SGRAメールマガジン バックナンバー

  • Invitation to SGRA Forum #56

    ***************************************************** SGRAかわらばん654号(2017年1月5日) ☆☆☆謹賀新年☆今年もよろしくお願い致します☆☆☆ ***************************************************** ◆第56回SGRAフォーラム「人を幸せにするロボット」へのお誘い 下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。 ◇テーマ:「人を幸せにするロボット(人とロボットの共生社会をめざして第2回)」 日 時:2017年2月11日(土・休)午後1時30分~4時30分 会 場:東京国際フォーラム ガラス棟G501号室 参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局(sgra-office@aisf.or.jp 03-3943-7612) ◇フォーラムの趣旨 近年、ニュースや様々なイベントなどで人型ロボットを見かける機会も多くなってきました。今、私たちの日々の生活をサポートしてくれる「より人間らしいロボット ヒューマノイド」の開発が急ピッチに進んでいます。 一方で、私たちの日常生活の中では、既に多種多様なロボットが入り込んでいる、といわれています。例えば「お掃除ロボット」、「全自動洗濯機」、「自動運転自動車」などなど。ロボット研究者によれば、これらもロボットなのだそうです。では、ロボットとは何なのでしょうか? そして、未来に向けて「こころを持ったロボット」の開発がA.I.(Artificial Intelligence)の研究をベースに進められています。「こころを持ったロボット」は可能なのでしょうか?「ロボットのこころ」とは何なのでしょうか?この問題を突き詰めて行くと、「こころ」とは何か?という哲学の永遠の命題に行きあたります。 今回のフォーラムでは、第一線で活躍中のロボット研究者と気鋭の哲学者が、人を幸せにするロボットとは何か?人とロボットが共生する社会とは?など、皆さまの興味や疑問にわかり易くお答えします。 ◇プログラム 【基調講演】「夢を目指す若者が集う大学とロボット研究開発の取り組み」 稲葉雅幸(Masayuki_Inaba)東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻教授 ロボットの研究開発は数十年の歴史があり、工場内から社会生活のさまざまな分野への活躍が期待されています。ロボットで社会貢献の夢を抱く若者が集い、社会へ飛び立ってゆく大学におけるロボット研究開発の取り組みについてご紹介します。 【プレゼンテーション1】「ロボットが描く未来」 李周浩(Joo-Ho_Lee)立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科教授 SF映画、SF小説、SF漫画、未来の社会を描く物語には必ずと言っても過言ではないくらいロボットが出てきます。本講演では予測可能な未来を実現させる技術としてのロボットについて、また、そのロボットが現在の社会に与える影響に関する内容を中心に話題を提供します。 【プレゼンテーション2】「ロボットの心、人間の心」 文景楠(Kyungnam_Moon)東京大学教養学部助教(哲学) ロボットは人間のような心をもつことができるのでしょうか。それ以前に、心を「もつ」や「もたない」といったことはそもそも何を意味しているのでしょうか。私のプレゼンテーションでは、こういった問題を哲学的な観点から一緒に考えます。 【プレゼンテーション3】「(絵でわかる)ロボットのしくみ」 瀬戸文美(Fumi_Seto)物書きエンジニア 「絵でわかるロボットのしくみ」はロボット工学へのはじめの一歩を踏み出すためのガイドブックとして、数式や専門用語を用いずに分野全体の俯瞰を行うことを目的とした書籍です。この本ができるまでの紆余曲折をお話しし、ロボットや科学技術を身近なものとするにはどうしたらよいか、皆さんと考えたいと思います。 【フリーディスカッション】-フロアとの質疑応答- プログラムは下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/SGRA_Forum_56_Program.pdf ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第21回日比共有型成長セミナー(1月6日フィリピン・バギオ) 「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」(言語は英語) http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/network/2016/7708/ ◇第56回SGRAフォーラム(2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/research/ca04/2016/7741/ ◇第22回日比共有型成長セミナー(2月13日フィリピン・バタンガス) 「連邦制と地方分権」(言語は英語) ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Gao Weijun “Some Thoughts About Asia Future Conference”

    ********************************************************************************* SGRAかわらばん653号(2016年12月29日) 【1】エッセイ:高偉俊「アジア未来会議に思うこと」 【2】シッケタンツ「円卓会議『東南アジアの社会環境の変化と宗教の役割』報告」 ******************************************************************************** ★☆★今年もSGRAかわらばんをお読みくださりありがとうございました。引き続き2017年もよろしくお願いします。皆さまにとって、そして世界にとって、平和な年になりますように!★☆★ 【1】SGRAエッセイ#516(第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#9) ◆高偉俊「アジア未来会議に思うこと」 第3回アジア未来会議が、20ヵ国から397名の登録参加者を得て、北九州市で開催されてからもう2カ月が過ぎました。元渥美財団の奨学生として第1回アジア未来会議の企画当初から係わり、また、私の所属する北九州市立大学が第3回アジア未来会議を共催することになり、現地連絡責任者として大会運営に携わった者として、いろいろな思い出が湧いてきます。 2009年ごろだったと思いますが、私を含めた数人のSGRA会員が渥美財団の今西さんとおしゃべりしているうちにだんだん話が盛り上がってきました。それは、元渥美奨学生(ラクーン)はすでに世界中に広がり、大学の教授になって学生や若手研究者の指導をしたり、研究所や企業等で研究活動を続けている。そのような元奨学生(渥美財団のこどもたち)や彼らが指導する学生や若手研究者(渥美財団の孫たち)が集まる国際会議を立ち上げ、渥美奨学生やSGRA会員の交流の輪を拡げ深めたいという話でした。 翌年、事務局長(当時)の嶋津さんも交えて話す機会があり、そのような国際会議をやりましょう、そして第1回会議は経済大国として台頭する中国の上海で開催しましょう、ということになりました。それから徐々に、会議の名前は「アジア未来会議」とすること、ネットワークを広げるために、SGRA会員だけでなく日本に留学し現在世界各地の大学等で教鞭をとっている方々や、その学生の皆さんにも交流・発表の場を提供すること、限定された専門家ではなく広く社会全般を対象に、幅広い研究領域を包括した国際的かつ学際的な活動を狙いとすることなどが決まっていきました。 2011年4月、第1回アジア未来会議の企画案が出来上がりました。テーマは「世界のなかの東アジア:地域協力の可能性」とし、参加者150人以上の規模をめざし、2012年8月上旬に上海で開催としましたが、その後、諸般の事情により、2013年3月に500人の規模で開催する計画に変更されました。2011年7月18日から21日まで、今西さんと一緒に上海を訪問し、メイン会場として3000人収容できる上海同済大学会場を視察、上海市僑務弁公室副主任蔡建国氏および複旦大学日本センター主任の徐静波先生に協力をお願いし、SGRA会員の上海財経大学の範建亭教授と打ち合わせを行いました。 2012年に入ってから、2回の現地訪問を重ね、着実に会議の準備を進めていましたが、2012年8月に尖閣諸島(中国では「釣魚島」)の「国有化」問題のために中国の反日運動が激しくなりました。国際政治に翻弄され、良き地球市民の実現を目指す渥美財団としては非常に残念ではありましたが、2012年10月に上海での開催を断念し、会場を上海からタイのバンコク市に移すことになりました。開催まであと4カ月しか準備期間がありませんから、慌ててバンコクを視察し、タマサート大学と北九州市立大学に共催を打診し快諾をいただきました。また当初イベント会社に依頼して企画してもらう計画も水の泡になりましたが、そのおかげで、その後の会議はSGRAネットワークを利用して、渥美財団が自ら企画運営する原型になりました。 SGRA会員の積極的な参加、多くの企業等の後援により、第1回アジア未来会議は20か国から332名の参加者を得ました。建築家隈研吾氏の公開基調講演には1200人が参加して成功へ導きました。フェアウェルパーティーにて第3回アジア未来会議の開催地の話が出て、当会議に参加した北九州市立大学の近藤学長から「ぜひ北九州で行いましょう」というお話があり、その場で決まってしまい、北九州市立大学の教授として私は重い責任を感じました。その後、2014年8月にインドネシアのバリ島で、第2回アジア未来会議「多様性と調和」が、17か国から約400名の参加者を得て開催されました。私としても北九州の開催に向けて益々緊張が高まりました。環境首都の旗を掲げた北九州での開催ですから、メインテーマを決めるのはそれほど時間がかかりませんでした。日本語の「環境と共生」の英訳には当初の「Environment_and_Symbiosis」より広い意味の「共生」を意味する「Environment_and_Coexistence」としました。 日本で初めての開催、また地方都市の北九州市での開催ですから、参加者が集まるか心配でした。しかし、論文の発表要旨の締め切りをした時点で700編を超える応募があり、改めてSGRAネットワークの強さを感じました。また会議開催に当たっては、投稿論文の査読やセッション座長から受付や会場案内まで、多くのSGRA会員がボランティアで手伝ってくださり、会議の成功に向けて奮闘してくださいました。最も感動したのは、渥美伊都子理事長がご高齢にもかかわらず会議に参加してくださり、大きな励みになったことでした。 北九州市立大学としても、第3回アジア未来会議を創立70周年記念の大行事と位置づけ、学長のリーダシップのもとに、副学長漆原先生を部会長としてアジア未来会議部会を立ち上げ、10回ほどの会合を開いて会議の開催に尽力しました。会議期間中に、職員の応援延べ86人、学生ボランティア延べ134人を動員し、休憩時のピアノの演奏や茶道のお点前など多くのイベントを準備しました。特に感動したのは漆原先生が食堂に立ち、自らマイクをもって、茶道のインベトの宣伝をする姿でした。このような大きな行事の開催によって、我大学としても大きなものを得たことを付け加えたいと思います。 以上のように、第3回アジア未来会議はみなさんのおかげで無事に成功裡に終了しました。渥美財団の元奨学生として、また今回の会議の運営組織の一員として振り返ってみると、アジア未来会議の開催は我々SGRA会員の交流を深めるばかりではなく、社会へSGRAの主張を広げることにより、良き地球市民の実現を目指すSGRAの目標に近づくことにもなったと思います。これからもより多くの方々にアジア未来会議に参加していただき、国境を越えたアジア未来を語っていきたいと思います。 <高偉俊(ガオ・ウェイジュン)Gao_Weijun> 北九州市立大学国際環境工学部建築デザイン学科教授。中国西安交通大学、四川大学、浙江大学等客員教授。SGRA研究員 ---------------------------------------------------- 【2】第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#10 ◆エリック・シッケタンツ「円卓会議『東南アジアの社会環境の変化と宗教の役割』報告」 植民地時代の苦難を経て、最近のグローバリゼーションのもと、東南アジア諸国は、国づくり、環境の悪化、宗教と民族の対立、社会的不平等など、さまざまな困難に再び直面している。識者の多くは「宗教」を、これらの課題を更に悪化させるネガテイブな要素とみなしている。本円卓会議においては「宗教は、各国が抱える様々な課題を克服するにあたって、重要な役割を果たすことができるのではないか、現に果たしているのではないか」とのポジティブな視点から、東南アジアの社会環境の変化に対応する宗教の役割を見直すことを目的とした。 本円卓会議は東南アジアの4カ国からの発表者から寄せられた4本の小論文の発表と、それに続く円卓会議の形式で行われた。発表者はインドネシア/ガジャマダ大学のアクマッド・ムンジッド、フィリピン/アテネオ・ド・マニラ大学のジャイール・S・コルネリオ、タイの活動家ヴィチャック・パニク、そしてヤンゴンベースのフランス人のミャンマー研究者、カリーヌ・ジャケであった。 最初の発表者であるアクマド・ムンジッドは、植民地以後のインドネシアの「新秩序時代」(1968-1998)、並びに1998年の民主化以降の国と宗教との関係についての流れを概観した。「新秩序時代」においては、イスラム教と政治とは一線を画していたが、1998年以降は再び宗教の政治化傾向があらわれてきた。スハルト政権の崩壊のあと、宗教内、宗教間での対立、抗争が顕在化し、近年その傾向は減ったとは言え、今でも続いており、過激で狂信的なイスラム教徒も出現している。こうした傾向に対して宗教指導者で政治家でもあった、アブドララーマン・ワヒッド(Abdurrahman_Wahid)元大統領(在任1999~2001年)に見られるような、伝統的イスラム教に身を置きつつも、(宗教的)教義を緩め、他宗派・他宗教にも寛容であり、さまざまな勢力との対話を重視するという政策も続けられた。ムンジッドは、インドネシアでの進歩的な宗教家間の対話、或いは連合を試みている様々な団体や組織の事例を挙げて、社会的公正や安定・平和をもたらす宗教間の対話の重要性を強調した。 次のジャイール・S・コルネリオの発表では、環境問題に焦点が当てられ、フィリピンのカソリック教会による気候変動の影響の緩和、或いは防止に向けた啓蒙活動などへの貢献が紹介された。彼はコミュニティでのスチュワードシップの育成、あるいは環境保全に対する責任感の醸成など、フィリピンカソリック教会の試みを、ボトムアップで社会を変えようとする「草の根活動(grass-roots_activities)」をベースとしたポジティブな役割として紹介した。 