SGRAメールマガジン バックナンバー

  • [SGRA_Kawaraban] Borjigin Husel “New Start — 20th Anniversary of Atsumi International Foundation”

    ******************************************** SGRAかわらばん557号(2015年2月25日) ******************************************** SGRAエッセイ#450 ■ボルジギン・フスレ「新しい道を——渥美国際交流財団20周年記念祝賀会に参加し て」 2月6日、待ちにまった渥美国際交流財団20周年記念祝賀会が霞山会館で開催された。 その日、私が虎の門駅でおりた時には、すでにひぐれの時間であった。エスカレー ターを上がったところでまず目にしたのは、会場案内の看板を持って、来客を誘導し ている先輩の葉文昌さんであった。そして、霞山会館のビルの入口では、同じく道案 内の看板をもっている先輩の李恩民さんが待っていた。二人はともに大学の教授であ るにもかかわらず、寒いなか、熱心にみなさんの道案内をしている。先輩諸氏の姿を みて、まず、感動した。 あわてて、会場にかけこんで、財団の常務理事今西淳子さんに「なにかやることはあ りますか」と聞いたところ、「今日は落ち着いて、楽しんでください」といわれた。 中曽根康弘元総理大臣をはじめ、各国、各分野の200名を超す方々が参加し、祝賀会 が大盛会であったことはいうまでもない。 馴染みとの再会、新しい仲間との出会いの喜びはもとより、知見の豊かな意見交換、 そしてやや横道に逸れる話も、祝賀会に必要なものだと思われる。ことなる文化のぶ つかりあいによって智慧の火花が生まれるからであろう。 「故きを温ねて新しきを知る」。渥美伊都子理事長のご挨拶は、渥美財団の20年の歩 みをふりかえながら、新年会などでの留学生とのふれあいのエピソードをとりあげ、 国際交流における日本文化の位置づけも試みており、東洋の心に思いを馳せた。 長い間、渥美財団の人材育成、国際交流事業をあたたかく応援してくださっている明 石康先生のご挨拶は重みがあった。「人間でも、国でもどのように友達を選ぶのかは 非常に重要だ」というご指摘に非常に感銘した。 桐蔭横浜大学教授のペマ・ギャルポ先生に会って、モンゴル語で挨拶した。先生はか つてモンゴル国大統領の顧問を担当されたことがある。来日してすぐに先生のことを 知ったのだが、お目にかかったのは今回が初めてであった。 名古屋大学名誉教授平川均先生からは、東アジアの枠組みのなかの日本とモンゴルの 友好関係とその意義などについて聞かれて、うれしかった。バリ島でおこなわれた第 2回アジア未来会議では、平川先生からいろいろとご教示をいただいた。モンゴルは かつて日本の「生命線」と呼ばれる地域であったが、長い間わすれさられた。新しい アジアの秩序の構築において、日モ関係の強化は、ある意味では何をもっても代える ことのできないほどの重要性があると思う。 渥美財団のアドバイザー高橋甫氏は、寡黙でありながら、いつも物事を鋭く洞察して いる。モンゴルでおこなわれた7回のSGRAの国際シンポジウムの内、2回も参加してく ださった。その際、また、アジア未来会議においても、モンゴルの鉱山開発と環境保 護について、貴重な助言と情報をくださった。 公益財団法人かめのり財団の常務理事西川雅雄氏にお会いして、若い世代を中心とす る相互理解の国際交流等について話し合った。実は、かめのり財団は2012年に私が実 行委員長をつとめた第1回日本モンゴル青年フォーラムに助成してくださったことが あり、この恩は忘れられない。 設立以来長い間事務局にいらした谷原正さんは人気者で、たぬき(渥美財団の奨学 生)たちにかこまれて、いろいろと聞かれていた。慈愛にみちた美しさが感じられ る。 著名な、日本を代表する国際的ヴァイオリニスト前橋汀子氏のすばらしい演奏は、人 びとの心をうち、祝賀会をいやが上にも盛り上げた。日本に来る前に、ふるさとの芸 術大学で9年間教鞭をとったこともあったのだが、昔のさまざまなことが思い出され た。 先輩の李鋼哲さんは東アジアの秩序について、熱心にかたった。李さんはかつて『朝 日新聞』にモンゴルに関するユニークなコラムを書いたことがあり、たいへん注目さ れた。 再会した友人のなか、2003年度同期の奨学生林少陽氏、臧俐氏、張桂娥氏はそれぞれ 大学の教授になっている。4人で乾杯し、教育のことが話題になった。 祝賀会は、旧知の情を呼び覚ますだけではなく、また新しい仲間と知り合うことだけ でもなく、新しいスタートである。 子日く、「三十而立、四十不惑(三十にして立つ、四十にして惑わず)」。この意味 で、渥美財団はまだ基礎を固める段階にあるが、すでに目覚ましい成果を成し遂げて いる。国際理解や平和構築、人材育成に、渥美財団が寄与すべき責任(仕事)は多々 ある。財団の20年の歩みを誇り高く思うが、栄光は過去のものであり、新しい道を開 いていくことは、私達の使命である。 祝賀会の公式報告と写真、当日上映した動画は、下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/jp/news.php?id=54eac4eb31a46 ------------------------------------------ <ボルジギン・フスレ Borjigin Husel> 昭和女子大学人間文化学部国際学科准教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年 東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。昭和女子大学 非常勤講師、東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員をへ て、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945〜49年)——民 族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、共編『ノモンハン事件(ハルハ 河会戦)70周年——2009年ウランバートル国際シンポジウム報告論文集』(風響社、 2010年)、『内モンゴル西部地域民間土地・寺院関係資料集』(風響社、2011年)、 『20世紀におけるモンゴル諸族の歴史と文化——2011年ウランバートル国際シンポジ ウム報告論文集』(風響社、2012年)、『ハルハ河・ノモンハン戦争と国際関係』(三 元社、2013年)他。 ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第5回日台アジア未来フォーラム 「日本研究から見た日台交流120年」 (2015年5月8日台北)<ご予定ください> ○第4回SGRAワークショップin蓼科 (2015年7月3日〜5日蓼科) ○第49回SGRAフォーラム 「日本研究の新しいパラダイム」 (2015年7月18日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Zhihai “Blind Spots in Japan: Cold Residences in Winter”

    ***************************************************** SGRAかわらばん556号(2015年2月18日) 【1】エッセイ:謝志海「日本の盲点:冬の寒い住居」 【2】催事案内:「東アジアにおける漢字漢語の創出と共有」 ***************************************************** 【1】SGRAエッセイ#449 ■ 謝 志海「日本の盲点: 冬の寒い住居」 冬に日本へ一時帰国する海外在住の日本人の友人たちは、皆口を揃えて言う。「日本 の冬は寒くて、過ごしにくい」と。彼らはみんな日本より寒い国や地域に住んでいる というのに、日本の家(主に彼らの実家)が寒いというのだ。私が勝手に抱いていたイ メージは、日本の冬の「こたつでみかん」を楽しみにと思っていたのに、現実は違っ ていた。彼らが暮らしている国々は日本より冬が厳しいが、家中が暖かく保たれてい るそうで、日本の住居のように、暖房をつけた暖かい部屋を一歩出たら寒い廊下、そ して寒いトイレに行くということが無いそうだ。思えば私が長年暮らしていた北京の 冬は、日本より寒いが室内はどこも暑い程だった。家電製品は日々進化し、便利な生 活を整えるため次から次へと新しい技術が産み出される日本で、何故日本の家は寒い ままなのだろう。 ニューヨークから一時帰国してきた日本人の友人が教えてくれたのだが、ニューヨー ク州の法律では、冬季(10月から5月)に外気温が10度を下回ったら、アパートの大家 は室温を20度にしなければならないと定められているそうだ。しかもこの暖房費は家 賃に含まれているとのこと。セントラルヒーティングで家中に暖房がいきわたり、家 に帰れば家の中がすでに暖かいのはいいよと絶賛していた。このようなことが法律で 定められていることに驚き、ニューヨークの近隣の寒い地域についても調べたら、米 国東海岸の他の州はもちろん、カナダのトロントや、英国も同様に、住宅の最低室温 に関して規制があった。そしてこれは健康への配慮からなる法規制であった。日本に は住宅に対してこのような規制は無い。 インフラが整い、全てが完璧のような日本に落とし穴を見つけた気がした。日本のテ レビでは毎日のように健康についての番組が放映され、現に国民の一人ひとりが健康 への関心が高い。しかし日本の家の中は寒いままだ。そして冬のニュースでよく耳に するのが、高齢者のお風呂場、脱衣所で心臓発作による死。熱い湯船に浸かり、外気 と同じくらい寒い脱衣所に出る。この急激な温度変化で体調が急変することを「ヒー トショック」と言うそうだ。厚生労働省の報告書によると、入浴時の事故死だけで、 年間1万9千人以上と推計されるそうだ。 このような事故死を防ぐため、日本の冬の住居環境を見直すべきだろう。欧米のよう に住宅の法規制として、断熱化を進めるべきではないだろうか。光熱費が高い日本で は、家そのものの工夫が必要だろう。察するに、高齢の日本人は我慢強く、少しくら い寒くても我慢してしまうことが多い。暖房器具があっても使われなければ意味がな いし、何よりも住居内での温度差が危険なのだ。家中の室温を一定に保つことが重要 だ。北海道の家は冬も暖かいので、ヒートショックも少ないそうだ。身近な所から冬 を過ごし易い住環境を取り込み、改善すべきだ。それは日本の高齢者を守り、人口減 を緩やかにする。健康への関心が高い、先進国の日本人が、このように未然に防げそ うな事故で毎冬あっけなく命を失うのは大変惜しい。 ---------------------------------------- <謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログ ラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期 課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交 流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年 4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されてい る。 ---------------------------------------- 【2】催事案内 SGRA会員の孫建軍さんからシンポジウムのご案内をいただきましたのでご紹介しま す。 ■ 国際シンポジウム「東アジアにおける漢字漢語の創出と共有」 共催:漢字文化圏近代語研究会、早稲田大学孔子学院 日時:2015年3月21日〜22日(土・日) 場所:早稲田大学11号館901教室 (入場無料、一般来聴歓迎) プログラムは下記リンクよりご覧ください。 http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~shkky/2015_03_21program.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第5回日台アジア未来フォーラム 「日本研究から見た日台交流120年」 (2015年5月8日台北)<ご予定ください> ○第4回SGRAワークショップin蓼科 (2015年7月3日〜5日蓼科) ○第49回SGRAフォーラム 「日本研究の新しいパラダイム」 (2015年7月18日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Aingeru Aroz-Rafael “Nation and Identity”

