SGRAメールマガジン バックナンバー

  • Invitation to the 68th SGRA Forum “Dreams, Hopes and Lies”

      ********************************************* SGRAかわらばん905号(2022年1月20日) ********************************************* 第68回SGRAフォーラムへのお誘い 下記の通りSGRAフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。 テーマ:「夢・希望・嘘 -メディアとジェンダー・セクシュアリティの関係性を探る-」 日時:2022年2月20日(日)午後2時~5時 方法:Zoom Webinarによる ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_KSs7_UZmR_aDZ3P5lgTUOw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 現代社会に生きる者がメディアの影響からのがれることは難しい。服から食べ物まで、私たちの日常的なあらゆるものの選択はメディアに左右されている。同様に、子供のころからジェンダーやセクシュアリティに関わる情報にさらされ、女性は、男性はいかに行動すべきなのか、どのようなジェンダーやセクシュアリティが存在するのか、恋愛とは何なのかというイメージもメディアにより作られている。メディアは意見を作るための貴重なツールであるだけでなく、意見を変えるためのツールでもある。 本フォーラムではメディアはどのように恋愛、ジェンダーやセクシュアリティの理解に影響を与えているのか?視聴者やファンはどのようにメディアと接触しているのか?社会的な変化のために、メディアをどのように利用することができるのか?など、現代におけるメディアとジェンダーおよびセクシュアリティの関係性のさまざまな様相を皆さんと共に掘り下げ、探ってゆきたい。 ■プログラム 【基調講演】 ハンブルトン・アレクサンドラ(津田塾大学) 「今の時代、白馬に乗った王子様って必要? リアリティーテレビの「バチェラージャパン」と「バチェロレッテジャパン」から見たジェンダー表象」 【発表1】 バラニャク平田ズザンナ(お茶の水女子大学) 「夢を売り、夢を描く:ジェンダー視点からみる宝塚歌劇団の経営戦略と関西圏のファン文化-」 【発表2】 于寧(国際基督教大学) 「中国本土のクィア運動におけるメディア利用 -北京紀安徳咨詢センターによるメディア・アクティビズムを中心に-」 【発表3】 洪ユン伸(一橋大学) 「Me_tooからデンジャンニョ(味噌女)まで:韓国のメディアにおける「フェミ/嫌フェミ」をめぐって」 司会/モデレーター:デール・ソンヤ(インディペンデントリサーチャー) 詳細はプログラムをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/02/SGRAForum68ProjectPlan.pdf ポスターは下記よりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2022/02/SGRAForum68Poster.pdf ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • BORJIGIN Husel “Ulaanbaatar Report Autumn 2021”

    ********************************************* SGRAかわらばん904号(2022年1月13日) ********************************************* SGRAエッセイ#693 ◆ボルジギン・フスレ「ウランバートル・レポート2021年秋」 2021年8、9月、私は1年7ヶ月ぶりにモンゴル国に行ってきた。 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、モンゴル国は2020年2月中旬より外国人の中国からの入国を禁止し、同月末にはモンゴルと日本、韓国などの国との便の運航が停止した。その後、モンゴル国外務省、保健省は外国人の入国に関する規定を何度も変えた。一方、日本のマスコミにも報道されたように、何度も延期されていた待望の新ウランバートル国際空港が2021年7月4日に開港し、成田国際空港・日本空港ビルデング・JALUX・三菱商事といった日本企業連合とモンゴル政府の「新ウランバートル国際空港合同会社」による運営が始まった。それにともなって、長さ32キロあまり、6車線(片側3車線)の新空港とウランバートル市内を結ぶ高速道路も開通した。日本――モンゴル間の便が昨年後半に再開されたが、新ウランバートル国際空港の開港により両国間をつなぐ航空便が増えた。 私は、大韓航空の便で8月25日に成田空港を出発し、当日仁川空港で一泊して、翌26日に新ウランバートル国際空港に着いた。成田空港での審査は非常に厳しく、ワクチン接種証明書、PCR陰性証明書の提示を3回、モンゴルでの最初の7日間の宿泊予約証明書の提示を2回求められた。また、何回も検温された。仁川空港での乗り継ぎは意外にも何の書類も求められず、何の質問もされずにすぐ手続きを済ませた。ウランバートル空港に着いたら、「厳しい」というより待つ時間が長かった。検温、入国手続き、健康に関する質問書の提出、PCR検査、荷物の受け取りという流れだったが、2時間近くかかった。 新空港を出て、高速道路は渋滞がなく(そもそも空港の便数が少なく、新空港――ウランバートル高速道路の利用者が少なかった)、30分でウランバートル市内に入った。しかし、そこからは交通渋滞で、ホテルに着くのに1時間以上もかかった。街では多くの人がマスクを着けているだけで、それ以外は2年前のウランバートルと何も変わっていない。 「どういう風にしてモンゴルに行ったのか教えていただきたい」とか、「モンゴルに行きたいと思っていますが、いろいろハードルが高そうで…」とか、私がウランバートルについたと知った日本の知人から、日本での出国、韓国での乗り継ぎ、モンゴル入国に関するさまざまな質問が相次いだ。それを答えるのに毎日深夜までメールのやり取りをして、それは1週間ほどもつづいた。 9月4日、昭和女子大学国際文化研究所、公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会、モンゴル国立大学社会科学学部アジア研究学科の共同主催、渥美国際交流財団、昭和女子大学、モンゴルの歴史と文化研究会、「バルガの遺産」協会の後援で、第14回ウランバートル国際シンポジウム「日本・モンゴル関係の百年――歴史、現状と展望」がモンゴル国立大学2号館4階多目的室で対面とオンライン併用の形で開催された。90名ほどの研究者、学生等が参加した。 2021年は、モンゴル国建国110周年、モンゴル革命百周年、そしてモンゴル民主化40周年、さらに日本のモンゴルに対する政府援助資金協力再開40周年にあたる。百年の日モ交流の成果を振り返り、同時に東アジア各国の国際関係の現状や課題を総括するに当たって、日本・モンゴル関係を基軸に据えることは独自の意義がある。日本、モンゴル、中国等の代表的な研究者を招き、新たに発見された歴史記録や学界の最新の研究成果を踏まえて、歴史の恩讐を乗り越えた日本とモンゴルの友好関係の経験から得られる知見を発見し、その検討を行った。 開会式では、モンゴル国立大学社会科学学部アジア研究科Sh.エグシグ(Sh.Egshig)科長が開会の辞を述べ、渥美国際交流財団関口グローバル研究会今西淳子代表、モンゴル国立大学社会科学学部D.ザヤバータル(D.Zayabaatar)部長が祝辞を述べた。その後、前在モンゴル日本大使清水武則氏、モンゴル科学アカデミー会員・前在キューバモンゴル大使Ts.バトバヤル(Ts.Batbayar)氏、東京外国語大学二木博史名誉教授、ウランバートル大学D.ツェデブ(D.Tsedev)教授、大谷大学松川節教授、モンゴル国立大学J.オランゴア(J.Urangua)教授、日本・モンゴル友好協会窪田新一理事長、モンゴル科学アカデミー歴史と人類学研究所B.ポンサルドラム(B.Punsaldulam)首席研究員など、日本、モンゴル、中国の研究者16名(共同発表も含む)により報告がおこなわれた。オンラインではあるが今西さんが久しぶりにウランバートル国際シンポジウムに参加されたことは、たいへん注目され、歓迎された。 同シンポジウムについては、モンゴルの『ソヨンボ』などの新聞で報道された。日本では、『日本モンゴル学会紀要』第52号などで同シンポジウムについて紹介される予定である。 シンポジウムを終えて、9月9日から20日にかけて、私は「“チンギス・ハーンの長城”に関する国際共同研究基盤の創成」という研究プロジェクトで、ドルノド県で「チンギス・ハーンの長城」に関する現地調査をおこなった。J.オランゴア教授、モンゴル国立大学社会科学学部考古学学科U.エルデネバト(U.Erdenebat)教授、Ch.アマルトゥブシン(Ch.Amartuvshin)教授、「バルガの遺産」協会Ts.トゥメン(Ts.Tumen)会長などが同調査に参加した。その調査では予想以上の大きな成果をおさめた。その詳細は、別稿にゆずりたい。 モンゴルでのPCR検査の情報の提供など、今回のモンゴル出張において、在モンゴル日本大使館伊藤頼子書記官にはたいへんお世話になった。