3番目のヴィチャック・パニクは発表の中で、高名な仏教の僧侶達が、共産主義者や犯罪者など体制側から見れば「敵」と見做される人々に対する冷酷な仕打ちに目をつぶるなど、タイ国で起きている国家と宗教の間の馴れ合いとも思われる「同盟関係」を批判的に考察した。パニクは、民衆の(伝統的な)精神的な拠りどころであり「森の中の隠者」と呼ばれる修道僧達の存在さえも無視あるいは犠牲にして、仏教の本来の教えである「慈悲」や「人間性」から離れてしまった、現在の制度化し体制化してしまった仏教界と国は、危険な政治的同盟関係に入ってしまったと厳しく批判した。 最後に、カリーヌ・ジャケはミャンマーにおける援助(Relief)と宗教に関わる政治について、2つの援助に焦点を当てて発表した。ひとつはサイクロン「ナルギス(Nargis)」による被害に対する支援、もうひとつは中央政府とカチン州との内戦の一連の流れである。ジャケは、ナルギスの後、ビルマの仏教界はいち早く対応し、罹災者に対して僧院を緊急時のシェルターとして開放し、仏教の教えの「ダーナ(dana:布施)」のもと経済的な支援をしたことを挙げた。2番目のケースは、主にカチン州に多いキリスト教の援助組織の活動についてであった。この事例では、宗教上の援助組織は地元で信頼され歓迎されているので、紛争地域でも効果的に活動できる一方、この様な宗教色のある援助が宗教集団間の対立を助長し、かえって紛争を長引かせたとも指摘した。 その後、この4人の発表者に各国からの6人の討論者が加わって円卓会議が行われた。円卓会議では会場からの質問、発言も相次ぎ、活発な意見の交換も行われ議論は時間切れまで続き、多くの東南アジアからの参加者の強い関心がうかがわれた。 皮肉に思えるかも知れないが、宗教の為しうるポジティブな貢献を議論するために設けられた本円卓会議の多くの時間は、現代世界が直面している様々な課題に対する宗教のネガテイブな局面に費やされた。無論、宗教が問題解決の一部となる一方、同時に問題の一部であることも事実であるため、これは地球上で起こっている現実を反映していると思われる。 今回の円卓会議で示されたのは、宗教と民族国家(政治)との関係についての今日的な課題である。宗教があまりに国家(政治)に近寄り過ぎ、政治的主体性を帯びてしまうと、かえって緊張をエスカレートしてしまう。気候変動のように、地方社会では対応できない諸問題の解決には国家レベルでの支援が早急に望まれるのは当然のことである。宗教には、さまざまなローカルな紛争に引きずり込まれず、地域、国あるいはグローバルに進行中の紛争にポジティブなインパクトを与えるよう、政治との距離と関係を慎重に見直すことが求められている。 英語の原文は下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/AFC3-Southeast-Asia-Roundtable-Discussion.pdf <エリック・クリストファー・シッケタンツ☆Erik_Christopher_Schicketanz> 渥美国際交流財団2009年奨学生。東京大学大学院宗教学宗教史学研究室にて博士号の取得を経て、現在、日本学術振興会外国人特別研究員(東洋史)。専門は近代東アジアの宗教史、宗教と政治の関係。主な書籍には『堕落と復興の近代中国仏教—日本仏教との邂逅とその歴史像の構築』(法蔵館、2016年)等がある。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2017年2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Lin Qianqian “Natural Disasters Come Stubbornly, Conservatively, and Persistently”

    ******************************************************************** SGRAかわらばん652号(2016年12月22日) 【1】エッセイ:林茜茜「天災は頑固に、保守的に執念深くやって来る」 【2】エッセイ#514「トランプのアメリカ:鶏足を持ち込んだ華人」をめぐって ******************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#515 ◆林茜茜「天災は頑固に、保守的に執念深くやって来る」 天災は忘れた頃に来る。これは物理学者・寺田寅彦の言葉である。初めてこれを見た時、はっと我に返り鳥肌が立ったのをいまだに覚えている。 2016年11月22日の早朝、東北地方で再び大きな地震が発生した。津波警報と同時に、福島第二原発三号機の使用済み燃料プールの冷却装置が停止したというニュースも報道された。幸いなことに、2、3時間後、冷却装置は無事に再起動したものの、その時、日本列島に再び衝撃が走り、人々は5年前のあの悪夢を思い出してしまった。 2011年の東日本大震災からすでに5年も経ったが、原発の問題はいまだに解決されておらず、原発に恐怖を覚えながら、日々を暮らさなければいけない状況もまったく改善されていない。いったい福島で何が起きていたのか、根本的な問題は何であるのだろうか。今回の地震が起きるおよそ3週間前に、東京大学名誉教授の畑村洋太郎先生は、渥美国際交流財団ホールでの「渥美奨学生の集い」で「福島原発事故に学ぶ」という講演を行い、その答えを教示してくださった。 畑村先生は、福島原発の放射能漏れの原因は水素爆発にあったという一般的な認識を否定し、津波による配電盤の水没で長時間全電源が落ちていたため、燃料プールの冷却が不能だったことを指摘した。つまり根本的な原因は、津波がもたらしうる影響を充分に想定できなかったことにあるという。もちろん、事故が起きた原因を究明することも大事であるが、一番重要なのは、この事故から学んだことを今後に生かすことである。先生は、人間は「見たくないものは見えない、見たいものだけが見える」という心理が働くため、想定不足や準備不足による事故に陥りやすいと指摘した。それを踏まえたうえで、このような事故を防ぐには、危険に直面しても議論できる文化の醸成が必要で、自分の目で見て自分の頭で考えて判断・行動できる個人を作り、真のリーダーを育てなければならないと訴えた。 講演後、参加者から多くの質問が出た。例えば、経済効率の点から考えると、原発を推奨する必要性があるのか、中国や韓国における原子力発電の現状はどうなっているのか―このような多くの質問のなかで、私にとって一番印象深かったのは、畑村先生と名古屋大学名誉教授の平川均先生が交わした会話の内容である。先生方は、現在日本の社会は「気」に動かされており、特にリーマンショック以降、他人と異なる意見が言えなくなる状況が深刻化し、ますます村八分的なことが横行する社会になっていると指摘した。 確かに日本で生活してみて、不思議に思うところが多くあった。ここで取り上げられた「気」はまさにそのうちの一つである。「出る杭は打たれる」という表現があるが、日本では度が過ぎていて、個性や他人との差異はあまり認められないようである。それは現在日本でイジメが絶えない原因の一つになっていると考えられる。集団意識、協調性はすばらしいが、同一性を求めすぎると、窮屈になり、社会の活性化はますます難しくなってしまう。 イジメといえば、最近福島第一原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒がいじめを受けて不登校になったことが大変注目を浴びている。名前に「菌」と付けて呼ばれたり、「放射能」と言われたりするのみならず、「原発事故の賠償金をもらっているだろう」と言われ、同級生らと遊びに行く時に、遊興費や飲食代など合せて約150万円もの大金を負担させられたという。そのニュースを見た時、本当にあきれてしまった。優しい、思いやりがあると自負している国の子供なのに、なぜこのような残酷なことができるのだろうか。もちろん原因はいろいろあるだろうが、賠償金の事情や避難生活をしている人々に対する社会全体の関心の低さが、その一因と考えられる。今後、原発事故に関連するほかの問題も出てくるかもしれないが、原発事故だけでなく、避難生活を余儀なくされている人々にも、スポットライトをあてる必要があると思う。このように、畑村先生の講演は福島原発事故の問題のみならず、日本の今日の在り方を見詰め直す貴重な機会も提供してくれた。 今回の地震の時、テレビのアナウンサーが繰返し口にした次の言葉が、大変興味深かった。「津波警報が出ています。至急高い所に非難してください。皆さん、5年前の津波を思い出してください。実際に津波で命を失った方がたくさんいました。至急非難してください。」この言葉からは、過去の教訓を生かして、悲劇の再発を防ぐために努力している人々の前向きな姿勢が感じられ、少しはほっとしているが、しかし道のりはまだまだ長い。寺田寅彦は随筆「津浪と人間」で「地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである」と述べ、災害を防ぐ唯一の方法は「人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はないであろう」と熱弁している。寅彦が言うように、私たちにできることは、人智が及ばぬ天災が起こりうる現実を直視し、過去の教訓に学んで、絶えずその危機に直面したときのことを考え、警鐘を鳴らし続けるよりほかはないと思う。 <林茜茜(リン・センセン)Lin Qianqian> 渥美国際交流財団2016年度奨学生。2013年4月に早稲田大学教育学研究科国語教育専攻に入学。現在は博士論文を執筆中。日本近代文学、中日比較文学を中心に研究している。 ---------------------------------------------------- 【2】エッセイ#514「トランプのアメリカ:鶏足を持ち込んだ華人」をめぐって 前回のSGRAエッセイに対してSGRA会員の葉文昌さんからコメントをいただき、著者のグロリアさんから回答がありました。読者の皆さんにも考えていただきたい内容なので、お2人の許可を得てご紹介します。グロリアさんからの「急いで書いたので考慮が足りない部分がありますが、一緒に考えてください」というメッセージをお伝えします。 尚、前回のエッセイは下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/2016/7722/ 〇葉⇒ヤン アメリカでのひどい経験、お気の毒でした。 でも他国へ行ったことがあれば、このようなことはどこかで経験しているかと思います。このような偏見は、どの国でも起こり得る事です。起きるたびに、自分がステークホルダーである国ではどうなのかと自問し、それを解消できるよう自分なりの努力をするのが良いと思います。他国の事を変えるのは、その国のステークホルダーしかないのです。 ヤンさんは不幸にもひどい仕打ちを受けましたが、でも実際にはアメリカには非差別主義者も多くいる訳で(差別主義者よりも多いかもしれない)、今回の経験からアメリカは変わったと嘆くのはまさに差別主義者の思う壺で、世界を分断の方向に向かわせることに加担することになるのです。 更にヤンさんは「この中年で禿げ始めた白人」と書きましたが、「中年」「禿げ」「白人」は不要な情報で、これこそヤンさんを差別した差別主義者と同じことをしているように思います。 ひどい仕打ちを受けたのは本当に気の毒でした。次は、アメリカの優しい一面に出会えることを願っております。 ●ヤン⇒葉 ご拝読とご意見いただき、まことにありがとうございます。 葉様のコメント、非常に興味深いと思っております。 まず、冒頭に私が述べたように、今回の事件はアメリカの国境管理の中での異常です。 また、葉様は「でも他国へ行ったことがあれば、このようなことはどこかで経験しているかと思います。」とおしゃいますが、「人種差別が必ずどこかで起こっているから、今回の事件も普通」という推論こそが問題です。どこの国の国境管理においても、このような人種差別の行為は間違ったことであり、それを「普通にあることだ」とか「現実なのだ」などと語り、その行為を正常化することは、逆に人種差別を助長しているのです。どこであろうとも戦うべきなのです。 また、過去10年の間に、アメリカで様々な人種差別の経験をした私から見ても、今回の人種差別はひどく、憂慮すべきです。その背景は複雑ですが、最近『ニューヨーカー』とか『ニューヨークタイムズ』などで沢山の分析が成されているので、是非お読みください。 次に、私が落ち込んだ理由は、事件そのものではありません。この事件をアメリカの最近の政治文脈の中においた時、浮き彫りにされるのはアメリカ社会の二重構造、「非差別主義者」の「無責任」や「偽善」など、様々な社会・政治・文化の憂うべき側面なのです。選挙の頃、私はちょうどニューヨークにいたので、その場で痛感しました。選挙によってリベラルな考えの人がみんな落ち込んでしまっている時期に、のんきな楽観主義は「毒」とも言えるでしょう。アメリカはただの多民族融合やただの民主国家ではありません。アメリカには、黒人、女性そしてアジア人に対する差別と戦ってきた歴史があります。最近注目された、警察官による黒人の射殺、同性愛者の結婚の合法化、環境への悪影響のために原住民が反対するダコタ・アクセス・パイプライン、ロシア・ラングが撮った強制収容所に移送される日系アメリカ人の写真、そして選挙の翌日から起きたたくさんのイスラム教徒へのヘイトクライムなどが証明しているのは、アメリカは度々白人至上主義にやられてきた、またそれと戦ってきたという事実であり現実なのです。 もし葉様が今アメリカにいらっしゃったら、アメリカの「変わった」環境を体験することもできると思いますが、このエッセイに書いたように、今だからこそ、「分断されたアメリカ」、また、世界が「分断されて行く傾向」を直視しなければならないのです。 このような差別と戦う経験の中で深く認識が変わったのは、私だけではないのです。さらに、彼らの多くはーダコタの原住民や収容所に送られた12万人の日系アメリカ人は、認識だけではなく、運命が変わったのです。もちろん私は一人で戦うのではなく、たくさんの非差別主義者と一緒に戦います。ただ「そうじゃない人やそうじゃない場所」に目をそらすことは、本質を見逃すことであり、問題の解決にはならないのです。 私はミネアポリス空港の抗議書(そこに事実でないことを書いたら罰になります)にも「中年middle-aged」「禿げbald」「白人white」を書きました。何故なら、入国審査官の名札を見ておらず、制服も一緒なので外見の特徴で人を特定するための情報として書いたのです。この3つの言葉は、英語の形容詞です。私は女性female、メガネglass、黒い髪 black_hair、アジア人asianだと描写することができます。文学性がなくても、見た目の枠で人を書き出すとこうなるのです。 このエッセイは、単に個人的な事実や感情を記述しようとしたものではありません。この事件についての「考え」がポイントなのです。それは、鶏足ではなく、(1)トランプのアメリカにおける人種差別の高まり、(2)この時期だからこその「人種差別と戦うべきスタンス」と「人種差別より受けた傷を治す方法」の2つです。 ご質問にお答えできたどうかわかりませんが、ご指摘ありがとうございました。 〇葉⇒ヤン 返信ありがとうございます。 「中年で禿げ始めた白人」は差別ではないことは理解しました。 