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CHAN Ya-hsun: EACJS Session Report “Crossing Borders, Solidarity, and Resistance in the Discursive Space of Empire”

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SGRAかわらばん994号(2023年12月08日)

【1】詹亜訓「第7回東アジア日本研究者協議会パネル報告」
『帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ』

【2】催事紹介:国際シンポジウム「匈奴とモンゴル帝国の都市と建築文化」(12月9日、東京)

【3】寄贈本紹介:瀧本弘之・戦暁梅編『近代中国美術の辺界:越境する作品、交錯する藝術家』
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【1】詹亜訓「第7回東アジア日本研究者協議会パネル『帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ』報告」

2023年11月の「東アジア日本研究者協議会 第7回国際学術大会」(会場は東京外国語大学)に向け、6月には私を含む台湾と韓国、日本出身の7名の若手研究者がパネル企画の検討を開始した。

同協議会が提示したテーマを基に私たちは「帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ」を提案した。パネリストの専門分野は多岐にわたっているが、東アジアの歴史認識と政治的イデオロギーの齟齬、トランスナショナルな連帯の問題について関心を共有している。共通課題は帝国と社会の周縁を生きてきた運動家、文学者、音楽家の立場から越境する連帯と抵抗のダイナミズムを描き出すことが挙げられる。東アジアの内部でありながら互いの外部にもなる台韓日の間に生まれてくる議論の底力を、パネルの形で発信することが本企画の特徴と考えた。

大会の3日間は、初日から晴れていて暖かかった。私達のパネルは最終日朝のセッションで、寺岡知紀氏(中京大学)のオープニングから始まり、「帝国に抗するアナーキズムを再考する―大杉栄の所有と連帯の論理を手がかりに」(詹亜訓:放送大学)、「戦中・戦後の台湾における石川啄木の受容―文学サークル銀鈴会メンバーを中心に」(劉怡臻:慶應SFC中高部)、「谷川雁の〈工作者〉における力学とフリージャズ」(羅皓名:台湾中央研究院)の3つの報告と、それに対する蔭木達也氏(慶應義塾大学)、閔東曄氏(東北学院大学)、趙沼振氏(淑明女子大学)のコメントを経て、フロアからの質問と総合討議が行われた。

私の報告は1920年に自由連合の主張にたどり着いた大杉栄思想を、第一次世界大戦後の社会問題熱にともなう帝国問題に対する省察と捉えた。そのなかで、自由連合の構想を支えた「労働者の自己獲得」と「蓋然的ソリダリテ」の論理は、脱植民地化への共鳴としての主体の創出と、ポスト大逆事件の社会状況の両方への応答として検討された。この二つの論理は、経済決定の克服を試みた草の根の民衆的創造であり、脱植民地化の広がりを意識してその内面化を試みた越境する連帯のきっかけともいえようと結論付けた。

劉氏は、戦前から戦後まで文芸活動を続けた銀鈴会の朱実と錦連の詩作における啄木文学の受容について発表した。そのなかで、第二次世界大戦中の台湾における伝統的な詩の形式から距離を置いた啄木調の再生産と、戦時中の心理の屈折を意識して正直に記録するという啄木の短歌観への共鳴が示唆された。戦後の2・28事件及び白色テロによる弾圧を受けつつも、啄木文学を自らの抵抗と結びつけた面は、戦後の権威主義体制へのポストコロニアルな応答として捉えた。そして、銀鈴会の「民衆の中へ」のスタンスは、左翼文学史の文脈にとどまらず、台湾の郷土文学との継承関係を示したと論じられた。

羅氏は1960年代の平岡正明と相倉久人の「ジャズ革命論」を取り上げた。谷川の「工作者」の論理が媒介した60年安保の革命思想と前衛芸術、下層労働者のあいだに生まれた「反定型」と相互破壊的な関係性、辺境的マイノリティといった概念をジャズ演奏の歴史映像を通じて説明した。具体的には、異質な他者の間の破壊的な弁証と、自己消滅により継起するノートを呼び起こすという永久革命の企てを持つジャズの結合を論じた。その上で「ジャズ革命論」の意義に関しては、美学と政治の批判的実践のみならず、第三世界論と新左翼運動のパラダイム転換、マイノリティへの眼差しから解釈した。