ここで記して感謝申し上げたい。 シンポジウムと調査旅行の写真は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/plan/photo-gallery/2022/17216/ <ボルジギン・フスレ BORJIGIN_Husel> 昭和女子大学国際学部教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員、ケンブリッジ大学モンゴル・内陸アジア研究所招聘研究者、昭和女子大学人間文化学部准教授、教授などをへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、『モンゴル・ロシア・中国の新史料から読み解くハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2020年)、編著『国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2016年)、『日本人のモンゴル抑留とその背景』(三元社、2017年)、『ユーラシア草原を生きるモンゴル英雄叙事詩』(三元社、2019年)、『国際的視野のなかの溥儀とその時代』(風響社、2021年)他。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • YU Ning “Mr. Sasamoto and Japan-China Friendship”

    ********************************************* SGRAかわらばん903号(2022年1月6日) あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願い申し上げます。 ********************************************* SGRAエッセイ#692 ◆于寧「笹本さんと日中友好」 先日、論文を書いている時に一本の電話がかかってきた。小諸市日中友好協会の笹本さんだった。最近は論文の執筆で忙しくて、しばらく連絡を取っていなかった。笹本さんはその日に映画のイベントがあって、中国映画史を専門にしている私のことを思い出したから、連絡してくれたようだ。 出会ったのはまだ大学生の時だった。小諸市日中友好協会は母校の南京大学との親交が深く、南京大学で「中国藤村文学賞」を主催するほか、日本文化に対する理解を深めるために南京大学の学生を対象にホームステイ招待活動も行ってきた。自分が初めて日本に来たのも小諸市でのホームステイで、笹本さんはホストファミリーのお父さんだった。 笹本さんご夫婦と一緒に過ごしたのは一週間にもならなかったが、私の人生に大きな影響を与えたものになった。家族の一員として受け入れてもらい、日本人の日常生活に溶け込んだ貴重な文化体験ができた。浴衣を着て市民祭りで踊ったり、山頂にある地元の有名な温泉や観光名所の懐古園などに案内してもらったり、お母さんが畑で栽培した野菜の収穫を手伝ったりして、小諸の豊かな自然と文化を肌で感じ、教科書だけでは伝わらない日本文化の魅力を感じ取った。この経験は後に自分の日本への留学という決断にもつながったのだ。 小諸に滞在する間にいろいろ新鮮な体験をしたが、一番印象に残ったのは何よりも笹本さんの日中友好に対する情熱だった。笹本家に着いた初日に、笹本さんは日中国交正常化の歴史に関する書籍を私に贈り、隣国同士として再び戦争を起こさないように仲良く付き合っていこうと熱く語り、日本語を専攻する自分に日中友好の架け橋になってほしいという期待を示した。その会話から、笹本さんがワイン醸造の会社に勤めていたが、退職後に日中友好事業に専念するようになったことが分かった。そのきっかけについて聞かなかったが、中学校まで中国の瀋陽市(当時は奉天)にいたと話してくれたから、幼少期を中国で過ごしたことと、日中戦争を経験したことに関連しているだろうと推測できた。笹本さんの一人の民間人として、民間での交流活動を通じて両国民の相互理解と友好関係を深めようとする姿に強く感銘を受け、帰国後に南京で行われた日中交流活動に積極的に参加するようになった。 帰国後は笹本さんと文通をしていたが、日本留学が決まったことに大変喜んでくれた。日本で受験勉強をしていた時には、小諸からリンゴを送ってくれて、受験を励ましてくれた。入学式には私の家族として、わざわざ小諸から出席してくれた。数年前までは瀋陽の中学時代の同級生たちが東京で同窓会を開催していたが、それに参加する度に私と会っていた。小諸に招待したり、東京で開催された「中国映画週間」に誘ったりして、コロナになる前はほぼ毎年会ってくれていた。その間も訪中団を引率して中国での交流活動を行ったり、中国の大学生を日本に招待したりして、日中友好事業も継続していた。笹本さんは私との親交だけでなく、日中友好のためにその努力する姿も私の留学生活の大きな励みになった。 2015年に、戦時中に国策で中国東北部に送り出された「満蒙開拓団」が敗戦後に置き去りにされたことで生まれた中国残留日本人孤児の問題を取り上げた映画『山本慈昭 望郷の鐘~満蒙開拓団の落日』(監督:山田火砂子、2015年)を見て、笹本さんが全身全霊で行ってきた日中友好事業に対する理解を深めることができた。映画の主人公である山本慈昭さんは笹本さんと同じく長野県出身で、敗戦の3か月前に開拓団を引率して中国東北部に送り込まれたという。映画を通じて最も多くの開拓民が送り出された長野県の当時の歴史を知ったことで、小諸でのホームステイや笹本さんとの親交の意義に対して異なる認識ができた。 また映画のエンディングロールに表示された後援に、全国の日中友好協会がリストされ、その数の多さに驚いた。日本各地、特に農業地域にこれほどの日中友好協会が存在していることは知らなかった。各地における多くの日中友好協会の設立は戦時中に行われた「満蒙開拓団」派遣という負の遺産に立ち向き合うことに関連しているだろう。笹本さんが瀋陽に渡った経緯や中国東北部からの引き揚げなど、彼個人の経験は映画で描かれたものと異なるかもしれないが、戦争の経験者として当時の歴史に向き合おうとする姿勢から日中友好事業に身を捧げる原動力が生まれたといえよう。 コロナになってから笹本さんと会うのが難しくなり、彼の日中交流活動にも大きな支障が出ている。今年は南京大学創立120周年記念で、ちょうど「中国藤村文学賞」の授賞式も予定されているが、中国に行けるかどうかは未知であるという心配を電話で明かしてくれた。それ以外もいろいろ困難がある。今年で91 歳になる笹本さんはまだ現役で頑張っているが、小諸市日中友好協会の会員に若い世代の人が少ないことを懸念しているようだ。 コロナの影響で今までの交流が難しくなったのは事実で、後継者も大きな問題になるだろうが、異なる領域で様々な形の日中交流は中断なく行われ続けている。例えば、渥美国際交流財団は「日本・中国・韓国における国史たちの対話」や「チャイナ・フォーラム」などの学術イベントを主催することを通じて、東アジアにおける相互理解を深めようとしてきた。このような学術交流は研究者を目指している自分に方向性を示してくれた。自分の研究に可能性を感じ取っており、これからは日中映画交流に関する研究や実践を通じて、日中両国民における相互理解を促進することを試みたい。笹本さんの期待に応えられるような形で。 <于寧(う・ねい)YU Ning> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、国際基督教大学ジェンダー研究センター研究員。中国出身。南京大学日本語学科学士。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士前期課程修了。研究テーマ「中国インディペンデント・クィア映像文化」「中国本土におけるクィア運動の歴史」。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • YU Ning “Mr. Sasamoto and Japan-China Friendship”