    ******************************************** SGRAかわらばん555号(2015年2月11日) ******************************************** SGRAエッセイ#448 ■アロツ=ラファエル アインゲル「国とアイデンティティ:自分の居場所はどこ か」 多くの人は、自分が何人であるかについて話す時、つまり「私は日本人です」、「私 はスペイン人です」と言う時、おそらく何の違和感、疑問を感じないだろう。ただ し、私たちが「私は日本人です」、「私はスペイン人です」と言う時、自らの客観 的、正式的、パスポートに書いてある国籍を指しているだけではなく、自分がある 国、あるコミュニティーへの帰属意識、いわば自分のアイデンティティの一側面を表 現してもいると言えよう。 私は留学がきっかけで、自らの国・国籍とアイデンティティについてしばしば考える ようになった。そして、この課題についての私の考え方は留学によって大きく変わっ た。本稿では、私の考え方がどう変わったかを説明するために、まず私の背景につい て、次に10年以上前に初めて留学することによって私の観点がどう展開したかを、そ して最後に国とアイデンティティについての現在の私がどのような立場であるかを述 べたい。 私はスペイン北部にあるバスク地方で生まれ育ち、22歳までバスク地方の最大の都 市、ビルバオに住んでいた。バスク地方ではスペイン語と違う言語が話されており、 また、その歴史・社会構造・経済構造の面からも他のスペインの地方との相違点が多 く、バスク人の一部はスペインからの独立を願っている。このような複雑な地域で は、「あなたは自分をバスク人と考えていますか、スペイン人と考えていますか」と いうような質問を問いかけられることがよくある。しかも、バスク地方では、自分を スペイン人かバスク人かと認識することは、自分の家系や母語とは直接関係なく、む しろ自身の政治的立場や感情と深くかかわっている。例えば、自分の家族がスペイン の他の地方の出身であって、自分の母語がスペイン語であっても、自らをスペイン人 でなくバスク人と考える人もいれば、家族がバスク地方出身であり、バスク語を母語 とする人で自らをスペイン人と考える人もいる。 私自身は、バスク地方に住んでいた時、自信をもって「私はスペイン人ではなく、バ スク人である」と言うことができた。それは、バスク地方以外の地域に対して何らか の抵抗を感じていたからではなくて、むしろバスク地方の独自性、いわばユニークさ に一種の愛着を持っていたからであり、また、私の周りの人々、つまり家族や友だち が同様な観点を持っていたからであった。 しかし、私は22歳の時にイタリアのボローニャ大学に留学することになり、初めてバ スク地方ではない国で生活し、また、バスク地方以外のスペインの各地方やヨーロッ パの各国から来た友だちができることによって、私が、自分自身が、バスク人である ということの意味を深く考え直すことになった。バスク地方に住んでいた時の私はバ スク地方の特殊性、スペインの他の地域との相違点などを重視していたのに対して、 イタリアで生活を始めた当時の私にとっては、相違点というより、むしろスペインの 他の地域やヨーロッパ各国との共通点の重要性がわかるようになった。したがって、 私はイタリアで国籍を聞かれた時、だんだん違和感を持たずに「スペイン人です」と 答えるようになり、かつ、自分をバスク人だけと考えていた以前の私の立場を排他的 で度量の狭い立場のように見るようになった。そうして私は、「バスク人」「スペイ ン人」というような名称が自分の背景をある程度説明していることを理解すると同時 に、自分にとって実際それらの言葉にたいした意味がなくて、自分のアイデンティ ティとしてはむしろヨーロッパ人としてのアイデンティティがもっと重要なのではな いかと考えるようになった。なぜなら、ヨーロッパという概念からは、国境を超えた 豊富な歴史を背景としながら、多様で充実した社会を目的とする民主主義的プロジェ クトを構築していくことができると考えたからであった。 しかしながら、私は2007年に、ヨーロッパから離れて日本に留学することになり、自 分の立場をあらためて考えることになった。イタリアに留学することによって私の視 野が広くなったと同じく、はじめてヨーロッパ以外の国で生活し、日本およびアジア 各国から来た友だちができ、実際に人間同士をつなげるものは共通の文化的背景など ではなく、むしろ価値観、世界観であることがはっきり分った。 こうして、日本に留学することによって、私のバスク人、スペイン人、ヨーロッパ人 としてのアイデンティティが、いったいいかなるものであるかをふたたび反省するこ とになり、国とアイデンティティについて、より明確に考えるようになった。つま り、国とアイデンティティの間の関係において二つの側面を区別することができると 思う。一方では、「私はスペイン人です」、「私は日本人です」などの表現によっ て、私たちがどこから来ているか、どこで育ったかを説明しているのであって、例え ば私の個人的な場合に、やはり私がバスク人であること、スペイン人であること、 ヨーロッパ人であることのそれぞれが、私の背景、いわば私の個人的な歴史を語って いると言えると思う。他方では、「私はスペイン人です」「私は日本人です」などの 表現が、ある国、あるコミュニティーへの帰属意識を表しており、すなわち自らがど こから来たかだけを表すというより、むしろ自らがどこに帰属したいか、どこを自分 の居場所にしたいかということを表していると思う。この二つ目の側面は、一つ目の 側面より自由であり、個人が各々の人生において、様々な経験を重ねるにつれて、変 わっていくことが可能であろう。 留学生として日本で7年間生活してきた私は、自分がバスク人、スペイン人、ヨー ロッパ人であるということが、上述したように私のある重要な側面を捉えていると思 う。なお、上記の二つ目の側面については、つまり私がどこに帰属したいか、どこを 私の居場所にしたいか、「何人でありたいか」と聞かれるとしたら、バスク地方はも ちろん、スペインやヨーロッパももはや狭すぎて、ありふれたひびきのある言い方で あろうが、おそらく私の居場所が世界、地球であり、私が帰属したいコミュニティー は各国の狭い国境を超えた世界の市民のコミュニティーであると答えるしかないであ ろう。 ------------------------------- <アロツ=ラファエル アインゲル Aingeru Aroz-Rafael> 2005年Deusto大学文学部歴史学科卒業(ビルバオ、スペイン)。2008年マドリード自 治大学学部東アジア学科卒業。2008年同大学マドリード自治大学大学院哲学研究科比 較文学専攻修士課程修了。2003年ボローニャ大学留学(イタリア)。2007年上智大学 留学。2007年平和中島財団奨学生。2008年?2012年国費留学生。2013年渥美財団奨学 生。研究関心は近代日本哲学史、近代日本言語学史・国語学史・人文科学史、言語哲 学。現在、東京大学大学院学際情報学府博士後期課程。 ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」(2015年2月7日東京) <ご参加いただきありがとうございました> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ○第19回日比共有型成長セミナー(2015年2月10日マニラ) 「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 <ご参加いただきありがとうございました> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/19.php ○第5回日台アジア未来フォーラム 「日本研究から見た日台交流120年」 (2015年5月8日台北)<ご予定ください> ○第4回SGRAワークショップin蓼科 (2015年7月3日〜5日蓼科) ○第49回SGRAフォーラム 「日本研究の新しいパラダイム」 (2015年7月18日東京)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Xie Zhihai “The Problem of Japans Declining Population”

    ************************************************************* SGRAかわらばん554号(2015年2月4日) 【1】エッセイ:謝 志海「日本の人口減少問題」 【2】催事紹介:ランジャナ・ムコバディヤーヤ(2月10日京都)    講演「仏教と平和主義:日本仏教の挑戦」 【3】SGRAフォーラムへのお誘い(2月7日 東京)[再送]   「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」    〜当日参加も歓迎です〜 【4】日比共有型成長セミナーへのお誘い(2月10日マニラ)[再送]   「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 ************************************************************* 【1】SGRAエッセイ#447 ■ 謝 志海「日本の人口減少問題」 昨年末の日本経済新聞で、厚生労働省による2014年の人口動態統計の推計が発表され ていた。それによると、死亡数は、戦後最多の126万9千人、出生数は100万1千人で出 生数が死亡数を下回る人口の自然減は26万8千人で過去最大となった。2011年以降こ の自然減は毎年20万人を超えているという。出生数が増えないことには人口の自然減 は食い止められないということだ。今は元気な団塊の世代が減りはじめたら、日本は どうなってしまうのだろう。政府として何か策は練っているのか? 政府の中位人口推計では、このままだと2020年代初めには、60万人減、40年代は年に 100万人と減少速度が加速、2050年を前に総人口が1億人を割る見通しだそうだ。私の 母国である中国の人口13億人を思うと、国際社会において政治、経済のいずれの面か らも見ても大国である日本は人口が1億人を下回る国になるのは想像し難い。このま ま人口が減って行くと、日本の国力と国際発信力にも大きな影響を及ぼすのだろう。 日本政府はどうにか人口1億人を維持したいようだが、実現性は不透明という気がす る。内閣府に設置された、「選択する未来」委員会が2014年に中間報告として示した 「人口減少数の将来推計」によると、2030年に出生率2.07となれば、2060年以降も1 億人程度の人口を維持できるとの推計を示した。しかし2013年の出生率(合計特殊出 生率)は1.43人であり、1975年以来ずっと出生率2人を割っている。この現状を見る と、内閣府の将来推計は現実味に欠ける。 減りゆく人口に嘆いてもしょうがないので、始まったばかりの2015年が人口減少問題 の解決に大きく1歩踏み出す年になると良いなあと思う。幸い日本は民間企業が社会 問題に向き合い、福祉を考慮しながら従業員を守っているので、改善の余地はあるは ずだ。そして、日本が官民一体で立ち向かう人口減少問題は、今後追随するであろう アジア全体の高齢化の手本になるはずだと期待している。例えば、ソフトバンクは社 員に子どもが産まれる度に出産祝い金なるものを支給していて、第二子、第三子と増 えるにつれて、祝い金の額が上がる。たくさん産めばたくさんもらえる仕組みだ。ま た、大和ハウス工業では、子供1人の出生につき100万円を支給する制度(次世代育成 一時金)がある。このように、日本では政府の対策を待たずに、企業が知恵を絞り、 国の問題解決に積極的に関わる様はとても美しいし、大きな意味がある。 しかしながら、民間企業にばかり頼っていても、日本の人口減少は歯止めが利かない であろう。何しろ毎年20万人以上もの自然減が起きている国だ。地方自治体も自分の 街から人が減るのを食い止め、かつ積極的に呼び込むことに早急に対処した方がい い。地方創生に関しては、頑張っている自治体とそうでないところの差がとても大き い。東京から遠い市町村の方が、移住者の呼び込みや、地元の活性化が盛んで、実は 東京へのアクセスが良い市町村から若者がどんどん減っていたりする。切れ目の無い 地方創生が実現すれば、日本全体が活気づいて、人口減少によりさびれる街も減り、 人口の底上げにもつながるのではないだろうか?客観的な意見だが、日本は面積の狭 い国ではあるが、砂漠のような住めない場所というのはそれほど無いのだから、人口 減少と地方創生を一緒に解決出来るポテンシャルがあると思う。事実、日本のどんな に小さな町でも意外と外国人が住んでいたりするものなのだ。その辺りをヒントに住 みやすい日本で人口維持に向けて全国的に取組んだ方が良い。 --------------------------------------------------------- <謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai> 共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログ ラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期 課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交 流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年 4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されてい る。 --------------------------------------------------------- 【2】イベント紹介 SGRA会員のランジャナ・ムコバディヤーヤさんから、講演会のお知らせをいただきま したのでご紹介します。 第286回日文研フォーラム ■ R.ムコバディヤーヤ「仏教と平和主義:日本仏教の挑戦」 仏教は平和主義を唱える宗教であると考えられています。しかし、日本をはじめ、ア ジア諸国における仏教の歴史を通観すれば、仏教徒の思想や行動が必ずしも平和主義 的であったとは言えません。仏教の平和思想とは、仏教者の時代認識及び社会観、そ してそれにもとづく仏典の解釈をあらわすものです。本講演では日本仏教の事例を取 り上げ、仏教と平和の問題について考えてみたいと思います。 開催日:平成27年2月10日(火) 時 間:14:00〜16:00 (開場 13:40) 会 場:ハートピア京都大会議室(3階)     http://heartpia-kyoto.jp/access/access.html 入場料:無料 定 員:先着 180名 申込み:不要 *詳細は、下記リンクをご覧ください http://events.nichibun.ac.jp/ja/archives/cal/2015/02/10/index.html 【3】SGRAフォーラムへのお誘い(再送)〜当日参加も歓迎です〜 ■「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 下記の通り第14回日韓アジア未来フォーラム/第48回SGRAフォーラムを開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月7日(土)午後1時30分〜午後4時30分 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター国際交流棟 国際会議室 http://nyc.niye.go.jp/category/access/ 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp <プログラム> 【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」 榊原英資(さかきばら えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授) 【報 告 1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」 安 秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長) 【報 告 2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワー クの現状と課題」 ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授) 【休  憩】  【自由討論】 進行及び総括:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) 討論者:上記発表者、指定討論者(渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究 者)、一般参加者 ミニ報告:「アジア・ハイウェイの現状と課題について」   李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授) *詳細は、下記リンクをご覧ください。 ちらし http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14chirashi.pdf プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14programJ.pdf 【4】第19 回日比共有型成長セミナーへのお誘い(再送) ■「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 "The Urban-Rural Gap and Sustainable Shared Growth " 下記の通り第19回日比共有型成長セミナーをマニラ市で開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月10日(火)午前8時30分〜午後5時30分 会場: マニラ市フィリピン大学都市・地方計画研究科     http://surp.ph/ 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン Ms. Lenie M. Miro         Email:sgraphil@gmail.com *詳細は、下記リンクをご覧ください。 プログラム(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19Program.pdf インフォグラフィック(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19Infographic.pdf 申込用紙(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19ApplicationForm.doc ポスター(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19Poster.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ○第19回日比共有型成長セミナー 「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 (2015年2月10日マニラ)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/19.php ○第5回日台アジア未来フォーラム 「日本研究から見た日台交流120年」 (2015年5月8日台北)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Yeh Wenchang “Xenophobic Expulsion”

    ****************************************************** SGRAかわらばん553号(2015年1月28日) 【1】エッセイ:葉 文昌「遂客令」 【2】SGRAフォーラムへのお誘い(2月7日 東京)再送   「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 【3】日比共有型成長セミナーへのお誘い(2月10日マニラ)   「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 ****************************************************** 【1】SGRAエッセイ#446 ■ 葉 文昌「遂客令」 歴史は繰り返すとよく言われます。なかにはスケール等を変えて繰り返されることも あります。グローバル化は、同質(なかま)の中に異質(よそ者)を取り込んで、より進 化して多様化された新たな同質を作る過程だと思いますが、それはつい最近始まった ものではなく、どの国でも内部で多くの邦に分れていた時期に幾度か経験しているは ずです。 これから紹介するのは、2250年前の中国で、秦がまだ中国を統一していなかった戦国 時代の出来事です。当時の中国は多くの国がひしめき合っていました。一部の国では 技術や政治戦略の専門家を外国から招へいしていました。ある人材が持つ技術が高度 であるほど、代替性はなくなり、一部の人材は国境を跨いで仕事していたことは想像 に難しくありません。 ある日、灌漑工事の技術指導で秦に招へいされていた韓国人の鄭氏が、秦の財政を疲 弊させるような工事をしている疑いをかけられました。それから秦の政界で「外国人 を追い出そう (逐客令)」という運動が始まりました。現代のネオナチ又はヘイトス ピーチのようなものでしょう。そこへ出てきたのが、李斯でした。彼も外国人で、こ のまま「外国人出て行け」運動が発展すれば自分も追い出されることになります。そ こで彼は「諌逐客書」という有名な諌言書を秦王に出しました。内容は今見てもとて も斬新なもので、これが2250年前に書かれたことには驚かされます。今回はこの書を 翻訳して皆さんに紹介することにします。 * * * * 「外国人を駆逐すると聞いておりますが、私が思うにそれは過ちであります。 その昔、秦の穆公(ぼくこう)は人材を得るために、西からは戎国の由余を求め、東か らは宛国から百里奚を求め、宋国から蹇叔(けんしゅく)を迎え、ヒ豹(ひひょう)や公 孫支を招き入れました。この5名は秦の出身ではないものの、穆公は重用し、それで 二十の国を併合し、西戎を支配しました。 また孝公は外国の商鞅(しょうおう)の法制を取り入れたことにより、社会気風と習わ しを変え、国民は栄え、国は豊かになり、民は自ら進んで国に仕え、諸侯は感服し、 楚と魏の兵を下して千里の領土を得て現在に至っております。 惠王は張儀の謀略を使って三川を攻略し、西に巴と蜀(しょく)を併合し、北に上郡を 収め、南に漢中を取りました。更に九夷(きゅうい)の地を併合し、焉(えん)、郢(い ん)を取り、東に成皋(せいこう)の要塞を占拠し、肥沃な土地を収め、六国連合を瓦 解させ、秦国に臣服させて利益は今日まで続いています。 秦昭王は范ショ(はんしょ)を得て、穣侯(じょうこう)を罷免して華陽君を駆逐し、中 央統治者の権力を増強させ、その他即得権益者や彊土を蚕食する諸侯を途絶させ、秦 の帝業を成就させました。 この4名の君主の成功は、外来人材の貢献に依る所が大きかったのです。従って外来 人材は秦に対して負い目はありません。もしこの4名の君主が外来人材を排除してい たならば、秦はここまで豊かな実益も強大な威名もなかったはずです。 今日陛下は昆山の玉石、隨侯(ずいこう)の明珠、卞和(べんか)の宝玉を得て、差すの は太阿(たいあ)の名剣、乗るのは繊離の駿馬、掲げるのは翠鳳(すいほう)の旗、使う のは鰐(わに)の太鼓です。これらの中で秦に産するものは一つもありませんが、なぜ に陛下はこれらを好むのでしょうか?秦のものしか使わないとするならば、夜光の玉 壁は朝廷には飾らず、犀角(さいかく)象牙の器は使わず、鄭や衛の美女は後宮にせ ず、駿馬は馬屋におかず、江南の金錫は使わず、西蜀の顔料は使わずとなりましょ う。 後宮の妾からすべての装飾や楽しませてくれるものは秦のものでないと駄目ならば、 宛珠(わんしゅ)の簪(かんざし)、傅キ(ふき)の耳飾り、阿縞(あこう)の衣、錦繍の飾 り等は陛下には献上できません。今風で雅、艶めかしく窈窕な趙の女も傍にはいない でしょう。甕缶を叩き、竹箏を弾き、太ももを敲いてリズムを取ってわいわい騒いで 楽しむ、それこそが秦の本来の音楽であります。鄭・衛・桑間や、韶虞(しょうぐ)・ 武象などは、異国の音楽です。甕缶叩きをやめて鄭衛の音楽にし、竹箏弾きをやめて 韶虞にしたのはなぜでしょう?それが面白いからです。 しかし陛下の任官はそうではなく、能力を問わず、実直かも問わず、秦出身でなけれ ば追い出す。これは即ち重んじる所は色気音楽珠玉、軽んじる所は人民になります。 これは海内を跨いで諸侯を制する術ではありません。 土地が広がれば育つ粟(あわ)は多くなり、国が大きければ人も多くなり、軍が強けれ ば兵士も勇ましくなると聞きます。太山はあらゆる土壌を受け入れたからこそ、いま ある大きさになり得ました。海はあらゆる細流を選ばないからこそ、その深さになり 得ました。王たるものは衆人を退けないからこそ、仁徳は広まります。土地は東南西 北を隔てない、人民は本国他国を区別しない、そうすれば一年四季は充実し、鬼神も 降臨して福をもたらすでしょう。これこそが五帝三王が無敵である所以であります。 今日陛下は庶民を棄てて敵国に資させ、賓客を駆逐して他国に尽くさせており、その 為天下の人材の秦への入国を憚らせております。これは糧食を強盗に与えて武器を敵 に貸し出すことと同じではないでしょうか。物は秦の産出ではないが宝となるものは 多いです。人材も秦の産出ではないが秦に忠心を尽くす者も多いです。