SGRAメールマガジン バックナンバー

XIE Zhihai “How to keep up with Chat GPT”

**********************************************
SGRAかわらばん975号(2023年6月29日)

【1】エッセイ:謝志海「チャットGPTと付き合うには」

【2】催事紹介:「人新世統合学」研究会(7月5日、オンライン)
**********************************************

【1】SGRAエッセイ#742

◆謝志海「チャットGPTと付き合うには」

日本では今年になってからだろうか、チャットGPT(生成AI)の存在(話題)である。実体が何だか分かったようで分からない間に、開発された当の米国では、地方自治体が学校での利用規制を定めたという。同時に「チャットGPTを上手に活用する方法」といった授業を用意し、積極的な活用を促す教員もいるらしい。チャットGPTの存在はアカデミックな世界では脅威とも言える。スマートフォンの新機能や最新家電に弱い私も、チャットGPTについては学生に使い方を教えてもらう場合ではない。むしろ先回りして授業、課題、テスト対策を考え直さなければならない。もちろんチャットGPTの存在はアカデミック界だけでなく「全ホワイトカラーに衝撃!」(「週刊東洋経済」の見出し)とも言われている。専門的なテクノロジー業界やAI研究者のものではなく、誰でもアクセスでき、使えるAIだ。チャットGPTよってAIがより身近になった2023年、「もう後戻りは出来ないんだよ」とチャットGPTに宣言されたかのようだ。

脅威だ衝撃だと怖がってばかりでは始まらないので、早速アカウントを作ってみた。Eメールアドレスと名前、生年月日の登録に加え、携帯電話番号を入力し、その携帯に送られる認証コードを入力する。携帯電話を持っている人にしか作れないということになる。難しいことは特になく、あっさり開設でき、すぐに使える状態となった。ここから以下のエッセイをチャットGPTに仕上げてもらえたらかなりの時短になるだろう。そういう訳にもいかないので、早速質問を打ち込んでみた。「大学生に向けて、チャットGPTを使うにあたり注意すべき点を教えてあげたい」。すると20秒足らずでものの見事に回答してくれた。

———————–
大学生がチャットGPTを使用する際には、以下の点に注意してください。

ソースの確認: チャットGPTは2021年までの情報しか持っていないため、最新の情報を正確に提供できない可能性があります。重要な情報については、信頼性のあるソースで確認することをおすすめします。

個人情報の保護: チャットGPTは機密情報を保護するためのツールではありません。個人情報やプライベートな情報を共有しないようにしましょう。

バイアスの認識: チャットGPTはトレーニングデータから学習しており、バイアスの影響を受ける可能性があります。情報を判断する際には、客観的な視点を保ち、独自のリサーチも行うことが重要です。

時間管理: チャットGPTは非常に便利なツールですが、時間を適切に管理することも重要です。過度に依存せず、自分自身で問題を解決する能力を養いましょう。

クリティカルシンキング: チャットGPTの提供する回答はあくまで機械が生成したものであり、必ずしも正しいとは限りません。疑問を持ち、情報を疑ってかかるクリティカルシンキングを心がけましょう。

以上が、チャットGPTを使用する際に大学生が注意すべき点です。これらのポイントを頭に入れながら、ツールを上手に活用してください。
———————–

なんとも滑らかできれいな日本語に驚かされた。まるで人(もちろん日本人)が一生懸命に考え、まとめた文章にしか見えない。これまで出会った、どこかぎこちないAIの受け応えとはまるで違う。また、分かりやすく箇条書きにしてあることにも驚いた。私は「箇条書きで」とは指示していない。最も驚いたのは5番目にある、注意点というよりはアドバイスで「クリティカルシンキングを心がけましょう」。我々教員が常に授業中に言っていることだ。なんだか教員の手法を見抜かれたかのような気すらして、怖いぐらいだ。

チャットGPTへのたった一つの質問で私は大きなパンチを受けた。米半導体大手、エヌビディアの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・ファン氏が今年3月、開発会議での基調講演で、生成AIは「AIにとっての『iPhoneモーメント』が始まった」と発言したニュースを、ちょっと大げさだなと聞き流していた自分が恥ずかしい。でも今なら分かる。スマートフォンと同じで、使い過ぎるのも怖い、だからと言って全く使わないのはもっと怖いのがチャットGPTをはじめとする生成AIなのだろう。

