのレンズ(視点)で観る」*である。今回はその1回目の円卓会議という位置づけで、テーマは「コミュニティーとグローバル資本主義:やはり世界は小さいのだ」**だった。 *Contemplating the World from Asia through Southeast Asian Lens **Community and Global Capitalism: It’s a Small World After All 元渥美奨学生でインドネシア出身のジャックファル(Jakfar-Idrus Mohammad)先生とミャンマー出身のキン・マウン・トウエ(Khin Maung Htwe)さんが発表を引き受けてくれたので心強かった。ジャックファルさんは村有企業(village-owned enterprise)という面白い試みを取り上げた。キンさんは、観光によっていかにコミュニティーを活性化させるか、彼自身の努力を語った。ベトナムのハ(Quyen-Dinh Ha)先生は、ベトナムではパンデミック危機を抑えるためにコミュニティーがいかに重要だったかを報告した。 円卓会議の基調講演はフィリピン大学ロスバニョス校の同僚ホセフィナ・ディゾン(Josefina Dizon)先生と僕が担当し、このテーマの問題意識を紹介した。社会ネットワーク分析の「小さな世界」という概念を利用して、今の世界経済秩序が同時多発テロのようなパンデミックに対して脆いことを指摘した。そして、もう一つの小さな世界であるコミュニティーがこの打撃に対応する時に重要であると指摘した。それに対して討論してくれたのは、フィリピン大学でコミュニティー研究が専門のアレリ・バワガン(Aleli Bawagan)先生とジャン・ペレズ(John Perez)先生だった。両者ともパンデミックに対応するためにはコミュニティーの役割が大きいことを確認しながら、パンデミックの特殊性に合わせて研究と活動の見直しが必要ではないか、大学のプログラムをどう再編すればいいか等、色々なヒントを与えてくれた。 円卓会議を初めて企画段階から務めた担当者として、円卓会議の概念はそもそも何かということまで考えさせられた。由来は、やはりあのアーサー王の円卓(ラウンドテーブル)であり、目的はアーサー王が騎士らと集まる時にテーブルの上座がない、つまり一番偉い人がいない座り方にして全員が等しく重要であることを強調した。今度の円卓会議の発表者の多くは3~4世代にわたって蓄積したコミュニティー開発の経験があり、実を言うと僕が一番新参者(新世代)だ。しかし、僕は皆が平等であることを目指し、「先生」「博士」ではなく、昔風にサー(SIR)かマダム(MA'AM)と呼び合うようにお願いした。そのほうが皆が率直に話ができる、というのが円卓会議の本質である。こうして我が東南アジアの騎士たちは活発で有益な議論をしてくれた。 日本の茶室の伝統はこの円卓会議と同じ狙いであろう。侍は刀を外に置いて、茶室の低いにじり口をくぐって入り正座する。茶室で集まると、皆平等になる。アーサー王の円卓と違うのは茶人(tea_master)がいることだ。AFCの円卓会議では僕が座長を務めたので「茶室会議」と呼んだほうが良いかもしれない。だって、狸は畳の上に寝転がるのと一期一会の世界が好きだからさ。 追伸:僕のアンケートに協力していただいた狸たちにお礼を申し上げます。これからもよろしくお願いします! <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._MAQUITO> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第16回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 日時:2022年11月19日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 方法:Zoom Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 北京大学日本文化研究所 清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_xtADXh9yR7it24Lt79Czgw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりに行った昨年度のフォーラム「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」の続編として、前回に提起した空間論・時間論・ジェンダー論における論的転回の具体的現れについて考える。そして、それらが生活世界にどのような衝撃を与え、現在の私たちの時空感覚や身体的感性や倫理規範などにいかに通底しているのかを検討する。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】山室信一(京都大学名誉教授) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 【討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学人文学院歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 討論者: 陳言(北京市社会科学院) 高華キン(中国社会科学院文学研究所) 山室信一(京都大学名誉教授) 【閉会挨拶】劉暁峰(清華東亜文化講座/清華大学歴史系) 〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学/SGRA) プログラム日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/J_SGRAChinaForum16.pdf プログラム中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2022/10/18/chinaforum16/ ポスター(中国語) https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/16thChinaForumPoster.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Li Kotetsu “Report on INAF session at the 6th Asia Future Conference”

    *************************************************************** SGRAかわらばん943号(2022年11月3日) 【1】エッセイ:李鋼哲「第6回アジア未来会議INAFセッション『台湾をもっと知ろう』レポート」 【2】SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(11月19日、オンライン)(再送) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 *************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#720 ◆李鋼哲「第6回アジア未来会議INAFセッション『台湾をもっと知ろう』レポート」 今年のアジア未来会議は8月末に台北の中国文化大学で開催予定だったが、コロナ禍の終息が見られずハイブリッド形式で開催、台湾の参加者は会場に集まり、海外からはオンラインで参加した。コロナ禍にも関わらず、世界各地から大勢の参加者が集まり盛況だったと思う。 大会2日目の28日は多くの分科会が設けられたが、その中の2つを一般社団法人・東北亞未来構想研究所(INAF)が主催した。 この企画は、INAF所長である筆者が準備段階から研究所内の皆さんに呼び掛け、東北アジア地域を対象とした研究所としての特徴を生かし、東北アジア諸国と台湾との関係をテーマに設定し、政治や歴史、経済・産業分野を中心にしたユニークなセッションとして注目された。 当初、台湾に旅する機会が少ない皆さんは、視察旅行を兼ねて学術会議に参加を申し込んだが、残念ながらその望みは実現できなかった。 にもかかわらず、発表者の皆さんは忙しい中でも膨大なエネルギーを注いで準備を行った。専門分野ではあるものの、台湾との関係についてはほとんど各自の研究の射程に入っていなかった。台湾の特殊な事情により、日本を始め台湾研究者は非常に限られている。 特殊な事情の一つは、第2次世界大戦後の1949年に同じ国であった中国と台湾が中華人民共和国と中華民国に分断されたこと。次に国際社会の中で中国の存在感が大きく、台湾が小さいこと。最後に国際連合(UN)での代表資格が1945年から1971年10月までは中華民国だったが、その後は国連決議により中華人民共和国にとって替われ、それ以来、世界多数の国は中華人民共和国と国交を締結する際に「一つの中国」しか認めない、という中国政府の条件を受け入れ、中華民国との国交関係を次々と断絶したことなどが挙げられる。 そのような台湾(中華民国)が、今度のINAFセッションによって少しでも脚光を浴びることになったかもしれない。 【Part1】では平川均INAF理事長をモデレーターとし、3名の報告と討論が行われた。 第1報告は、筑波大学大学院博士課程の李安・INAF研究員による「岸信介政権期における政財界の対中「政経分離」認識―新聞報道を中心に―」だった。1950年代に国交がない中で民間貿易がどのように展開されたのかについて、当時のメディアの報道をリサーチした日中両国関係についての研究であるが、発表者は当時の日本と中華民国との関係についてもメスを入れて、日本は如何に国交がない中国との民間貿易に取り組んだのか、その中で中華民国との関係をどのように処理したのか、という大変興味深い内容であった。討論は羽場久美子・INAF副理事長・神奈川大学教授が務めた。 第2報告は、川口智彦・INAF理事の「北朝鮮-台湾関係と国際関係」。北朝鮮(DPRK)は建国後、ソ連や中国など社会主義圏との交流関係が多く中国とは親密な関係を持っていたため、資本主義圏の中華民国(台湾)との交流はほとんど行われず、両者関係は空白と言っても過言ではなかった。そのような厳しい状況であるにも関わらず、発表者は一生懸命に資料を収集し、韓国研究者の論文を見つけ出し、北朝鮮と台湾の関係が形成された時期の台湾外交を「第1期、柔軟な外交(1972~1987)」、「第2期、実用外交(1988~1999)」、そして「定型化(2000~現在)」に分け、両岸関係、中米関係、中韓関係と関連させながら、それぞれの時期にあった当該国間の外交、経済交流の事例に関する研究を紹介した。日本では前例をあまり見ない先駆的な研究であるかもしれない。討論は三村光弘・INAF理事・ERINA研究主任(北朝鮮専門家)が担当した。 第3報告は、アンドレイ・ベロフ・INAF理事・福井県立大学教授の「Economic_Relations between Russia_and_Taiwan」であった。前述と同じ理由で、台湾はソ連やロシアと外交関係がなかったため、相互交流がほとんどなく、それに関する先行研究もほとんど見当たらない状況の中で、経済交流に関する資料を収集し、エネルギーや半導体の貿易が行われていることを明らかにしたので、これも先駆的な研究であるかもしれない。討論は筆者が務めた。 【Part2】のモデレーターは川口智彦理事が務め、2名の報告と討論が行われた。 第4報告は陳柏宇・INAF理事・新潟県立大学准教授の「東アジアにおける帝国構造とサバルタン・ステイト:台湾と韓国を中心に」であった。報告者はINAFセッションの中で唯一台湾出身の学者であり、東アジアの国際関係や国際政治を専門とし、台湾と中国の関係、台湾と日本の関係など多くの研究成果を発表している。本報告では「サバルタン」とは植民地化または他の形態の経済的、社会的、人種的、言語的または文化的支配によってもたらされる従属の状態であることを説明した上で、戦後の韓国と台湾(中華民国)は東アジアのサバルタン・ステイトの代表例だ、という指摘は印象に残った。討論は佐渡友哲・INAF理事が務めた。 最後の報告は筆者で、テーマは「半導体産業におけるグローバル・サプライ・チェーン再編―米中覇権争いと台湾―」にした。筆者は半導体産業の研究が専門ではないが、米中貿易摩擦および覇権争いが激しさを増す中、「半導体を制する者は21世紀を制する」と言われるので、それに関する資料を収集・分析して、半導体の開発・生産・販売を巡る米中台3者の関係を明らかにしようとした。討論は平川均理事長が務めた。 発表と討論の後に総合討論が行われ、白熱した議論が交わされた。台湾で開催されるアジア未来会議であるがために、INAFセッションでは台湾を重点的に取り上げて、興味深い報告や分析が行われていたことで、多数の参加者がオンラインで参加し、有意義な交流の舞台となった。 <李鋼哲(り・こうてつ)LI_Kotetsu> 1985年北京の中央民族大学業後、大学院を経て北京の大学で教鞭を執る。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団、名古屋大学国際経済動態研究所、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)を経て、06年11月より北陸大学で教鞭を執る。