外国人を駆逐 して敵国に資し、人口を減らして敵国の実力を増長し、この結果自国は弱体化される 上に外国人の恨みを買って敵国に尽くす人を増やす、これで国が危険にさらされない 訳がないでしょう。」 これを以って秦王は外国人駆逐命令を廃除し、李斯の官位を回復させました。 ----------------------------------------- <葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchang> SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾 へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教 授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。 ----------------------------------------- 【2】SGRAフォーラムへのお誘い(再送) ■「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 下記の通り第14回日韓アジア未来フォーラム/第48回SGRAフォーラムを開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月7日(土)午後1時30分〜午後4時30分 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター国際交流棟 国際会議室 http://nyc.niye.go.jp/category/access/ 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp <プログラム> 【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」 榊原英資(さかきばら えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授) 【報 告 1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」 安 秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長) 【報 告 2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワー クの現状と課題」 ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授) 【休  憩】  【自由討論】 進行及び総括:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) 討論者:上記発表者、指定討論者(渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究 者)、一般参加者 ミニ報告:「アジア・ハイウェイの現状と課題について」   李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授) *詳細は、下記リンクをご覧ください。 ちらし http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14chirashi.pdf プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14programJ.pdf 【2】第19 回日比共有型成長セミナーへのお誘い ■「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 "The Urban-Rural Gap and Sustainable Shared Growth " 下記の通り第19回日比共有型成長セミナーをマニラ市で開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月10日(火)午前8時30分〜午後5時30分 会場: マニラ市フィリピン大学都市・地方計画研究科     http://surp.ph/ 言語:英語 申込み・問合せ:SGRAフィリピン Ms. Lenie M. Miro         Email:sgraphil@gmail.com ○セミナーの概要 フィリピンマニラ市で「持続可能な共有型成長」をテーマに開催される19回目のセミ ナー。本セミナーの基本的な狙いは、いわゆるKKK(効率、公平、環境)の調和ある 発展である。これはあらゆる学問、社会部門、そして国境を跨いで実施している活動 である。   今回はフィリピンの3つの大学が会場を提供してくれたが、準備の都合や企画委員会 での圧倒的な存在を占めることから、フィリピン大学で再度開催することが決定さし た。次回は、このセミナーをさらに広げるために、別の大学で開催する予定である。 今回のセッションで座長を務める先生たちは、昨年8月にバリ島で開催した第2回アジ ア未来会議に参加し、引き続きSGRAフィリピンの活動にご協力いただいている。 ○プログラム 本セミナーは6つのセッションに分かれているが、学祭的な交流を促すために、平行 セッションを意図的に避けられている。 第1セッション「開会の趣旨と問題提起」 座長:F. マキト(SGRAフィリピンの代表/テンプル大学) 第2セッション「持続可能農業について」 座長:J. トリビオ(フィリピン土地改革省) 第3セッション「農業と製造業に関して」 座長:J. ダナカイ(フィリピン アジア太平洋大学) 第4セッション「再生可能エネルギーに関して」 座長:G. サプアイ(フィリピン 廃棄物管理協会) 第5・6セッション「被災地における計画や設計の構想」 座長:S. ギッレス、M. トメルダン(フィリピン大学建築学部) 総合司会:A. ラセリス(フィリピン大学経営学部) *詳細は、下記リンクをご覧ください。 プログラム(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19Program.pdf インフォグラフィック(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19Infographic.pdf 申込用紙(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/19.php ポスター(英文) http://www.aisf.or.jp/sgra/info/ManilaSeminar19Poster.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ○第19回日比共有型成長セミナー 「都会・地方の格差と持続可能共有型成長」 (2015年2月10日マニラ)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/19.php ○第5回日台アジア未来フォーラム 「日本研究から見た日台交流120年」 (2015年5月8日台北)<ご予定ください> ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] SGRA Cafe #6 “Let us learn more about Islam” Report

    ************************************************** SGRAかわらばん552号(2015年1月21日) 【1】第8回SGRAカフェ報告   「アラブ・イスラムをもっと知ろう」 【2】SGRAフォーラムへのお誘い(2月7日 東京)   「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 ************************************************** 【1】SGRA催事報告 ■ M. ジャクファル・イドルス「第6回SGRAカフェ報告」  『アラブ・イスラムをもっと知ろう:シリア、スーダンそしてイスラム国』 近年、イスラムを中心とした中東やアラブ世界で進行した「アラブの春」という民主 化運動をきっかけに、不安定な政治的社会的な状況が生み出されたのと同時に、イス ラムを名乗った暴力的な行為によって、イスラムに対する不当な偏見が強まり、拡大 している。その根底には、イスラム過激派の暴力的なニュースばかりが報道される一 方で、特に日本では、イスラム教やイスラム諸国に対する根本的な知識や情報や理解 をうながす「場」が乏しく、人々に多くの誤解を与えているという状況がある。 そのような背景の中で「アラブ・イスラムをもっと知ろう:シリア、スーダンそして イスラム国を中心として」というテーマの下で、メディアには現れないイスラム教や イスラム諸国の実情について学ぶことを目的に第6回SGRAカフェが開催された。 今回、シリア出身のダルウィッシュ・ホサム氏(Housam Darwisheh:アジア経済研究 所中東研究グループ研究員)と、スーダン出身のアブディン・モハメド・オマル氏 (Mohamed Omer Abdin:東京外国語大学特任助教)に講演をお願いした。両名とも SGRAの会員である。 ホサム氏は「変貌するシリア危機と翻弄される人々」というタイトルの講演を行っ た。2011年に中東地域で拡大してきた民主化要求運動をきっかけに、シリアは現在、 未曾有の危機に直面している。アサド体制と反体制派の多様なグループによる戦闘が 各地で続くなか、シリア北部で誕生した「イスラム国」が侵攻し、3年におよぶ戦闘 により、死者は20万人を超え、難民は400万人、国内避難民は1,100万人にのぼり、近 隣諸国はシリア難民の受け入れに対応できない状況にある。アメリカを中心とする有 志連合の干渉もあって、シリア危機はますます複雑な様相を呈し、日ごとに悪化する 状況から脱する道は見出せないままである。このようにシリア危機の経過と現状を紹 介した上で、壊滅的な内戦に陥った原因を、歴史的、宗教的、民族的、地政学的など 多様な側面から解説し、シリア及び近隣アラブ諸国における内戦の今後の厳しい見通 しについて語った。 アブディン氏は「なぜハルツームに春がこないか?:バシール政権の政治戦略分析を 通して」というタイトルで、異なるアプローチからスーダンにおける「アラブの春」 の影響について講演した。民主化を求めるアラブの春の運動は、長い間続いてきた独 裁体制を崩壊させる一方で、内戦を勃発させ、中央政権の弱体化など様々な結果をも たらした。国によって、この運動がなぜこのように個別の結果をもたらしたかは、近 年の国際政治学者の大きな関心事となっている。一方では、アラブの春の影響をほぼ 受けなかった地域も存在する。アブディン氏は、中東の周辺地域に位置するスーダン 共和国を事例に、現政権が、アラブの春の同国への波及を防止するためにどのような 戦略をとってきたかを、スーダンを取り巻く内部的、外部的情勢をもとに講演した。 特に印象的だったのは、「スーダンは過去に民主化とその挫折の経験を持っているた め、民主化に対する幻想を持っていない」との指摘だった。 2時間程の講演に続き、座談会と質疑応答が行われ、30人を超える参加者のなかから たくさんの質問があった。「イスラム国における法の思考とその正当性はどのような ものなのか?」「イスラム国の裁判はだれに対しての裁判であり、非イスラム教徒は どのように扱われるのか?」「イスラム国はいったい何を目指し、今後どのように展 開すると予測されるのか?」などイスラム国に対する質問が多く、関心の高さを感じ させられた。その他、「なぜ一般の人が巻き込まれるのか?」「どのような教えに基 づいてその行動が取られるのか?」などとイスラムの本質に迫る質問も多数あった。 限られた時間のなかで、これらの質問に対して問題を掘り下げた議論を展開すること はできなかったが、この3時間に亘った講演と座談会で共通認識として共有すること ができたのは「現代世界で起きているイスラム世界あるいはイスラムと関連する様々 な問題は単なる宗教的な問題ではなく、政治、経済、国際関係など様々な要素の絡み 合いの中から生じた複雑な問題」というものである。 今後とも、特に日本では、より正しく妥当な理解を得るために、SGRAカフェのような 客観的な情報発信の場が必要とされている。 当日の写真は下記リンクよりご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/ ------------------------------------- <M. ジャクファル・イドルス  M. Jakfar Idrus> 2014年度渥美国際交流財団奨学生。インドネシア出身。ガジャマダ大学文学部日本語 学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科アジア地域研究専攻博士課程後期に在学 中。