    ********************************************* SGRAかわらばん903号(2022年1月6日) あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願い申し上げます。 ********************************************* SGRAエッセイ#692 ◆于寧「笹本さんと日中友好」 先日、論文を書いている時に一本の電話がかかってきた。小諸市日中友好協会の笹本さんだった。最近は論文の執筆で忙しくて、しばらく連絡を取っていなかった。笹本さんはその日に映画のイベントがあって、中国映画史を専門にしている私のことを思い出したから、連絡してくれたようだ。 出会ったのはまだ大学生の時だった。小諸市日中友好協会は母校の南京大学との親交が深く、南京大学で「中国藤村文学賞」を主催するほか、日本文化に対する理解を深めるために南京大学の学生を対象にホームステイ招待活動も行ってきた。自分が初めて日本に来たのも小諸市でのホームステイで、笹本さんはホストファミリーのお父さんだった。 笹本さんご夫婦と一緒に過ごしたのは一週間にもならなかったが、私の人生に大きな影響を与えたものになった。家族の一員として受け入れてもらい、日本人の日常生活に溶け込んだ貴重な文化体験ができた。浴衣を着て市民祭りで踊ったり、山頂にある地元の有名な温泉や観光名所の懐古園などに案内してもらったり、お母さんが畑で栽培した野菜の収穫を手伝ったりして、小諸の豊かな自然と文化を肌で感じ、教科書だけでは伝わらない日本文化の魅力を感じ取った。この経験は後に自分の日本への留学という決断にもつながったのだ。 小諸に滞在する間にいろいろ新鮮な体験をしたが、一番印象に残ったのは何よりも笹本さんの日中友好に対する情熱だった。笹本家に着いた初日に、笹本さんは日中国交正常化の歴史に関する書籍を私に贈り、隣国同士として再び戦争を起こさないように仲良く付き合っていこうと熱く語り、日本語を専攻する自分に日中友好の架け橋になってほしいという期待を示した。その会話から、笹本さんがワイン醸造の会社に勤めていたが、退職後に日中友好事業に専念するようになったことが分かった。そのきっかけについて聞かなかったが、中学校まで中国の瀋陽市(当時は奉天)にいたと話してくれたから、幼少期を中国で過ごしたことと、日中戦争を経験したことに関連しているだろうと推測できた。笹本さんの一人の民間人として、民間での交流活動を通じて両国民の相互理解と友好関係を深めようとする姿に強く感銘を受け、帰国後に南京で行われた日中交流活動に積極的に参加するようになった。 帰国後は笹本さんと文通をしていたが、日本留学が決まったことに大変喜んでくれた。日本で受験勉強をしていた時には、小諸からリンゴを送ってくれて、受験を励ましてくれた。入学式には私の家族として、わざわざ小諸から出席してくれた。数年前までは瀋陽の中学時代の同級生たちが東京で同窓会を開催していたが、それに参加する度に私と会っていた。小諸に招待したり、東京で開催された「中国映画週間」に誘ったりして、コロナになる前はほぼ毎年会ってくれていた。その間も訪中団を引率して中国での交流活動を行ったり、中国の大学生を日本に招待したりして、日中友好事業も継続していた。笹本さんは私との親交だけでなく、日中友好のためにその努力する姿も私の留学生活の大きな励みになった。 2015年に、戦時中に国策で中国東北部に送り出された「満蒙開拓団」が敗戦後に置き去りにされたことで生まれた中国残留日本人孤児の問題を取り上げた映画『山本慈昭 望郷の鐘~満蒙開拓団の落日』(監督:山田火砂子、2015年)を見て、笹本さんが全身全霊で行ってきた日中友好事業に対する理解を深めることができた。映画の主人公である山本慈昭さんは笹本さんと同じく長野県出身で、敗戦の3か月前に開拓団を引率して中国東北部に送り込まれたという。映画を通じて最も多くの開拓民が送り出された長野県の当時の歴史を知ったことで、小諸でのホームステイや笹本さんとの親交の意義に対して異なる認識ができた。 また映画のエンディングロールに表示された後援に、全国の日中友好協会がリストされ、その数の多さに驚いた。日本各地、特に農業地域にこれほどの日中友好協会が存在していることは知らなかった。各地における多くの日中友好協会の設立は戦時中に行われた「満蒙開拓団」派遣という負の遺産に立ち向き合うことに関連しているだろう。笹本さんが瀋陽に渡った経緯や中国東北部からの引き揚げなど、彼個人の経験は映画で描かれたものと異なるかもしれないが、戦争の経験者として当時の歴史に向き合おうとする姿勢から日中友好事業に身を捧げる原動力が生まれたといえよう。 コロナになってから笹本さんと会うのが難しくなり、彼の日中交流活動にも大きな支障が出ている。今年は南京大学創立120周年記念で、ちょうど「中国藤村文学賞」の授賞式も予定されているが、中国に行けるかどうかは未知であるという心配を電話で明かしてくれた。それ以外もいろいろ困難がある。今年で91 歳になる笹本さんはまだ現役で頑張っているが、小諸市日中友好協会の会員に若い世代の人が少ないことを懸念しているようだ。 コロナの影響で今までの交流が難しくなったのは事実で、後継者も大きな問題になるだろうが、異なる領域で様々な形の日中交流は中断なく行われ続けている。例えば、渥美国際交流財団は「日本・中国・韓国における国史たちの対話」や「チャイナ・フォーラム」などの学術イベントを主催することを通じて、東アジアにおける相互理解を深めようとしてきた。このような学術交流は研究者を目指している自分に方向性を示してくれた。自分の研究に可能性を感じ取っており、これからは日中映画交流に関する研究や実践を通じて、日中両国民における相互理解を促進することを試みたい。笹本さんの期待に応えられるような形で。 <于寧(う・ねい)YU Ning> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、国際基督教大学ジェンダー研究センター研究員。中国出身。南京大学日本語学科学士。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士前期課程修了。研究テーマ「中国インディペンデント・クィア映像文化」「中国本土におけるクィア運動の歴史」。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Emanuele Giglio “My Religion and Faith: On the Way of Being ‘Also'”

    ********************************************* SGRAかわらばん902号(2021年12月23日) 今年もSGRAかわらばんをお読みいただき、ありがとうございました。 新年は1月6日から始めます。 みなさまどうぞ良いお年をお迎えください。 ********************************************* SGRAエッセイ#691 ◆エマヌエーレ・ダヴィデ・ジッリォ「私の宗教と信仰:「~でもある」という在り方について」 自分のこれまでの人生の中で、大きく分けて言えば2つの大きな宗教と出会い、細かく言えば4つの信仰を受け入れる機会をいただきました。このエッセイでは、4つの信仰を受け入れている自分の今の「在り方」に至った経緯と、現時点での私の結論について述べたいと思います。 13年間も日本で日本の仏教文学を研究しているイタリア出身の私ですが、「宗教は何ですか」「信仰は何ですか」と聞かれることがよくあります。ずっと同じ文化と同じ世界の中だけで動いている人間ではありませんし、違う国(日本)の精神文化にも興味を持ち、違う宗教と信仰(仏教)にも触れて理解しようとし、受け入れた人間です。ですので、答えはそれほどシンプルではありません。 家族の信仰はカトリックで、私は生まれた時からいわゆる「ボーン・クリスチャン」(幼児洗礼を受けた者)です。私の今の人生のパートナーは非常にオープンな人でありながらも仏教徒ではないのですが、日本で最初にお付き合いした方は仏教徒でした。もう私と一緒にいない方で、彼女の個人情報をこちらで一方的に持ち出すというのはよろしくないので、この場では彼女の仏教に「新しい教団」と「伝統的な教団」の両方がある、という説明だけにとどめておきたいと思います。 彼女の家族は「新しい仏教教団」の信者でした。私は、自分の家族と所属教会のお許しを得て、彼女の信仰も受け入れ、イタリアから彼女の宗教団体にも入会しました。所属教会の「お許し」というのは、「カトリック教会を出ないでキリスト教を否定さえしなければ大丈夫だよ」「もしいつか子供ができて洗礼も受けさせるように努力してくれれば、違う宗教(例えば仏教)の方と付き合い、その信仰も受け入れて良いよ」という内容のお許しです。彼女とは「もしいつか子供が生まれた場合、すぐには宗教団体に入れないで、キリスト教と仏教の両方を子供に伝えてあげて、大きくなったら自由に選ばせてあげよう」という話も何度かしました。 私のような外国人にとって、キリスト教とは違う精神性に興味を持ち、キリスト教とは違う宗教の方と関わることは全く当たり前のようにできることではありません。違う文化と精神性を持っている相手の信仰も自分のものにしようと、それ関係の研究をするために10年以上家族から離れるということも―私は一人っ子ですからなおさらです。イタリア人の仏教関係者は人口の0.5%ですが、ほとんどカトリック教会にも所属していて、キリスト教を否定までする方はそれほど多くありません。そのほうがイタリア国内でカトリック教会と問題にならないからです。 この話はイタリアのみならず、キリスト教文化圏の地域でキリスト教以外の精神性を何らかの理由で受け入れた方々に聞けば、すぐに確認できます。「洗礼は受けたのか」「「初聖体拝領」と「堅信式」までやったのか」「カトリック教会以外の宗教団体にも入ったとき、洗礼などの秘蹟(サクラメント)を取り消していただきたいという手紙を地元の司教区にちゃんと送ったのか(でなければ、まだ教会にも所属しているまま)」「それとも、家庭事情などで違う宗教団体にも入って一つ以上の信仰を持っていて良いかという話をちゃんと司祭としてみたのか(司祭は理解してくれて許してくれると思います)」と。他にカトリック教会には無断で違う宗教団体に個人として入会した方も多いのですが、これはあまりよろしくないパターンで、イタリア国内とキリスト教文化圏の他の地域で問題になる可能性はゼロではありません。 もう20年前の話になります。私は5歳から20歳まで、空手とその繋がりで瞑想的なこともやっていたので、幼いころから日本の精神文化に強い興味がありました。イタリアでキリスト教以外の精神性にも関心を持った方と共通している理由として次の3つがあります。