2020年10月1日に一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設し所長を務め、日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして、東北アジア地域に関する研究・交流活動に情熱を燃やしている。SGRA研究員および「構想アジア」チームの代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイが多数ある。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第16回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 日時:2022年11月19日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 方法:Zoom Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 北京大学日本文化研究所 清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_xtADXh9yR7it24Lt79Czgw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりに行った昨年度のフォーラム「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」の続編として、前回に提起した空間論・時間論・ジェンダー論における論的転回の具体的現れについて考える。そして、それらが生活世界にどのような衝撃を与え、現在の私たちの時空感覚や身体的感性や倫理規範などにいかに通底しているのかを検討する。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】山室信一(京都大学名誉教授) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 【討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学人文学院歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 討論者: 陳言(北京市社会科学院) 高華キン(中国社会科学院文学研究所) 山室信一(京都大学名誉教授) 【閉会挨拶】劉暁峰(清華東亜文化講座/清華大学歴史系) 〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学/SGRA) プログラム日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/J_SGRAChinaForum16.pdf プログラム中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2022/10/18/chinaforum16/ ポスター(中国語) https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/16thChinaForumPoster.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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  • Olga KHOMENKO “Women, Men, and Children at War”

    *************************************************************** SGRAかわらばん942号(2022年10月27日) 【1】エッセイ:オリガ・ホメンコ「女、男、子どもの戦争」 【2】催事案内:企画展「草原の民 カザフの終わりなき布」(11月3~6日、東京) 【3】SGRAカフェへのお誘い(10月29日、オンライン)(最終案内) 「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 【4】SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(11月19日、オンライン)(再送) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 *************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#719 ◆オリガ・ホメンコ「女、男、子どもの戦争」 ◇女たち 戦争になったら女一人で何ができるか考えて、友達は2014年春にジムに通い始めて体を鍛えることに集中した。男より体が小さい女も、普通の生活においても自分自身と子どもたちを守るべきと思ったようだ。「少なくとも限られた荷物と幼い子供2人を抱えて歩きながら逃げるために役立った」と今は話している。 戦争の時に女性は命の危険を感じて避難しなければならない。避難先で新しい生活を作り直さなければならない。その過程で精神的な不安といろいろ危険な状況を乗り越えなければならない。2014年の春には不思議に聞こえたが、2022年の冬にはよく思い出していた。その前のコロナの2年間に研究ばかりしてジムへ通う時間が少なかったことを残念に思った。 8月にキーウに行く日本人記者の女性の友達にも「戦争の時に一人の女性に何ができるのか」と同じ質問をされた。答に詰まった。確かに戦争になったら女性は2倍くらいの危険を感じるようになる。女性だから知らない男の群れの近くを通るだけで危険を肌で感じる。 だが怖い時には余計に勇気が出せる。この半年にいろいろな女性を見て感動した。自分で運転して家族をドイツまで避難させた40代の母親。留学先のイギリスからウクライナに戻って寝たきりの母親をイギリスに連れて行った30代の独身女性。軍隊のために寄付を集める50代のビジネスウーマン。軍隊のために潜伏用のネットを作る80代の元数学の先生。ボランティアでカウンセリングをする40代の売れっ子の心理学者などなど。軍隊に志願した女性も少なくない。学生や会社員が看護婦、運転手、軍隊の広報員になって一生懸命頑張っている。最近の社会広告には「ウクライナには弱いジェンダーがない」というスローガンで軍服を着た女性が写っているポスターもある。 体が弱くても時には男性より精神的に強い女性が多いかもしれない。特に歴史的にみても20世紀に活躍する男性がたくさん殺されたウクライナでは、女一人でも自分で自分の生活を成り立たせることを、皆が学んできた。独立後の30年間でやっとそれを考えなくても良い、女性を守る男性が出てくるような安心できる社会になったところに戦争が始まった。 Kさんは外資系企業で働くバリバリのビジネスウーマンだったが、戦争が始まった時にキーウから子どもと避難することをやめた。チケットまで手配したのに、どうしてやめたか聞くと、旦那がもともとメンタル的に弱いから、独りで残したら悪化してしまうかもしれない、だから避難をやめたと言われた。「どうせ戦争はすぐに終わるでしょう」と楽観的だったが、8ヶ月後の今もキーウに居る。 もちろん強い女性ばかりではない。女性であるということだけで戦争で性的被害を受けることは少なくない。スロベニアからオーストリアに入る国境で、黄色と青のウクライナカラーの背景に「人身売買の対象になっている場合は合図してください」と書いてあった。なるほどと思った。被害者は連絡できないかもしれないが、国境の職員に合図することはできる。英国に避難した友達も、質問票の中に同じような項目があったと言っていた。緊急連絡先も教えてくれたという。「現代の奴隷」と呼ばれるものを予防するためのものだ。確かに必要だと思う。この半年間に欧州のホテル、レストランのキッチンで現地の人より安い給料で働いている避難民の女性をたくさん見た。 ◇男たち 戦争が始まってから70日間以上も病院で寝泊まりしていた看護婦に「どうして避難しなかったの?」と聞いたら、「ここで私が必要とされているから残った。避難先で何もしないで頭が狂ってしまうより、ここにいた方が合理的」という返事がきた。分からないわけではない。 ポーランドでたまたま乗ったタクシーの60代の運転手から全く同じ話を聞いた。キーウで会社勤務に加えて中心部に2つの駐車場を経営してバリバリに働いていた。ポーランドで大学に通っている下の娘のところに家族と避難したが、家にずっといるとおかしくなりそうでタクシーを始めた。 男性も戦争で大変だ。必ずしも皆が戦う能力を持っているわけではない。戦争で家族がバラバラになったことも大変だ。男にとっては特に厳しい選択の時代になった。軍隊に志願するか志願しないか。軍隊のために何ができるか深く考えさせられる。2月24日以降、お金持ちの息子たちは結構海外に出られたことも事実だが、普通18歳から60 歳までの男性は国を出られない。皆軍隊に呼び出される準備をしている。 国に留まっている男性は皆重い責任を感じている。男の友達から「男性の政治家でこの7カ月間で笑顔を見せた人は一人もいないことに気づいた?」と聞かれた。確かに。笑える時代ではない。 軍隊に志願した男は大変だ。軍隊にいる期間は無期限で戦争が終わるまで家に帰れる見込みがない。つい最近、軍隊に行ってから3人目の子供が生まれた父親だけが家族の下に戻ることができる法律ができた。2014年に徴兵された経験のある2人の作家は、その「無期限」の修正を大統領に申し立てた。 まだ徴兵されていない人も、別の形で役立つように頑張っている。若い時からスポーツオリエンテーションが好きな歴史家の友人もその一人だ。ハルキフとキーウの真ん中にあるポルタワ市の出身で、家族をポーランドに送ってから地元に戻って一般市民向けの「地図を読む講座」を開いた。スマホがつながらなくなった時でも避難できるようにするためだ。「YouTubeでしたら?」と提案したら、「だめだめ。実家の周辺は変わった地形なので、それをそのまま敵に知らせてはいけない。顔を合わせたオフラインの講座しかやらない」と言われた。確かにそういう時代だ。平和な時と違って、地図そのものも「大事な一品」になってきた。 感情を表に出すことが少ないウクライナの男たちが戦争になってから感情的になった。駅で家族を見送る時、子どもと奥さんに手を振りながら涙を流す。家族を避難させて家に帰っても一人で眠れなくて、夜遅くまで軍隊のためにバラクラバ(目出し帽)を裁縫する。今月キーウにミサイルが落とされた時、地下鉄の駅に集まった人々の中でおじいさんが泣いていたと教え子が言っていた。きっとキーウ駅近くのオフィスビルの破壊を目の当たりにして許せない気持ちになったのだろう。 ◇子どもたち 子どもたちはまだ幼いから避難先で一番先に慣れて友達を作れるが、彼らも大変だ。 戦争が始まった後に描かれた子どもの絵を見ると、その中に口にしない戦争が見える。11歳の甥がオーストリアに避難してから初めての美術の授業で描いた絵を見せてもらった時に戸惑いを感じた。まず自分の手を写生し、そこから絵にするという課題だったようだ。一見したところ黒い背景に描かれた鮮やかな鳥に見えた。しかしよく見ると、その「手・鳥」は叫んでいるか、助けを求めているように見える。「避難は怖かった?」と聞くと、無表情で「別に」としか答えない。でもその絵の全部がなんとなく怖いものに見える。その子の他の絵を見ると、戦車、武器、軍人やウクライナの旗が出てくるものも少なくない。たくさんの怖い思いをしたウクライナの幼い子どもたちを守ってください。 父親たちは妻と子どもを海外に送り出すために国境まで一緒に来ることが多い。それで国境での別れがまた辛い話になる。小さい子どもは「パパを逃したくない」と泣きじゃくる。11歳の甥は国境の職員に抱きついて「おじさん、お願いだからパパを通してください」と涙を流してお願いした。職員は冷たかった。母親にむかって「奥さん、子どもをどかしなさい」と言った。 それより小さい子はまだ状況が分からないから「父親は一緒に行きたくないのだ」と勝手に思う。ハンガリーに避難した友達の5歳の子は、パパからくる電話に出たくなかった。「どうしたの?」と聞くと、「パパは私たちを捨てたから話したくない」と言うので、みんなびっくりした。小さい子どもの頭の中がどうなっているかは謎だが、それなりに考えている。 戦争が始まった時に、キーウ郊外の地下室に隠れていた知り合いの7歳の息子は戦争が始まった理由が分からなくて「どうしてプーチンは私たちを嫌なの?」と聞いたそうだ。どうしてでしょうね。答えがない。領土が欲しいけど、ウクライナ人はいらないからだ。 子どもの現実と夢だけではなく、遊びの中にも戦争が入り込んだ。ウクライナの子どもは昔から家の前で大勢集まって遊ぶことが多かったが、戦争でそれがなくなりつつある。しかしながら、先日、友達の車が家に入る時に7歳から10歳くらいの子どもたちのグループに止められた。どうも「ブロックポスト」という戦争ゲームをしていたらしく、顔も知っているのに、きちんと家の住民かどうか確認された。お互いに笑って通してもらったが、「戦争で子どものゲームも変わったなぁ」と言っていた。やはり、そうです。 ◇◇◇ 女、男、子どもが自分を守りながら、この持ち込まれた戦争を嫌い、ウクライナのことを祈り続けている。自分が立っている場所に花を咲かせているのではなく、戦う。戦争は嫌いだが、戦わないといけない。戦わなかったらウクライナという国とウクライナ人が存在しなくなるからだ。イタリアの作家ジャーニー・ロダーリーの詩を最後に引用したい。