研究領域はインドネシアを中心にアジア地域の政治と文化。「国民国家形成にお ける博覧会とその役割-西欧、日本、およびインドネシアを中心として?」をテーマに 博士論文執筆中。 ------------------------------------- 【2】SGRAフォーラムへのお誘い(再送) ■「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 下記の通り第14回日韓アジア未来フォーラム/第48回SGRAフォーラムを開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月7日(土)午後1時30分〜午後4時30分 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター国際交流棟 国際会議室 http://nyc.niye.go.jp/category/access/ 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp <プログラム> 【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」 榊原英資(さかきばら えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授) 【報 告 1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」 安 秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長) 【報 告 2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワー クの現状と課題」 ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授) 【休  憩】  【自由討論】 進行及び総括:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) 討論者:上記発表者、指定討論者(渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究 者)、一般参加者 ミニ報告:「アジア・ハイウェイの現状と課題について」   李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授) *詳細は、下記リンクをご覧ください。 ちらし http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14chirashi.pdf プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14programJ.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Miyuki Ota “To Choose — Some Thoughts After Participating in SGRA China Forum #8”

    ************************************************** SGRAかわらばん551号(2015年1月15日) 【1】エッセイ:太田美行「選ぶ」   −第8回SGRAチャイナ・フォーラム−に参加して− 【2】新刊紹介:「現代高校生の学習と進路」 【3】SGRAフォーラムへのお誘い(2月7日 東京)   「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 ************************************************** 【1】SGRAエッセイ#445 ■太田美行「選ぶ−第8回SGRAチャイナ・フォーラム−に参加して−」 これだけ近い国だというのに中国へ行くのは初めてである。そういう訳で空港からの タクシーの中では念願の中国をよく見ようと、ひたすら車窓に張り付いていた。大陸 の広さを感じた。何よりも建物の一つひとつが大きく、隣の建物との間が広い。そし て道路はひたすら真っすぐだ。東京に生まれ育った身としてまず感じたのがこの空間 感覚の違いである。ここから中国の人たちとの間に何となく感じる感覚の違いの背景 に納得する。フォーラム会場の中国社会科学院文学研究所から天安門まで官公庁が並 ぶ、中国で最も広いであろう通りを歩いた時は都を訪れる遣隋使はたまた遣唐使の気 分で、「威容」が与える心理的効果についてしばし考えた。こうして私の中国訪問と チャイナ・フォーラムは幕を開けた。 第8回チャイナ・フォーラム初日の中国社会科学院では佐藤道信先生が「近代の超克 −東アジア美術史は可能か−」で「ヨーロッパ美術史」が存在するのに対して日本、 中国・台湾、韓国に同様の広域美術史がなく、一国美術史が中心となっている現状と 課題について、木田卓也先生は「工芸家が夢みたアジア:とのはざま で」の講演で中国へ渡った近代日本の工芸家について講演をされ、2日目の清華大学 では「脱亜入欧のハイブリッド:『日本画』『西洋画』、過去・現在」を佐藤先生 が、「近代日本におけるジャンルの成立:工芸家がめざしたもの」で木田先生 が近代日本と中国の美術・工芸のあり様について講演をされた。フォーラムの詳細は 林少陽氏の報告書でご覧戴いたと思うので、ここでは私がフォーラム及び参加者との 交流で感じたことを、広域史を中心にご紹介したい。 フォーラムは近代日本と中国、東アジアの美術・工芸のあり様と関わりを丁寧に、そ して学術的に掘り起こし、整理していくものだった。私たちが当たり前にとらえてい る美術史が当時の時代背景と(恐らく)必要性や気運によってどのように「作られて いった」のかを佐藤先生は「自律と他律の自画像」という言葉を用いながら、木田先 生は工芸家の足跡をたどりながら、それぞれ明らかにした。 歴史というものは事実、起きたことの単なる集合体ではなく、どの「事実の集合体」 を掘り起こして、どの角度から光を当てるか、それをどのように取り扱っていくのか の意図によって異なる意味をもってくる。その観点からすると今回のフォーラムで は、多くの事柄から「東アジア美術史」、「広域史」、「影響し合う」を選び、未来 に対して前向きな意欲が感じられる発表と議論の場だった。一方で佐藤先生は「新し い基軸を作ることは新しい誤解を作ることになるのかと思う(こうした研究をするの は)自分がどこに立っているのか知りたい、それだけ」と語る。佐藤先生の指す「新 しい誤解」への懸念はよくわかるものの、ある基軸を知ることで自分を取り巻く世界 の構成が、成立の過程が、見えてくる。ひとつの基軸を知ることは他の基軸を感じ取 る手がかりとなる。だから私はこの新しい基軸を積極的にとらえたい。 10年以上も前に「ワールド・ミュージック」が流行していた頃、確か音楽家の坂本龍 一が雑誌の対談か何かで「今のワールド・ミュージックを語ると沖縄民謡のような民 族音楽を語ることになってしまい、ワールドではなくなってしまう」という趣旨のこ とを言っていたのを思い出した。確かに当時彼が発表した音楽は沖縄民謡のアレンジ 曲だった。同じように広域史を論じると自国史や「個」はどうなるのだろう。実際そ の点への心配の声が会場にはあった。しかし広域史を語ることは個や独自性を否定す るものではないはずだ。独自性とは何か。人で考えた場合、個人の性質や能力、教 育、経験の積み重ね、取り巻く環境とその歴史(国家だけでなく家族、友人、民族も 含む)などから育まれ、磨かれたものではないか。ならば他との関わり(広域史)の中 にある自己(自国史)を見出し、自己(自国史)の中に他(広域史)を見出すことはごく当 たり前のことだ。自分の立っている場所を検証し続け、考えることこそが必要であ る。 もし自分の頭で考え物事を選ぶことをやめたら、すべてが曖昧なまま流されてしまい かねない。私たちは考え、掘り出し、そして選ぶ。その先にあるのが未来だ。何かを 選ぶ時点で既に自らの態度を表明しているともいえないか。「東アジア美術史」、 「広域史」、「影響し合う」を選ぶのは「影響し合う」未来を前向きなものにしたい からである。一見すると今回の講演は学術的で地味なものだろう。しかし、とかく考 証の怪しげな歴史小説やドラマが溢れ、熱気を帯びた雰囲気や流れに足元をすくわれ かねないような昨今、一つひとつを丁寧に掘り起こし、検証しつつ事実を浮かび上が らせることには大きな意味がある。 講演後の質問では少なからず論点から外れたというか、一足飛びのものがあったり、 若い日本研究の学生と話していて意外にも現代日本の作家が読まれていないことに驚 いたこともあった。(中国にも多数いるという村上春樹ファンはどこにいるのだろ う?) それも事実なら、会場に大勢の学生が来てくれたこともまた事実だ。彼らの中 に今回のフォーラムが種となり、芽吹く日が来ることを願っている。 木田先生は1920〜30年代の「新古典派」を「懐古趣味的な保守反動勢力でなく、新し く東洋趣味的な工芸を作り出そうということを目指していた」、「『日本の近代』 は、いかにあるべきか?、さらには『アジアの近代』はいかにあるべきかという問い が含まれていたと思われます」と語る。その頃の日本が発信する「東洋」と今の日本 や他国がいう「東アジア(あるいは東洋)」では異なる点は多いだろう。だからこそ 日本からだけでなく、その他の国から、人からの「東アジア広域史」を論じる声を聞 き、共に今と未来とを選びたい。 林少陽氏の第8回チャイナ・フォーラム報告は、下記リンクよりお読みください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/news/_8sgra.php --------------------------------------- <太田美行☆おおた・みゆき> 東京都出身。中央大学大学院 総合政策研究科修士課程修了。シンクタンク、日本語 教育、流通などを経て2012年より渥美国際交流財団に勤務。著作に「多文化社会に向 けたハードとソフトの動き」桂木隆夫(編)『ことばと共生』第8章(三元社)2003 年。 --------------------------------------- 【2】新刊紹介 SGRA会員で昭和女子大学准教授のシム チュン・キャットさんより共著書をご寄贈い ただきましたので、ご紹介します。 ■「現代高校生の学習と進路—高校の「常識」はどう変わってきたか?—」 編著者:樋田大二郎・苅谷剛彦・堀健志・大多和直樹 発行所:学事出版 発行日:2014年12月10日 ISBN: 978-4-7619-2094-4 C3037 http://www.gakuji.co.jp/book/978-4-7619-2094-4.html かつての高校生は学歴主義と「努力は報われる」という努力信仰が外発的動機づけと なって学習が奨励された。また、今よりも高校階層構造が強固で、生徒は進学した高 校の位置づけ(ランクと学科)に応じた学習と進路形成を行った。しかし、少子化や 多様化、学力観の変化の波にさらされて、高校は劇的に変わった。生徒は今、内発的 に動機づけられ、多様な高校生活を送っている。 高校や高校生の意識はどう変わってきたのか。30年のデータを元に、政策の影響、高 校生自身の成績、保護者や学校の意識など多様な切り口で迫る。 【3】SGRAフォーラムへのお誘い ■「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」 下記の通り第14回日韓アジア未来フォーラム/第48回SGRAフォーラムを開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月7日(土)午後1時30分〜午後4時30分 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター国際交流棟 国際会議室 http://nyc.niye.go.jp/category/access/ 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp <プログラム> 【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」 榊原英資(さかきばら えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授) 【報 告 1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」 安 秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長) 【報 告 2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワー クの現状と課題」 ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授) 【自由討論】 進行及び総括:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) ミニ報告:「アジア・ハイウェイの現状と課題について」    李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授) *詳細は、下記リンクをご覧ください。 ちらし http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14chirashi.pdf プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14programJ.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Invitation to SGRA Forum “Dynamism of Asian Economy” (Feb. 7, Tokyo)