1)西洋世界が思想的に行き詰まっているという危機感を抱き、外から違うものもどんどん取り入れたほうが西洋世界の再生に繋がるのではないかという感覚があった。2)西洋世界が忘れつつある重要な価値観(心と身体との密接な繋がりを説く教え、人間と自然環境との密接な繋がりを説く教えなど)が、東洋の精神性にはまだ残っていて、今でもちゃんと生きているという感覚があった。3)歴史的な宗教の権威主義的なところ(聖職者中心の構造や人間のあるべき姿をアプリオリに規定しようとするところなど)には不満を抱いていた、この3つです。 2008年に来日した時、私は日本の文科省認定の研究生として入国していたので、文科省との契約によって宗教活動も含めて、研究以外のアクティビティーは最近まですべて制限されていました。お付き合いしていた方の信仰とそのお勤めも、彼女と一緒に行い大事にするということは、家の中だけの話にしなければならない状況でした。しかし、私は同時に大学でも研究の形で仏教の歴史を理解しようとし、その精神性の様々な展開を必死で吸収しようとしていました。 その時、私を学生と若手研究者として大事に育ててくださり、やることをたくさん与えてくださったのは、残念ながら私が最初に一番期待していたグループ(当時お付き合いしていた方の「新しい仏教教団」)関係の方々ではなく、「伝統的な仏教教団」の方々だけでした。この場ではイニシャルしか記載しないことにしますが、要するに大学時代の指導教官で我が恩師であるM.K.先生と、その「伝統的な仏教教団」関係の大学と大きなお寺さんの方々のみでした。 「新しい仏教教団」の方々には、私はどうやら次のようなことを思われていたらしいです。「我々の仲間だと思われたくなくて大学と他のところで自分の所属を隠したり否定もしたりしているのではないか」とか、「我々の仲間でいたいかいたくないか、どちらなのだろうか」と。この方々とのコミュニケーションと関係は10年ほど前に博士課程に入った時点で既にうまく行かなくなっていて、私が若手研究者として彼らと関わろうとすることに関して自分の家族と当時お付き合いしていた方にまで心配をかけました。 私の最初のコミュニケーション不足もあったかと思います。また、個人的なことを誰にでも詳しく聞いたり打ち明けたりすることは日本人同士でもなかなかやらないし、日本の宗教者の世界では多くの場合に生まれつきの「所属」によって人の基本的な立場が最初から決まっているため、そのような話を何度もする必要もないという文化的な側面も関係していると思います。さらに、日本人は、日本人がやってきた行動だけを前提にして、外国人の事情まで解釈することもあるようですが、これは適切でないと思います。 幸いに、「新しい仏教教団」と「伝統的な仏教教団」の間には歴史的に仲が悪かった時期も沢山あったにも関わらず、そして最初から私のことをご存じだったにも関わらず(大学に入った時に、所属の研究室の先生方に自分のことを詳しくお伝えしましたから)M.K.先生とその「伝統的な仏教教団」関係の方々は私をよく理解し、受け入れて、今でも研究生活を支えてくださっています。私は、家族の信仰であるキリスト教とは違うものも受け入れることができた人間として、M.K.先生などの「伝統的な仏教教団」の方々の信仰と価値観をも理解し、受け入れています。 では、「宗教は何ですか」「信仰は何ですか」という、私にもよくある質問なのですが、答えはシンプルなものでは有りえません。私は自分のことをクリスチャンであり、仏教者でもあると思っています。私には信仰が1つ以上あって、自分の人生では4つも受け入れている、とういう答え方になります。1)家族の信仰(カトリック)、2)日本で最初にお付き合いした方の「新しい仏教教団」の信仰、3)M.K.先生などの「伝統的な仏教教団」の信仰、4)今のパートナーの信仰と価値観を私はすべて理解し、受け入れておりますので、すべてが今の私の精神性の大切な一部になっている、ということです。 例えば、私にとってカトリックの朝晩のロザリオか、私がお付き合いした仏教者たちの朝晩のお勤めか、どちらでもかまいません。同じように元気になれることを何度も経験しています。どのコミュニティーとお付き合いしても、同じような「元気」を何度も再発見することが可能だと経験しております。同時に、混ぜるつもりも全くありません。イタリア語で喋る時はイタリア語で喋り、日本語で喋る時は日本語で喋り、イタリアの文化で考える時はイタリアの文化で考え、日本の文化で考える時は日本の文化で考えています。 同じようにクリスチャンの方と喋る時はキリスト教の「言語」で考え、喋り、仏教者の方と喋る時は仏教の「言語」で考え、喋ることができます。クリスチャンの方をキリスト教の「言語」で元気づけることも可能ですし、仏教者の方を仏教の「言語」で元気づけることも可能です。クリスチャンたちには仏教の視点を伝え、仏教者たちにはキリスト教の視点をお伝えすることもあり、両側の共通点と類似性について述べることもあります。これは、違う宗教の方と結婚した人、その子供たちのアイデンティティ論、ハーフの方(=ダブルの方、要するに一つ以上の母国語、一つ以上の文化、場合によっては一つ以上の精神性の方)と同じです。 さらに、「違う信仰も受け入れた時点で『自分の宗教と信仰は特にあれではなくこれだけだ』というような次元からは、私は最初から飛び出てしまっている」という答え方もできます。私のような人間に対して「宗教は何ですか」「信仰は何ですか」という問いかけは実は、私のような人への適切な理解を導かない可能性もある、と言わざるを得ません。 私はこの2番目の答え方のほうを好んでいます。私の出身の教会(カトリック)と日本で最初にお付き合いした方の「新しい仏教教団」、M.K.先生などの「伝統的な仏教教団」のそれぞれのカテゴリーで言えば、私はカトリック出身で、M.K.先生などの「伝統的な仏教教団」の関係者であり、昔お付き合いした方の「新しい仏教教団」の理解者でもある、という言い方になりますが、これらのカテゴリーは私のような人にいつでも完璧にフィットするとは限らない、とも言わざるをえません。 ここで、違う文化と価値観とのふれ合いが少なかったという事情もあって、たった一つの世界の中だけでしか動けなかった人たちが登場します。そして、彼らの、とある「こうあるべき論」と「立場主義」とよくぶつかったりもします。例えば、「今の話はあくまでも「~教団」の一員として言っているよね?」とか「どっちだ!?」とか「考えすぎだ」「気にしすぎだ」などと。ハーフの方などもよく受ける扱いです。申し訳ありませんが、「今の話はあくまでも…」というような次元からは、私は最初から飛び出てしまっています。「どっちだ?!」という設定からも、私は最初から飛び出てしまっています。本当に申し訳ありません。 「どっちの仲間だ!?」というような設定を押し付けられてしまうとすれば、私は所属と信仰を問わずオープンな方と仲間でいたいとは思いますが、次のような選択を迫られることになると思います。1)違う宗教との関わりを最初に許してくださったカトリック教会だけにするか、2)再び自分の家族とカトリック側のお許しを得た上で、日本で私を一番理解し、学生と研究者として大事に育て、やることと役割をたくさん与えてくださったM.K.先生などの「伝統的な仏教教団」を選ぶか、どちらかにせざるを得ないという話になります。日本でどちらのほうが私をオープンに活かし、そして私が最終的にどちらのほうによりお世話になったのかという倫理の問題になります。2番目の選択肢の場合、カトリック側は「お仕事のためなら」ということで、また20年前と同じような「お許し」を下さるそうです。 どちらにしても、私は架け橋のように造られた人間であるということに変わりありません。一つ以上の世界の両側に付くのが架け橋です。もしこれをどうしても理解できないという方がおられるならば、どうかご自身の不理解や、外国人の様々な事情に対する知識不足のようなものを、私のような人間の問題や罪に捉えないでください。架け橋を壊さないでください。 どなたについても言えることなのですが、人がそのように造られ、生まれてきたことには必ず意味と使命があるのです。世の中の一部の方々はこれからも理解しないかもしれません。多くは、たった一つの世界の中だけでしか動いてこられなかったのかもしれません。しかし、そういった方々にも「飛び出る」方法は全く無いわけではないでしょう。例えば、それぞれの価値観と精神性の歴史をよくよく学んでいけばいいです。そうすれば、どなたでも受け継いだ大事な精神的な遺産の現状を相対化し、その影響に対して創造的になり、どなたでも自分を自分たらしめる全ての要素をより深く味わうこともできるであろうと思います。 <エマヌエーレ・ダヴィデ・ジッリォ|Emanuele_Davide_Giglio> 渥美国際交流財団2015年度奨学生。2007年にトリノ大学外国語学部・東洋言語学科を首席卒業。外国語学部の最優秀卒業生として産業同盟賞を受賞。2008年4月から2015年3月まで日本文科省の奨学生として東京大学大学院・インド哲学仏教学研究室に在籍。2012年3月に修士号を取得。2015年に大田区日蓮宗池上本門寺の宗費研究生。仏教伝道協会2016年度奨学生。2019年6月に東京大学大学院・インド哲学仏教学研究室の博士課程を修了し、哲学の博士号を取得。現在、日本学術振興会外国人特別研究員。身延山大学・国際日蓮学研究所研究員。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 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  • SUN Jianjun “China V Forum #15 Report”