3つの報告について、3名の討論者が各自の専門から出発し、東アジアの歴史を振り返りつつコメントし、パネル全体との接点を作って質問した。(1)蔭木氏からは、煩悶青年の文脈および自己と国家、社会の関係性から生まれた大杉の「社会的所有」の意味合いと「蓋然的ソリダリテ」の発想に及ぼす根拠、(2)閔氏からは、戦時期植民地知識人の抵抗と戦争擁護の絡み合いから啄木文学の受容の再検討と、戦中から戦後への啄木調の植民地的展開の再認識、(3)趙氏からは、ジャズの即興演奏を他者との出会いとして捉える理解とその妥当性、マイノリティや下層民衆の枠に収まらない社会的矛盾と植民地支配の位置づけ、といった質問があった。

参加者からは文脈の補足や議論のさらなる展開を求められたが、90分の時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。総合討議では抵抗の日常性と民衆性につながった「社会」と連帯の構想を接点に、帝国と植民地、支配と抵抗の間の思想的連続と緊張関係が、同時に思想と文学、芸術に反映されたと語られた。同時に、異質なるものが構造的支配に回収され、暴力の装置に右旋回してしまうおそれへの問題関心は、東アジアの歴史認識と政治的イデオロギーのあつれきに関係し、看過できない課題だと、パネリスト同士で共感した。時間内に収まらない議論は、昼食後の雑談まで続いたが、帰らないといけない時間になった。台湾と韓国、日本の各地から集まってきた私たちは、今回のパネルの成果を養分として蓄え、次回の企画に力を注いで行きたい。

当日の写真を下記リンクよりご覧いただけます。
https://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2023/11/EACJS7Photo_Team-Chan-Ya-hsun.pdf

<詹亜訓(せん・あくん)CHAN Ya-hsun>
台湾国立交通大学社会と文化研究科修士。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士、博士。現在日本学術振興会外国人特別研究員として早稲田大学政治学研究科に在籍している。専門は、東アジア政治・社会思想史。

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【2】催事紹介

SGRA会員で昭和女子大学教授のボルジギン・フスレ先生から公開シンポジウムのご案内をいただきましたので紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。

◆国際シンポジウム「匈奴とモンゴル帝国の都市と建築文化」

主催:昭和女子大学国際文化研究所
日時:2023年12月9日(土)13:00-18:10
場所:昭和女子大学3号館4階4S04

詳細は下記リンクをご覧ください。
https://ja-ms.org/img/The_Cities_and_Architectural_Culture-20231209.pdf

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【3】寄贈本紹介

国際日本文化研究センターの戦暁海教授より編著書をご寄贈いただきましたので紹介いたします。

◆瀧本弘之・戦暁梅編『近代中国美術の辺界:越境する作品、交錯する藝術家』

発行:勉誠社
ISBN:978-4-585-32515-4
刊行年月:2022年5月
判型・製本:A5判・並製372 頁
定価:3,850円

1911年の清朝崩壊からの約半世紀、中国大陸は中心のない空白時期で政治・経済・文化ともに無秩序の混乱が続いた。そうした中でも、美術家や団体は、海外や美術界の「外」との交流や接触により、新しい藝術思潮や動向に強い関心を寄せて美術活動を展開した。そこには多様で豊かな美術・文化が息づいていた。とりわけ辺境的な位置にあった日本との交流は、近代中国美術史の展開に多大な影響を与えている。
中国の画家は日本の美術界とどのように関わり、独自の作品世界を形成していったのか。
中国美術史の記述は日本からどのような影響を受けたのか。また、美術品はどこでどのように収蔵されてきたのか。美術作品をめぐる人的ネットワーク、海を越えて伝えられたコレクションの変遷にも着目し、多角的な視点から近代中国美術の実像に迫る。

詳細は下記リンクをご覧ください。
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101292

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