    ******************************************** SGRAかわらばん550号(2015年1月7日)    あけましておめでとうございます。    今年もよろしくお願いします。 ******************************************** ■SGRAフォーラム「アジア経済のダイナミズム---物流を中心に」へのお誘い 下記の通り第14回日韓アジア未来フォーラム/第48回SGRAフォーラムを開催します。 参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡くださ い。 日時:2015年2月7日(土)午後1時30分〜午後4時30分 会場:国立オリンピック記念青少年総合センター国際交流棟 国際会議室 申込み・問合せ:SGRA事務局 電話:03-3943-7612 Email:sgra-office@aisf.or.jp ● フォーラムの趣旨 渥美国際交流財団関口グローバル研究会と未来人力研究院が共同で、2001年より毎 年、日韓相互に開催するフォーラム。14回目は第48回SGRAフォーラムも兼ねて東京で 開催する。 日本は、交通・物流システム、自然災害への対策、経済発展と省エネルギーの両立、 少子高齢化への対処など、多くの分野において経験や技術を蓄積しており、圧縮成長 を成し遂げてきた韓国の経験やノウハウと共に、東アジア地域における将来の発展や 地域協力の在り方に貴重な手掛かりを提供している。 アジア地域は経済的に実質的な統合に向かっており、インド、中国、ASEAN、そして 北東アジアの経済がダイナミックに連動しながら発展を成し遂げている。本フォーラ ムでは、日韓の交通・物流システムにおける先駆的な経験が、アジアの持続可能な成 長と域内協力にどのように貢献するかという問題意識に立ち、アジア地域で物流ネッ トワークが形成されつつある実態を探り出し、その意味合いを社会的にアピールする ことを目的とする。日韓同時通訳付き。 <プログラム> 総合司会: 平川 均(ひらかわ・ひとし:国士舘大学21世紀アジア学部教授、名古屋 大学名誉教授) 開会の辞: 李 鎮奎(リ ジンギュ:未来人力研究院 理事長、高麗大学経営学部教 授) 【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」 榊原英資(さかきばら えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授) 【報 告 1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」 安 秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長) 【報 告 2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワークの現状と課 題」 ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授) 【休  憩】  【自由討論】 進行及び総括:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) ● ミニ報告:「アジア・ハイウェイの現状と課題について」    李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授) 討論者:上記発表者、指定討論者(渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究 者)、一般参加者 閉会の辞:今西淳子(いまにし じゅんこ:渥美国際交流財団常務理事) *詳細は、下記リンクをご覧ください。 ちらし http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14chirashi.pdf プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/schedule/nikkan14programJ.pdf ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Lin Shaoyang “SGRA China Forum #8 Report”

    ************************************************************* SGRAかわらばん549号(2014年12月24日) 【1】林 少陽「第8回SGRAチャイナ・フォーラム報告」    『近代日本美術史と近代中国』 【2】特別寄稿:奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(最終)」 ★☆★今年もSGRAかわらばんをお読みいただきありがとうございました。    新年は1月7日(水)より配信いたします。★☆★ ************************************************************** 【1】活動報告 ■ 林 少陽「第8回SGRAチャイナ・フォーラム『近代日本美術史と近代中国』報告」 2014年11月22日〜23日、第8回SGRAチャイナ・フォーラムが北京で開催されました。 今回のテーマは日本美術史です。22日の講演会は中国社会科学院文学研究所と、23日 の講演会は清華大学東亜文化講座との共催でした。清華大学は北京大学のライバルで あり日本でも知られていると思いますが、中国社会科学院は「知る人ぞ知る」かもし れません。中国社会科学院は、国家に所属する人文学及び社会科学研究の最高学術機 構であり、総合的な研究センターです。中国社会科学院文学研究所の前身は北京大学 文学研究所であり、1953年の創立です。1955年に中国社会科学院の前身である中国科 学院哲学社会科学学部に合併されました。現在115人の研究員がいて、そのうち上級 研究員は79名ということです。 今回、日本から参加してくださった2名の講師は、佐藤道信氏(東京藝術大学芸術学 科教授)と、木田拓也氏(国立近代美術館工芸館主任研究員)です。佐藤氏は日本美 術史学の代表的な研究者の一人であり、木田氏は日本の工芸史の研究者として活躍し ていらっしゃいます。木田氏が2012年に実施した「越境する日本人——工芸家が夢見 たアジア1910s〜1945」という展覧会が、今回の北京でのフォーラム開催のきっかけ となりました。 まず、11月22日の講演会についてご紹介します。佐藤氏の講演題目は「近代の超克− 東アジア美術史は可能か」、木田氏は「工芸家が夢みたアジア:とのは ざまで」でした。 佐藤氏は、「美術」「美術史」「美術史学」をめぐる制度的な研究をしてきた研究者 です。その目的は、美術の今がなぜこうあるのか、現在の史的位置を考えることにあ りました。最初は、「日本美術(史)観」をめぐる日本と欧米でのイメージギャップ について研究し、大きな影響を与えた研究者ですが、この十数年は、欧米と東アジア における「美術史」展示の比較から、その地理的枠組の違いと、それを支えるアイデ ンティーの違いについて考えてきました。欧米の国立レベルの大規模な美術館では、 実質「ヨーロッパ美術史」を展示しているのに対して、東アジアでは中国・台湾、韓 国、日本、いずれの国立レベルの博物館でも、基本的に自国美術史を中心に展示して いることを指摘しました。 つまり、実際の歴史では、仏教、儒教、道教の美術や水墨画が、広く共有されていた にもかかわらず、東アジアの美術史ではそれが反映されていません。広域美術史を共 有するヨーロッパと、一国美術史を中心とする東アジアという違いがあります。その 枠組を支えるアイデンティティーとして、大きく言えば、キリスト教美術を中軸とす る「ヨーロッパ美術史」は、キリスト教という宗教、一方の東アジア各国の自国美術 史は、国家という政治体制に、それぞれ依拠していることを佐藤氏は問題としていま す。佐藤氏は1990年代以来、近代日本の「美術」「美術史」「美術史学」が、西洋か ら移植された「美術」概念の制度化の諸局面だったという前提で、「日本美術史」 が、近代概念としての「日本」「美術」「歴史」概念の過去への投射であり、同様に 日本での「東洋美術史」も(あくまで日本での、です)、じつは近代日本の論理を 「東洋」の過去に投射したことを、いままでの著書で明らかにしてきました。 本講演において、佐藤氏は、19世紀の華夷秩序の崩壊後、ナショナリズムを基軸に自 国の歴史観を構築してきた経緯を指摘しつつ、分裂した東アジアの近代が、歴史とそ の実態をも分断してきたのだとすれば、実態を反映した「東アジア美術史」の構築 は、東アジアが近代を超克できるかどうかの、一つの重要な課題であると提起しまし た。そして、広域の東アジア美術史を実現するために、「自国美術史」の相互刊行、 広い視野と交流史的、比較論的な視点、知識の樹立、さらには、イデオロギー(東西 体制の両方)、大国意識、覇権主義、民族主義、汎アジア主義的視点などによる解釈 の回避、国際間でのコミュニケーションと他者理解のしくみの確立、などを提言しま した。 木田氏は、講演「工芸家が夢みたアジア:とのはざまで」において、ま ず自分自身がこれまでに関心を持って取り組んできた工芸史、デザイン史という領域 において、19世紀後半のジャポニスム、アール・ヌーヴォー、アール・デコ、モダニ ズムという流れにおける日本と西欧との文化交流に関する研究は盛んに行われている のに対して、それとは対照的にこの時代の日本と中国との関係については、あまり関 心が払われていないことを反省しつつ、日本人の工芸家と中国との関連を紹介しまし た。木田氏はまず、日本の20世紀を代表する、国民的洋画家といえる梅原龍三郎の、 1939年から43年までの計6回の中国訪問を紹介しました。戦争中にも関わらず、梅原 は北京が最高であると記述しており、この時代の美術史の再評価の必要性を指摘しま した。 そして、京都の陶芸家の2代真清水蔵六が、1889年(明治22)に上海と南京の間にあ る宜興窯に渡って、そこにおよそ1年間滞在して作陶を行ったことや、1891年(明治 24)年に景徳鎮を訪問したこと、建築家で、建築史家でもあった伊東忠太が、1902年 から1905年まで、約3年かけて中国、ビルマ、インド、トルコを経て、ヨーロッパへ とユーラシア大陸を横断したこと、また1910年の日韓併合前から建築史家の関野貞が 朝鮮半島で楽浪遺跡の発掘に関わっていたことなどを紹介しました。そして木田氏 は、中国からの古美術品の流出と、日本におけるコレクションの形成との関係につい て紹介し、日本に請来された中国や朝鮮半島の美術品が日本の工芸家の作風に影響を 与えたことを報告しました。 講演会には、社会科学院の研究員だけでなく、他の大学の研究者や大学院生も含む約 50名の参加者が集まりました。中国社会科学院文学研究所の陸建徳所長が開会挨拶を してくださいました。講演の後、とても密度の高い質疑と討論で盛り上がり、初日の 講演会は大成功でした。 翌11月23日の講演会はさらに盛況でした。清華大学の会場は40名しか座れない会議室 でしたが、実際80名を越す参加者があり、一部は立ったままで講演会を聴講していま した。講演会を助成支援してくれた国際交流基金北京日本文化センターの吉川竹二所 長や、中国社会科学院日本研究所の李薇所長も出席してくださいました。 佐藤氏の今回の講演題目は「脱亜入欧のハイブリッド:『日本画』『西洋画』、過 去・現在」であり、木田氏の講演題目は「近代日本におけるジャンルの成立: 工芸家がめざしたもの」でした。佐藤氏の講演に対しては筆者が、木田氏の講演に対 しては清華大学美術学院准教授の陳岸瑛氏が中国美術史研究者の立場からコメント し、また清華大学歴史学科の教授である劉暁峯氏がたいへん興味深い総括をしまし た。 紙幅の関係上2回目の両氏の講演についてご紹介できないですが、今回の出席者の積 極的な参加ぶりは感動的でした。また会場からの討論の熱さも忘れがたいものです。 