    ********************************************* SGRAかわらばん901号(2021年12月16日) ********************************************* ◆孫建軍「第15回SGRAチャイナVフォーラム報告」 11月20日の日本時間16時、北京時間15時に第15回SGRAチャイナV(バーチャル)フォーラムが開催された。昨年に引き続き、2度目のオンライン開催だった。今年のテーマは「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?―空間アジアの形成と生活世界の近代・現代―」。講演者である京都大学名誉教授山室信一先生の知名度にコメンテーター清華大学教授の王中忱先生と劉暁峰先生、北京第二外国語学院教授の趙京華先生、そして香港城市大学教授の林少陽先生というパワフルな学者群が加わり、600名を超える大勢の参加者とチャイナフォーラム史上最大の盛会となった。 昨年と同様、北京大学では20名近い在籍生を集め小さな分科会場を設けたのに対して、京都の本会場では専門スタジオさながらの、万全の体制の下でフォーラムが始まった。例年通り、主催側の今西常務理事による開会挨拶があり、SGRAと山室先生との学術的なご縁に触れ、テーマの決定に至る経緯が紹介された。続いて、北京日本文化センターの野田昭彦所長のご挨拶は、東京五輪と北京冬季五輪にちなんで「スポーツ」という概念を取り上げ、コロナ禍に置かれた人々がいかに順応し、より豊かな社会生活を作り上げていくことの大切さを訴えた。 山室先生の講演は4つの部分からなる。講演の冒頭で、山室先生は「アジアはいったいどの地域的範囲を指すのか」「モダンとは単なる時間的な区分なのか」という日常的な問題を二つ投げかけた。これらの概念によって生まれた空間認識、時間認識、さらにアイデンティティなどをめぐって参加者に再度思考を巡らすよう促した上で、「なぜアジアやモダンが問題となってきたのか?」、「思想課題としてのアジア――空間論的転回」、「思想課題としてのモダン――時間論的転回とジェンダー論的転回」と論述を進めた。具体的内容はチャイナフォーラムのレポートに譲るが、ジェンダー論に入る直前に時間が来てしまって、端折りながら終了せざるを得なかった。幸いなことに来年のフォーラムで継続するということが決まり、ジェンダー論と最後の「論的転換の三角錐と思詞学」は引き続き堪能できることになった。 コメントの時間で、王中忱先生はアジアを「知の回廊」として捉えることによって、アジアにおける近代的自発性、原動力が解釈できたという山室先生のご見解を称えた上で、「思詞学」への期待を語った。劉暁峰先生はキーワード「アジア」と「モダン」の内在的論理関係を掘り下げる大切さに賛同し、「近代は即ちアジアが命名され、定義される歴史だ」と指摘した。趙京華先生はアジア空間論と言語分析を対象とした思想史研究の斬新な経路に深く触発され、「思想連鎖」よりも「思詞学」の高度な意義を訴えた。林少陽先生は「アジアを見つめる学者と知識人」として、山室先生を高く評価した。緻密で系統的な史料の精読を通じて、複雑に錯綜し、常に暴力に満ちたアジアの近代空間に突入した研究方法は「方法としてのアジア」の研究者と一線を画している。先生のご研究では「アジア」は歴史的なものであり、戦争という重大問題と歴史の中の暴力問題を避けようとしない。アジアは閉鎖的でなく、地球規模の関係性の中に存在している。そういう意味で、アジアの未来を解読できる山室先生の研究の重要性を示唆した。 「知の回廊」「思想連鎖」「思想断鎖」「競争しつつ共存」「論的転回の三角錐」…山室先生がもたらしたブレインストーミングは来年まで続くものと思われる。そして、北京大学日本語学科の学生にとって、もう一つ幸せなことがあった。先生の新著『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』の読書会が行われ、感想文を書いた4名の学生それぞれに先生からの手紙が届いたのだった。学術的交流だけでなく、皆さんを励ます先生の言葉がいつまでたっても頭から離れない。 当日の写真 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/12/J_ChinaForumPhotos.pdf アンケート集計結果 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/12/ChinaForumSurvey.pdf <孫建軍(そん・けんぐん)SUN_Jianjun> 1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • YUN Jae-un “South Korea as a ‘Gap Society’ and the ‘Frame’ of Japanese Media”

    ********************************************* SGRAかわらばん900号(2021年12月9日) ********************************************* SGRAエッセイ#690 ◆尹在彦「『格差社会』としての韓国と日本メディアの『フレーム』、そして『オマカセブーム』」 メディアが外国を素材として伝える場合、国内の事案より「フレーム(frame)」もしくは「固定観念」が頻繁に働く。理由は二つと考えられる。第1に、当該国のことについて読者や視聴者が常に意識しているわけではないので、詳細な説明を省いた方が「楽だから」だ。特に普段は話題にならない国に対してこういった傾向が強いだろう。第2に、その国に読者や視聴者がほとんどおらず、抗議を心配することがない点だ。私は国際部(日本では主に外信部と呼ばれているようだが)の先輩から「いくら米国を批判する記事を書いたってオバマが文句を言ってくることはない」と言われたことがある。近年ではいわゆる「パブリック・ディプロマシー(public_diplomacy)」の観点から在外公館等が積極的に対応することもあるが、それでも報じる側が相手を恐れず(訴えられることなく)書けることも事実だ。 ただし、日本メディアの韓国報道は上記の説明から多少ずれている事例かもしれない。「レガシーメディア(ハードニュース、硬派の新聞・テレビニュース等)」だけでなく「ソフトニュース(週刊誌、ワイドショー等)」にも頻繁に取り上げられる一方で、日本語が分かる読者・視聴者層が少なからず存在しているからだ。韓国政府も日本メディアには比較的機敏に反応する。それに加え、日本には良くも悪くも、幅広い読者・視聴者がたくさんいる、いわゆる「数字がとれる」素材が韓国だ。日本メディアの韓国報道のフレームが多様化したとはいえ、未だに断片的と言わざるを得ない。関係悪化の影響もあるだろうが、「見たいところを見せる感」は否めない。 例えば、「格差」というフレームである。韓国の文化や社会現象・問題は大概、格差というキーワードで簡単にくくられてしまう。ネットフリックスで上位を占めている「イカゲーム」に対しては「韓国の格差社会を映し世界的ヒットでも…ドラマ『イカゲーム』を楽しめない地元の人がいる理由」(「東京新聞」、2021年10月18日)、「イカゲームが風刺する韓国社会『愚かな競争』に突き進む人間のさが」(『朝日新聞』2021年11月19日)という具合の記事はきりがない。これはコロナ前にアカデミー作品賞を受賞した映画「パラサイト」に対しても同様だった。NHKはこの映画について「パラサイト 韓国映画にみる格差社会」というタイトルの下、その意味を解説している(2020年2月14日)。「格差」は韓国を表現する「マジックワード」になっている。 強調したいのは「韓国に全く格差なんて存在しない」という荒唐無稽な反論ではない。韓国の高い自殺率(とりわけ高齢層や若年層は日本と大差ない)、少子高齢化は確かに深刻だ。所得や資産の格差も良い状況ではない。しかし、問題は横並びに同じフレームですべてを説明しようとする「日本メディアの異様さ」だ。格差問題が深刻な国は世界に多く存在しているのに「なぜ韓国の作品が世界的な注目を浴びているのか」についての分析は乏しい。単純に「韓国の格差が深刻だから世界で人気だ」というのは論理的な思考回路なのだろうか。 要するに「格差の存在⇒(?)⇒良い作品」の過程で(?)のところに対する解答がなかなか見当たらない。その結果、普段より韓国のことを否定的に捉えている読者・視聴者(嫌韓ビジネスの消費者層)はメディアの影響ですぐに「格差のせいでああいう作品が出ている」と納得するかもしれない。それでフレームは固定化もしくは増幅していく。この問題に関して韓国専門家、福島みのり氏の指摘は妥当だと言わざるを得ない。 「最近よく目にするのが、韓国の格差や生きづらさを過剰に強調した本です。『この国は地獄か』とか『行き過ぎた資本主義』とかの文言が、帯やタイトルに付いているのが特徴です。(『日本から出て行け』と言うような)一般的なヘイトスピーチだけではなく、ここにもヘイト的な要素があると思います。若者たちもこうした本を見ると『韓国って本当に大変なんだね。日本に生まれてよかった』などと言います」(『毎日新聞』2021年11月6日)。私は韓国の格差を強調するメディアが「ヘイト」を助長するとは必ずしも考えていないが、それでもやはりその「報道の怠惰さ」は批判されても仕方ない。「他の要因を探せ」と言いたいのだ。 