5月にチャットGPTの開発元「オープンAI」のCEOが米連邦議会の公聴会で、AIを規制するように訴えた。これはどれだけ重い意味があるだろう。危険性と短所を一番認識している人がそう言うのだから米政府はすでに生成AI開発会社の代表者たちと対話を重ね、AI利用に関する具体的な指針の策定段階に入っている。実際のところ、チャットGPTの技術を取り入れた検索エンジン、ビング(bing)を提供しているマイクロソフト社の幹部も「AIを安全に人々に提供するための政府や規制当局の役割を歓迎する」としている。政府も開発側の企業も注意深く前進しようとしているようだ。日本はどう対応していくのだろう。4月に発行された週刊東洋経済の「チャットGPT仕事術革命」特集では「警戒する日本企業」として大手各社のチャットGPTの利用方針についてまとめている。パナソニックをはじめ、いくつかの企業は「社内規定を定めた上で利用可」という。日本の良い所はこのように「社内規定」を作って従業員がそれを遵守することだ。

大学はどうだろう。私の勤務先は文科省のガイドラインを待っていた。しかし、教育の現場ではもはや待てない状態になり、急遽、生成系AIに関する方針を検討し始めた。「早稲田大学」、「チャットGPT」をグーグルで検索してみると、大学ホームページの「生成AIなどの利用について」というページがヒットする。4月18日付の学生・教職員へ向けたメッセージだ。そこにはチャットGPTの使用を認めるか否かだけを明記したのではなく、生成AIの強み、弱み、活用の仕方、やってはいけない使い方を分かりやすく伝えている。

企業、学校が定めた規定を個人がどの程度守りながら誰でもアクセスできる生成AIを活用出来るかはまだ分からない。twitterやLINEが世に出た時も、まずはみんな飛びつき、その後使い方によって問題があらわになった。チャットGPTの場合は開発会社の代表自らが規制を求める仕組み作りを公の場で訴えている。そのぐらい「社会と人類に深刻なリスク」をもたらす可能性があるということだ。

実際に使ってみて思うことは、人間のように上手に言葉を操るチャットGPTよりも自分は賢くならないといけない、ということ。チャットGPTに頼り過ぎるのはもちろん、支配されてはならないと強く思う。あくまでも今のところではあるが、チャットGPTより賢いユーザーの在り方は前出の週刊東洋経済の表紙に記してある。「正しく恐れて、知ろう、使おう」。生成AIの開発はこの瞬間も世界のどこかで、いや世界中で行われているのだから。

<謝志海(しゃ・しかい)XIE Zhihai>
共愛学園前橋国際大学教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師、准教授を経て、2023年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

【2】催事紹介:

SGRA会員で埼玉大学名誉教授の外岡豊先生から研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接外岡先生にご連絡ください。

◆「人新世統合学」研究会のお知らせ

発起人:外岡豊・西原智昭 地球システム・倫理学会会員

開催日(いずれもZOOM オンライン形式):
(一回目)2023年7月5日(水)19時―21時
(二回目)2023年8月30日(水)19時―21時

本年3月14日(火)と4月18日(水)、二回に分けて星野克美著『人新世の絶滅学』(鳥影社)出版記念講演を、著者自身の解説で実施しました。その継続として、著者と<統合学>の先駆的な研究者である秋山知宏(氏も地球システム・倫理学会会員)とも相談して、人新世を統合的に考察する<人新世統合学>の提唱に向けて研究会を企画しました。

手始めに、二回の講演会の概要をお伝えし、その時の参加者からの質問や意見に対して、著者から回答し、討論する機会を二回程設けることにしました。それを踏まえて、今後<人新世統合学>として、どのようなテーマを主軸に、どのような方向性で研究を進めて行けば良いのかを模索して行く基礎にできれば幸いです。

この研究会では、上記一回目と二回目の講演会に参加されなかった初めての方も歓迎です。どうぞお誘い合わせの上、参加ください。また当日、あらたに質問や意見をいただくことも大歓迎です。

参加を希望される方は、お名前・ご所属・メールアドレス・電話番号を併記の上、下記までお知らせください。
外岡豊あて [email protected]
西原智昭あて [email protected]

*********************************************
★☆★お知らせ
◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応)
SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別に配信するため、ご関心のある方は下記より登録してください。
https://kokushinewsletter.tumblr.com/

●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。
●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。

無料メール会員登録


●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。
●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。
●SGRAエッセイのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。
http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/
●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。

寄付について

関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局
〒112-0014
東京都文京区関口3-5-8
(公財)渥美国際交流財団事務局内
電話:03-3943-7612
FAX:03-3943-1512
Email:[email protected]
Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/
*********************************************