同じことを申し上げますが、アメリカがどの様な国になろうとも、それはアメリカ国民が決めることなので、よそ者ができる事は限られています。己が頑張れる事は、住んでいる国または出身国に対して意見を言う事だと思います。そして身内に意見を言う事は、よそ者に対して意見を言うよりも、勇気が必要です。しかしそれは社会の進歩に必要なのです。ちなみに私は身内に関しては見て見ぬふりはしていないつもりですよ。グロリアさんは身内の中国または日本について、何か意見を言ったことありますか?私は差別に関しては、台湾はアメリカよりも遅れていると考えています。だからアメリカに対して意見を言えたものではないと思っています。 ●ヤン⇒葉 ご返信とご理解ありがとうございます。 もちろんどの国でもよそ者として出来ることは限られます。しかし、よそ者だからこそできることもあります。例えば、よそ者によって、身内では普通だと思われている価値に潜在する差別を明らかにすることが出来ます。 多分、根本的な考え違いは、葉様の以下のご意見です。 「アメリカがどの様な国になろうとも、それはアメリカ国民が決めたことなので…己が頑張れる事は、住んでいる国また出身国に対して意見を言う事だと思います。」 また 「私は差別に関しては、台湾はアメリカよりも遅れていると考えています。だからアメリカに対して意見を言えたものではないと思っています。」 この2点については、申し訳ありませんが、知識人として、決して同意できません。しかしながら、お互いの考え方のベース(時代背景や世代差の経歴など)を尊重するため、反対の理由は省略させていただきます。 最後の質問に対して、もうすでに書いたように、私は過去10年間、どこでも意見を言って、差別と戦おうと努めてきました。しかしながら、目をそらしたこともありました。だからこそ、今は、どこででも、言うべきことは言う必要があると思っているのです。 社会はただ進歩するものではなく、人の行動で進歩させるものです。 〇葉⇒ヤン ご意見ありがとうございました。またお会いした時に色々お話できればと思います。 ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第56回SGRAフォーラム(2017年2月11日東京) 「人を幸せにするロボット」<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Gloria Yu Yang “CHICKEN FEET & trump”

    ************************************************* SGRAかわらばん651号(2016年12月15日) ************************************************* SGRAエッセイ#514 ◆グロリア・ユー・ヤン「トランプのアメリカ:鶏足を持ち込んだ華人」 12月1日、朝5時。眠れなかった。書かなきゃと思った。 「鶏足とトランプ」 どこから始めよう。「アジア人はアメリカに入国する場合、MSP(ミネアポリス・セントルイス)空港を避けてください。人種差別を経験してみたいと云うなら別ですが」にしよう。 アメリカ入国審査は、決して愉快な経験ではないけど、ものすごく悪いわけでもない。審査官はコンピューター上に記録を引っ張り出し、それに目を通し、データにタイプし、旅行の目的など短い質問をする。もし審査官の機嫌が悪い時には、殆んど無言で待てば良い。普通は「アメリカへようこそ」で終わる。この10年間、一貫して学生ビザだったので、質問も段々減ってきた。10月にニューヨークに戻った時もそうだった。 今回のMSPは全く違った。乗客が少ないのに手続きが遅かった。白人の審査官が、ビザ免除の日本人にも大きな、かつ乱暴な口調と手振りで質問していた。彼らは、アメリカ人であろうと無かろうと白人は直ぐに通した。アジア人ばかりが残った。 この中年で禿げ始まった白人の審査官は、私が今まで受けた事の無い、意味不明な質問をした。私の答えを遮ったり、他の質問に飛んだり、又、同じ質問に戻ったりした。終わりが無く、脈絡も無く、かつ乱暴な口調での質問に私は我慢しながら、目的は何だろう、もしかして、「審査室」に連れ行きたいのかと考え始めた。 たくさんの質問の後、彼はやっと口を閉じ、今度は私のパスポートを見始めた。世界各国のスタンプをパラパラとめぐりながら「何でこんなに多くのアメリカビザがあるんだ?」と聞いた。 「最近まで、アメリカは中国人に毎年ビザを更新する様に要求していたから。」(その都度、200ドル取られました。) 私は非常に慎重だった。仕方がない。彼は随意に私の入国を拒否出来る。彼自身もその権力をよく知っている。 彼はボールペンを取り出し、入国スタンプに、ひとつずつ線を引きはじめた。何でずっと残しておいたのかと文句を言いながら。 アメリカ入国スタンプで一杯のパスポートを2冊持っていた。いままでの入国審査官は誰も何も言わなかった。私は、彼が私の唯一のリーガル・ドキュメントに線を引くのを見ていたが、現在有効なビザにも線を引こうとしたので、声を出し止めさせた。 他の審査官が3人か4人を通過させた時、彼は質問を聞き尽し、これ以上は諦めた、と思ったのは私の思い違い、これからがスタートだった。 「ところで、どこの国から来たの?中国?」(最初から私のパスポートを見ていたはずです) 「はい。」 「荷物はいくつ?」(この質問は国籍の質問の前に聞かれたばかり) 「ひとつです。」 「ひとつ…食べ物は持っている?」(これは普通、税関での質問ですが) 「いいえ。」 「持ってない?」 「持っていません。時間がなかったので。」 彼は目を細めた。「月餅も持っていない?」 月餅。 中秋でもないのに月餅。私が中国人だから?このくだらない会話の行方が段々分かってきた。 「月餅? なぜですか。持っていません。」 「本当に?」 「持っていません。今回は日本から来たので。」 「持ってない?月餅も鶏足も持ってない?」 鶏足。 鶏足。 中国人だったら、必ずこの異国情緒たっぷりで未開地の気持ち悪い食べ物を食べる。そして、この偉大なアメリカにこっそり持ち込む。 ただし、私は彼の間違った知識と非道徳性を正す権利を持っていない。彼は権力者であり、私は外人として、鶏足に答えなければならない。 「私は鶏足を持ち込んでいません。」 「本当かい?鶏足のようなものも持ち込んでいない?」 「ここに10年近く住んでいますが…」 彼は私の言葉を遮って「10年だろうがそれ以上だろうが、<彼ら>は鶏足を持ち込んでいる。」 「私はしません。」 「私は嘘を言ってないよ。」彼は呟いて、「<彼ら>はここに持ち込んでいる。我々はそれを見たんだ。<彼ら>は持ち込んでいるんだ。」 「彼ら」という言葉が私の体と頭の中に響いた。彼のつぶやきも聞こえなくなった。 ある不法移民のメキシコ人がいる故に、どのメキシコ人も不法移民ではないかと疑う。なぜかというと、「彼ら」は不法移民だから。 ある犯罪者の黒人がいる故に、どの黒人も犯罪者ではないかと疑う。なぜかというと、「彼ら」は犯罪者だから。 今回の選挙で、なぜアメリカの人々がトランプを選んだのか、やっとわかり始めた。 「私ではない。」もうそのまま引き揚げようかと考え始めた。 「…オーケー。書類と荷物を持ってあそこに行って検査を受けて。」 いつもの「アメリカへようこそ」の挨拶は、プロトコールなのか優しさなのかわからないが、もうどうでもいい。 彼がテーブルに投げて寄こしたファイルを持って税関に向かった。 税関の官吏に「食べ物は?」「ありません。」「無い?野菜は?」「無い。」「リンゴは?」「無い。」「肉は?」「無い。」「生魚?」「無い。」「XXXXは?」「無い。」 「オーケー、青い線のところでバッグの検査を受けて。農産物のXXX」 私の言葉が信じられないのなら、何故聞くの? バラバラにされた荷物の現場。一人の若い女性が日本語の説明がついている使い捨てカイロについて怒っているような検査官に必死に説明していた。その後彼女はリパックし、「ありがとうございます。」という挨拶をしに来た。検査官はそれに応えず、こちらに向かって「あんたは感謝するべきだ。」と独り言を呟いた。そして私の書類をとり「バッグを載せて、黄色の線に沿って行きなさい」と。バッグを通し、食べ物がなかったことでちょっとびっくりした検査官は私に書類を渡した。「良い一日を。」 次の国際到着便は白人が多く、誰もが大きなバッグを持っていたが、X線検査に向かうことなくパスしていた。 もう限界を超えた。信じられない。ただの官僚的な無礼では済まない。そうではないからだ。私には反論する選択肢さえ与えられなかった。お互いに平等でない限り、グッド・ハートなど有りえない。 これを過剰反応とは思わない。一人のアメリカ人が日本人か中国人の入国審査官から、「カウボーイハットを持っているか?冷凍の七面鳥は?臭いチーズは?」と聞かれ、アメリカ人がなんと答えるか想像してみよう。そしてアメリカ人は「いいえ」と答える時を。「本当に?全てのアメリカ人は常に気味の悪い、胸の悪くなる様な食べ物を持っている。常にですから、あなたもね。」 もし私がまだ20代だったら、入国審査官に言い返しただろう。「今、鶏足やあひる足、また七面鳥の足でもニューヨークのスーパーで買えるよ。いろんな味で、オーガニックも、全てアメリカ製」と。 しかし、今回の選挙でわかったことは、皮肉は人種差別との戦いに勝てない。 20代で初めてアメリカに来た時、こんな質問には会わなかった。人々は強い偏見を持っていたかも知れないが、素直に会話を交わし、そして、考え方を変え、お互いの違いを受け入れた時期だった。過去10年、私は外国でも中国でも、人種、性別、そして、国籍に対する様々な差別と一生懸命闘ってきた。どこでも、アジアの文化、社会、政治について話すことによって、文化の多様性と社会の寛容性の尊さを知ってもらうために努力してきた。 20代に聞かれなかった鶏足の質問。2016年に来た。 アメリカ人は様々だ、その通り。良い人も沢山いる、本当に。しかし、本当の多様性というのは一方的なものではない。中国人、日本人、そして他の民族もアメリカ人と同じように、様々であるということを認めなければならない。そうでなければ、アメリカの多様性とは、1930年代に「五族協和」を宣伝した日本の植民地「満州国」と同じように偽善的なものではないだろうか。一言でいうと、アメリカは、白人をトップとし、中国人は中華街のキッチンに、メキシコ人はデリバリーの自転車にと、階級社会を前提とした複数の人種が共存する社会なのだ。 セキュリティゾーンを出る前に、もう一度振りかえってみた。彼らは正義の味方のように行動していた。お国の為だから。彼らの人種差別的な行動は愛国主義の名のもとに正当化される。それに私はぞっとする。今回の選挙結果は、外国人には乱暴な言葉や行為を振る舞えることを正当化した。新しい「偉大な」大統領と同じく、外国人を違法移民か、アメリカの「偉さ」を奪う盗人として見ても良いという結果になった。 「偉大な」アメリカは心底嫌いだ。 ニューヨークへの乗り換え便の中で、私は沈黙していた。隣の席に座った男性が荷物をキャビネットに入れ、軽く挨拶した。「こんにちは。」 その瞬間、ずっと我慢していた涙が落ちた。 2006年、私が初めてアメリカに来たとき、ピッツバーグ行きの乗り換え便で、まさしく同じ言葉を投げかけられた。今でも覚えている。その後、父にこう言った。「アメリカ人は優しいね」と。 選挙の後、何日も泣いた。英語、中国語、日本語で書かれた記事を読んで、悩んで考えた結論は、私はアメリカの大学で東アジア美術史を教える。たとえ、そこが中西部であろうと田舎であろうと。誰かが闘わなければならないからだ。しかも一生懸命に。教育に恵まれてきた私は、教育の力で偏見や差別を消すことができると信じていた。 が、今日は完敗だ。もう、これ以上無理だ。 アジア人のみなさん、アメリカへの入国にあたってはミネアポリス・セントルイス空港を使ってはいけません。私達は戦いに敗れたのです。 追伸。2日後 つらかった。あれ以来2日間、私はアメリカ合衆国国土安全保障省税関・国境取締局、MSP空港に事実抗議書を出し、大学の学長と国際センターに手紙を送った。何もならないとわかっても、やるべきだと思った。 しかし、これでも私の気持ちは晴れなかった。逆に、怒り、落胆した後、深く落ち込んだ。 フェイスブックやメッセンジャーのコメントに返事をする気にもならなかった。 「白人である私にとっても国境を越える時の対応は悪かったよ。」 「鶏足はただあなたの国の代表的な食べ物の例としての質問ですよ。」 「なんなのこの悪い男!」 「アメリカ人の偽善さが今更わかったのかい、大げさだね。」 また、これがきっかけとなり、選挙後、アメリカ国境でアジア人に対する様々なひどい話を聞いても言葉が出なかった。 人々がなぜ、またどうやって自分の見方や経験から偏見や認識を抱くのか、私は良くわかっている。これは偶然ではない。アメリカ国境管理官の労働組合「国境巡回委員会」は公にトランプを支持していた。そして、私は、今まで差別に遭った瞬間に、自分自身に「これは私の感情的な過剰反応ではないか。」と毎回チェックしている。そして、今回を含む事件の答えはノーだった。 ニューヨークへの乗り換え便に乗った時、目の前のたくさんの白人たちが一瞬、全てトランプ支持の人種差別主義者に見えた。非合理だが強い感情に動揺し、背筋に悪寒が走った。このような負の感情に押しつぶされ、絶望的な不信感によって心にブラックホールができた。感情は実に重要なものだ。そもそも、今回の選挙では、知恵の欠如ではなく、恐怖と不安の気持ちに巻き込まれ、判断力を失った多くのアメリカ人がトランプに投票した。 1週間後、私は国際センターのディレクターにこの事件について話した。MSP国境管理官に問合せてくれることになった。 そのあと、彼は聞いた。 「今から、あなたのことについてちょっと話しましょう。あれからどうですか。気分は。」 聞かれた瞬間、私は鬱になった理由がわかった。戦うことは、傷を癒すこととは別だから。 事件が解決に至るかどうか別として、私は傷ついた。その傷は深い。「私たちはあなたが癒されることを願っています。」 不思議に、その時からだんだん「私は大丈夫だ」と感じるようになった。傷は痛くてもきっといつかは治る。1週間の間に色々な人からもらった励ましも聞こえるようになった。 「選挙後の現実に、どう対応すればよいか。」戦う。そして自分を癒す。極めて難しい、そして苦しいことだ。ただ、そうしなければ、今後の厳しい現実を乗り越えられないだろう。 原文(英語)は下記リンクよりお読みいただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/GloriaYY-Trump-Chicken-Feet.pdf <Gloria Yu Yang(グロリア・ユー・ヤン)楊昱> 2015年度渥美奨学生。2006年北京大学卒業。2008年からコロンビア大学大学院美術史博士課程に在籍。近現代日本建築史を専攻。2013年から2015年まで京都工芸繊維大学工芸資料館で客員研究員、2015年から東京大学大学院建築学伊藤研究室に特別研究生として、植民地満洲の建築と都市空間について博士論文を執筆。2017年5月卒業予定。 ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Emanuele Giglio “Aiming for the Good Composite of Italy and Japan”