私は最近「韓国でのオマカセブーム」という社会現象に注目している。どういう現象かというと、外食文化で高級すし店を皮切りに、様々な高級飲食店で日本語をそのまま使った「オマカセメニュー」が増えている。2010年代前半より、ソウルの江南(カンナム)地域を中心に高級すし店が一軒ずつ増えていった。ランチは1万円(10万ウォン)以上、ディナーは2万円(20万ウォン)以上もするにも関わらず、人気店は3か月後まで予約が埋まっている。一部の「超人気店」は予約を受け付ける時間まで決まっている。渡日前(2014年)に一軒訪問したことがあり本場に劣らない味だったが、それにしても「そこまで行きたいのか」と問いたい気持ちもある。 現在はこの「オマカセ文化」がもはやブームになっている。焼鳥のような和食レストランだけでなく、「韓牛(和牛の韓国版)オマカセ」すら登場している。オマカセがつくメニューは他と比べ格段に高くなるのだが、やはりそれでも買ってくれる人はひっきりなしに予約を入れている。「この人たちは一体どこから来ているんだ」という疑問もあるが、これも「格差」というコインの表裏をなす現象だろう。しかし、日本メディアの焦点は専ら「下層」にばかり当てられている。 私の研究の契機で、今ではモチベーションの一つが「日本政府・社会の動きに対し何でも『右傾化のせい』にする韓国メディア」への抵抗感だった。私は相変わらず「右傾化」のフレームだけで日本を捉えると、実態が見えてこないと考えている。それは恐らく、韓国を「格差社会」とだけ見ることと通底しているのではないか。両国関係が悪化した時期だからこそ、より冷静な報道が求められる。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jae-un> 一橋大学法学研究科特任講師。2020年度渥美国際交流財団奨学生。2021年、同大学院博士後期課程修了(法学)。延世大学卒業後、新聞記者(韓国、毎日経済新聞社)を経て2015年に渡日。専門は日韓を含めた東アジアの政治外交及びメディア・ジャーナリズム。現在、韓国のファクトチェック専門メディア、NEWSTOFの客員ファクトチェッカーとして定期的に解説記事(主に日本について)を投稿中。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • YUN Jae-un “The Fall of Kabul: The End of an Era”

    *********************************************** SGRAかわらばん899号(2021年12月2日) *********************************************** SGRAエッセイ#689 ◆尹在彦「『カブール陥落』、一つの時代の終焉」 8月15日、タリバン勢力によるアフガニスタンの首都、カブール陥落はある種の「時代の終焉」を見せつけているような気がした。20年前には「CNN」に代表される欧米系のメディアでしか見られなかった現地の様子は、アフガンの個々人のSNSアカウントから時々刻々と発信された。これは20年という時代の変化とともに何らかの不変さを感じさせた。変化とは技術的な意味で、不変はアフガン政治体制のもろさのことである。昨年以降、タリバンが勢いづいて勢力を急拡大していた事実は日本や米国の報道から知っていたが、体制崩壊はあまりにも早かった。米軍がそう簡単に撤退するとも思えなかった。しかし、いつの間にかカブールは我々の脳裏から消えていき、タリバンはアフガンの「正当な」統治勢力と化している。 私は2003年に大学へ入学した。当時はいわゆる「テロの時代」だった。「9・11テロ」(2001年)の衝撃と米国の対応(報復)、即ちアフガン・イラク戦争の影響は韓国にも及んでいた。9・11テロを生中継で目撃した数多くの一人として、想像を絶する「非日常の風景」に衝撃も受けた。米国のアフガン攻撃は当然視され、世界的にも米軍支持が次々となされた。当時はあの北朝鮮ですらテログループを非難し犠牲者を追悼する声明を出すほどだった。戦場と化したアフガンの聞きなれない地名で米軍は勝利を収め続けた。タリバンはあっけなくアフガンから駆逐されたように見えた。戦争の名目はタリバンがテロの首謀者、オサマ・ビンラディンをかくまったということだったが、戦争の最後まで目的を達成することはなかった(彼は隣国のパキスタンで捕まる)。 米国は気勢を上げ「大量破壊兵器(WMD)」疑惑を理由にイラクへ侵攻する。これがちょうど2003年だった。韓国の大学では当時いわゆる「学生運動勢力」がそれなりに力を有していた。キャンパス内ではイラク戦争への反対を訴える垂れ幕も散見された。それまで米国の軍事活動を概ね支持してきた韓国世論も、イラク戦争に対しては賛否両論が激しく対立していた。アフガン戦争とは違って、どうしても戦争の正当性が見当たらなかったからだ。2003年5月にブッシュ米大統領の「終戦宣言」で終わったように見えたイラク戦争は泥沼化していく。私は最初からイラク戦争には反対だったが、今、振り返ってみると戦争を多少変わった観点から見た時期もあった。2005年からの2年3か月の軍人時代(兵役、空軍)だ。 韓国政府は米国の支援要請を受け、軍事派遣を進めるか否かで相当迷っていた。派兵を反対するデモも繰り返し行われた。韓国内の対米感情は悪化の一途を辿り、ブッシュに対しても多くの批判がなされた。単純に進歩系市民団体だけでなく、米国の「一方主義」に拒否感を覚えた人々が多かった。陸軍部隊等の大規模派遣が決定された後には「それでもどこが安全か」という議論に移った(余談であるが、日本でも似たような論争は存在していた。しかし議論自体は韓国より比較的落ち着いた中で進められる。その背景には北朝鮮による拉致問題があったが、詳細については割愛する)。 私の「日常史」がイラク戦争に「出くわす」のは、ちょうど戦争の泥沼化が始まったこの時期だった。「イラク派遣の兵士を募集する」という内容の通達文が全軍に伝播された。基本的には陸軍兵士が中心だったが、クウェートに空軍部隊の展開も予定されていた。兵士の間では「今の何十倍ものお金がもらえる」ということで話題にもなった。当時の給料は平均月1万円前後だったからだ(現在は賃上げの影響で増額)。それがイラクに行くだけで、約2000ドル(約20万円)になるということだった。軍内部のインターネット(イントラネット)のメールマガジン(ニュースレター)には「平和的に現地住民と過ごす兵士の写真」が数回にわたり掲載される。応募することはなかったが、それにしても戦争がそれなりに身近にあった。それ以降、北朝鮮の初の核実験(2006年10月)も軍隊で経験したため、当時の「安保情勢」はある意味、「自分の問題」でもあった。そのせいか、今でもこの前後の時代に対し学問的な関心を持っている。 全世界が目撃しているように、アフガン・イラクの安定化は失敗に終わろうとしている。イラクでは「イスラム国」をはじめ、とても安定とは言えない情勢である。アフガンのカブール陥落と空港での大惨事はその象徴だった。米国はイラクとアフガンの再建や民主化を名目に莫大な金銭的かつ技術的な援助及び軍事支援を進めてきたが、現在、自国内でもアフガン戦争を評価する声は高くないようだ。 個人的にカブール陥落後、米国内の動きで特に印象深かったのは、アフガン戦争の開戦を最後まで反対した米民主党の下院議員(バーバラ・リー)の演説だった。リー議員は、9・11テロ直後の議会で大統領にテロ対応のための絶大な権限を付与する決議に対し「軍事行動によってさらなるテロを防ぐことはできない」「どんなに困難な採決でも、だれかが抑制を訴えなければならない」と主張した。しかし、むなしくも採決の結果、上院では98対0、下院では420対1で議決は可決された(『朝日新聞』2021年8月12日)。にもかかわらず、ちょうど20年が経った今、この反対意見はこれからの世界の「教訓もしくは反面教師」として残った。 ただし、「20年」は変化をもたらすための時間としては極めて短い気もする。民族的構成が比較的単純な韓国や台湾でも、冷戦期の独裁体制から抜け出し民主化を定着させるまで40年以上の年月を要した。そのため、おそらく変化したことがあるとすれば、それは米国がもはや時間の経過を耐える「忍耐力」が低下した事実かもしれない。これこそ、「一つの時代の終焉」を意味するのだろう。 <尹在彦(ユン・ジェオン)YUN_Jae-un> 一橋大学法学研究科特任講師。2020年度渥美国際交流財団奨学生。2021年、同大学院博士後期課程修了(法学)。延世大学卒業後、新聞記者(韓国、毎日経済新聞社)を経て2015年に渡日。専門は日韓を含めた東アジアの政治外交及びメディア・ジャーナリズム。現在、韓国のファクトチェック専門メディア、NEWSTOFの客員ファクトチェッカーとして定期的に解説記事(主に日本について)を投稿中。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************  
  • YUAN Xiaoyu “Future Research Agenda”