「日中必要なものがある。遊ぶ、学ぶ、顔を洗うこと。そして昼には一緒に食卓でみんなで歌いながら笑うこと。夜にも必要なものがある。目を閉じて眠ること。そして、すべて実現できるような夢を見ること。ただし、絶対ダメなものが一つある。明るい昼でも暗い夜でも陸でも海でもみんなに悲しみをもたらすもの。それは戦争だ」。 <オリガ・ホメンコ Olga_KHOMENKO> オックスフォード大学日産研究所所属英国アカデミー研究員。キーウ生まれ。キーウ国立大学文学部卒業。東京大学大学院の地域文化研究科で博士号取得。2004年度渥美奨学生。歴史研究者・作家・コーディネーターやコンサルタントとして活動中。藤井悦子と共訳『現代ウクライナ短編集』(2005)、単著『ウクライナから愛をこめて』(2014)、『国境を超えたウクライナ人』(2022)を群像社から刊行。 ※ウクライナ首都の日本語の表記は、オリガさんによれば「クィーブ」が一番相応しいということですが、本エッセイではご了解いただき日本政府の決めた「キーウ」を使います。 ※留学生の活動を知っていただくためSGRAエッセイは通常、転載自由としていますが、オリガさんは日本で文筆活動を目指しておりますので、今回は転載をご遠慮ください。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRA会員の廣田千恵子さんから企画展のご案内をいただいたので紹介します。 ◆企画展「草原の民 カザフの終わりなき布」 2022年11月3日(祝)~11月6日(日)11:00~17:00 会場:Rungta(世田谷区経堂5丁目31-6)(小田急線「経堂」駅より徒歩約6分) イベントページ https://www.facebook.com/events/799862654551619/?notif_id=1666649875341460&notif_t=plan_admin_added&ref=notif SGRAの皆様こんにちは。 2022年度渥美奨学生の廣田千恵子と申します。 来月3日から4日間、東京世田谷(経堂)にて、私が研究対象としてきましたカザフ遊牧民の手仕事を紹介する展示を開催することとなりました。 世界各地に点在するカザフ人の中でも、私が調査をおこなってきましたのはモンゴル国に居住しているカザフ人移民とその子孫で、展示では彼らが作った古い刺繍布や、現地の様子を写した写真、現代の刺繍作家が作った作品の展示販売などを致します。 会期中は私も会場にてカザフの手仕事の解説をおこないます。 お忙しい時期と存じますが、もし宜しければ是非お越しくださいませ。 皆様のご来場を心よりお待ちしております。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」へのお誘い(最終案内) 第18回SGRAカフェをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。参加者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 日 時:2022年10月29日(土)11:00~12:30 方 法:Zoomウェビナーによる 言 語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:下記よりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6qU0i7c1Q0mwQ5NfglX-0w お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 【フォーラムの趣旨】 1916年に平壌に生まれた金秉騏(キム・ビョンギ)は1930年代に学生として東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年にアメリカに渡りました。晩年は韓国に戻り、今年2022年3月1日に105歳で亡くなるまで具象と抽象をさまよう魅力的な絵を描き続けました。韓国では、オーラルヒストリー・インタビューを多く受けて、韓国美術史における時代の重要な証人と見なされています。 金秉騏の長いキャリアを通してアートの世界的な動きをさかのぼることができる一方、どの国の美術史にも簡単には収まりきらない様々な活動の軌跡を見ることができます。この企画では金画伯の韓国・日本・アメリカ美術史における立ち位置を示し、それらの美術史上の接点、空白、そして限界について語り合い議論していきます。 【プログラム】 ◇問題提起: コウオジェイ・マグダレナ(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師) ◇討論者: 朴慧聖(韓国国立現代美術館学芸員)「間(in-between)」の実現」 五十殿利治(筑波大学名誉教授)「1930年代前半の東京におけるモダニズムの転換」 山村みどり(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授)「米国におけるアジア系アメリカ人美術史の歴史と課題」 ◇司会:ヤン・ユー グロリア(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師) プログラムの詳細は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-VCafe18Program.pdf ポスター(日本語版)は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-Cafe18Poster.jpg 韓国語ウェブサイトは下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/09/08/sgra_cafe_18/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【4】第16回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(再送) 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 日時:2022年11月19日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 方法:Zoom Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 北京大学日本文化研究所 清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター 協賛:鹿島建設(中国)有限公司 ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_xtADXh9yR7it24Lt79Czgw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりに行った昨年度のフォーラム「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」の続編として、前回に提起した空間論・時間論・ジェンダー論における論的転回の具体的現れについて考える。そして、それらが生活世界にどのような衝撃を与え、現在の私たちの時空感覚や身体的感性や倫理規範などにいかに通底しているのかを検討する。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】山室信一(京都大学名誉教授) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 【討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学人文学院歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 討論者: 陳言(北京市社会科学院) 高華キン(中国社会科学院文学研究所) 山室信一(京都大学名誉教授) 【閉会挨拶】劉暁峰(清華東亜文化講座/清華大学歴史系) 〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学/SGRA) プログラム日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/J_SGRAChinaForum16.pdf プログラム中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2022/10/18/chinaforum16/ ポスター(中国語) https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/16thChinaForumPoster.png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Invitation to SGRA China Forum “The Impact of ‘Modern’ and 100 Years of Asia”

    ********************************************* SGRAかわらばん941号(2022年10月20日) 【1】SGRAチャイナフォーラムへのお誘い(11月19日、オンライン) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 【2】SGRAカフェへのお誘い(10月29日、オンライン)再送 「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 ********************************************* 【1】 第16回SGRAチャイナフォーラムへのお誘い 下記の通りSGRAチャイナフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 日時:2022年11月19日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 方法:Zoom Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 北京大学日本文化研究所 清華東亜文化講座 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_xtADXh9yR7it24Lt79Czgw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりに行った昨年度のフォーラム「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」の続編として、前回に提起した空間論・時間論・ジェンダー論における論的転回の具体的現れについて考える。そして、それらが生活世界にどのような衝撃を与え、現在の私たちの時空感覚や身体的感性や倫理規範などにいかに通底しているのかを検討する。 ■プログラム 総合司会 孫建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA) 【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 【講演】山室信一(京都大学名誉教授) 「モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」 【討論】 モデレーター:林少陽(澳門大学人文学院歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 討論者: 陳言(北京市社会科学院) 高華キン(中国社会科学院文学研究所) 山室信一(京都大学名誉教授) 【閉会挨拶】劉暁峰(清華東亜文化講座/清華大学歴史系) 〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学/SGRA) ■講師からのメッセージ 討議では、前回の続きとして「近代と現代の二つのモダン」がアジアという空間においていかなる衝撃を与え、それがどのような時間論的転回とジェンダー論的転回を生んだのかについて具体的な事例をあげて考えたいと思います。 そこでは現在の私たちにとって当たり前の通念となっていることが、決して当然のこととして受け容れられた訳では無く、日常生活における所作や装身や感性や倫理・規範など多層的な激変を伴うものであったことに着目する必要があるかと思います。 同時に、そこでは欧米への対応とともに中国・韓国・日本の相互の反発や啓発によって平準化・類同化・固有化という興味深い現象を引き起こしたことも見逃せません。 実は、そうした現象が現れること自体が、アジアという時空間に共属感覚を抱くようになる要因でもあったと言えます。 こうしたモダンの衝撃のなかでも、現在の私たちにとっても思想課題として立ちはだかっているのが男女の性差という問題でしょう。いや、私が「モダン語の世界」とみている百年前の時空間の中で最も大きな衝撃として噴き出したのが、性差や性愛や性美などをいかに捉え、それをどのように生活世界の中に取りいれるか、あるいは全く逆にそれらを異常や風俗壊乱などとして排除していくのかという問題でした。ただ、同時にまた近代において否定された異性装が、新たなモードとして人気を博したのも現代の特徴でした。 