参加者は美術史関係の研究者と大学院生のほか、文学研究者、歴史研究者も多いとい う印象を受けました。その意味において高度に学際的な会議でもあったと思います。 今回のふたつの講演会は高度な専門性を持つが故に大成功したと思いますが、日本研 究と中国研究が対話する重要な機会でもあることを実感しました。 フォーラムの写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/ フォーラムのフィードバックアンケートの集計結果は下記リンクよりご覧いただけま す。 http://www.aisf.or.jp/sgra/info/china8feedback.pdf ----------------------------- <林 少陽(りん しょうよう)Lin Shaoyang> 1963年10月中国広東省生まれ。1983年7月厦門大学卒業。吉林大学修士課程修了。会 社勤務を経て1999年春留学で来日。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻 博士課程、東大助手、東大教養学部特任准教授、香港城市大学准教授を経て、東京大 学大学院総合文化科超域文化科学専攻准教授。学術博士。著書に『「修辞」という思 想:章炳麟と漢字圏の言語論的批評理論』(東京:白澤社、2009年)、『「文」與日 本学術思想--漢字圈・1700-1990』(北京:中央編訳出版社、2012年)、ほかに近代 日本・近代中国の思想と文学ついての論文多数。 ----------------------------- 【2】特別寄稿 SGRAエッセイ#444 ■ 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(最終)」 3. 多くの大学の中の変な雰囲気 3.2 ほとんどが低レベルの繰り返しの研究 近年、「インデックス」学術評価システムの導入と推進の結果、大学スタッフ(特に 教授)の評価は、論文数だけが必須条件として強調され、社会的、経済的効果を問わ ず、論文のレベルは掲載された雑誌のランクで定義されるようになった。そのため、 迅速に結果がだせる科学研究のテーマを容認する雰囲気が作られた。中国の学者の多 くが高リスク、長時間の基礎研究に消極的であるだけではなく、数値化評価システム に対応するため意図的に、短期的な効果を求めるようになっている。さらに、学術詐 欺、研究偽造、不正競争、ゴミ論文などの出来事はエンドレスで、国全体で大量の低 レベルの繰り返しの研究が蔓延し、創造的な新規のテーマを追究しようとする土壌を 奪ってしまった。現在の大学では、虚偽、誇張を軽蔑し、孤独な研究に耐える人たち の姿を見ることがますます困難になってきている。単純な「指標化」学術評価システ ムが中国の科学研究成果と投資のバランスを劣化してしまい、間違った道へ滑り落ち てしまったと言える。 一言で言うと、社会生活中のあらゆる不正や醜い行為を大学キャンパスの中にも見い だすことができる。本来、清潔で道徳的であるべき大学キャンパスは、大分前に消失 してしまった。大学は科学的精神、人間性、人格形成などの面から大学生に対して教 育を行うべきなのに、卒業証書だけを重視する風潮が大学教育を本来の目的から乖離 させ、人格育成や人材養成を無視するだけではなく、「金銭万能」を自ら実践し、政 府の推奨するGDP重視の市場経済に入ってしまったと思わざるを得ない。そこは大学 卒業証書のバブルで、大学レベルの教育を受けたとしても、ほんの少しの専門知識を 持つ以外は、教育を受けなかった人とあまり変わらない。 いずれにしろ、このような状況であるから、大学教育及びその生産品(大学生)は、 今までにはなかった道を進まざるを得ない。中国の大学は、ますます行政化、官庁 化、もしくはヤクザ化しているため、今の大学の価値観は、本来のあるべきものとは かなり異なってしまっている。大学を含むあらゆる教育、研究機関における、評価、 昇進、招聘、採用などの場合、助手の決定からアカデミシャン(つまり中国科学院、 中国工程学院のメンバー)の選抜まで、皆「評議員」(つまり決定権を持っている 人)と「連絡する」ことが必須条件になっている(この評議員達に賄賂をしなけれ ば、本人は安心できなくなっているそうだ)。皆がそうしているのに自分だけがしな ければ、間違いなくその人は失敗する。こんな雰囲気の中で、学術機関が低レベルの 繰り返しの研究をするのは不自然ではない。 3.3 研究を産業化し、大学では「研究リッチ」族が新興 ほとんどの大学では、研究ファンド(資金)を獲得できれば、その一部を申請者が 「流用」することができる(政府からの資金の場合は10%で、企業からの場合は40% ということもあるそうだ)と言われている。そのため、中国では、研究活動を産業と して運営し、研究で「リッチ」になった一族が新興している。一部の研究者が、この ような「豊かになれる道」をひた走っているのも事実である。メディアの報道によれ ば、流用した研究資金で自家用車やマンションの購入もできた学者もいるようだ。 「研究」という名目でリッチになる人々がにわかにでてきて、大勢の研究者が、研究 活動及び論文執筆をも「金持ちになれる産業」とみなすようになってしまった。さら にもっと酷いのは、大学が「博士号」の授与権を利用して、政府の関係者と「プロ ジェクトのチャンス」、「企業の協力プロジェクト」などを交換し、学術活動を丸ご と功利に向かって行うようになり、学術腐敗は常態化してしまった。今、学術詐欺、 研究偽造、不正競争、賄賂流行などは中国の大学で普通の現象であるが、さらに不思 議なことに、近年、数多くの大学が、政府の統計を満足させるために、偽の卒業生の 「就職率」を作ることもやり始めた。すなわち卒業する時、卒業生が就職の「契約 書」(偽にしろ、真にしろ)を本人の学校に出して見せなかったら、その人は卒業証 明書、学位証明書などを貰えないのだ。言い換えれば、大学の実際の「就職率」は政 府の統計報告書よりかなり低いのである。 終わりに 如何なる社会でも未来の発展は、若者に依存している。有用な人材を親の世代が育成 しなければ、次の世代の繁栄は幻想となってしまうのである。 中国の今の大学生は小、中、高校時代に試験指向教育を強制的に受けさせられ(だか ら今の学生の大半が勉強嫌い)、大学時代には大量のクラスメートと付き合うように なった(学生を大量に募集したから)ため、本人の意欲から学習環境まで、しっかり と勉強できる場所とはいいがたい。特に生命理科系の学生は実験/実習が良くできな かったから、習得した知識が非常に限られてくる。さらにこの時代の大学生は、幼い 頃から両親の溺愛(甘やかし)、放任、社会の悪戯容認のもとで育てられたため、言 い換えると教育の躾(しつけ)がなかったため、これらの学生が、どの様な人間に なっているのか、普通の人は想像できないと思う。 何故、今日の大学生がこんなに問題ばかりなのか? 怠け、贅沢、礼儀の欠如、エゴ イズム、人格の低下……。本質的な問題を考えてみると、その原因・責任は両親と 初・中等教育の学校にあると思わざるを得ない。不思議なことは、現在の大学生の親 達は一般的に言うと1950 年代から1960 年代が終わるまでの期間に生まれた人々で、 貧乏な生活から豊かな生活まで経験した大人なのに、何故自分の子供の教育の面でこ のように集団的に失敗したのか?つまり、この世代の人々は、自分の両親からきちん とした教育(躾)、ケアを受けたと思うが、どうして自分が自分の子供に対して親の まねをし、きちんと子供を導かなかったのか?!まとめて言うと、習慣がだめ、教育 が下手、人口が多いという社会的な要素の組み合わせで、大学に合格した人間も育成 できないのに、優秀な人材を養成するなんて可能なのだろうか。(完) 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生」のバックナンバーは下記よりお読みいただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/post_521.php --------------------------------------------------- <奇 錦峰(キ・キンホウ) Qi Jinfeng> 内モンゴル出身。2002年東京医科歯科大学より医学博士号を取得。専門は現代薬理 学、現在は中国広州中医薬大学の薬理学教授。SGRA会員。 ************************************************** ● SGRAカレンダー ○第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 電話:03−3943−7612 FAX:03−3943−1512 Email: sgra-office@aisf.or.jp Homepage: http://www.aisf.or.jp/sgra/ **************************************************
  • [SGRA_Kawaraban] Li Kotetsu “Is Japan-China Relation Really the Worst?”

    ************************************************************* SGRAかわらばん548号(2014年12月17日) 【1】エッセイ:李 鋼哲「日中関係は本当に最悪なのか」 【2】特別寄稿:奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その7)」 【3】第6回SGRAカフェへのお誘い(最終案内)   「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(12月20日東京)   ☆当日飛び込み参加も受け付けます☆ ************************************************************** 【1】SGRAエッセイ#442 ■ 李 鋼哲「日中関係は本当に最悪なのか?」 金沢市内のホテルで、去る12月7日(日)に標記のテーマでシンポジウムが開かれた。 24年前に設立された環日本海国際学術交流協会が主催したものである。2年以上途絶 えた日中首脳会談で日中関係が「最悪」という世論に日本国民が当惑するなか、実態 の日中関係はそこまで悪くないというメッセージを市民に発信する試みであった。10 月に私がこの協会の理事として提案し開催にこぎつけた。経済貿易、環境協力、人的 交流の3つの分野から日中両国間の実情について報告し、活発な議論が交わされた。 幸い、11月10日に安倍晋三首相が北京で開催されたAPEC首脳会議へ参加したことを きっかけに、中国の習近平主席との2年半ぶりの首脳会談が実現し、凍り付いていた 首脳外交が再開された。そのお陰でこのシンポジウムが意図した趣旨と内容が市民に 受け入れやすい雰囲気になったように見受けられた。 それに先立ち、11月7日に筆者はNHK国際放送局の電話インタビューを受けた。今度北 京でのAPEC首脳会議の際に日中首脳会談が実現するか、そして首脳会談ではどのよう な事が議論されるか、という問題に3分間中国語で答えた。実は数日前からNHKの要望 で発言を準備していたのだが、日中首脳会談が実現されるかどうかは予測できない状 況であった。それでも日中両国がおかれている現状や国際情勢を分析し、大胆に発言 することを決めた。インタビュー収録が放送される予定は午後6:00〜6:15時だった が、幸いなことに、その数分前に日中首脳会談が決まったというニュースがラジオで 流れた。ある意味ではラッキーだった。 その発言要旨を簡略に紹介する。 今度、日中首脳会談が実現される可能性は大きいと思います。最近の動静を見ると、 APEC首脳会合を成功裏に開催することにより、中国の存在感を世界にアピールするこ とを目標に、中国政府は積極的な準備を進めているように見受けられます。 中国にとっては、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加できない現状を考え ると、APEC機能強化やアジア太平洋自由貿易構想(FTAAP)を強く訴えることが、こ の地域における米国との駆け引きの重要なポイントだと、私は考えています。しか し、米国と競争するためにも日中関係が硬直したままでは、中国にとって不利になる ことは明らかです。福田元首相が最近訪中した際にも習近平国家主席と会談しました が、そのときに習氏の発言では、アジア地域協力が重要であることを強調しているの です。アジア地域協力において、中国側にとって最も役立つ国は日本にほかなりませ ん。 一方、日中間では歴史認識問題や領土問題がネックであり、打開される見込みは立っ ていませんが、両国の領土問題の議論も山場を超えて、冷静に議論する段階に入りつ つあり、歴史認識問題でも安倍首相が今年8月15日に靖国神社参拝を見送ったこと で、中国などに一歩譲歩したと中国政府は判断しているでしょう。 