    *********************************************** SGRAかわらばん898号(2021年11月25日) 【1】元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」 【2】寄贈本紹介:楼慶西著、李暉・鈴木智大訳『中国の建築装飾』 【3】SGRAレポート『岐路に立つ日韓関係』(日韓合冊版)ご紹介 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#688 ◆元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」 近年、日本では子どもの間のいじめでパソコンや携帯電話等が使われることは珍しくない。「ネット上のいじめ」とは、携帯電話やパソコンを通じてインターネット上のウェブサイトの掲示版などに特定の子どもの悪口や誹謗・中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うものを意味する。一方、いじめを受けた子どもがツイッターやLINE上でつぶやいたSOSが「放置」され、自殺という最悪の事態に至ってしまうこともあった。 さらに、子どものいじめや自殺などの相談にSNSのLINEを使ったところ、電話よりも相談件数が増えることが分かった。「SNSは若者にとっていちばん身近なので、相談に活用できるよう対応することが必要だ」と言う意見も強い。いじめの防止につなげようと、千葉市の市立中学校は2016年度から子どもたちが毎日持ち歩く生徒手帳に、いじめに遭ったり目撃したりしたときの対応やネット上の相談窓口を記載する取り組みを始めたという。ネットいじめを低減する重要な要因、解消のために必要な要因は何であると考えられるのだろうか。教育者にとって、この点を明らかにすることが喫緊の研究課題である。 中国では2017年に国家教育部が初めて「いじめ」の定義を明確に示したが、その後の対策はまだはっきりとしていない。中国でいじめ問題に人々が関心を寄せるようになったのは、ごく最近のことにすぎない。長い間、多くの中国人は子どもの間のいじめは免れられないことであると考えていた。一学年に250名くらいの児童・生徒が在籍しているとの報告があり、生徒数が多いことが影響していると考えられる。 いじめが起こる場面では傍観者が最も多い。傍観者の多くは、いじめをする人が悪いと思い、いじめられている人はかわいそうな人であると思っているが、どうしたら良いか分からないという状態にある。中国では、多くの児童・生徒は学校側からいじめについて認識を尋ねられた場合に、知りうるすべての真実を学校側に伝えると答えている。いじめを傍観している児童・生徒は、いじめを解決する上で鍵となる人物といえる。いじめが先進国ほど表面化していない中国においては、学級づくりでは多くの傍観者を取り込んで、良い雰囲気を構築することが極めて重要なことであり、いじめを減らす有効な方法になると考えられている。 良い雰囲気の学級を作ることはいじめの予防教育につながる。日本でも、いじめの早期発見と早期対応を促す教師のあり方として、教師が子どもに信頼されることと共に、教師の意識を変えることが必要であると指摘されている。いじめがないことを前提に児童・生徒たちに接するのではなく、いじめが存在する可能性を前提として子供に接することで、早期に的確な対応を取ることが可能となる。これからの研究課題は、教師がいじめをどのように把握するか、教室全体がいじめ防止・抑止に結び付く雰囲気をどのようにつくり出すかという点になるといえる。 <元笑予(げん・しょうよ)YUAN Xiaoyu> 2008年来日、中国南開大学の日本語学科を卒業して、埼玉大学教育学部の研究生、修士を経て、東京学芸大学大学院で2020年9月に教育学博士号を取得。専門は教育心理学。現在、玉川大学教育学部非常勤講師として勤務しながら、東京学芸大学個人研究員として研究を進めている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈本紹介 SGRA会員で奈良文化財研究所アソシエイトフェローの李暉さんからご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆楼慶西著、李暉・鈴木智大訳『中国の建築装飾』 中華世界の中心である紫禁城などの宮殿建築から、四合院といった伝統的住宅に至るまで、中国建築の屋根、扉・窓、基壇等に施された建築装飾を、彩色・彫刻・文様ほかあらゆる側面から分かりやすく読み解く。中国建築史研究の大家による詳細な解説とオールカラーの美麗な写真により、豊富な具体例を示しながら、時代や地域を越えた中国建築の歴史、さらにそれらの底流にある中国文化に対する理解をも深める一書。 日本語版オリジナルの各種索引(建築用語等、建築物・庭園、地名)を完備。さらに訳者による「中国建築用語解説」を掲載し、レファレンスとしても有用。 発行:科学出版社東京(株) 発売:(株)国書刊行会 発売日:2021/07/21 判型:B5判 ISBN:978-4-336-07234-4 ページ数:263頁 Cコード:0052 定価8,580円(本体価格7,800円) ※詳細は下記リンクをご覧ください。 https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072344/ -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】SGRAレポート第95号『岐路に立つ日韓関係』(日本語・韓国語合冊版)のご紹介 SGRAレポート第95号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様は冊子本をお送りしました。会員以外でご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。 第19回日韓アジア未来フォーラム講演録 ◆『岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか』 2021年11月17日発行 http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report95.pdf <フォーラムの主旨> 歴史、経済、安保がリンケージされた複合方程式をうまく解かなければ、日韓関係は破局を免れないかもしれないといわれて久しい。日韓相互のファティーグ(疲れ)は限界に達し、日韓関係における復元力の低下、日米韓の三角関係の亀裂を憂慮する雰囲気は改善の兆しを見せていない。尖鋭な対立が続いている強制徴用(徴用工)及び慰安婦問題に関連し、韓国政府は日本とともに解決策を模索する方針であるが、日本政府は日本側に受け入れられる解決策をまず韓国が提示すべきであるという立場である。なかなか接点を見つけることが難しい現状である。 これからどうすればいいか。果たして現状を打開するためには何をすべきなのか。日韓両国政府は何をすべきで、日韓関係の研究者には何ができるか。本フォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ4名ずつ招き、これらの問題について胸襟を開いて議論してみたいと考え、日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行った。 <もくじ> 第1部:講演および指定討論 【講演1】岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか----日本の立場から 小此木政夫(慶應義塾大学名誉教授) 【指定討論1】小此木先生の講演を受けて 沈揆先(ソウル大学日本研究所客員研究員) 【講演2】岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか----韓国の立場から 李元徳(国民大学教授) 【指定討論2】李元徳先生の講演を受けて 伊集院敦(日本経済研究センター首席研究員) 第2部:自由討論 金志英(漢陽大学副教授)、西野純也(慶應義塾大学教授)、小針進(静岡県立大学教授)、朴栄濬(国防大学教授) 第3部:質疑応答 司会アシスタント 金崇培(忠南大学招聘教授) あとがきにかえて 金雄煕(仁荷大学教授) ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • KABA Melek “Third Year Japanese Language Education Students and Whereabouts of the Servant of RASHOMON”