    ****************************************************************************** SGRAかわらばん650号(2016年12月8日) 【1】エッセイ:ジッリォ「イタリアと日本との『良き合成体』を目指して」 【2】第21回日比持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い(1月6日、フィリピン)    「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」 ****************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#513 ◆ジッリォ エマヌエーレ・ダヴィデ「イタリアと日本との『良き合成体』を目指して:日本に来て8年目に思いついた、ちょっとした雑感」 小さい時から日本に憧れていた。日本に初めて来るとき、「日本文化こそ人類文明の最高頂点であり、私も人間として進化するためにぜひ日本の文化を吸収したい」という心構えでやってきた。今年で東京にきて8年目になる。この8年間にはもちろん、「日本文化の『闇』の部分」と思われるところにも直面した。しかし、それで「もう日本なんて嫌いだ」とか、「もう帰りたい」とかは、少しも思わない。今思っているのは、「日本は非常に民度が高い;非常に民度が高いからこそ、その分「『悪』の部分がより特定し辛く、しかも鋭い」ということだ。そこで、私がずっと目指しているあり方はだいたい次のようなものである。 まずイタリア人として、イタリア人にしかできない観点から、イタリア文化の悪いところに気づき、乗り越え、いいところだけを残す。そして、日本の文化を少しずつ吸収することで、今度は日本人に限りなく近いあり方にもなり、日本人と同じような観点から、日本文化の「悪い」と思われるところを理解し、乗り越え、いいところだけを身につけていく、というような、イタリア人と日本人との「良き合成体」と呼ぶべきあり方だ。 なぜ「日本人に限りなく近いあり方にもなり、日本人と同じような観点から」と言うか。「そこまでする必要があるのかな」と考える人もいるかもしれないが、私の場合は「西洋人だから日本なんて簡単に吸収し、超えられるんだ」と最初から思っていたからではない。日本のことを「下手に」馬鹿にしている外国人とか、もしくは―8年前の私にはそういうところもあったかもしれないが―日本に「下手に」憧れているような外国人もまだいるだろうが、「いや、私はできれば、そうなりたくはない」と心から願っているからなのだ。 「でも私はあくまでも『なになに人』だよ」とか「私はまず『なになに人』だよ」と言う人がいる。例えば『イタリア人』『フランス人』『アメリカ人』『韓国人』『日本人』とか。それでもいいと思う。ただ、私個人は、実験的に「私はまず人間だよ」という立場に立ってみたい。この実験は、今この世界に存在している色々なアイデンティティを危険にさらしてしまうかもしれない。しかし、「でも私はあくまでもイタリア人だよ」とか、「私はまずイタリア人だよ」というあり方は、私個人には、本質であるはずの部分(=人間)と、属性であるはずの部分(=『なになに人』)とを逆転させてしまう危うさを持っているとしか思えない。 よく考えれば、属性を本質と間違えてしまうというのも、危ないのではないか。ならば、どちらにしろ危ないのなら、私は自分の一番好きなあり方を選んでみたい。つまり、心さえ広げれば、誰だってどの文化も理解し、いつだって何人にでもなれるではないかという、良き地球市民のようなあり方だ。決して楽な道ではないと思う。しかし、異文化をどれだけ受け入れ吸収できるのか、というようなことを日々問われるという、「考え方のグローバル化」がこれから始まろうとしていると考えると、なおさら今言ったようなあり方を選択してみたい。 <エマヌエーレ・ダヴィデ・ジッリォ☆Giglio,_Emanuele_Davide> 渥美国際交流財団2015年度奨学生。トリノ大学外国語学部・東洋言語学科を経て、2008年4月から東京大学大学院インド哲学仏教学研究室に在籍。2012年3月に修士号を取得。現在は博士後期課程に在籍中。身延山大学・東洋文化研究所研究員。 ------------------------------------------------------------- 【2】第21回日比持続可能な共有型成長セミナーへのお誘い 台風のために延期になっていた第21回日比共有型成長セミナーを、下記のとおりフィリピンのベンゲット州で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンに英語でご連絡ください。 ◆第21回日比持続可能な共有型成長セミナー テーマ:「開発研究・指導の進歩と効果を持続させるために」 “Sustaining_the_Growth_and_Gains_of_Development_Research_and_Extension” 日時:2017年1月6日(金)~7日(土) 場所:ベンゲット州コルディリェラ行政地域     1日目:ベンゲット国立大学農業研修所にて円卓会議     2日目:農場の現場視察 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン_(_sgraphil@gmail.com_) 〇セミナーの概要 SGRAフィリピンが開催する21回目の持続可能な共有型成長セミナー。今回は、アジア未来会議から習った新しい形式で開催する。SGRAフィリピンの運営委員でもある、フィリピン政府農業省のJane_Toribio博士の研究調査の現場である、ベンゲット州(マニラ市から北へ車で約6時間の山岳地帯)を会場とし、1日目は関係者の円卓会議を、2日目は現場視察を予定している。 これからのマニラ・セミナーは、今まで続けてきた「持続可能な共有型成長」というテーマにさらに集中し、効率・公平・環境の3側面(3K)を重視している委員たちの研究・アドボカシーのみを扱いたい。従来は絨毯爆撃(carpet_bombing)方式の「なんでもあり」というやり方で、課題に命中しないことが多かったが、今後は精密打撃(surgical_strike)方式で展開する。今回は、持続可能な農業という3Kの研究・アドボカシーである。お時間のある方、ぜひご参加ください。 〇プログラム 1日目:1月6日(金) 発表1(09:45~10:15)「ベンゲット州における有機農業の実践と経験」 発表者:Jeffrey_Sotero 発表2(10:15~10:45)「ベンゲット州における苺農業」 発表者:Felicitas_Dosdos 発表3(10:45~11:15)「ベンゲット州における被災のリスク低減や管理」 発表者:Atty._Roberto_Canuto、Winston_Palaez、Erick_Abangley 発表4(11:15~11:45)未定 質疑応答 円卓会議(13:30~17:00) モデレーター:Dr. Max Maquito 討論者:午前の発表者 2日目:1月7日(土) 08:00:バギオ市のR. Salda市長へ挨拶 08:30:Bahongの花畑と農園の視察 10:00:苺農園の視察 12:00:有機農業の食事 13:30: マニラへ向かいながら観光 英文の案内は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/12/KKK21InviteJan2017.pdf ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Xie_Zhihai “Young People Have Left Away From XXX”

    ****************************************************************************** SGRAかわらばん69号(2016年12月2日) 【1】エッセイ:謝志海「インターネットと若者の◯◯離れ」 【2】寄贈本紹介:フスレ編「国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争」 【3】寄贈本紹介:フスレ編「日モ関係の歴史、現状と展望」 ****************************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#512 ◆謝志海「インターネットと若者の◯◯離れ」 最近よく耳にするフレーズ「若者の◯◯離れ」。◯◯の中には酒、車、タバコなどが入るそうだが、私がこの事についてかわらばんに書こうと決めた後にも、若者が離れていったというものに続々と出会う。テレビ離れ、本と本屋離れになんとガム離れまで。 先日の週末は映画館に新作のハリウッド映画を観に行った。この映画はシリーズ作の第4弾。8月には俳優陣もプロモーションで来日していて、私は期待して観に行った。内容は、現代の世相が反映されていて最初から最後まで退屈なシーンなどなかった。高揚した気分のまま映画が終わり、劇場内にライトがついた。観客がゾロゾロ出口に向かう。そこで私は驚愕した。「若者がいない」。探したが、大学生らしき人はいなかった。中高生は無論いない。来館者の全てが40~50代もしくはシニア層。若者の◯◯離れを肌で体感した瞬間だった。しかし冷静に考えれば、私が通うこの映画館ではこれまでどの曜日、時間帯に行っても若者が少なかった。大学生が一番映画館に足を運ぶ時間があると思い込んでいたが、現実は大きく違うようだ。 では色々な物から離れた若者はどこにいるのだろうか。酒造、自動車、出版、製菓メーカー等、若者に去ってゆかれた業界は彼等をもう一度振り返らせることに必死だろう。そして、若者はスマートフォンを通じインターネット上にいるのだろうと薄々察しがつく。 ヤフージャパンのニュース記事によると、若者のガム離れの原因もスマートフォンの普及だそうで、電車に乗っている退屈な時間に噛まれていたガムがスマートフォンのおかげで売れなくなったそうだ。本屋離れにしたって、スマートフォンで説明がついてしまう。インターネット上にあふれる無数の情報や読み物。わざわざ本を購入しなくとも、単純に読むもの(情報)は簡単に手に入る。どうしても本として読みたければ、オンラインショッピングでポチっとすれば、家に届く。本の中でも特に雑誌が売れないとテレビニュースが取り上げていたが、確かに電車の中で雑誌を読んでいる人は本当に少ないというか、久しく見かけていない。今はアプリをダウンロードして、月に数百円の定期購読代を払えば、そのアプリ上の様々なジャンルの雑誌がいつでも読み放題の時代。広告だらけの重い雑誌を持ち歩かずにすむ。 「若者の◯◯離れ」の大方はスマートフォンの普及ということで説明がついてしまうのではないか。スマートフォンの製造メーカー、アプリ、ソーシャルネットワーク、通信メーカーといったインターネットで商売する業界は、集まって来る若者を逃すまいとこちらも必死だろう。日々様々なアプリが誕生し、ソーシャルゲームは次々と更新され、ソーシャルネットワークには色んな機能が追加される。私には到底ついていけないのだが、若者はこういった新情報にも敏感である。 所変わって、中国の事情。特に若者が離れていくという現象は見られないものの、日本で起きている状況とおおむね代わりはない。中国はもう世代を問わずスマートフォンに夢中という感じだ。中国本土では未だにYouTube、Facebook、Gmailはアクセス出来ないが、そんなことどこ吹く風。スマートフォンの用途は日本より多岐に渡っていると言っても過言ではない。代表的なのはモバイル決済。最近よく耳にするフィンテック(Fintech)。例えば、中国ではアリババのアリペイ(Alipay)等のモバイルオンライン決済。これに関しては、日本はアメリカや中国に大きく遅れを取っている。そしてこのモバイル決済が発達しているがゆえに日本よりも早く普及しているビジネスが配車サービスである。代表的なメーカー、ウーバー(Uber)はタクシーの捕まりにくい北京や上海ではすでに人気のサービスである。中国の若者にとってもスマートフォンは生活に欠かせない存在となっている。 すでに若者離れを痛感している企業にとっては、自社の製品とインターネットをどう融合させるかがキーポイントとなるだろう。すでに様々なメーカーがテレビコマーシャルだけでなく、動画配信サイト上にもコマーシャルを流している。また、製品専用のアプリを作り、消費者同士がそのアプリ上で交流出来る仕組みを作ったり、ポイントを貯めて使えるシステムを構築したり、企業のウェブサイトやアプリ上で消費者が何かとお得に感じられるように企業側も必死だ。こうしてインターネットの世界は無限に広がっていく。 <謝志海(しゃ・しかい)Xie_Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 ------------------------------------------------------------- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員のフスレさんより編書を2冊ご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆ボルジギン・フスレ編「国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争」 北東アジア地域をめぐる諸国の力関係、軍事秩序、地政学的特徴、開戦及び停戦にいたるまでのプロセス、ハルハ河・フルンボイル地域における民族などに焦点をあて、最新の研究成果をもとに、各国の研究者がお互いの間を隔てている壁を乗りこえて、共有しうる史料に基づいて歴史の真相を検証。 発行所:三元社 発行日:2016年3月25日 A5判上製/340頁 ISBN978-4-88303-401-7 定価=本体 3,800円+税 詳細は下記リンクからご覧ください。 http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/401.htm 【3】寄贈本紹介 ◆ボルジギン・フスレ編「日モ関係の歴史、現状と展望:21世紀東アジア新秩序の構築にむけて」 戦後、日本と東アジア諸国との関係史の研究は、東アジア関係を、日中、日韓、ないし日台関係の枠組みでのみとらえてきた。日本とモンゴルは、どのように歴史的対立を乗り越えて、友好関係を築くことができたかという視点が欠落したままで今日に至っている。国際関係の歴史的連続性から多角的に日モ関係を把握することは、まさに注目すべき課題として残されている。 発行所:国際シンポジウム「日モ関係の歴史、現状と展望」実行委員会 発行日:2016年2月28日 製作所:風響社 ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Sun Junyue “SGRA China Forum#10@AFC Report”