そこではモダンと反モダン、アバンギャルドとプリミティヴィズムなどの相反する尖端が共存するという事態が現れます。その混沌たる気運を生んだのが、同時期に普及したニュー・メディアである写真や映画やレコードなどの世界的流通でした。これらのニュー・メディアはモンタージュや速写や透視などの技法によって空間論的転回と時間論的転回の接合という人類史的視点からみても画期的事態を生み出します。 私たちの時間感覚と空間感覚そして性差感覚は、第一次世界大戦の戦争形態の変化を経て決定的に転換するのです。 このようにして生じた変化が現在の私たちの生活世界にいかに繋がっているのか否か、という議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を百年というタイムスパンの下で検討したいと思います。 最後に時間が許せば、「思詞学」という視点のもつ意義について再考し、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 プログラム日本語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/J_SGRAChinaForum16.pdf プログラム中国語版 https://www.aisf.or.jp/sgra/chinese/2022/10/18/chinaforum16/ ポスター(中国語) https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/10/16thChinaForumPoster.png -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」へのお誘い(再送) 第18回SGRAカフェをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。参加者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 日 時:2022年10月29日(土)11:00~12:30 方 法:Zoomウェビナーによる 言 語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:下記よりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6qU0i7c1Q0mwQ5NfglX-0w お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 【フォーラムの趣旨】 1916年に平壌に生まれた金秉騏(キム・ビョンギ)は1930年代に学生として東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年にアメリカに渡りました。晩年は韓国に戻り、今年2022年3月1日に105歳で亡くなるまで具象と抽象をさまよう魅力的な絵を描き続けました。韓国では、オーラルヒストリー・インタビューを多く受けて、韓国美術史における時代の重要な証人と見なされています。 金秉騏の長いキャリアを通してアートの世界的な動きをさかのぼることができる一方、どの国の美術史にも簡単には収まりきらない様々な活動の軌跡を見ることができます。この企画では金画伯の韓国・日本・アメリカ美術史における立ち位置を示し、それらの美術史上の接点、空白、そして限界について語り合い議論していきます。 【プログラム】 ◇問題提起: コウオジェイ・マグダレナ(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師) 「金秉騏の人生と画業」 2016年10月に東京で開かれていた小さな個展で初めて金秉騏画伯と出会った。それ以来、2019年12月まで数回にわたりオーラルヒストリー・インタビューを行った。本発表では、前半に最初の出会いを振り返り、その後の調査と先行研究に基づき、朝鮮半島・日本・アメリカで活躍した画伯の人生と芸術を紹介する。後半では、私たちのアイデンティティと深く結びついている「国史としての美術史」の特徴と、一方で、国家の枠組みで近現代美術史を語る困難について考察する。韓日米それぞれの美術史における画伯の立場についての私の分析をスタートとし、討論者に問いを投げかける。本カフェが従来の美術研究の偏りや見落としていたことに目を向け、研究者の対話の場となることを期待する。 ◇討論者: 朴慧聖(韓国国立現代美術館学芸員)「間(in-between)」の実現」 五十殿利治(筑波大学名誉教授)「1930年代前半の東京におけるモダニズムの転換」 山村みどり(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授)「米国におけるアジア系アメリカ人美術史の歴史と課題」 ◇司会:ヤン・ユー グロリア(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師) プログラムの詳細は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-VCafe18Program.pdf ポスター(日本語版)は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-Cafe18Poster.jpg 韓国語ウェブサイトは下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/09/08/sgra_cafe_18/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • CHEN Tzu-Ching “Reflection on the 6th Asian Future Conference”

    ********************************************* SGRAかわらばん940号(2022年10月13日) 【1】エッセイ:陳姿菁「第6回アジア未来会議を終えて」 【2】催事紹介:INAFと早稲田大学共同国際シンポジウム 「近現代日中関係への多角的な視点」(10月22日、東京) 【3】SGRAカフェへのお誘い(10月29日、オンライン)再送 「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#718 ◆陳姿菁「第6回アジア未来会議を終えて」 「来年、台湾台北で会いましょう!」 中国文化大学元学長の徐興慶先生、台湾のラクーン(元渥美奨学生)たちと一緒に、2020年1月にフィリピンで開催された第5回アジア未来会議のクロージングパーティーのステージに上がり、皆さんに呼びかける自分の声が耳元で響いていた光景が昨日の出来事のようです。 翌日のツアーで火山の噴火を目の当たりにし、そして火山灰で滑走路が閉鎖され、空港では長時間待たされ、混乱の中で帰国便の変更をしたことなど、皆さんは覚えているでしょうか。 帰国後、第6回アジア未来会議の準備が始まりました。いえ、準備はもっと前から始まっていました。火山見学の途中、噴火する直前の火山の横の展望台で、徐先生から「準備委員会の連絡グループを作りましょう」と指示を受けた時に始まっていました。 フィリピン大会から約1カ月後、日本から今西さんと角田さんの2人、タイからはアジア未来会議(AFC)事務局3人組が台湾で集合しました。 宿泊施設の視察、おもてなしの台湾料理の試食など朝から晩までぎっしりとスケジュールが詰まっていました。台湾の魅力をどのように皆さんに知ってもらうか、いろいろなアイディアが飛び交っていました。 101ビルはランドマークとして広く知られているかもしれません。では、圓山ホテル(ザ・グランドホテル)はご存知でしょうか。赤い柱と金の瓦の14階建て中国宮殿様式のホテルで、台湾では初めての5つ星ホテルです。歴史のある圓山ホテルの格式を味わってもらう宴会場を探しました。高さ11メートルの天井に、渦を巻いて空を飛ぶ龍が珠を吐き出すホールを見学し、ここでクロージングパーティーを開いたらきっと一層華やかな雰囲気を引き立てられるのではないか、視察チームは様々な想像を巡らせて、その会場を予約することにしました。 その頃は新型コロナが世界にこんなに大きな影響を与えるとは思いもよりませんでした。台湾ではすでに警戒態勢で、マスクは配給制になっていました。視察チームが帰国する際に、空港で今西さんが「マスクをあげようか」と言ってくれたのをまだ鮮明に覚えています。「いえいえ今西さん、ご自分に取っておいた方がいいですよ」と答えましたが、まさかその後日本でもしばらくマスクが不足するとは思いませんでした。 2020年3月19日、今西さんたちが帰国して間もなく台湾は国境を閉じ、新型コロナは火に油を注ぐような勢いで世界中に広まっていきました。 新型コロナの収束が見えない中、対面で会議が開けるか台湾の準備委員会では議論を重ねました。様々な国の学者と対面で議論し、学際的な交流をするのはアジア未来会議の醍醐味です。その醍醐味を最大限に保ちたいという思いを優先し、2021年8月に台湾で開催予定だった第6回アジア大会の延期を決めました。「1年延期すれば、なんとか光が見えてくるでしょう」と準備委員会で議論しました。そして本番の大会の宣伝を兼ねて、オンライン式の「プレカンファランス」を開くことになり、2021年8月26日(木)に実施しました。 「プレカンファランス」が大成功に終わり、いよいよ本番を目指します。しかし、新型コロナがベータからデルタ、オミクロンへと次から次へ変異し事態が思わぬ方向へと進んでいきました。オンラインかハイブリッドか対面か、どの形にするか最後の最後まで決めかねていました。準備委員会としてはアジア未来会議の醍醐味である対面会議での交流を大事にしたいと考えていましたが、ご存じの通り入国制限があり、最後はハイブリッド形式に決まりました。アジア未来会議が始まってから初めてのチャレンジです。 大会数日前にはパネリストや通訳などに続々と感染者が出て、臨時的措置を取らなければならない慌ただしい雰囲気が漂っていました。あと数分で日付が変わる25日の真夜中に、事務局から26日に公開する英語のお知らせの中国語への翻訳の依頼が入り、「間に合うか間に合うか」と秒単位で緊張しながらのやり取りです。さまざまなネットワークやチームメンバーが動員された大会がいよいよ開幕を迎えると実感しました。 8月27日当日、台北市北部の山に位置する中国文化大学で大会が始まりました。台湾ではまだ新型コロナ対策として「社交距離」、「マスク着用」など様々な規制があるにも関わらず、大会ホールには大勢の人が集まっていました。 シンポジウムでは基調講演者の前(第14代)中華民国副総統の陳健仁先生をはじめ、各国・各分野で活躍する先生方が新型コロナについて様々な視点から話をしてくれました。パネリストの一人である黄勝堅先生(台北市立聯合病院前総院長)の言葉を借りますと、基調講演とシンポジウムの話はまさに大会趣旨である「みんなの問題、みんなで解決」にぴったりだと、私も思わずうなずいていました。 開催会場の中国文化大学側の総動員、日本(+タイ)側のスタッフ、そして台湾の多数の学校をまたぐ準備委員会の委員たちが積極的に協力してくれたおかげで、3日間にわたった基調講演、シンポジウム、円卓会議、分科会などがスムーズに行われ、活発な議論が展開されました。大会が順調に行われた裏ではたくさんの方々の協力が欠かせませんでした。心から感謝を申し上げます。 私は準備委員の一員であるほか、コメンテーター、座長、共同発表、個人発表など数役を担い、日本語、中国語、慣れない英語を切り替えながら気を張り詰めて3日間を過ごしました。新しく取り入れた研究テーマが「ベストプレゼンテーション」という評価をいただき、とても励みになりました。新しい研究やチャレンジの成果をシェアできる場として、異なる分野、異なる国の学者が異なる視点で議論できる場として、大会の様子を見て「あー参加して良かった」とつくづく思いました。 第6回アジア未来会議は無事に閉幕しました。対面会議ではない形で開催され残念な気持ちはありますが、これからの時代はハイブリッド形式が普通になるのではという感想もあります。 第1回から第6回、コロナのない時代、コロナの時代、ポストコロナの時代、そしてウィズコロナの時代、これからはどんな時代になるのでしょうか。第7回アジア未来会議は最初の開催地であるバンコクに戻ります。どんな話題が繰り広げられるのか、とても楽しみです。 では、台湾の台北からタイのバンコクへバトンタッチします。 皆さん、2024年8月にバンコクで会いましょう。 <陳姿菁(ちん・しせい)Chen_Tzu-Ching> SGRA会員。お茶の水女子大学人文科学博士。台湾教育部中国語教師資格、ACTFL(The_American_Council on_the_Teaching of_Foreign_Languages)のOPI(Oral_Proficiency_Interview)試験官(日本語)。台湾新学習指導要領(第二外国語)委員。開南大学副教授。専門は談話分析、日本語教育、中国語教育など。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】催事紹介 SGRAが後援するシンポジウム「近現代日中関係への多角的な視点」をご紹介します。参加申込・お問合せは直接主催者へ連絡してください。 