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CHEN Yijie: EACJS Session Report “Distribution and Acceptance of Different CulturesーFocus on Japan”

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SGRAかわらばん997号(2023年12月28日)

【1】陳イジェ:第7回東アジア日本研究者協議会パネル報告「異文化の流通や受容:日本を中心に」

【2】催事紹介:第20回INAF研究会(2024年1月13日、オンライン)

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今年もSGRAかわらばんをお読みいただき、ありがとうございました。
新年は1月11日から始めます。
皆さまにとって、世界にとって、少しでも平和な年になりますように。
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【1】陳藝?:第7回東アジア日本研究者協議会パネル報告「異文化の流通や受容:日本を中心に」

2023年11月3日から5日まで、東アジア日本研究者協議会第7回国際学術大会が東京外国語大学で開催された。私が企画したパネルセッション「異文化の流通や受容:日本を中心に』は司会1名、討論者1名、発表者4名で構成され、SGRAの派遣チームとして参加した。

日本は古くから積極的に海外と接触し、多文化交流の重要な交差点といえる。異文化を受容することを通じて「日本文化」が築かれた。本パネルは美術を切り口として、6世紀から20世紀にいたる時代の中で日本と中国、朝鮮の交流の様相を検討する試みである。

発表は研究テーマの時代順に行われた。最初は馬歌陽氏(早稲田大学博士課程)の「飛鳥・白鳳時代の仏教美術における宝塔の造形化―東アジア的視点を中心に」。仏塔、あるいは宝塔は釈迦の象徴物として古くから造形化され、信仰されてきた。仏教が日本へ公伝すると、図様としての宝塔もしばしばみられるようになることが飛鳥・白鳳時代の仏教造形作品に確認できる。この時代の宝塔には三つの特徴がみられる。1)塔身の屋頂に覆鉢とよばれる半球形の膨らみがない、2)相輪が5本立つ、3)塔身部に円拱龕を表す。この特徴をもつ宝塔は日本のみならず、中国六朝時代の都であった建康(現在南京市)や西の四川地域、そして朝鮮半島の作例に見出せる。馬氏は飛鳥・白鳳時代の宝塔を手掛かりとして、古代東アジア仏教美術の受容と展開の一端を論じた。

2番目は孫愛琪氏(日本学術振興会外国人特別研究員)の「福建甫田画家趙珣と江戸画壇への影響」。明末の福建画家趙珣は現在の中国ではほとんど無名だが、彼の作品は江戸時代の日本に数多くもたらされ、異国で新しい命を獲得した。趙珣の作品は長崎~京都の黄檗僧と教団に関係する文人たちの絵画学習の手本となった。江戸後期の儒学者・頼山陽や、文人画家・田能村竹田らは趙珣を高く評価し、コレクターであり書家の市河米庵は作品を積極的に収集し、江戸の南画家・谷文晁一門は趙珣作品の模倣作を残している。孫氏の発表は趙珣を一つの切り口として17、18世紀の福建絵画及び黄檗絵画と江戸絵画との間に様式的展開と変容を観察しようとする。

3番目は王紫沁氏(総合研究大学院大学博士課程)の「池大雅における伊孚九の学習を再考する」。江戸時代の画家池大雅が学んだとされる明清画家の中で、伊孚九は沈南蘋と同じほどの名声を持ち、とりわけ山水画に長じたことで知られる。しかし、実際に大雅が伊孚九の絵をどのように、どれくらい学んだかについて詳しく研究されていなかった。王氏の研究は来舶清人画家の受容の一例、伊孚九の画風を整理し、当時の上方文人圏における伊孚九作品の鑑賞・学習を考察した上で、池大雅における伊孚九の学習を考え直そうとする。

最後は私の「高島北海の皴法認識――日本留学した中国人画家傅抱石の理解を参照に――」。日本留学をした中国人画家傅抱石(1904年~1965年)の理解を参照しながら、画家・地質学者高島北海(1850年~1931年)の皴法に対する認識を分析するものである。皴法とは毛筆の特性を生かして山、石、樹などの景物の立体感や質感を写実的に表現する伝統的な中国絵画技法である。高島北海は画論『写山要訣』(1903年)の中で、皴法を山水写生の具体的な技法として紹介。しかし、傅抱石も当時の日本画壇の評論家も疑問を唱えているので、文字や絵画を通じて検証した。近代中国を代表する名画家の傅は日本で注目されず、高島も1930年代から日本美術史から消えているが、東アジア美術史において両名の史的な価値を再検討した。この発表内容は『鹿島美術研究』(年報第40号別冊)に掲載された。

4人の発表の後、王楽氏(東北大学特任助教)が討論者としてそれぞれにコメントした上で、質問した。発表者は一人ずつ質問に答え、相互に議論を行った。時間が限られていたため、会場参加者たちとの交流はパネル終了後になった。

今回はSGRA派遣チームとして、本学会に参加できた。貴重なコメントを頂き、多くの研究者と意見交換ができたことを大変嬉しく思う。企画者として、あらためて渥美財団の皆さまに御礼を申し上げたい。

<陳藝ジェ(チン・イジェ)CHEN_Yijie>
2022年度渥美奨学生。中国浙江省出身。2023年、総合研究大学院大学国際日本研究博士号取得。現在は中国上海大学上海美術学院助教授。研究分野は日中絵画の交流や受容。論文には「高島北海『写山要訣』の中国受容:傅抱石の翻訳・紹介を中心に」(『日本研究』64集,2022年3月)、「記美術史家鈴木敬」(『美術観察』2018年 5月号)など、著作は『黄秋庭 巨擘伝世・近現代中国画大家』(中国北京高等教育出版社、 2018 年)などがある。

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【2】催事紹介
SGRA会員で一般社団法人東北亜未来構想研究所(INAF)所長の李鋼哲さんより研究会のお知らせをいただきましたのでご紹介します。参加ご希望の方は直接申込をお願いします。

◆第20 回INAFセミナー

日時:2023年12月6日(水)18:00~21:00 (オンライン)

プログラム:
司会:李鋼哲 INAF所長
報告1:韓承軒(韓国ソウル大学国際大学院修士課程
「米国の新冷戦ナラティブと中国の対応」
討論者:羽場久美子(INAF副理事長・青山学院大学名誉教授)
報告2:安家宇(早稲田大学院アジア太平洋研究科博士課程)(予定)
「中国の対外広報の役割と手法―外交部報道官システムとメディアの協業を中心に-」
討論者:兪敏浩(INAF理事・名古屋商科大学国際学部教授)

参加申込:INAFメンバー以外の方は、1日前までに参加申し込み(名前、所属、連絡先メルアド)を下記へ送ってください。なお、参加された方はINAFフレンドとしてMLに登録し、今後の研究会の情報発信をさせていただきます。情報発信不要の方はその旨をお伝えください。
Email: [email protected]

詳細は下記をご覧ください。
https://inaf.or.jp/

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