以上の状況から見ると、中国首脳が日本首脳と会談することで中国国内世論に強く反 対される可能性は低くなりました。最近、中国国務院政策研究室の局長などが20日間 ほど日本全国を視察し、帰国後の報告書「日中両国の発展格差を深刻に認識すべき」 という長編論文を「人民論壇」で発表し、日本は先進的な文明国であり、中国はまだ まだ日本に勉強することがたくさんあると強く訴えました。これも日中政治対話のた めの世論形成の一つだと見受けられます。 以上は、インタビューの概要だが、本題に戻って「日中関係は本当に最悪なのか?」 について、シンポジウムでの報告内容を簡潔に取り上げる。 その前に、日本国民は日中関係についてどのように感じているのかについて紹介しよ う。内閣府が11月23日に発表した「外交に関する世論調査」で、中国に「親しみを感 じない」と回答した人が80.7%(前年比0.1ポイント増)となり、昭和53(1978)年の調 査開始以来、過去最高となったことが分かった。韓国への親近感も低く、日本と両国 との最近の関係冷え込みを反映した結果となった。日中関係について「良好だと思わ ない」は91.0%だった。中国で反日デモが相次いだ昨年の調査(92.8%)に次ぐ過去2 番目の高さだった。 このようなデーターが発表されると、その影響で日本国民の対中国感情はさらに悪化 するのではないかと危惧する。世論が世論を呼び、実態とはかけ離れた対中国観が日 本で蔓延しているのである。また、中国での世論調査結果を見ても日本と似たような 情況にある。 一方で、今年の中国人の日本観光客は過去最高(1-10月で200万人を突破)を記録し ていると報道されている。日本にとって最大の貿易依存度の国は紛れもなく中国であ る。日本企業の対中国投資が今年減少したと言っても、2万3千社の日系企業が中国市 場でビジネスを展開しているし、撤退する企業はわずかである。また、日系企業で働 く中国人従業員は1千万人を超えている。日中関係が「最悪」という状況と、実際の 関係がここまで相互浸透している実態をどのように見るべきか。 私のシンポジウムでの発言趣旨を紹介する。 21世紀に入ったここ十数年間、日中韓関係は摩擦が漸増してきた。これは、戦後の枠 組みを変える大きな転換期に入っていることを示す。戦後長く維持されてきた「特殊 な関係」としての日中関係、日韓関係は、21世紀における脱戦後的な「普通の関係」 に転換しつつある。 日中関係の構造転換の全体的な原因は、小泉政権時の東アジア外交に示されている日 本の政治システムの転換、中国の経済力や軍事力の急成長、日米同盟の強化、日中摩 擦の激化、などである。日中関係をめぐる国際環境が変わり、また日本と中国の位置 づけと立場が変わり(GDPで見た国力の逆転)、両国の摩擦度が「友好協力」の要素 を超えたからである。かつての「友好協力」の背景は、世界第2の先進国になって心 に余裕がある「強い日本」と、改革・開放政策で経済発展が至上命題で、そしてその ために謙虚に日本の先進的な技術と経験に学びたい「弱い中国」であった。 しかし、そのような立場が逆転したのである。「失われた20年」で「自信喪失の日 本」、急速な高度成長で着実に大国に浮上した「驕る中国」という構図になった。一 方では、このような立場の逆転に心の準備ができずに「アジアの盟主」という意識が 抜けない日本、他方では、大国の地位は回復したものの、まだ発展途上国の地位から 脱却できていない「驕り」と「弱者意識」または「被害者意識」が交錯する中国があ る。これが日中両国の葛藤が生じやすい「不可避な歴史的な過渡期」としての現実だ と筆者は考えている。 しかしながら、現代の国家間関係を判断する上で、古典的な外交関係の思考から「新 思考」に頭を切り換えないと我々は思考停止に陥ってしまう。21世紀における経済の グローバル化の深化に伴い、国境の壁が低くなり、国家間の関係および外交は、古典 的な政府中心の「一元的外交」から、現代的な政府、財界、地方自治体、NGO(NPO)な ど民間も含めた「多元的外交」時代に転換しつつある現実をしっかり把握しなければ ならない。 従って、国家間の関係を判断する上で、視点またはパラダイムを転換しなくてはなら ない。つまり、政府間関係、あるいは首脳間関係だけに着目して国家間関係の全体を 判断するのは時代錯誤にほかならない。 日中関係を見る上でも同様であり、首脳間関係、政府間関係、そして経済・文化・人 的な交流関係(企業、自治体、NGO)など総合的な視点が不可欠である。そのような 視点で見た日中交流関係の実体については次の機会に報告する。 --------------------------------- <李 鋼哲(り・こうてつ)Li Kotetsu> 1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修 了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研 究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ 国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書 に『東アジア共同体に向けて——新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、そ の他論文やコラム多数。 --------------------------------- 【2】特別寄稿 SGRAエッセイ#442 ■ 奇 錦峰「憂慮すべき現在の中国大学生(その7)」 --------------------------------- SGRAでは、会員の奇錦峰さんのエッセイ「中国の大学の現状」を2007年にかわらばん で配信し、「われら地球市民」(ジャパンブック、2010年)に収録しましたが、2014 年8月にバリ島で開催した第2回アジア未来会議でさらなる報告がありましたので、数 回に分けてご紹介しています。 --------------------------------- 3. 多くの大学中の変な雰囲気 3.1 2種類の「無駄論」 次に大学の中身を覗いて見ましょう。近年、中国各地の大学が「研究型大学を建設し よう」という目標を掲げ、「研究を大事に、教育を軽く」という教員評価をするよう になったために、皆「研究、開発、論文」などに全力を尽し、直接的な学生教育を軽 視するのが一般的な現象となっている。教官たちは本業(講義)に興味が薄く、地位 の高い教員ほど教壇に立たない。若い教師たちを代わり教壇に立たせ、教授は、研究 指導の名目で後ろでブラブラしたり、行政的仕事、及びエンドレスな会議で時間を費 やしたりしていることが意外に多いようだ。 政府の教育管理部門は「教育の質量を保つためには、まず数量を保証しよう」という 政策を示したから、人々はこの政策を「大学の本科教育の高校化、修士教育の大学 化、博士教育の修士化」していると冗談の種にしている。学術研究の不正行為や汚 職、講義や監督の担い手の疲労、教授の教育前線からの脱走の黙認、カリキュラム時 間の大幅な短縮等々……大学教育が崩れ去っていると言わざるを得ない状況である。 一方、「勉強は無駄(勉強無用/読書無用)」という愚かな言い方が、最近再び氾濫 し始めたように思う。最近は「知識の単価」が上がり、貧しい人にとって、教育費用 を支払うことがかなり困難になったことと、大学レベルの教育を受けても仕事が見つ からないこと等々の理由から、この「無駄論」が出て来たと思われる。教育の公平性 は、社会の公平の基礎で、教育が公平でなければ社会正義を達成することは出来ない であろう。貧しい家庭の子供たちが貧困のために教育を受けられなくなると、最終的 には、社会は対立的な利益獲得階級と利益臨界階級とに分かれる可能性があると思 う。 他方、大学のキャンパスの中では、近年また「教え無用/教書無用」という思想が流 行ってきている(もう一種の「無駄論」)。その意味は、大学で教育しても(個人に 対して)何の役も立たない、それより研究ファンドを申請して採択されれば偉くな る、或いはSCI論文をたくさん書けば、その本人に非常に役立つという考えで、それ らを支持する体制になってしまっている。これでは、大学では講義をするのが最も意 味のない、もしくはやるべきではない仕事として見られるようになってしまった。 その故、数多くの大学の教員が講義に行きたくない、講義に行っても責任を持って行 わない、質の高い講義をしない。そして、「研究」という名目で、一生懸命に実験室 の外で活動する。例えば研究ファンドの申請が許可されるように誰かに賄賂などをす るとか(しなければ、申請は無理と皆に知られている)、人間関係、人筋、人脈など のために、時間と金銭を費やしていると言われている。 正直に言えば、今の大学の教員の大半は自分のことばかりに「忙しくて」大学生に近 付かない、いわば大学生に人間的なケアを与える暇がない。彼らは「研究リッチ」、 「IF点数」の深い沼に落ちてしまい、「教育」にほとんど気が入らない。このような 状況だから、今日のおかしな大学生を養成した責任の一端は、大学の教員にもあると 言わざるを得ない。結局、大学生が大学教育問題の最大の犠牲者であり、大学の教育 機能が無用化されていると言える。 つづきは下記リンクよりお読みください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/post_521.php 【4】第6回SGRAカフェへのお誘い(最終)☆当日飛び込み参加も受け付けます☆ ■「アラブ/イスラームをもっと知ろう:シリア、スーダン、そしてイスラーム国」 SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まり いただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回は、 「SGRAメンバーと話して世界をもっと知ろう」という主旨で、シリア出身のダル ウィッシュ ホサムさんと、スーダン出身のアブディン モハメド オマルさんを囲ん で座談会を開催します。 参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛て、お名前・ご所属と連絡先をお知らせくだ さい。 sgra-office@aisf.or.jp 日時:2014 年12月20日(土)14時〜17時 会場:鹿島新館/渥美財団ホール(東京都文京区関口3-5-8) http://www.aisf.or.jp/jp/map.php 会費:無料 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php ************************************************** ● SGRAカレンダー 【1】第6回SGRAカフェ<参加者募集中> 「アラブ/イスラームをもっと知ろう」(2014年12月20日東京) http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/6sgra.php 【2】第14回日韓アジア未来フォーラム・第48回SGRAフォーラム 「ダイナミックなアジア経済—物流を中心に」 (2015年2月7日東京)<参加者募集中> http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/14_2.php ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員 のエッセイを、毎週水曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読 いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。下記URLより自動登録していた だくこともできますし、事務局までご連絡いただいても結構です。 http://www.aisf.or.jp/sgra/entry/registration_form/ ● アドレス変更、配信解除をご希望の方は、お手数ですがSGRA事務局までご連絡く ださい。 ● エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ● 配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務 局より著者へ転送いたします。 ● 皆様のエッセイを募集しています。SGRA事務局へご連絡ください。 ● SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただ けます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra2014/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3−5−8 渥美国際交流財団事務局内 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