テーマ:「近現代日中関係への多角的な視点」 日時:2022年10月22日(土)13:00~18:10 場所:早稲田大学早稲田本部キャンパス14号館102教室 (基本は対面形式、個別的にzoom 使用) 主催:(一社)東北亜未来構想研究所(INAF)/早稲田大学東アジア国際関係研究所 開催の趣旨:今年(2022年)9月は日中国交正常化50周年、日本と中華民国の国交断絶・非政府間実務関係への転換50年目という重要な節目の年である。ところで、日中関係の変遷を50年から、近現代110年(1912年中華民国成立)のタイムスパンに拡大し、歴史的な視点で再検証することが必要不可欠であろう。それを通じて日中関係の過去・現在を再認識し、未来志向の関係構築に向けて叡智を模索することが、本国際シンポジウムの趣旨である。 ◇基調講演 1)劉傑(早稲田大学教授) テーマ:日中関係の50年、世界に貢献したもの 2)花田麿公(NAF顧問・元日本駐モンゴル国大使、元日本駐中国瀋陽領事館領事) テーマ:北東アジアの展望で日中関係を考える―香港、瀋陽に勤務して― ◇第1セッション:近現代の中国のトップ・リーダーの対日認識と日中関係 司会:羽場久美子(INAF副理事長、神奈川大学教授) 【第1報告】陳柏宇(INAF理事・新潟県立大学) テーマ:孫文時代から蔡英文時代までの変遷 【第2報告】李鋼哲(INAF所長・北陸大学) テーマ:毛沢東時代から習近平時代までの変遷 討論者:佐渡友哲(INAF理事)/劉傑 ◇第2セッション:若手研究者セッション 司会:川口智彦(INAF理事・日本大学) 【第1報告】王培路(早稲田大学大学院博士後期課程) テーマ:天安門事件後日本の対中経済協力再開をめぐって 討論者:李鋼哲 【第2報告】金明花(INAF理事・神奈川大学) テーマ:実証分析から見る日本の外国人技能実習 討論者:佐渡友哲 【第3報告】松本理可子(INAF理事・早稲田大学現代中国研究所) テーマ:文化的再生産の萌芽―清朝後期の同仁堂にみる企業フィランソロピ― 討論者:朱永浩(INAF理事・福島大学) 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://inaf.or.jp/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」へのお誘い(再送) 第18回SGRAカフェをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。参加者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 日 時:2022年10月29日(土)11:00~12:30 方 法:Zoomウェビナーによる 言 語:日本語・韓国語(同時通訳付き) 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:下記よりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6qU0i7c1Q0mwQ5NfglX-0w お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 【フォーラムの趣旨】 1916年に平壌に生まれた金秉騏(キム・ビョンギ)は1930年代に学生として東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年にアメリカに渡りました。晩年は韓国に戻り、今年2022年3月1日に105歳で亡くなるまで具象と抽象をさまよう魅力的な絵を描き続けました。韓国では、オーラルヒストリー・インタビューを多く受けて、韓国美術史における時代の重要な証人と見なされています。 金秉騏の長いキャリアを通してアートの世界的な動きをさかのぼることができる一方、どの国の美術史にも簡単には収まりきらない様々な活動の軌跡を見ることができます。この企画では金画伯の韓国・日本・アメリカ美術史における立ち位置を示し、それらの美術史上の接点、空白、そして限界について語り合い議論していきます。 【プログラム】 ◇問題提起:金秉騏の人生と画業 コウオジェイ・マグダレナ(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師) 2016年10月に東京で開かれていた小さな個展で初めて金秉騏画伯と出会った。それ以来、2019年12月まで数回にわたりオーラルヒストリー・インタビューを行った。本発表では、前半に最初の出会いを振り返り、その後の調査と先行研究に基づき、朝鮮半島・日本・アメリカで活躍した画伯の人生と芸術を紹介する。後半では、私たちのアイデンティティと深く結びついている「国史としての美術史」の特徴と、一方で、国家の枠組みで近現代美術史を語る困難について考察する。韓日米それぞれの美術史における画伯の立場についての私の分析をスタートとし、討論者に問いを投げかける。本カフェが従来の美術研究の偏りや見落としていたことに目を向け、研究者の対話の場となることを期待する。 ◇討論:韓国の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる韓国美術史の特徴 朴慧聖(韓国国立現代美術館学芸員) ◇討論:日本の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる日本美術史の特徴 五十殿利治(筑波大学名誉教授) ◇討論:米国の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる米国美術史の特徴 山村みどり(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授) ◇司会 ヤン・ユー グロリア(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師) プログラムの詳細は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-VCafe18Program.pdf ポスター(日本語版)は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-Cafe18Poster.jpg 韓国語ウェブサイトは下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/09/08/sgra_cafe_18/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Olga Khomenko “War and Smartphones”

    ********************************************* SGRAかわらばん939号(2022年10月7日) 【1】エッセイ:オリガ・ホメンコ「戦争とスマホ」 【2】SGRAカフェへのお誘い(10月29日、オンライン)再送 「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#717 ◆オリガ・ホメンコ「戦争とスマホ」 コロナが始まってからの2年間はスマートフォン(スマホ)やパソコンを使う時間が増えた。ウクライナの子供や学生たちもオンライン授業になって画面と付き合う時間が急増した。何人かの教え子が修士課程のオンライン授業に飽き、その上に経済状況が悪化してお金を稼がないといけない厳しい現実に直面して、博士課程に進学するのをやめた。とても残念に思った。漢字文化圏に比べてウクライナの人々は視力が良いのだが、コロナの間に大人も子供も目を悪くして眼鏡をかける人が増えた。 戦争が始まったらスマホの画面と付き合う時間がさらに倍くらい増えた。子供、大人、老人も毎朝起きてベッドからまだ起き上がらない状態で恐る恐るニュースをチェックする。親戚や友達とメッセージ交換し、キーウの私のマンションや駐車場のチャットグループを確認して、やっとそれから顔を洗う。ベッドに入る時も同じことをする。日中には何度も同じことをする。 この7ヶ月の間にいろいろな国で出会ったさまざまな職業のウクライナ人から同じ話を聞いた。スマホでニュースを見ないと落ち着かない。見なかったら何か大事なものを見逃すかもしれない。自分の国、首都のキーウが存在しているか、ミサイルで破壊されてないか。ニュースを確認するのが大事な仕事になった。とにかくスマホと付き合う時間が増えすぎた。ニュースを読んでも何かできるわけでもないのだが、読まないと落ち着かない。よく分かる。自分は何の影響を与えることもできないが、ニュースを読むくらいは毎日できる。 それは時間の無駄使いかもしれない。ストレスになるばかりだ。何もできない時間でもある。受身的に怖い情報を受けるだけだ。コロナ以前、友達は子供がネットを使う時間を1日30分に制限した。その代わりに一緒にテーブルゲームし、絵を書かせて、そして数学の勉強に力を入れた。コンテンツを消費する人ではなく、将来的にはコンテンツを作る人として育てたいからだ。 しかし、スマホを止めるのは難しい。固定電話の昔とは違って電話番号も覚えていない。全てが入っている。家族や友達の連絡先、銀行、郵便局、地図、万歩計、天気、そして読書、言葉を学ぶアプリ、ガソリンスタンドの会員カード、さらには世界と付き合うInstagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)、Zoom(ズーム)、Facebook(フェイスブック)、タクシーや買い物のアプリも入っている。ウクライナではコロナになって2年前から全ての大事な書類、つまりパスポート、免許、保険やワクチンパスポートなどがデジタル化してスマホのアプリひとつになったので、まさに命そのものだ。避難した人にとっても非常に重要だった。個人情報を盗まれるのではないかとデジタル化を嫌がった人もいたが、戦争になってからありがたみを感じるようになったようだ。国を出る時に必要な書類がなくても、アプリ1つあれば全部確認できる。デジタル化は他の分野でも進んだ。役所に並ばずに、ネットやアプリで結婚や離婚、また出産届も出せるようになったので便利だ。 そして、デジタル化が進んで、高齢者もどうしてもこの流れに乗らないといけなくなった。先ずはワクチン。注射を受けるためにネットで予約しなければならないが、あの頃は若い人が手伝ってくれた。だが戦争が始まってから年寄りでもスマホを使いこなすようになった。 年齢におかまいなくデジタル化が進んだ。それまでは機械やITが苦手でスマホの電話機能しか使わなかった70歳とか80歳のおばあちゃんが、戦争が始まってからたった1ヶ月で、避難先の外国でウクライナのニュースを見るためにスマホでYouTubeを使えるようになった。国営テレビはニュースをテレビやネットで24時間流している。元気な顔を家族に写メールで送れるようになった。以前はテレビのリモコンさえ使いたくなかったのに、信じられない発展である。母親から初めて写メールが届いた時、一瞬スマホを盗まれたのではないかと思った。電話して本人が送ったと分かって安心した。必要性に応じて、あるいは命に危険を感じたら物事を早く学べると分かった。 周りに若い人がいるとさらに早く学べる。戦争になってから子供や孫のおかげでTikTok(ティックトック)やインスタグラムのような新しいメディアを使い始めた高齢者が増えた。メラニアさんという84歳の有名なおばあちゃんはその一人だ。孫がおばあちゃんのためにアカウントを作成し、毎日情報発信するのを手伝っている。そのおかげでウクライナ全土で愛されるおばあちゃんになった。メラニアさんは生まれた時からずっとポーランド国境近くの村に住んでいる。子供の時に戦争を経験したが、まさかもう一度戦争が来ると思わなかった。歳をとって何もできないから、軍人に大量の手作り水餃子を作り、毎日ソーシャルメディアでメッセージを発信するようになった。家事、庭仕事、日常生活を紹介している。おばあちゃんがいない、あるいは優しいおばあちゃんを知らない30代、40代、さらには50代もフォローして、愛される存在になった。今ティクトックで70万人のフォロワーがいる。 今の時代ソーシャルメディアのおかげで良い意味でも悪い意味でもグローバル化され、情報を隠すことができなくなっている。インターネットさえあれば情報を発信することができる。しかも、Facebook(フェイスブック)やインスタグラムと違ってティックトックはすぐに大勢の人の手元にメッセージを届けることができる。空襲警報で地下室に入っている人たち、軍隊にいる人たち、避難している人たち、また遠い外国にいる人たちが一つの見えない糸でつながっている。 戦争になってソーシャルメディアにも新しいトレンドも現れた。今まではほとんど発信しなかった軍人が政治家並みに活躍している。イーロン・マスク氏の「スターリンク」のおかげで東部で戦っているウクライナ軍人もずっとネットが使えて家族ともつながっている。普通の投稿だけではなく、ウクライナの歌が全世界の人々と歌うために流される。歌ったり踊ったりして敵をからかう人も少なくない。そして面白い情報だけではなく危険を避けるための重要な情報も、投稿されるおかげで隠せないものになる。3月にザポリージャ原発が襲われた時、一人の市民ストリーマーがその映像を世界に流したので注目された。 戦争になってから一般住民がチャットグループで情報交換するようになった。私のキーウのマンションもそうで、チャットで毎日情報が来るようになった。2月末、高層マンションは空爆のため敵にマークされていたので、マンションの住人は屋上へ出る扉に鍵をかけ、1時間ごとに当番で確認していた。