    *********************************************** SGRAかわらばん897号(2021年11月18日) 【1】エッセイ:カバ・メレキ「日本語教育学部3年生と『羅生門』の下人の行方」 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月20日オンライン)(最終案内) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 *********************************************** 【1】 SGRAエッセイ#687 ◆カバ・メレキ「日本語教育学部3年生と『羅生門』の下人の行方」 私は今、トルコ西部に位置するチャナッカ市のチャナッカレ大学の日本語教育学部で教えています。この街にまつわる伝説は「トロイの木馬」です。 ここの学生は1年目に日本語予備クラスから始め、4年間の学部教育を経て、受かれば日本語教育の分野で修士課程に入学できます。私が担当している授業は学部3年生の「日本文学」です。 3年生の「日本文学」は、日本語教師として卒業が見込まれる学生にとっては「どうでもいい」授業だったようです。トルコでは日本文学の専門家は5本の指で数えたら、ちょうどの数になります。6人目は誰になるか待ち遠しいと言える状態がいつまで続くか分かりません。そのような環境ですから、3年生の「日本文学」は作家と作品の羅列で行われてきたようです。 チャナッカレ大学に転任して授業開始の週に3年生と初めて顔を合わせた日は忘れがたい思い出になりました。一昨年の秋でした。静かな教室、「はい、こんにちは!日本文学担当です」大きく目を開けた21歳前後の33人。「教育実習が忙しいから先生の話なんかどうでもいい」とは言わないが、言わなくてもそう言いたい顔です。しかし、こちらも負けるつもりはありません。 最初の授業から完全に日本語を使用。学生は驚く。後から聞いた話では「いつまで日本語で話すのかな」と、授業が終わったら「メレキ先生」のうわさ話をたっぷりしたようです。実際、1年目の日本語予備クラスが終わってからは日本語を使うことは少なくなり、3年生になると日本語教師になるための教育関係の授業が多く、日本語は勉強しなくなってきて、そのうち、日本語は一部の理論的な授業でしか使わない「死んだ言語」として認識されるようになっていたようです。それはクラスの雰囲気でも分かりました。 しかしながら、21歳の33人が「面白いこともなき世を面白く」生きるために日本文学は丁度良かったです。 一般的な日本文学の授業は一切行いませんでした。作家論だとか、自然主義の代表作家とか、平安朝の女流作家の名前を並べることもなかったです。芭蕉がいつ生まれたかも覚えさせませんでした。 『吾輩は猫である』は漫画バージョンを配り、「くしゃみ先生」の真似をしました。日本語で聞いた授業内容に笑う学生。それこそが「日本文学」という授業のゴールでした。漱石の話は主人公の「猫」で盛り上がりました。「猫の視線で教室を見て、それを日本語で表現しなさい」と言うと、学生は少し動きました。「猫になって見る日本文学の授業」のことを夜宿舎で話し合ったり、おかしくて笑ったりしたようです。 その後、『蜘蛛の糸』を読むときは女子大生のアイチャさんに「自分がカンダタだったら」の文の続きを考えてくださいと指示すると、「もしかしたら、自分も他の人を蹴って地獄の底に落として、自分だけ助かりたいと思ったかも」と発言します。芥川ファンが増えました。『鼻』を読む時は、「仲間の欠点に喜ぶ、見下すことで喜びを得た経験がありますか」と議論を始めたら、いつの間にか盛り上がります。騒動まで行かないですが、緊張感たっぷりの議論が続きます。 『羅生門』の下に来てびしょ濡れになった「下人」は善と悪の行動のどちらに走るかはかなり迷います。死体の髪の毛を抜くという場面設定。グロテスクで生臭い人間の内面を話し合いました。あなたは飢え死にするか、死体の髪の毛を抜いて鬘(かつら)を作るために売るか。このような質問をしたら、人間の気持ちと心の底の話が、「日本語でできるんだ」という実感が湧いてきました。登場人物の「下人」の心の闇が21歳の中東の若者にとって、なぜか身近な気持ちを抱かせたのかもしれません。海外とか、遠いどこかを夢見ていることもよく授業中に学生から持ち出される話題です。トルコの若者たちにとって、「下人」と彼がずっと気にするニキビのニュアンスも面白かったです。「ニキビ」は生物学的なものではなかった、テキスト分析をする時に、「主人公の体の動きも意味を持つ」と教えたら、「人生のこれからに対して抱く不安を芥川は「下人」のニキビを媒介に描いている」という結論に至りました。 驚くことに学生はそのうち「大宰派」と「芥川派」に分かれてしまいました。内気で恥ずかしがり屋グループは「太宰」でした。『人間失格』はトルコ語訳と日本語漫画バージョンを共に読む課題を出しました。「芥川」は比較的に話好きな学生のアイドルでした。現在、その時の3年生と芥川龍之介の短編集をトルコ語に訳しています。 3年生の「日本文学」の授業は人間の心の底に、日本語で話せるようになった科目でした。羅生門から出た下人の行方は分かりませんが、3年生は日本文学を通して日本語で人間を眺めることは少しできるようになったかもしれません。 <カバ・メレキ KABA_Melek> 2009年度渥美奨学生。トルコ共和国チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学日本語教育学部助教授。2011年11月筑波大学人文社会研究科文芸言語専攻の博士号(文学)取得。白百合女子大学、獨協大学、文京学院大学、早稲田大学非常勤講師、トルコ大使館文化部/ユヌス・エムレ・インスティトゥート講師、トルコ共和国ネヴシェル・ハジュ・ベクタシュ・ヴェリ大学東洋言語東洋文学部助教授を経て2018年10月より現職。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第15回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式ですので、お気軽にご参加ください テーマ:「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 日時:2021年11月20日(土)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(京都時間) 方法:Zoom_Webinarによる/日中同時通訳付き 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、北京大学日本文化研究所、清華東亜文化講座、 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_oefAUZ69QMaxwXm1GvLrjw お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想水脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりとして、「アジアという空間が翻訳・留学などによっていかに作られたのか?」さらに、その時空間において「modernやglobalizationなどがいかなる生活様式・思考様式の変容をもたらしたのか?」を概念語や日常語の視点からいかに捉えるのかを検討する。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学日本言語文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター) 講演:山室信一(京都大学名誉教授) 「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?-空間アジアの形成と生活世界の近代・現代-」 コメント:王中忱(清華大学中国文学科)、劉暁峰(清華大学歴史系)、趙京華(北京第二外国語学院)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) 閉会挨拶:王中忱(清華大学中国文学科) ■講師からのメッセージ 討議では、まずアジアというヨーロッパから与えられた空間概念が、いかにして当該空間に住む人々によって自らのアイデンティティーの対象となっていったのか、を翻訳や留学などによる思想連鎖の中で生まれた意義について考えたいと思います。そこではローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルという4つの空間層と思想の存在態様をいかに関連させて捉えるか、という問題が重要になってきます。 次に、そうして生まれたアジアという空間の中で、人々の生活様式はどのように変容していったのか、を近代と現代という「二つのモダン」の次元で検討したいと思います。そこではモダン・ガールが髪や服装の長短の変化と関連して毛断嬢や裳短嬢などと表記されるなど、どのようなモダン語などで表象され、それが写真や絵画・漫画などでいかに視覚化されたのか、が重要な鍵となります。 こうした議論を通して、アジアにとってモダンやグローバリゼーションさらにはアメリカニズムとは何だったのか、を検討したいと思います。その討議においては、単に思想や研究の次元の問題に限らず、広く社会生活のありかたとしてのway_of_lifeを考え直すための意見交換ができればと願っております。ここにはウイズ・コロナ時代におけるアジアとそこでの生活様式・思考様式を展望することも含まれるはずです。 今回の討議では、空間と社会生活と言葉(概念や流行語)という3つの次元をいかに結びつけていくのか、という方法論を模索するなかで「思想連鎖」や「思詞学」という研究視角を提言するに至った経緯についても触れ、忌憚のない御批判を戴きたいと切望しています。 ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/J_SGRAChinaVForum15.pdf 中国語版 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/C_SGRAChinaVForum15.pdf ポスター http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2021/10/16thSGRAchinaForumV10(Medium).png ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ 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