    ******************************************************************************* SGRAかわらばん648号(2016年11月24日) 【1】孫軍悦「第10回チャイナ・フォーラム『東アジア広域文化史の試み』報告」 【2】今西淳子「円卓会議『日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性』報告」 【3】寄贈本紹介「万博と沖縄返還-1970年前後(ひとびとの精神史第5巻)」 ******************************************************************************* 【1】第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#7 ◆孫軍悦「第10回チャイナ・フォーラム『東アジア広域文化史の試み』@アジア未来会議報告」 公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会は、2014年と2015年に清華東亜文化講座の協力を得て、中国在住の日本文学や文化の研究者を対象に、2回のSGRAチャイナ・フォーラムを開催した。2014年の会議では、東京藝術大学の佐藤道信教授が、19世紀以降の華夷秩序の崩壊と東アジア世界の分裂という歴史的背景の下で創られた東アジアの美術史は、美術の歴史的な交流と発展の実態を反映しない一国美術史にすぎないという問題を提起し、一国史観を脱却した真の「東アジア美術史」の構築こそ、東アジアが近代を超克できるか否かの重要な試金石であると指摘した。一方、2015年のフォーラムでは、国際日本文化研究センターの劉建輝教授が、古代の交流史と対比して「抗争史」の側面が強調されがちな近代においても、日中韓三国の間に多彩多様な文化的交流が展開されており、古来の文化圏と違う形で西洋受容を中心とする一つの近代文化圏を形成していたことを明らかにした。 今回は、過去2回のフォーラムの報告者とコメンテーターを討論者として招き、塚本麿充氏(東京大学)と孫建軍氏(北京大学)による二本の報告を基に、今後、東アジアにおける広域文化史の試みをいかに推進していくべきかについて活発な議論を繰り広げた。 まず、塚本氏の報告「境界と国籍―“美術”作品をめぐる社会との対話―」は、日本に伝来した中国・朝鮮絵画や福建、広東など中国の地方様式や琉球絵画といったマージナルな地域で生み出された作品を取り上げ、「国家」という大きな物語に到底収斂され得ない、まさに交流を通して境界で育まれた豊饒な「モノ」の世界を開示してくれた。 孫建軍氏の報告「日中外交文書に見られる漢字語彙の近代」は、1871年に日中間で調印された最初の外交条約「日清修好条規」から1972年の「日中共同声明」までの100年間の外交文書を対象に、日中語彙交流の見地から漢字語彙の使用状況、とりわけ同形語の変遷を考察し、日本語から新漢字を輸入することによって、古い漢字語彙から近代語へと変わっていく現代中国語の形成過程の一端を浮き彫りにした。 前者は、国家の物語に回収され得ない大量な歴史的事象の存在を突きつけることによって、後者は、この国ならではの均質、単一な価値を付与されたものの起源の雑種性を証明することによって、それぞれ、外側と内側から国民国家の文化的同一性の虚構を突き破る報告となった。 討論では、佐藤道信氏はまず、中国大陸や台湾、アメリカ、また関西と関東の様々な「中国絵画」コレクションに接していた塚本氏の多文化体験に言及し、一国美術史に位置付けられない「モノ」の価値を見出す彼ならではの「鑑賞眼」の養われた背景を説明してくれた。その上、国家の呪縛から解き放たれた後の膨大な「モノ」の世界をいかに整理し、その歴史をどのように語り得るか、という新たな困難な課題を提示し、一国美術史に慣れ親しんだ我々自身の感受性の変革と歴史叙述の創造力が問われていることを示唆してくれた。 稲賀繁美氏(国際日本文化研究センター)は、交易のプロセスに組み込まれた美術品の制作が、最初から享受する者の美意識や趣味、要求を取り入れている事実に注目し、一つの価値体系もしくは「本質」が備わっているとする「一国美術史」の想定自体が単純すぎるのではないかという疑問を呈した。同じ歴史観を共有することは困難だが、異なる歴史観があるという意識の共有は可能だという言葉が、とりわけ印象的であった。 木田拓也氏(国立近代美術館)は、日本で親しまれ、楽しまれている茶碗が中国に持っていくと、その美が全く認識されないという例をあげながら、他国、他地域の人々と共有しない美意識、価値観の存在もまた厳然たる事実であることを指摘した。「一国美術史」は単に国民国家歴史観の反映ではなく、むしろ国民国家の文化的同一性を創出する装置として、このような均一の価値観や美意識乃至身体性を常に作り続けていることを、木田氏の発言によって改めて意識させられるのである。 趙京華氏と董炳月氏(社会科学院文学研究所)は、魯迅による浮世絵のコレクションを整理し書籍化する過程において、そのコレクションが、「浮世絵」ではないという錯覚すら与えるほど、「浮世絵」に対する我々の常識を揺るがす特異性を持っていることを紹介した。このような書籍の出版自体が、すでに広域文化史の構築へ向けての一つの実践だと言えよう。 林少陽氏(東京大学)も、「中間地域」で育まれた豊饒な「モノ」の世界に注目する塚本氏と同じ関心を共有し、「中間地域」の発見が、日本の一国美術史を相対化することができるだけでなく、中国美術史の一国中心主義的歴史叙述への再検討にもつながると述べた。 一方、孫建軍氏の報告に対し、外交文書を単に言語のデーターベースとして取り扱う方法の妥当性が問われ、具体的な歴史的背景や使用者の現実的状況、外交文書の特殊的性格などを考慮に入れると、言語使用のより豊かで複雑な相貌が浮かび上がってくるのではないかというコメントが多く寄せられた。 様々な専門分野の研究者による多岐にわたるコメントの焦点を明確に示してくれたのはむしろフロアとの短い対話であった。明石康氏(元国際連合事務次長)は、国境を前提とする外交や国際政治の領域と異なり、文化領域こそ「国境」の人為性を相対化することができ、今回のフォーラムに大いに啓発されたと述べた。そして、葛兆光氏(復旦大学)は、国民国家がその成立した瞬間から、つねに自らの文化的同一性を作り続けていて、その文化的アイデンティティの形成の歴史と、その結果としての均質的、同一的文化、価値の存在を決して無視できないことを指摘した。これに対し、劉建輝氏(国際日本文化研究センター)は、このような文化的同一性は決して古くから自然に形成されたものでなく、人為的作為の産物にほかならないこともまた忘れてはならないと敷衍した。古代と近代の東アジア文化交渉史に関する実証的研究を積み重ねてきたお二人の発言から、歴史的に構築された一国文化史の重みと、多彩な交流を包括する広域文化史への確信がひしひしと感じられた。 今回のフォーラムを通して、多様性と雑種性をも巧みに「国民性」や「国民文化の伝統」に回収する「一国文化史」が今日もなお国民国家の文化的同一性を創出する装置として機能し続けている状況において、「一国文化史」に強く規定され続けてきた我々自身の感受性や価値観、思考様式乃至歴史叙述の言語そのものに抗しながら、新たな広域文化史を紡ぎ出すことの可能性と課題の双方が鮮明に浮かび上がってきたと言えよう。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/ChinaForum10_photos.pdf <孫_軍悦(そん・ぐんえつ)Sun_Junyue> 2007年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。学術博士。現在、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部専任講師。専門分野は日本近現代文学、日中比較文学、翻訳論。 ------------------------------------------------------------- 【2】第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#8 ◆今西淳子「円卓会議『日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性』報告」 2016年9月30日(金)午前9時から12時30分まで、北九州国際会議場の国際会議室で、円卓会議「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」が開催され、日本、中国、韓国から歴史研究者が集まり活発な議論が交わされた。88人が定員の会場は満席で、人々の関心の高さが示された。 最初に早稲田大学の劉傑(Liu_Jie)教授が、問題提起の中で「なぜ『国史たち』の対話なのか」「『国史』から『歴史』へ」「対話できる『国史』研究者を育成すること」と題して、最近の10数年間の日本・中国・韓国の「歴史認識問題」をめぐる対話の成果、また留学生の増加と大学の国際化に伴う「国史」から「歴史」への変化を認めながらも、「国史たち」の対話をより実質的なものにするために、現在の研究者同士の交流をさらに進めると同時に、10年後、或いは20年後に本格的な国史対話が行えるような環境を整備することが重要であると指摘した。 次に、高麗大学の趙珖(Cho_Kwang)名誉教授は、東北アジアの歴史問題は自民族中心主義と国家主義的な傾向に由来するとし、韓国で近来編集された学校教科書、学会の日本関係史、中国関係史の叙述について分析した。(1)「前近代中国に対する叙述」では、高句麗史をめぐる混乱を通じて「華夷意識」に言及、また、(2)「前近代日本に対する叙述」の結論においては「全体的に(韓国の)教科書でみる前近代日本は、文化後進国として(朝鮮の)先進文化の受益者、そして侵略者としての姿である。これは一面的には妥当だが、正確ではない。日本を一つのまともな関係主体として見做さない国史教科書の認識は、韓国をめぐる現在の様々な難題を解決し、正しい韓日関係を作るのに役立つとは思えない」と主張した。 そして、(3)「近代東アジアに対する叙述」では、19世紀以後の東アジアは、一国の状況のみで自国史を述べること自体が不可能であるほどに三国の歴史が絡み合っているのに、韓国近現代史の教科書に中国と日本の近現代史に関する内容が殆ど出てこないこと、朝鮮戦争の場合でさえ、内部政治や経済や社会に関する説明が溢れ、参戦した各国の論理が紹介されていないことを指摘、近現代史の場合、中国史のみならず、日本史と連結して説明することによって脈絡を理解できるようになる、自分を読むことも重要な仕事であるが、如何に他人を読めばよいかという問題も重要である、と結んだ。 復旦大学の葛兆光(Ge_Zhaoguang)教授は、蒙古襲来(1274、1281)、応永の役(1419)、壬申丁酉の役(1592、1597)を例にして、国別史と東アジア史の差異を論じた。 一国史の視点から見ると、ひとつの円心の中心部は明晰でありながらも、周辺部はぼやけてしまう。もしいくつかの円心があれば、幾つかの歴史圏が形成され、それが重なる部分がでてくる。東アジア史を語る場合、この歴史圏の重なる部分を浮き彫りにする必要がある。たとえば蒙古襲来によって、日本が初めて「神国」と思われるようになり、日本文化の独立の端緒が開かれ、中国の「華夷秩序」から離脱したと日本史には記述される。ところが高麗は蒙古化され、蒙古人が日本に侵略する際、その前線基地になった。一方、中国では蒙古/元朝は「自国史」と見なされ、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外で起こったこととされる。東アジア全体の視野で見れば、蒙元の日本侵略(または高麗を従属国にすること)は、東アジアの政治局面のみならず文化的にも各国の自我意識を喚起し、東アジアの「中国中心」の風潮が次第に変わっていくきっかけとなったと解釈できる。 同様に、応永の役の発生及び解決は、その後数百年の東アジア国際関係を安定へと導いた。壬辰の役は、それまでの安定した東アジア国際関係を大きく揺らし、その後の東アジアが共有していたアイデンティティの崩壊の伏線を引いたが、当時はこの事件も速やかに収まり、東アジアのバランスのとれた局面は、19世紀に西洋諸国が武力を背景に東洋に進出するまで続いた。しかし、中国の歴史では、蒙元の日本侵略と高麗支配は、ただ蒙古人の世界支配の野心の現れに過ぎず、朝鮮の対馬への侵攻も隣国同士の紛争、壬辰の役に到ると、日本は侵略者であり、中国は朝鮮の国際的な友人として、両国が手を携えて日本侵略軍を打ち負かしたと明言する。もし歴史学者が東アジア史の視野をもって見直したら、新しい認識がでてくるのではないかと論じた。 東京大学の三谷博名誉教授は、国史たちの対話を促進するために、(1)日本における高校歴史教育課程の改訂について報告し、(2)日本史教科書の中の世界・東アジア記述の問題点を指摘した。 日本の高校では「歴史総合」が必修教科となる予定である。「歴史総合」は、(a)世界史と日本史を融合させ、(b)近代史に絞り、(c)アクティブ・ラーニングを推奨する点に特徴がある。しかしながら、このような動向に、学会や教育会が協力するかどうかは未だ明らかではない。日本史の研究と教育において、つい最近生じた隣国との関係悪化は、東アジアの中に日本を位置づけるという研究動向に冷水を注いだ。内外から押し寄せる政治圧力を超えて、長期的に有意味な展開ができるか予断を許さないと述べた。また、長期的には(3)互いに隣国の国内史を学ぶ必要を強調した。日中韓3国の知識人たちの欧米への関心の高さと、隣国への無関心との対照に深い懸念を抱き、国際関係だけでなく、まず相手の国がどんな文脈を持っているかを知らなくてはいけない、隣国の歴史をわかったつもりにならず、互いに虚心に学び合う、それが「国史たちの対話」の究極の課題であると結んだ。 韓国、中国、日本の歴史の大家の大局的な講演に続いて、6名の中堅若手の研究者からコメントがあった。 北九州市立大学の八百啓介教授は、先ず近代史における対欧米関係と東アジアの視点との比重についての中韓日の相違点を指摘して論点整理を試みるとともに、東アジアの国民国家としての日中韓の立場の相違、前近代東アジア史を国民国家の視点を離れて見直すことによって近代東アジアの国民国家を検証する可能性と必要性を指摘した。 北海道大学の橋本雄准教授は、1402年に執り行われた足利義満による明使接見儀礼を復元し、いかに義満が、明使への配慮や敬意を表しながら、自尊意識を満足させる儀礼に換骨奪胎していたかを詳しく説明した。日本史を描く場合に対外関係史の成果を衍用することは不可欠だが、ただ単に外国史の文脈をナイーヴに読み込めばよいというものではない。双方の文脈に注意しながら各国史料を実証的に突き合わせ、冷静な判断をしていかないと「国史」が偏ったものになってしまうだろう、と指摘した。 早稲田大学の松田麻美子氏は、「中国の教科書に描かれた日本:教育の『革命史観』から『文明史観』への転換」というタイトルで、中国の歴史教科書の変化について報告したが、習近平政権成立後は揺り戻しもおきていると指摘した。 復旦大学の徐静波教授は、東アジアの歴史を正しく認識する際、自国の立場に拘泥せずに、もっと広い視野で見る必要があり、または自国の資料だけでなく、出来るだけ各国の歴史資料や考古学の成果を利用して客観的に考察する必要があると指摘した。 高麗大学の鄭淳一氏は、「国史たちの対話」の進展のためには、これまで行われてきた官民レベルの歴史対話の事例をちゃんと調べ、「国史たちの対話」プロジェクトとの共通点、相違点を分析し、生産的な課題を引き出していくことが大事であると指摘。また、高校生・大学生レベルでの「対話」あるいは学術交流も視野に入れた若手研究者同士の交流を促進する方法、韓国の高校『東アジア史』の経験を参考にして東アジアにおける「国史」の叙述方式を皆で考える必要があると提案した。 高麗大学の金キョンテ氏は、共通の歴史的事件に関する用語をどう決めるのかという問題をとりあげ、「壬辰倭乱」ではなく「壬辰戦争」という用語がいいと思うが、「韓国の情緒にはまだ早い」という反論があると紹介した。