屋上の入口に小麦をまいて、誰かが歩いたらすぐ分かるようにした。サスペンス小説で学んだのかなと思った。また窓に緑か青のライトをつけていると空爆を呼び込むという情報が流れた時、建物の窓を全部チェックし、そのような光が出ている家が無いかを確認した。たまには間違うこともある。停電になった時に子供部屋のナイトライトが勝手について大騒ぎしたこともあった。まあ、結果良ければ全て良しですが。 でもそうではなかった時もあった。5月のある日、突然チャットに「マンションの9階あたりで女の叫び声が聞こえる」というメッセージが入ってきた。200家族が住んでいたマンションには5家族しか残ってないので、どうしたのかなと皆気になってとりあえず警察を呼んだ。お巡りさんはちゃんと来たが、叫び声は聞こえてないから帰った。2時間後、チャットグループに叫んだ本人からの連絡があった。「騒がせてごめんなさい。先ほどマリウポリにいる家族が皆死んだという連絡が来たので気持ちを抑えられなかった。。。それを読むだけでドキッとした。どう返事すれば良いかわからなくて戸惑った。だが、とにかく、この7か月間は新聞やテレビよりソーシャルメディア、スマホのチャンネルからもらう情報の方が早かった。 戦争が始まってから何人かのウクライナの有名なジャーナリストがテレグラムチャンネルを作り、新聞より早いいろんな情報が流されるようになった。だがそれ以外に毎日見るのが同級生のチャット(皆元気かな?)、それから家と駐車場のチャット(大丈夫かな)か。それを確認するだけで結構時間とられて忙しい毎日。 もう一つ昔のことを思い出した。子供の頃にキーウに田舎から親戚のおばちゃんが来る時、都会の親戚の住所を書いたメモを必ずポケットに入れていた。万が一大都会で迷子になった場合はきちんとその住所に届けてもらうために。あの頃、第二次世界大戦で両親と離れ離れになった子供がいると聞いたが、まさかその時代がもう一回来ると思わなかった。2月に戦争が始まってからニュースで両親の携帯電話番号を背中に赤いペンで書かれて避難先に送られた子供の映像を見た時にそれを思い出した。 しかしスマホは「救うもの」から「裏切るもの」に簡単に変わる可能性もあることが、今回の戦争でよく分かりました。記録されている情報や写真を見たら、その人の過去と現在が全部分かってしまうからだ。占領地域にいる人々がウクライナに帰る時に色々確認されたようだ。電話しかできない機種を持っていた人が割とスムーズに帰れて、スマホだと保存されている情報や特にウクライナの旗、民族衣装、軍人と撮った写真があると危険な目にあったという話も少なくない。また、移動中には電話しかできない機種の方がバッテリーが長持ちしたという話もある。電源オンのスマホは電波を流しているので、簡単に居場所が知られてしまうので危ないという話も聞いた。 平和の時と戦争の時とではスマホの使い方が違っているので、それまではチャットに投稿しても普通と思われた情報が危ないものになる可能性がある。例えば、ツイッターやインスタグラムに写真を載せるとその写真のファイルに位置情報がついているので簡単に場所確認できるため、非常に危険にさらす情報になる。いざとなったらスマホが友達から敵に化けないよう、最近ウクライナのメディアは一般市民に戦争中のスマホの知識を学ばせている。 <オリガ・ホメンコ Olga Khomenko> キーウ・モヒーラビジネススクールジャパン・プログラムディレクター、助教授。キーウ生まれ。キーウ国立大学文学部卒業。東京大学大学院の地域文化研究科で博士号取得。2004年度渥美奨学生。歴史研究者・作家・コーディネーターやコンサルタントとして活動中。藤井悦子と共訳『現代ウクライナ短編集』(2005)、単著『ウクライナから愛をこめて』(2014)、『国境を超えたウクライナ人』(2022)を群像社から刊行。 ※ウクライナ首都の日本語の表記は、オリガさんによれば「クィーブ」が一番相応しいということですが、ご了解いただいて本エッセイでは「キーウ」を使います。 ※留学生の活動を知っていただくためSGRAエッセイは通常、転載自由としていますが、オリガさんは日本で文筆活動を目指しておりますので、今回は転載をご遠慮ください。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」へのお誘い(再送) 第18回SGRAカフェをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。参加者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 日 時: 2022年10月29日(土)11:00~12:30 方 法: Zoomウェビナー による 言 語: 日本語・韓国語(同時通訳付き) 主 催: (公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込: 下記よりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6qU0i7c1Q0mwQ5NfglX-0w お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 【フォーラムの趣旨】 1916年に平壌に生まれた金秉騏(キム・ビョンギ)は1930年代に学生として東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年にアメリカに渡りました。晩年は韓国に戻り、今年2022年3月1日に105歳で亡くなるまで具象と抽象をさまよう魅力的な絵を描き続けました。韓国では、オーラルヒストリー・インタビューを多く受けて、韓国美術史における時代の重要な証人と見なされています。 金秉騏の長いキャリアを通してアートの世界的な動きをさかのぼることができる一方、どの国の美術史にも簡単には収まりきらない様々な活動の軌跡を見ることができます。この企画では金画伯の韓国・日本・アメリカ美術史における立ち位置を示し、それらの美術史上の接点、空白、そして限界について語り合い議論していきます。 【プログラム】 ◇問題提起:金秉騏の人生と画業 コウオジェイ・マグダレナ(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師) 2016年10月に東京で開かれていた小さな個展で初めて金秉騏画伯と出会った。それ以来、2019年12月まで数回にわたりオーラルヒストリー・インタビューを行った。本発表では、前半に最初の出会いを振り返り、その後の調査と先行研究に基づき、朝鮮半島・日本・アメリカで活躍した画伯の人生と芸術を紹介する。後半では、私たちのアイデンティティと深く結びついている「国史としての美術史」の特徴と、一方で、国家の枠組みで近現代美術史を語る困難について考察する。韓日米それぞれの美術史における画伯の立場についての私の分析をスタートとし、討論者に問いを投げかける。本カフェが従来の美術研究の偏りや見落としていたことに目を向け、研究者の対話の場となることを期待する。 ◇討論:韓国の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる韓国美術史の特徴 朴慧聖(韓国国立現代美術館学芸員) ◇討論:日本の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる日本美術史の特徴 五十殿利治(筑波大学名誉教授) ◇討論:米国の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる米国美術史の特徴 山村みどり(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授) ◇司会 ヤン・ユー グロリア(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師) プログラムの詳細は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-VCafe18Program.pdf ポスター(日本語版)は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-Cafe18Poster.jpg 韓国語ウェブサイトは下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/09/08/sgra_cafe_18/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Invitation to SGRA Cafe #18 “Painter Kim Byung-Ki: Connecting the Art History of Korea, Japan, and the U.S.A.”

    ********************************************* SGRAかわらばん938号(2022年9月29日) ********************************************* ◆第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」へのお誘い 第18回SGRAカフェをオンラインにて開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。参加者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」 日 時: 2022年10月29日(土)11:00~12:30 方 法: Zoomウェビナー による 言 語: 日本語・韓国語(同時通訳付き) 主 催: (公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込: 下記よりお申し込みください https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_6qU0i7c1Q0mwQ5NfglX-0w お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) 【フォーラムの趣旨】 1916年に平壌に生まれた金秉騏(キム・ビョンギ)は1930年代に学生として東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年にアメリカに渡りました。晩年は韓国に戻り、今年2022年3月1日に105歳で亡くなるまで具象と抽象をさまよう魅力的な絵を描き続けました。韓国では、オーラルヒストリー・インタビューを多く受けて、韓国美術史における時代の重要な証人と見なされています。 金秉騏の長いキャリアを通してアートの世界的な動きをさかのぼることができる一方、どの国の美術史にも簡単には収まりきらない様々な活動の軌跡を見ることができます。この企画では金画伯の韓国・日本・アメリカ美術史における立ち位置を示し、それらの美術史上の接点、空白、そして限界について語り合い議論していきます。 【プログラム】 ◇問題提起:金秉騏の人生と画業 コウオジェイ・マグダレナ(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師) 2016年10月に東京で開かれていた小さな個展で初めて金秉騏画伯と出会った。それ以来、2019年12月まで数回にわたりオーラルヒストリー・インタビューを行った。本発表では、前半に最初の出会いを振り返り、その後の調査と先行研究に基づき、朝鮮半島・日本・アメリカで活躍した画伯の人生と芸術を紹介する。後半では、私たちのアイデンティティと深く結びついている「国史としての美術史」の特徴と、一方で、国家の枠組みで近現代美術史を語る困難について考察する。韓日米それぞれの美術史における画伯の立場についての私の分析をスタートとし、討論者に問いを投げかける。本カフェが従来の美術研究の偏りや見落としていたことに目を向け、研究者の対話の場となることを期待する。 ◇討論:韓国の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる韓国美術史の特徴 朴慧聖(韓国国立現代美術館学芸員) ◇討論:日本の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる日本美術史の特徴 五十殿利治(筑波大学名誉教授) ◇討論:米国の美術史における金画伯の立場とそこから見えてくる米国美術史の特徴 山村みどり(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授) ◇司会 ヤン・ユー グロリア(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師) プログラムの詳細は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-VCafe18Program.pdf ポスター(日本語版)は下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/J_SGRA-Cafe18Poster.jpg 韓国語ウェブサイトは下記よりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/korean/2022/09/08/sgra_cafe_18/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • The 6th Asia Future Conference “Building a Future Asia—Solving Problems, Together” Report

    ********************************************* SGRAかわらばん937号(2022年9月22日) ********************************************* ◆第6回アジア未来会議「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」報告 第6回アジア未来会議は2022年8月27日(土)~29日(月)にハイブリッド形式で実現しました。本来は2021年8月に台北市で開催する予定でしたが、新型コロナウイルスの世界的な流行により1年延期し、その代わりに同年8月26日に1日限りの「プレカンファランス」をオンラインで開催しました。それから1年。東アジアではまだパンデミックの収束の目途が立たない状況ですが、台湾の中国文化大学をメイン会場とし、海外からはオンラインで参加というハイブリッド形式で、多くの人が参加できる会議を実施することができました。 総合テーマは「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」です。2020年1月のマニラ会議の閉会式で、共催の中国文化大学の徐興慶学長(当時)が台湾での開催を宣言。同年2月には渥美財団の担当チームが訪台して会場や宿泊施設、宴会場を視察し、中国文化大学で最初の準備会議を開催しました。当時もほとんどの人がマスクを着用していましたが、その後台湾と日本の往来が全くできなくなり、しかも2年半以上も続くとは誰も予想できませんでした。 今回のアジア未来会議は全員が一堂に集まることはできませんでしたが、最新のオンライン会議技術を駆使して3日間にわたって実施され、基調講演とシンポジウム、3つの円卓会議と179篇の研究論文発表を行い、広範な領域における課題に取り組む国際的かつ学際的な議論が繰り広げられました。今、アジアや世界は大きく変化しています。このような時だからこそ「みんなの問題、みんなで解決」の必要性が強調されました。 8月27日(土)は台北市の中国文化大学の会場とハイブリッド形式で実施。午前は12の分科会で英語、日本語、または中国語による45篇の論文発表が行われました。分科会はZoom会議のブレイクアウトルーム機能を使い、会場の座長や発表者もオンライン会議に参加しました。午後2時(台湾時間)、中国文化大学と東京の渥美国際交流財団をつないで開会式が始まりました。会場参加者は220名、Zoomウェビナーへの参加者は324名でした。最初に明石康大会会長が第6回アジア未来会議の開会を宣言しました。続いて渥美国際交流財団の渥美直紀理事長が主催者として、中国文化大学の王淑音学長が共催者としてあいさつし、日本台湾交流協会台北事務所の泉裕泰代表と中国文化大学傑出校友会の黄良華会長から祝辞をいただきました。 次は、前中華民国副総統の陳建仁博士による基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存かゼロコロナか?」(中英・中日同時通訳)でした。感染症対策の第一人者だけにパワフルなお話で「台湾の100万人当たりの累計感染者は世界最少で、同死亡者もニュージーランドに次ぎ2番目に少なく、2020年のGDP成長率3%超を維持できたという『成功の主役』は台湾の人々である」と強調しました。 シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」(中英・中日・英日同時通訳)では、中国文化大学の徐興慶先生がモデレーターを務め、国立台湾大学の孫效智先生、ソウル大学の金湘培先生、台北市立聯合病院の黄勝堅前総院長、日本の国立国際医療研究センターの大曲貴夫先生、中国文化大学の陳維斌先生が会場やオンラインで登壇され、それぞれ哲学、国際政治学、医学、公衆衛生学、国際交流の視点から分析し、国際的な協力によっていかにパンデミックを「みんなの問題、みんなで解決」していくか検討しました。 8月28日(日)と29日(月)には、円卓会議と分科会(研究論文発表)を行いました。円卓会議I「あなたは大丈夫―アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマ、疲労」と円卓会議II「コミュニティとグローバル資本主義―世界は広いようで狭い」(いずれも英語)では、パンデミックだけでなく、自然災害や戦争によって現れたコミュニティのさまざまな課題、さらにはそれが人々の精神、感情に与えた影響についてアジア各国から報告があり、いかに対応していくかを議論しました。また、一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)主催の「台湾と東北アジア諸国との関係」セッション(日本語)では、東北アジア地域協力の視点から台湾に照準を合わせて、各国との国際政治・経済・文化などの関係について多面的に検討しました。 円卓会議と併行して34の分科会(参加登録者308名)を開催し、英語と日本語の134篇の論文の口頭発表が行われました。世界各地から2名の座長と4名の発表者がZoomのブレイクアウトルームにオンラインで参加し、研究報告と聴講者を交えた活発な議論が展開されました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを目指しており、各セッションは使用言語と発表者が投稿時に選んだ「環境」「教育」「言語」などのトピックに基づいて調整されました。 第6回アジア未来会議のプログラムは下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/conference-program/ 分科会ではセッションごとに座長の推薦により優秀発表が選ばれました。優秀発表賞の受賞者リストは下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/08/AFC6-List-of-Best-Presentation.pdf 会議に先立って学術委員会が優秀論文を選考しました。1年間の開催延期があったため、3年間の間に優秀論文の選考を2回実施しました。1回目の選考についてはプレカンファランス報告をご覧ください。2回目の選考は2021年8月31日までに発表要旨、2022年3月31日までにフルペーパーがオンライン投稿された133篇の論文を12のグループに分け、各グループを6名の審査員が以下の7つの指針に沿って審査しました。 (1)会議テーマ「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」との関連性、(2)構成と読みやすさ、(3)まとまりと説得力、(4)オリジナリティ、(5)国際性、(6)学際性、(7)総合的なおすすめ度。投稿規定に反するものはマイナス点をつけました。各審査員はグループの中の9~10本の論文から2本を推薦し、集計の結果、上位18本を優秀論文と決定しました。第6回アジア未来会議優秀論文リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2021/06/AFC6B-Best-Paper.pdf 優秀論文集『アジアの未来へ-私の提案-Vol.6B』は2023年3月に出版予定です。 また、台湾実行委員会による台湾特別優秀論文も同じプロセスで選考されました。台湾特別優秀論文リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2021/06/AFC6B-Taiwan-Best-Paper.pdf 分科会セッションの後の閉会式もオンラインで実施されました。本会議の短い報告のあと、優秀発表賞が発表されました。最後に次回2024年に開催される第7回アジア未来会議のお誘いが開催地のバンコク市から呼びかけられました。 コロナ禍の第6回アジア未来会議の開催経緯については、プレカンファランス報告もご参照ください。 https://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/2021/16942/ 第6回アジア未来会議「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」は、(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)主催、中国文化大学の共催、(公財)日本台湾交流協会の後援、国家科学及び技術委員会と(公財)高橋産業経済研究財団の助成、台湾大学日本研究センターと台中科技大学日本研究センターの協力、そして日本と台湾の組織や個人の方々からご協賛をいただきました。 主催・協力・賛助者リストは下記リンクからご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/ 運営にあたっては、中国文化大学を中心に台湾実行委員会が組織され、基調講演とシンポジウムを企画実施してくださいました。また台湾特別優秀論文賞を設けて台湾在住の研究者を特別支援しました。アジア未来会議全般の運営は、元渥美奨学生の皆さんが、優秀賞の選考、セッションの座長、技術サポート、翻訳や通訳等、さまざまな業務を担当してくださいました。とりわけ、台湾出身の方々は台湾実行委員会メンバーとして諸調整や翻訳等をお手伝いくださいました。 論文を投稿・発表してくださった200名のみなさん、会場またはオンラインでお集りくださった基調講演・シンポジウム500名、分科会300名の参加者のみなさん、開催のためにご支援くださったみなさん、さまざまな面でボランティアで協力してくださったみなさんのおかげで、第6回アジア未来会議を成功裡に実施することができましたことを心より感謝申し上げます。 第7回アジア未来会議は、2024年8月9日(金)から13日(火)まで、チュラロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座の共催で、タイ王国バンコク市で開催します。皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。 第6回アジア未来会議の写真(ハイライト)は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2022/17736/nggallery/page/2 第6回アジア未来会議全般のフィードバック集計は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/09/AFC6-Feedback-Report_220920_2.pdf 第6回アジア未来会議基調講演とシンポジウムのフィードバック集計は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/files/2022/08/AFC6BFeedback.pdf 第7回アジア未来会議論文募集のチラシ https://www.aisf.or.jp/AFC/2021/afc7-call-for-papers/ <今西淳子(いまにし・じゅんこ)Junko_Imanishi> 学習院大学文学部卒。コロンビア大学人文科学大学院修士。1994年の設立時より(公財)渥美国際交流財団に常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく国際的かつ学際的研究者ネットワークの構築を目指し、2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立。2013年より隔年でアジア未来会議を開催し実行委員長を務める。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • KIM Kyongtae “Kokushi Dialogue#7 Report―Popular History and Historiography in East Asia”