また、「国史教科書」と「国史研究」が持つべき目標は「自信」と「誇り」であったが、それはもう有効な目標ではなく、各国の政治的、歴史的な特徴が反映されなければならないと指摘した。 円卓会議「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)が、2013年3月にバンコクで開催した第1回アジア未来会議中の円卓会議「グローバル時代の日本研究の現状と課題」をかわきりに検討を重ね、2015年7月に東京で開催したフォーラム「日本研究の新しいパラダイムを求めて」で、早稲田大学の劉傑教授によって提案された「アジアの公共知としての日本研究」を創設するための提案を受けて発展させたものである。本会議は、これから5回は続けるプロジェクトの初回として、第3回アジア未来会議の中で開催された。今後は、テーマを絞りながら、日本人の日本史研究者、中国人の中国史研究者、韓国人の韓国史研究者の対話と交流の場を提供していく予定である。 本プロジェクトのひとつの特徴は言葉の問題である。本会議では、下記6名によって同時通訳が行われた。【日本語⇔中国語】丁莉(北京大学)、宋剛(北京外国語大学)【日本語⇔韓国語】金範洙(東京学芸大学)、李へり(韓国外国語大学)【中国語⇔韓国語】李麗秋(北京外国語大学)、孫興起(北京外国語大学)。今後もできるだけ同じメンバーで続けていきたい。 本会議の講演録は、SGRAレポートに纏め、日本語版、中国語版、韓国語版を発行する予定である。 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/Kokushi_roundtable_photos.pdf <今西淳子(いまにし・じゅんこ)Junko_Imanishi> 学習院大学文学部卒。コロンビア大学大学院美術史考古学学科修士。1994年に家族で設立した(公財)渥美国際交流財団に設立時から常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく、知日派外国人研究者のネットワークの構築を目指す。2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立し代表を務める。また、1997年より異文化理解と平和教育のグローバル組織CISVの運営に加わり、現在(公社)CISV日本協会常務理事。 ------------------------------------------------------------- 【3】寄贈本紹介 SGRA会員の南衣映さんより共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆吉見俊哉編「万博と沖縄返還-1970年前後(ひとびとの精神史第5巻)」 戦後復興と高度経済成長のピークを象徴した大阪万博.一方,本土に返還された沖縄では,米軍基地の固定化が決定づけられ,本土とは別の「戦後」を歩むこととなった.矛盾と差別が周縁に押し付けられる中,それに抗う声が立ち上がる.山本義隆,岡本太郎,三島由紀夫,比嘉康雄と東松照明,川本輝夫,田中美津ほかを取り上げる. 岩波書店 体裁=四六判・並製・336頁 定価(本体 2,500円 + 税) 2015年11月25日 ISBN978-4-00-028805-7 C0336 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/9/0288050.html ************************************************** ★☆★SGRAカレンダー ◇第16回日韓アジア未来フォーラム@EACJS国際学術大会(12月1日仁川)   「日中韓の国際開発協力:新たなアジア型モデルの模索」<参加者募集中>    http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/asia/2016/7672/ ◇第55回SGRAフォーラム@EACJS国際学術大会(12月1日仁川)   「戦後日本の平和論:戦後日本の平和テキストを読む」<参加者募集中>    http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2016/7679/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Invitation to SGRA Forums at the First EACJS Meeting

    **************************************************************************** SGRAかわらばん647号(2016年11月17日) 【1】第16回日韓アジア未来フォーラム@EACJS国際学術大会へのお誘い   「日中韓の国際開発協力:新たなアジア型モデルの模索」(12月1日仁川) 【2】第55回SGRAフォーラム@EACJS国際学術大会へのお誘い   「戦後日本の平和論:戦後日本の平和テキストを読む」(12月1日仁川) 【3】SGRAレポート第77号紹介   「これからの日韓の国際開発協力:共進化アーキテクチャの模索」 **************************************************************************** 2015年7月に東京で開催した第49回SGRAフォーラム「日本研究の新しいパラダイムを求めて」で、ソウル大学日本研究所の朴喆熙教授が提唱された東アジア日本研究者協議会(EACJS)がいよいよ発足し、第一回国際学術大会が11月30日~12月2日に韓国仁川市ソンドで開催されます。この大会においてSGRAが開催する2つのセッションをご案内します。参加ご希望の方は、SGRA事務局へご連絡ください。 東アジア日本研究者協議会についての詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.eacjs.org/ ------------------------------------------ 【1】第16回日韓アジア未来フォーラム@EACJS国際学術大会へのお誘い テーマ:「日中韓の国際開発協力:新たなアジア型モデルの模索」 日 時: 2016年12月1日(木)午前10時50分~午後12時20分 会 場:韓国仁川松島コンベンシア(Songdo_Convensia) 主 催:(財)未来人力研究院(韓国) 共 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp ◇フォーラムの趣旨 日本には、経済発展と省エネルギー・環境の両立、防災、高齢化社会対応など課題先進国ならではの技術と知識、それに経験がある。圧縮成長を成し遂げ、さらに経済危機を乗り越えてきた韓国の経験もアジア地域における将来の発展に貴重な手掛かりを提供すると期待されている。近年は中国も、急速に援助量を増加させており、国際世論を意識しながら対外援助をさらに充実させようとしている。今後日中韓は、これらの知的資産を活用しながら、三ヶ国の切磋琢磨を通じて、質量ともに開発援助の向上を図るべきであろう。 本フォーラムでは、日中韓が協力し、競争し合いながら、ともに進化し、開発協力の「アジアモデル」とでもいえるようなアーキテクチャを創り上げる可能性も視野に入れながら、議論を展開したい。今回は、2016年2月に東京で開催された第15回日韓アジア未来フォーラム「これからの日韓の国際開発協力:共進化アーキテクチャの模索」、2016年10月1日に北九州で開催された第3回アジア未来会議の自主セッション「アジア型開発協力の在り方を探る」における議論を受け、日韓に中国を含めて東アジアの開発援助のあり方を考える。日韓同時通訳付き。 ◇プログラム 司会:金 雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学科教授) 開会の辞:今西淳子(いまにし・じゅんこ、渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表) 【報告1】「中国的ODAの展開:レシピエントの視点」      李 恩民(リ・エンミン、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群教授) 【報告2】「開発協力に対するアジア的モデルの可能性の模索:北東アジア供与国間の収斂と分化」      孫 赫相(ソン・ヒョクサン、慶熙大学公共大学院院長・韓国国際開発協力学会会長) 【ミニ報告及び討論1】「日中両国の対外開発協力に関する比較研究」(仮題)      李 鋼哲(り・こうてつ、北陸大学未来創造学部教授) 【討論2】金 泰均(キム・テギュン、ソウル大学国際大学院教授) 【自由討論】渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究者 【閉会の辞】徐 載鎭(ソ・ゼジン、未来人力研究院院長) ◇プログラムは下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/nikkan16programJ.pdf ------------------------------------------ 【2】第55回SGRAフォーラム@EACJS国際学術大会へのお誘い テーマ:「戦後日本の平和論:戦後日本の平和テキストを読む」 日 時: 2016年12月1日(木)午後1時30分~午後3時 会 場:韓国仁川松島コンベンシア(Songdo Convensia) 主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 言 語:日本語 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp ◇フォーラムの趣旨 本セミナーは、先夏の7月16日(土)、東京国際フォーラムで開催された「今、再び平和について:平和のための東アジア知識人連帯を考える」と題する第51回SGRAフォーラムの後続プログラムとして企画された。同フォーラムの総合討論を通じて参加者たちは、東アジアの各地域にはそれぞれ異なる特殊な政治状況に置かれながらも、理念の違いや国の境を超えて訴えることのある「平和テキスト」があることを再発見し、これをこの地域の知識人が共同で読むことにより、平和の理想を現実政治の指針として蘇らせることができるとの認識を共有するに至った。その議論を受け、本フォーラムが生まれたのである。 平和でない現実の中で平和を想像することを止めないこと。そのため、東アジアの平和テキストを一緒に読んでいくこと。これが、この地域の研究者たちが「知識人」としての役割を自認し「平和」のため連帯をするため、今求められていることである。 その折に、韓国仁川の松島(ソンド)で、東アジア日本研究者協議会が発足し、その第一回目の国際学術大会が開かれることになった。上記フォーラムを開催したSGRA「安全保障と世界平和」チームは、この学術大会に参加し、東アジアの日本研究者たちが集まり、冷戦期、脱冷戦期、3.11後の日本において鋭く「平和」を説いた三つのテキストを読むことにした。 ◇プログラム 司会:李 来賛(リ・ネチャン、韓国・漢城大学) 【報告1】都築 勉(つづき・つとむ、日本・信州大学)      「鶴見俊輔の戦争と平和−−『転向研究』を読む」 【報告2】朴 榮濬(パク・ヨンジュン、韓国・国防大学校)      「脱冷戦期、現実主義者の平和構想−−田中明彦の『新しい中世』を読む」 【報告3】霍 士富(かく・しふ、中国・西安交通大学)      「歴史叙述と現実記述とのジレンマ−−大江健三郎『晩年様式集』を読む」 ◇討論者 趙 寛子(チョウ・クァンジャ、韓国・ソウル大学) 南 基正(ナム・キジョン、韓国・ソウル大学) 徐 東周(ソ・トンジュ、韓国・ソウル大学) ◇プログラムは下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/SGRA_Forum_55_Program.pdf ------------------------------------------ 【3】SGRAレポート紹介 SGRAレポート第77号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。冊子本は今月中にSGRA賛助会員と特別会員の皆様にお送りいたします。 ◆SGRAレポート第77号「これからの日韓の国際開発協力:共進化アーキテクチャの模索」   (第15回日韓アジア未来フォーラム講演録)   2016年11月10日発行 SGRAレポート77号(本文) http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report77light2.pdf SGRAレポート77号(表紙) http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/sgra_no77cover.pdf ◇もくじ はじめに:金 雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) 【講演1】「韓国の学者たちがみた日本のODA」 孫 赫相(ソン・ヒョクサン:慶熙大学公共大学院教授・韓国国際開発協力学会会長) 【講演2】「韓国の開発経験とODA戦略」 深川由起子(早稲田大学政治経済学術院教授) 【ミニ報告1】「日本のODAを振り返る-韓国のODAを念頭においた日本のODAの概括-」 平川 均(国士舘大学教授・名古屋大学名誉教授) 【ミニ報告2】「日本の共有型成長DNAの追跡-開発資金の観点から-」 フェルディナンド・C・マキト(テンプル大学ジャパン講師) 【自由討論】 モデレーター:金 雄煕 パネリスト:上記講演者、報告者及び下記の専門家  園部哲史(政策研究大学院教授)  広田幸紀(JICAチーフエコノミスト)  張ヒョンシク(チャン・ヒョンシク:ソウル大学行政大学院招聘教授・前KOICA企画戦略理事)  その他 渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究者 ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • NUMATA Sadaaki ”Fresh Air Breathed into the Asia Future Conference”