    ********************************************* SGRAかわらばん936号(2022年9月15日) 【1】金キョンテ「第7回国史たちの対話『歴史大衆化と東アジアの歴史学』報告」 【2】寄贈本紹介:劉傑・中村元哉『超大国・中国のゆくえ1:文明観と歴史認識』 ********************************************* 【1】催事報告 ◆金キョンテ「第7回国史たちの対話『歴史大衆化と東アジアの歴史学』報告」 (原文は韓国語、翻訳:尹在彦) 「第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話」は、2022年8月6日にオンラインで開催された。テーマは「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」だった。歴史大衆化と「パブリック・ヒストリー」は国籍や専攻分野を飛び越えて対話のできるテーマであり、実際に時間が不足するほど熱を帯びた議論が交わされた。 第1セッションは李恩民先生(桜美林大学)の司会で進められた。彭浩先生(大阪公立大学)による開催の趣旨に続き、韓成敏先生(高麗大学)の問題提起があった。2019年にフィリピンで開かれた「第4回国史たちの対話」以来、情熱的に参加し鋭いご意見を頂いている韓先生の問題提起は時宜を得たものだった。その題目は「『歴史の大衆化』について話しましょう」。韓先生は普段から同僚の学者たちと共に同テーマについて深く考えており、今回の問題提起はそういった議論をまとめたものでもあった。 韓国の事例を歴史学の危機と歴史学者の危機、そして現実的問題(歴史学科の存続と卒業生の就職)といった三つの部分に分けて紹介した。要するに、時代の変化に応じて歴史学も変わり対応すべきということだった。歴史学者による歴史への独占の時代が終わったことを認め、変化しなければならないということだ。 韓先生はその対応策の一つとして「パブリック・ヒストリー」を紹介した。この概念や手法はまだ日中韓の3カ国で理論として定着しているわけではないが、その取り組みは早ければ早いほど良いという。「歴史学が自らの存在意義を証明すべき時期」という提言も同時になされた。 これに対し、指定討論者の日中韓の研究者である中国の鄭潔西先生(温州大学)、日本の村和明先生(東京大学)、韓国の沈哲基先生(延世大学)たちは、慎重ながらも積極的に意見を提示した。各者から似てはいるが、それぞれ異なる考えを示していただいた点は興味深かった。国ごとに、例えば歴史家が譲ってはいけないことなどの「歴史学界の権威」や、これからの役割などについてある程度違いも見られた。特に中国の場合、大衆の歴史議論への参加が活発で、これを肯定的に捉える観点があるように思った。にもかかわらず、ニューメディアと共に非専門的な歴史家たちが大衆の求めるところに便乗する場面と、歴史学が職業として安定性を失っている現状(就職の困難さ)は共通しているようだった。これは世界的な問題なのか。「パブリック・ヒストリー」というオルタナティブを認め、そのためのスペースが用意されるべきという意見もあった。また、3カ国で共通して「パブリック・ヒストリー」の範囲を定め、概念を定義する必要性も呼びかけられた。 第2セッションは南基正先生(ソウル大学)の司会。まず劉傑先生(早稲田大学)の論点整理があった。歴史が政治と関わって、道具になってしまう場合に注意しなければならない点、一般の歴史家が克服すべき問題、歴史家が対応しきれていない問題について触れられた。 自由討論では次のような議論があった。歴史的経験から始まる活発な「大衆の歴史」の様子、メディアと急激に変化する世界という現状を指摘した毛立坤先生(南開大学)。国家が管理してきた歴史に対する挑戦は常にあったから、歴史の大衆化は必然的と指摘、人々皆が自ら歴史家になりたいというのがパブリック・ヒストリーの核心であり、むしろ、機会であり多様性を認め包容力を持つ態度が重要である。しかし、もちろん、度が過ぎた商業化、政治的介入、歴史修正主義などの「耐えられないこと」は拒否すべきであるという金ホ先生(ソウル大学)。また、塩出浩之先生(京都大学)や佐藤雄基先生(立教大学)は、前向きに大衆の歴史を受け止め、機会と捉えるべきで、大衆の歴史の効果性もあると指摘した。 比較的楽観的もしくは歴史学者の積極的な変化を促すこうした見解以外にも様々な意見があった。平山昇先生(神奈川大学)は、この現象が近代日本において歴史的に存在していた事実を思い出すべきということを強調した。村先生は危機と機会の両立には賛成だが、歴史専門家が専門家以外の人々と話を進められるかについては懐疑的な見解を示した。いわゆる疑似歴史学の最も大きな危険性は社会を分断させることで、例えば、「敵を作り出すこと」という指摘は重要だ。二つの食い違った議論ではなく、実際には歴史学者として似たような悩みを抱えつつ、やや違うオルタナティブを考えているように感じた。歴史大衆化は歴史学者の皆が考え抜く問題であり、はねのけて勝利するような種類の問題ではないと考える。 第3セッションは再び李恩民先生の司会で、三谷博先生(東京大学名誉教授)の総括及び趙珖先生(高麗大学名誉教授)の閉会挨拶で幕を閉じた。両先生ともに「若き」研究者たちの悩みに理解を示し、ねぎらいの言葉も頂いた。 今回の「対話」は肩の荷を少し下ろして、自由に話をしようというのがねらいの一つだっただろう。しかし、対話をしてみたら、同じ悩みを抱えている研究者らの話を伺って、嬉しい気持ちになる一方で、重荷を担わされた気がした。これからの歴史学者の役割はどうなるか。今回の対話で我々は「大衆」という用語を用いたが、大衆もひとくくりにして捉えてはいけないだろう。大衆の中には善悪が明確に分けられた感動的な歴史物語が好きな人、特定分野に関して専門の研究者よりマニアックな興味関心を持っている人、暗記中心の歴史教育により興味を失った人もいるだろう。もしくは自分が知っていた歴史は全て偽物だと、いわゆる歴史修正主義に傾く人もいるかもしれない。一人の歴史研究者が全ての大衆を満足させることはできないだろうが、このように多様な大衆の前で歴史専門家として果たすべき役割は確かにあると思う。 筆者は大衆向けの講演と学術会議の中間に位置付けられるような催し・イベントにたまに足を運ぶ。しかし、そうした催しが、面白くなく、感動的でもないという話を聞くことがある。歴史ドラマのような感動的な講演を求めていた方々だったのだ。最初は納得できないところもあったが、今はそうは思わないようにしている。時にそれらの方々の興味に合わせ面白い話をいくつか用意することもある。 最近は一つの職業にも多様な役割が求められているように感じる。これからは歴史研究者も良い学術論文を書く基本的な任務以外に、大衆が少なくとも間違った歴史に引き込まれないように方向を案内する役割を担わなければならないと思う。もちろん大衆が受け入れられる言語と形式で。面白くても間違った話であればそれを直すべきだろうし、歴史マニアが看過しがちな歴史的な洞察力を提示すべきだ。大衆向けの書籍や外国の良い書籍を翻訳する作業、多様なメディアを用い、正確な歴史を教えること等が具体的な方法になるだろう。そういった仕事を学者の役割ではないとして無視してはならないし、ひるんでもならないと思う。現代社会で大衆とのつながりは歴史研究者の義務だと思う。できること、すべきことは、しなければならない。化石のような学問に満足すると、そのような役割しか担うことができないだろう。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/Kokushi7_photos.pdf アンケート集計結果は下記リンクよりご覧いただけます。 https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/09/Kokushi7_feedback.pdf ■ 金キョンテ(キム・キョンテ)KIM_Kyongtae 韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)、虚勢と妥協-壬辰倭乱をめぐる三国の協商-(東北亜歴史財団、2019) -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で早稲田大学教授の劉傑先生から共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆劉傑・中村元哉『超大国・中国のゆくえ1:文明観と歴史認識』 中国はどのようにして東西の文明を理解し、また自らの歴史を総括して政権の正統性を確保しながら、世界との関係を切り結んできたのか。経済成長に自信を深め攻勢を強める中国の現在地とゆくえを文明観と歴史認識から読み解く。シリーズ全5巻完結! 発行所:東京大学出版会 ISBN:978-4-13-034291-9 発売日:2022年08月12日 判型:四六 ページ数:244頁 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.utp.or.jp/book/b607306.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • XIE Zhihai “Thinking about War and Peace from Guernica”

    ********************************************* SGRAかわらばん935号(2022年9月8日) 【1】エッセイ:謝志海「ゲルニカから戦争と平和を考える」 【2】寄贈本紹介:『古代哲学入門―分析的アプローチから』 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#716 ◆謝志海「ゲルニカから戦争と平和を考える」 小中高生は夏休みも終わり、ランドセルや制服姿の児童や生徒を再びたくさん見かけるようになった。毎年8月になると日本では8月6日、9日の広島と長崎に投下された原爆を思い出し、8月15日に終戦記念日を迎え、平和の尊さをかみしめる。しかし「第2次世界大戦の終結から77年たつ今も、地球上で戦争が起きているとは信じがたい」と誰もが思う8月だったのではないだろうか。 旅行も遠出もないまま8月を終えた我が家だったが、心に残る夏休みを過ごせたと思えるのは子どもたちと戦争と平和について話す機会を持てたことだ。現在住んでいる市にある群馬県立近代美術館ではパーマネントコレクションである、ピカソの有名な絵「ゲルニカ」のタピスリ(タペストリー)が展示された。妻が子どもたちに見せたいというので私はついていった。ちょうどその日は美術館スタッフがタピスリの前で「ゲルニカ(タピスリ)を見ながらお話をしよう」という企画をしていた。ほぼ原寸大で圧巻のタピスリを前に、美術館スタッフは子どもに「戦争」や「戦い」という言葉を伏せて、ゲルニカの見どころを丁寧に教えてくれた。子どもからはゲルニカを見ても「戦い」という言葉は引き出せず、むしろ「なんで人や動物がこんな風に描かれているの?」という感じだったが、それでも子供たちは「これはピカソという画家が描いた戦いへの怒りなんだ」ということをインプットされた。 美術館スタッフは大人の参加者には、このゲルニカのタピスリは世界に3枚しかないこと、うち1枚はニューヨークの国連本部にあること、このタピスリ制作にあたりピカソ自身も使用する糸や色などの監修に加わったことを教えてくれた。また1学期には美術館近くの小学校に出張授業に行き、生徒たちとゲルニカをしっかり観察し、何を感じたかなど話し合ったということだった。 数日後、家でまたゲルニカが話題になった時、小学生の息子が、「せんそうしない」という、字がすごく少ない絵本について小学校の先生が話をしてくれたと言った。調べてみると、それは谷川俊太郎さんの本だった。彼については紹介するまでもないが、以前テレビのインタビューか何かで、第2次世界大戦の東京大空襲の頃、中学生だったと話しておられたことを思い出した。 こうして絵や絵本を用いて戦争を語り継ぐことで、戦争の歴史を胸に刻み平和へつないでいこうとするのは素晴らしいと思う。そういえば「日本では小学6年生で『ゲルニカ』を学ぶんだよ」と美術館スタッフは息子に伝えていた。妻に「『ゲルニカ』を知ったのは6年生だった?」と聞いたら「7歳」。「小1の誕生日プレゼントの本がかこさとしさんの『美しい絵』で、そのなかで『ゲルニカ』が紹介されていた」とのこと。谷川俊太郎さんにかこさとしさん、国際関係の学者に出る幕はないように思われてきた。広い世代にわたって、わかりやすく物事を伝えるだけでなく、彼らの伝えたいことは読者の心に長く残り続けるのだから。 思えば、春学期では「国際関係論」と「国際関係の歴史を知る」等の授業で戦争と平和の難しい話をしていた。学生と一緒に20世紀の戦争と平和を振り返り、ロシアのウクライナ侵攻についても考えてもらった。21世紀のいまでも戦争が起こっていることは、いまこそ戦争を考える必要があると伝えた。私も戦争と平和について難しい学術本ばかりを読んできたが、もっと一般の方や子ども向けの本を読んでみたいと感じた。秋学期になったら、もっとわかりやすく学生に戦争と平和の話ができるように心がけようと考えた。 <謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で東北学院大学准教授の文景楠さんから共訳書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆『古代哲学入門―分析的アプローチから』 著者:クリストファー・シールズ 訳者:文景楠、松浦和也、宮崎文典、三浦太一、川本愛 古代哲学において何が論じられていたのかを、分析哲学的解釈によって明晰な語り口で提示。生き生きとした魅力を現在の読者に伝える。 ソクラテス以前の最初期の哲学から、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、ヘレニズム期の哲学までの一連の流れを、その哲学者にとって中心的な重要性を持つ論点を軸に考察。論理的な議論の再構成によって予備知識のない読者にもわかりやすく提示する。古代哲学を今を生きる哲学的な観点として一望する決定版の入門書、待望の邦訳。 出版社:勁草書房 出版年月:2022年8月 ISBN:978-4-326-10307-2 判型・ページ数:A5・400ページ 詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.keisoshobo.co.jp/book/b609754.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************