    ************************************************************************************* SGRAかわらばん645号(2016年11月10日) 【1】SGRAエッセイ:沼田貞昭「アジア未来会議-新しい息吹き」 【2】寄贈本紹介:羅仁淑編「陶工 李参平 日本陶磁器の神」(韓国語) 【3】SGRAレポート紹介:「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて-」(デジタル版) ************************************************************************************* 【1】SGRAエッセイ#511(第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#6) ◆沼田貞昭「アジア未来会議-新しい息吹き」 筆者は、北九州市で9月30日−10月1日に開催された公益財団法人渥美国際交流財団主催第3回アジア未来会議に参加した。2013年3月にバンコックで開かれた第1回会議、2014年8月バリ島で開かれた第2回会議にも参加した。400名の参加者が熱心に議論を交わし合う姿を目の当たりにして、渥美奨学金により日本で博士号を取得した人々を中核とするアジアおよび他の地域の知的ネットワークが、今やインドネシアなどの若い学生・研究者の新しい息吹もあって着実に拡大していることを心強く思った。以下、筆者の参加したセッションについての感想を記す。 ◇9月30日午前 AFC_Forum_#2「東南アジアの変わりつつある社会環境に対する宗教の反応」 (1)筆者は、1976−78年スハルト「新秩序」の軍の二重機能の下で政治勢力としてのイスラームの影響力は限られていたインドネシアに在勤し、2000年−2002年には駐パキスタン大使として、近代的穏健イスラーム国家を標榜しながらも急進イスラームの勢力伸張に伴う深刻な不安定要因を抱えた9.11事件前後のパキスタンの姿に接していた。このような経験に鑑み、「1998年後のインドネシアにおける民主主義のデイレンマ:一層の自由は宗教間の対立が深まることを意味するのか、対話が進むことを意味するのか?」とのガジャマダ大学ムンジッド・アハマッド氏の発表は極めて興味深いものだった。 今日のインドネシアは、スハルト・ファミリー及び軍部の強権的支配の崩壊後、政治の民主化、地方分権化が進みつつあること、また、経済成長が進み「イスラーム大国」に変貌しつつあること、民主主義の進展と自由の拡大が異宗教間の対話を進める契機となり得ることなど、筆者にとって学ぶことは多かった。なかんずく、アハマッド氏他インドネシアからの参加者が、自国の抱える問題を闊達に議論していたことが印象的だった。と同時に、インドネシアと比較すると、ムシャラフ政権の崩壊により軍部支配は一応終わったとは言っても、民主化の進展にはまだまだ障壁が残り、多種多様な人種・地域からなる国家を統一するシンボルとしてのイスラームのあり方が急進派と穏健派の間で激しい対立抗争を呼んでいるパキスタンは、何時イスラーム国家として安定するのだろうかとの疑問を禁じ得なかった。 (2)続いて「フィリピンにおける気候変動とカトリックの反応」(アテネオ・デ・マニラ大学ジャイール・セラノ・コルネリオ氏発表)をめぐる討論で、気候変動のもたらす環境破壊、災害の被害者である貧者に対するカトリック教会の取り組みに見られる社会的宗教的正義の問題が取り上げられた。タイの教育関係NGO代表ヴィチャク・パニク氏は、「人道に反する仏教:愛とか親切心ではないもの」と題する発表で、仏教がナショナリズムの一部ないしは支配階級の政治的道具として使われる場合には、人命をも脅かす強圧的なものになりうる危険を指摘した。フランスの現代東南アジア研究所カリヌ・ジャケ氏は、「宗教と救援活動:ミャンマーにおける宗教関係団体と社会的貢献の役割」と題する発表において、ミャンマーの辺境地域などの自然災害被害者に対する仏教団体、キリスト教団体の救援活動を通じて、国家が十分に果たし得ない救援などの社会貢献活動ネットワークが広がって行く可能性を指摘した。 (3)セッションを総括したエリック・クリストファー・シッケタンツ氏(東京大学)は、宗教が民族ないし国家のアイデンティティを誇示する手段として使われる時に政治的対立がしばしば生じるが、宗教が政治的対立に巻き込まれないようにして行くにはどうしたら良いか、また、地域ないし国家のアイデンティティを超えて宗教が果たし得る役割にはどのようなものがあるかを考える必要があると指摘した。 (4)以上の討論を聞いていて、筆者は、アジア各国における多様な宗教状況についてこのような議論を聞く機会は日本国内では極めて少なく、インドネシアにおけるイスラーム、フィリピンにおけるカトリック、タイ及びミャンマーにおける仏教がそれぞれ果たしている役割及び抱えている問題についての日本の一般国民の理解は皮相なものにとどまっており、この日の討論のような内容を日本国内で広めていくことが必要であると感じた。 ◇10月1日午前「平和」分科会(2) 筆者がミラ・ゾンターク立教大学教授とともに共同議長を務めた本分科会では、多民族・多文化社会であるインドネシアと平和国家を目指す日本の直面する問題に関してそれぞれ2つの発表が行われた。 (1)インドネシア 〇「宗教的シンボルの無い教会」(バンジャルマシン宗教・社会研究所シリ・タラウィヤ氏) 南カリマンタン州首都バンジャルマシンのイスラーム社会の中に存在する少数のキリスト教ベテル派信者と周辺住民との間に、信者の集まりに伴うゴスペル等の騒音、駐車問題等を巡り摩擦が生じ、ベテル派追放の動きもあったが、イスラーム系住民の中にも共存しようと努める向きもある。他方、地方政府当局の硬直的介入がかえって事態を混乱させている。 〇「モルッカ諸島におけるサニリ(伝統的合議体)を通じる紛争解決及び環境保存」(ジョグジャカルタ大学スハルノ講師) 中央政府がインドネシア全土にわたって「村」という同一の行政単位を広めようとして来たのに対し、モルッカ諸島では、伝統的な合議体であるサニリが例えば漁業資源の有効利用、保存といった問題について調整機能を発揮している。1999年のアンボンにおけるイスラーム系住民とクリスチャンの流血の対立への政府・公的機関の無為な対応ぶりは、サニリという「土地の知恵(local_wisdom)」への住民の志向を高めた。 〇この2つの発表は、インドネシアのような多文化社会では、異宗教・異民族間の様々な問題が地域レベルで生じるところ、これに対する中央ないし地方政府の画一的な対応には限界があることを指摘する点で共通していた。 (2)日本 〇「至上の法としての憲法遵守:憲法9条と日本の平和主義」(デリー大学准教授ランジャナ・ムコパディヤーヤ博士) 1947年5月5日に日本の仏教、キリスト教等宗教関係者からなる全日本宗教平和会議は、先の戦争を阻止できなかったことについての「懺悔の表明」を行った。仏教界は「聖戦」の名の下に戦争と植民地拡大を支持したことを反省し、憲法9条の戦争放棄条項を仏教の非暴力の教えを具現するものと考えた。キリスト教徒も同条項を「汝殺すなかれ」の教えを反映するものと捉えた。このようにして、日本の宗教界は憲法9条改正に反対する平和運動の主要な勢力となって来た。 〇「地球温暖化、戦争、原子力の三角関係」(木村建一早稲田大学名誉教授) 地球温暖化防止のための炭酸ガス排出制限を定めた京都議定書の下でも軍事目的のためのエネルギー使用についての抜け道がある。米国、中国等の武器生産・使用等の軍事支出のうちかなりの部分が炭酸ガス排出につながるという意味で、地球温暖化は戦争にも関連している。原子力発電は温暖化防止に役立つとして推進されてきたが、日本においては2011年の福島の原発事故以来多くの原発が閉鎖を余儀なくされている。また、原発に蓄積されるプルトニウムは、核兵器生産に使用され得るものとして、非核3原則との関連で深刻な問題を提起している。地球温暖化、エネルギーの問題を考えるにあたりこのような相関関係を考慮する必要がある。 〇この2つの発表は、憲法改正、原子力発電という現下の懸案を考えるに当たり興味深い視点を提供するものだった。 ◇10月1日午後「教育」分科会(3) 筆者が傍聴したこの分科会では、いずれもインドネシアからの4人の学生・若手研究者が、英語教育に関わる発音訓練、YouTubeの利用、グローバル言語とローカル言語、外国人とのコミュニケーション成立過程についてそれぞれ発表を行った。筆者がジャカルタに在勤していた30年前に比べて、インドネシアの学生とか若手研究者の英語習熟度及び発表意欲が著しく高まったことに印象付けられた。 「環境と共生」という今回会議のテーマのうち筆者が参加したセッションは、平和と宗教、多文化社会の問題、環境等に関するものだったが、これらの問題を世界レベル、国家レベル、地域社会レベルで複眼的に把握する必要があること、さらにそれぞれのレベルでのガバナンスの問題に取り組む必要があること、また、インドネシアのような多民族・多文化国家は、日本国内には見られないような様々な課題を抱えていることを明らかにするものだった。また、筆者は英語で行われたセッションに参加したので特に感じたのかもしれないが、今回会議に国外から78名と最も多く参加していたインドネシアの若手研究者とか学生の強い意欲と熱気に感銘を受けた。 <沼田 貞昭(ぬまた さだあき)☆NUMATA Sadaaki> 東京大学法学部卒業。オックスフォード大学修士(哲学・政治・経済)。 1966年外務省入省。1978-82年在米大使館。1984-85年北米局安全保障課長。1994−1998年、在英国日本大使館特命全権公使。1998−2000年外務報道官。2000−2002年パキスタン大使。2005−2007年カナダ大使。2007−2009年国際交流基金日米センター所長。鹿島建設株式会社顧問。日本英語交流連盟会長。 -------------------------------------------------------- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員の羅仁淑さんよりご寄贈いただきました編書をご紹介します。 ◆羅仁淑編「陶工 李参平 日本陶磁器の神」(韓国語) (黒髪酒呑童著「陶工 李参平の生涯 日本磁器発祥」の翻訳書) 有田焼は豊臣秀吉の朝鮮侵略の際、鍋島藩に連行された李参平という朝鮮陶工たちが1616年に有田で白磁鉱脈を見つけて磁器を焼き始めたことに始まります。本書は有田焼創業期に朝鮮陶工たちが作った窯など史跡がある有田に住んでいる著者が、2016年「有田焼創業400周年」に際し、李参平公の功績に感謝する意図で書いたものです。本書は2点しかない資料、李参平が亡くなる2年前に多久家に送った手紙と龍泉寺の過去帳、そして当時の歴史的事実を基に作られたものです。しかし、“できるだけ現実に符合したい”をモットーに書かれたため、フィックションでありながら歴史的資料としての価値が高く、大変貴重な歴史的資料も満載しています。 韓国では有田焼は李三平が作り上げたものであると考える傾向がありますが、本書によると、鍋島藩の積極的な陶業育成政策、明の技術、そして李参平の資質と努力の産物であることが分かります。編者は史実を直視し、建設的な未来志向の日韓関係を構築する契機になることを願って翻訳版を出版しました。 本書は韓国政府の80名で構成した厳格な審査を経て“2015年世宗図書(優秀図書)”(2015世宗図書教養部門文学のリストの78番)に選定されました。また、韓国政府は本書を購入し、財政状況の脆弱な全国の小・中学校の図書館や福祉施設などに配布してくれました。偏見のない審査に感謝しています。 編者:羅仁淑(NPO法人日韓親善交流協会暖流代表) 訳者:金昌福、盧美愛、洪性淑、洪南姫 発行:知性と感性 ISBN:979-11-5528-362-2(03800) 初版:2015年4月30日 増版:2015年9月 定価:16,000ウォン -------------------------------------------------------- 【3】SGRAレポート紹介 SGRAレポート第75号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。冊子本は本年6月に発行し、SGRA賛助会員と特別会員の皆様にお送りいたしましたが、どなたでも冊子本の送付をご希望の場合は事務局までご連絡ください。 ◆SGRAレポート75号「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて-」   (第50回SGRAフォーラムin北九州講演録)   2016年6月27日発行 <ダウンロード> 本文1 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/sgra_no75_1.pdf 本文2 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/sgra_no75_2.pdf 表紙 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/sgra_no75cover.pdf <目次> 事例発表1.(日本)「『青空がほしい』運動に学ぶ-現在に問いかけるもの-」 神﨑智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員) 事例発表2.(中国)「変わるのか、人々の意識-中国の母親の環境意識の変化と活動-」 斎藤淳子(フリージャーナリスト/北京在住) 事例発表3.(韓国)「絶え間ない歩み-韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加:環境活動家から脱核運動へ-」 李 允淑(イ・ユンスク)(韓国YWCA運動局部長) オープンフォーラム モデレーター:田村慶子(北九州市立大学法学部教授・大学院社会システム研究科長) ミニ報告:「里山を考える会の活動について」 小林直子(NPO法人里山を考える会) ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • Burensain “Asia Future Conference Session Report”

    ************************************************************************ SGRAかわらばん645号(2016年11月4日) 【1】SGRAエッセイ:ブレンサイン「中国の少数民族地域におけるバブルとその遺産」 【2】SGRAレポート紹介:「日本研究の新しいパラダイムを求めて」(デジタル版) ************************************************************************ 【1】SGRAエッセイ#510(第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#5) ◆ブレンサイン「中国の少数民族地域におけるバブルとその遺産」 ここ十数年の急激な経済発展を経て、中国は世界第2の経済大国に成長した。このプロセスを1970から80年代にかけて急成長した日本に例えて「中国版バブル経済」という人もいる。しかし、勢いよく続いてきた中国の経済発展にもここに来て陰りが見え始め、中国経済のバブル的な発展はもう終焉を迎えているのではないかと囁かれている。いずれにせよ、21世紀に入ってから現在に至るまでの中国は、経済発展による激動の時代であり、13億の人口を抱える大国の国内の状況は目まぐるしく変化した。 そもそも中国は漢族以外に55もの少数民族を抱える多民族国家であり、文化と歴史の異なるこれらの少数民族の人々は広範囲に「自治区」を形成して居住している。急激な経済発展のなかで、これらの少数民族の人々が等しくその恩恵にあずかり、各少数民族自治区の経済状況も共に発展したかどうかについては、必ずしもその状況がよく伝わっているとはいえない。これらの少数民族の多くは人口が比較的少ない辺境地域に居住しているが、これらの地域には各種の資源が豊富で、特に地下資源は以前から中国全体の経済発展を支えてきた。 中国は1990年代後半から資源輸入国に転じ、「世界の工場」に変身した今日、原材料の供給地は全世界の隅々にまで及んでいる。急激な経済発展下における原材料調達と製品輸出によるグローバル化のなかで、国内少数民族地域の状況が見えなくなり、以前にも増して風通しが悪くなっていることも事実である。私たちは、急激な経済発展期における少数民族地域の変化、そして伝統的な資源供給地であった少数民族地域、少数民族の人々が如何にバブル的な経済発展の洗礼を受け、いかなる遺産を引き受けたのかを知る必要がある。色々な意味において、上海や北京だけではなく、内陸部で起きたリアルな変化を把握することによって、はじめて中国の立体的な姿を捉えることができる。第3回アジア未来会議では、このような問題意識をもって自主セッション「中国の少数民族地域におけるバブルとその遺産」を組織した。 本セッションでは、まず内モンゴル大学のネメフジャルガルさん(2008年度渥美奨学生)が「内モンゴル自治区とモンゴル国の草原牧畜業の比較研究」というテーマで報告した。遊牧と牧畜の伝統を共有するモンゴル国と内モンゴル自治区は今こそ異なる国家に分断されているが、1911年までは共に清朝に属し、20世紀の半ばからそれぞれソ連と中国の2大社会主義国家の枠組みのなかで社会主義の洗礼を受けてきた。中国の改革開放に伴って、内モンゴルは1980年代初期から限定的な市場経済へ移行し、その後中国の社会主義市場経済の荒波にさらされてきた。一方、モンゴル国は1990年に社会主義体制が崩壊して、一気に市場経済の土俵に押し出され、社会主義的な牧畜から市場経済的な牧畜への移行に伴う混乱は現在まで続いている。 内モンゴルでは、牧草地の使用権の個人分配が行われ、家畜頭数の増加と調整不能な牧草地利用の間に生じた矛盾が急激な沙漠化を引き起こした。市場経済に移行したモンゴル国でも都市部において土地の私有化がすすめられ、将来的に牧草地の私有化が行われるのではないかと危惧されている。つまり、遊牧に頼ってきたモンゴル国と内モンゴルは、両者ともそれぞれ微妙に異なる市場経済による環境の変化に晒されている一方で、ここ十数年の急激な経済発展のなかで、両者とも中国経済の原材料供給地となり、地下資源開発ブームに沸いている。 ネメフジャルガルさんの報告で特に注目すべき点は、資源開発によって内モンゴル各地で起きている工業汚染、デベロッパーと地方政府の利権絡みで強引にすすめられる開発プロジェクトとそれに対するモンゴル人の抗議活動など、現地で起きている最新情報であった。本セッションの直前に、内モンゴル自治区共産党委員会書記(自治区のトップ)が交替し、前書記の王君氏が力を注いていた「十個全覆蓋」(十大インフラ整備)という内モンゴル全体を巻き込んだインフラ整備運動が中断されたというホットなニュースが報告された。内モンゴル史上最大の「面子工程」といわれるこの強引なインフラ整備運動を、人々は色とりどりに化粧された羊に例えて風刺したり、宴席の笑いのネタにしたりしていた。このプロジェクトによって、内モンゴル各地の地方財政は大きな負債を抱えたといわれている。情報化、グローバル化の時代と裏腹に、中国の少数民族居住地域で起きているこうした情報は国際社会に伝わり難いので、本セッションの趣旨に沿った大変有意義な報告であった。 2番目の報告者は内モンゴル大学のナヒヤさん(2007年度渥美奨学生)で、テーマは「内モンゴルにおける小学校の統廃合問題:フルンボイル市新バルガ左旗を事例に」であった。中国では、2001年ころから「撤点并校」と呼ばれる農村の末端地域にある小中学校の統廃合政策がすすめられ、農村の子供たちは県(内モンゴルでは旗・県)政府所在地などその地域の中心都市に就学することになった。それにより、村から学校までの距離は遠くなり、子供が下宿するため親が都市部にアパートを借りて子供の世話にあたり、村の生活がおろそかになることや就学バスの事故が多発して大きな社会問題となっている。問題の重大さに気づいた中国政府は2012年に見直し、統廃合にブレーキをかけたが、それまですすめられた政策の影響は全国的で深刻なものである。 末端小中学校の統廃合運動は分散居住する少数民族地域ではさらに大きな混乱をもたらし、その影響は人口の密集する地域よりもさらに深刻である。モンゴル族が分散居住するフルンボイル市新バルガ左旗の場合は、強引な統廃合や都市化による人口流出で自然廃校してしまい、人々は教育の質を求めてより大きな町の学校へ進学するという状況が生じた。現在、内モンゴルの牧畜地域では、ほとんどの末端小中学校が廃止され、旗政府所在地に旗内のすべての子供たちが修学するために集まるという状況になっている。それは結果的に、モンゴル族の文化と社会の将来を担う次世代の子供たちを、生の民族の生活から強引に引き離し、同化に拍車をかけることになっている。 3番目の報告者は新疆ウィグル自治区出身のイミテ・アブリズさん(2002年度渥美奨学生)であった。化学を専門とするアブリズさんは現在新疆大学で教鞭をとっている。周知の通り、現在の新疆ウィグル自治区は中国の少数民族自治区のなかでも最も情報の閉鎖された地域の一つであり、そうした政治的な閉塞の陰で、経済や社会的な変化に関する情報も見えにくくなっている。本セッションを企画するなかで、専門の異なるアブリズさんに経済や社会に関する報告を準備していただきとても感謝している。 新疆ウィグル自治区は中国屈指の石油、天然ガスと石炭の埋蔵庫であり、中国全体のエネルギー資源埋蔵量の1/3を占めるともいわれている。また温暖な気候をもつ新疆では近年、綿花やトマトの生産が盛んに行われ、農業でもその重要性が増している。急激に成長する中国経済にとって新疆がもつ豊かな資源は益々重要な存在となっており、ウィグル族をめぐる政治的問題と並んで新疆がもつ経済的な意義も軽視できない。しかし、2015年の新疆のGDPは中国31の省・市・自治区のなかで、後ろから6番目に留まっている。豊富な資源があるにもかかわらず経済発展に恵まれないこのような現象をアブリズさんは「資源の呪い」に例えた。新疆は旧ソ連圏の中央アジア諸国やアフガニスタン、パキスタンなど西アジア諸国への玄関口であり、その地政学的重要性は新疆のインパクトを一層強めることとなっている。 2014年の統計によると、新疆ウィグル自治区の総人口は2322万人に達し、そのうちウィグル族の人口は自治区総人口の48.53%を占める1127万人、漢族は859万人(37.01%)、カザフ族は159万人(6.88%)であり、チベット自治区を除けば、漢族の人口が半分に満たない唯一の自治区となっている。また、ウィグル族とカザフ族を合わせると全自治区総人口の55%がトルコ系のイスラム教徒によって占められるという点も注目に値する。この2つの特徴が今日新疆を取り巻く複雑な状況の背景にあることは間違いない。ちなみに、同じイスラム教徒である回族も百万人(5%弱)居住している。 各民族の規模や力関係をめぐるこうした状況は民族教育にも色濃く反映されている。新疆では、ウィグル族を対象に「双語教育」(バイリンガル教育)という政策が厳しく実施されている。バイリンガル教育とは本来、2つの言語を均等に操ることのできる状態を指すのが一般的で、ウィグル族も含めてモンゴル族やチベット族、朝鮮族といった独自の言語と文字をもつ少数民族は、小学校3年まで自民族の言語や文字で勉強し、小学校3~4年生のころから中国語を学び始めるのが従来のやり方であった。しかし、現在新疆で実施されているのは、ウィグル語を母語として生まれた子供たちに小学校1年生から中国語で教育を受けさせ、母語のウィグル語はいわばひとつの言語として学ぶというものであり、何よりも中国語によるコミュニケーション能力と知識習得を重視している。これも新疆における民族対立の根底にある要因の1つだと囁かれている。 最後の報告は奇錦峰さん(2001年度渥美奨学生)による「ゴースト・タウン(鬼城)『康巴什』」であった。中国の広州中医薬大学教授の奇さんは内モンゴル自治区オルドス(鄂爾多斯)出身のモンゴル族であり、彼の故郷のオルドスは「鬼城/ゴースト・タウン=康巴什(ヒヤバグシ)」が位置する地域として世界的に有名である。夏休みに広州から遥々内モンゴルに行って現地調査をし、報告を準備してくださったことを大変感謝している。 内モンゴル自治区西部の沙漠のど真ん中にあるヒヤバグシは「中国のドバイ」或は「中国のラスベガス」ともいわれている資源バブルで急成長した幻の都市である。黄河と沙漠に囲まれたオルドスはもともと牧畜業を中心としてきた内モンゴル自治区の盟(市)レベルの地域の一つで、モンゴル族の生活舞台であったが、改革開放後の1980年代からカシミア山羊の飼育に成功し、有名な「鄂爾多斯カシミア」ブランドで世界中にその名が知られるようになった。 そのオルドス沙漠の地下には豊富な石炭が埋蔵していることが発見されて、1990年代から採掘が始まった。ちょうど中国が経済発展期を迎える時期であり、オルドス南隣に位置する中国最大の石炭採掘地域である山西、陝西両省の石炭資源が限界を迎えていた時期とも重なったのである。この2つの偶然がオルドスの運命を変え、2000年にわずか15億元しかなかったGDPは、2009年には2000億元にまで膨れ上がり、わずか9年で香港を超えて「オルドスの奇跡」と呼ばれた。まさに中国の急激な経済発展が少数民族地域にもたらした典型的な資源バブルである。経済規模の膨張に伴ってオルドス市は沙漠のなかに百万人が居住できる新都市の建設に乗り出し、世界的に有名な建築家たちを集めてインパクトの強い建物と大勢の市民が居住する高層住宅を建設した。 それと同時に、加熱する不動産業への投資として金融活動も活発になり、シャド―・バンキングとも呼ばれる民間の金融業者が横行し、オルドスは浙江省の温州とともに中国の金融バブルを代表する闇金融の代名詞ともなった。しかし、バブルの饗宴は長つづきせず、リーマンショックによる世界的な需要の低下によって石炭の需要も減り、2010年ころからオルドスの経済は失速した。現在百万人を収容できる都市に5万人前後しか人が住んでおらず、ヒヤバグシは中国に数多くある「ゴースト・タウン」の代表格として定着した。草原と沙漠と遊牧でしか知られていなかった内モンゴルの奥地に何故世界的なゴースト・タウンができたのか。わずか十数年の間に、蜃気楼のように現れた「オルドスの奇跡」は一体何を物語っているのか。奇さんの報告は、聴講者に深く問いかけるものであった。 自主セッション「中国の少数民族地域におけるバブルとその遺産」では、中国の少数民族出身の4名の元渥美奨学生にそれぞれの故郷で起きているホットな出来事を報告していただいた。現代中国を内陸部から理解するためのとても重要な情報発信であり、これは渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)がもつソフトパワーの1つであると思う。 当日の発表資料(抜粋)および発表風景は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/essay510photosA.pdf 当日の発表資料のオルドスの写真(抜粋)は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/essay510photosB2.pdf <ボルジギン・ブレンサイン Burensain_Borjigin> 渥美国際交流財団2001年度奨学生。1984年に内モンゴル大学を卒業後内モンゴル自治区ラジオ放送局に勤務。1992年に来日し、2001年に早稲田大学で博士学位取得。現在は滋賀県立大学人間文化学部准教授。 ------------------------------------------------------------------- 【2】SGRAレポート紹介 SGRAレポート第74号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。冊子本は本年6月に発行し、SGRA賛助会員と特別会員の皆様にお送りいたしましたが、その他の方で冊子本の送付をご希望の場合は事務局までご連絡ください。 ◆SGRAレポート第74号「日本研究の新しいパラダイムを求めて」   (第49回SGRAフォーラム講演録)   2016年6月20日発行 <ダウンロード> 本文1 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/SGRA_No74_1.pdf 本文2 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/SGRA_No74_2.pdf 表紙 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2016/11/SGRA-No74Cover.pdf <目次> 第一部 【問題提起】「『日本研究』をアジアの『公共知』に育成するために」 劉 傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授) 【基調講演・報告】「新しい、アジアの日本研究に求めるもの」 平野健一郎(早稲田大学名誉教授、東洋文庫常務理事) 【報告1】「中国の日本研究の現状と未来」 楊 伯江(中国社会科学院日本研究所副所長) 【報告2】「台湾の日本研究の現状と未来」 徐 興慶(台湾大学日本研究センター所長) 【報告3】「東アジア日本研究者協議会への呼びかけ」 朴 喆熙(ソウル大学日本研究所所長) 【報告4】「日本研究支援の現状と展望-国際ネットワークの形成に向けて-」 茶野純一(国際交流基金日本研究・知的交流部長) 第二部 【円卓会議】 モデレーター:南 基正(ソウル大学日本研究所研究部長) 「円卓会議に向けた論点整理」 劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授) パネリスト: 梁 雲祥(北京大学国際関係学院教授) 白 智立(北京大学日本研究センター副所長) 帰 泳濤(北京大学国際関係学院副教授) 李 元徳(国民大学日本学研究所長) 劉 建輝(国際日本文化研究センター教授) 稲賀茂美(国際日本文化研究センター教授) 須藤明和(長崎大学多文化社会学部教授) 森川祐二(長崎大学多文化社会学部准教授) 林 泉忠(台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国立台湾大学歴史学科兼任教授) 及び講演者、発表者 【総括と今後の展開】 劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授) 特別寄稿1:「方法としての東アジアの日本研究」 白智立(北京大学日本研究センター副所長) 特別寄稿2:「アジア新時代における韓国の日本研究-ソウル大学日本研究所の試みを中心に」 南基正(ソウル大学日本研究所研究部長) ************************************************** ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/date/2016/?cat=11 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:sgra-office@aisf.or.jp Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • 10 / 25« 先頭...89101112...20...最後 »