SGRAメールマガジン バックナンバー

  • SHIN Hyewon “Appropriate Sense of Distance”

    *********************************************** SGRAかわらばん846号(2020年11月19日) 【1】エッセイ:申惠媛「適切な距離感の測り方」 【2】寄贈書紹介:『はじめての論理学:伝わるロジカル・ライティング入門』 *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#653 ◆申惠媛「適切な距離感の測り方」 中学生のとき、なにかの宿題だっただろうか、自分のことについて作文を書いたことがある。詳細はまったく思い出せないものの、日本に暮らす韓国人としての自分のことを振り返りながら、「私は私」という、今にして思えば小説等の影響を多分に受けていて、背伸びしてはなかろうか?と勘繰りたくなるような、しかし実に素直な結論で、担任の先生に気に入ってもらえたことが嬉しかった、そんな思い出がある。 今の自分と比べると、当時の私は常にアンテナを張っていて、ちょっとしたことで尖り、自分の考えを晒すことに躊躇しない、こわいもの知らずの十代だった。振り返れば眩しく、空恐ろしくもある。当時の私にとって、自分とはまわりに「日本に住む外国人」を認識してもらうためのこの上ない媒体であったし、日本語の拙さを指摘されなくなってからは、まわりの人々が持つなにかしらの固定観念を見つめ直してもらうために小さな発信を続けていた。社会学者の岸政彦は、著作『同化と他者化』において、マイノリティであることは果てしなく自己に問いかける「アイデンティティの状態」に置かれることであり、マジョリティであることはこのような問いかけから免除されていることであると述べたが、当時の私は(もちろんこのことは知る由もないが)まさにこうした問いかけを自分のみならずまわりに対しても投げ続けることに強く意味を感じていたように思う。 翻って今、日本に暮らす「外国人」をめぐる研究を選び取り、長い時間をかけて進めてきた私は、もう少し慎重で、当時の私からすれば不必要におどおどしているように見えるかもしれない。何かを発言する前に、立ち止まり、深呼吸して、推敲しようとする私は、良くも悪くも少しばかり「大人になった」のかもしれないが、どちらかといえば、当事者としての自分と、(まだまだ若葉マークではあれ)研究者としての自分のちょうど良い距離感を測り続けているからではないか、と感じている。 私は今でも変わらず、日常生活で覚えた小さな違和感をひっそりと拾い集め、積み上げている。入学式を控えたこの季節になると聞こえてくる、「桜をきれいだと感じるのは日本人ならではだよね」「日本に生まれてよかった」といった、なんてことはない言葉に対して、その度に引っかかりを覚える。特段何の悪意もない、「やっぱり韓国人だね」や「もう完全に日本人だよね」のどちらに対しても曖昧に笑ってうなずくことしかできない。淀みなく会話していたはずの相手に、名前を明かした途端にゆっくりとしたスピードになる日本語に、配慮を感じ取るよりももどかしさを覚えることも、依然として多々ある。 それでも、これらの思いは、私が研究を進める上での強烈な動機や基本的なスタンスにこそなれ、実際に議論を展開する際に挟み込まれることはないように、可能な限り注意を払って進めているつもりである。誰にとってもそうかもしれないが、少なくとも私にとって、論文を書くことは、いくつも厳しい批判を想定し、なんとか答えようとする作業の連続のように思える。私が思いつく程度のことはすでにとうの昔に答えられていて、より細かく、より新しい説明が求められる。先人の積み重ねた考察を読み進めるほど、新たな言葉を獲得すると同時に、自分が付け加えられる部分の小ささを思い知り、この圧倒的な営為の前では度々口をつぐむことになる。 それに、当然のことながら当事者としての私は決して誰かの代弁者になれるはずもなく、先行研究に当たることはもちろん、実際にフィールドに出かけて調査を進めていると、このことをより強く実感する。私が日本で暮らすことで見聞きし、感じてきたことは、あくまでもひとつの軌跡に過ぎず、同様に「日本で暮らす外国人」であっても、その経験や感性は千差万別である。そういった瞬間に遭遇する度に、当事者としての私は戸惑い、ときには落ち込み、傷つくこともある。調査は必ずしも「望ましい」答えを与えてくれないし、自己の一般化はただの驕りでしかない。 そうやって振り返れば、長い大学院生活を経て手に入れたのは、先人への敬意と、自分とは異なる他者への気付き、そしてそれゆえの慎重さであるように思われる。いまだに当事者としての自分と研究者としての自分の「ちょうど良い」距離感はうまく測れないことが多く、時に場面にそぐわず慎重すぎたり、感情的になりすぎたりすることもあるものの、おそらく他の多くの研究者もそれぞれの距離の取り方に悩み、試行錯誤しているのだろう、そんなふうに思って自分を奮い立たせる。「私は私」と言ってのけた遠い日の稚い勇気を少しばかり借りるならば、「私らしく」距離感を測り続けることにも意味があると思いながら、これからの研究生活を進めていければと願う。 <申惠媛(シン・ヒェウォン)SHIN_Hyewon> 渥美国際交流財団2019年度奨学生。東京大学教養学部附属教養教育高度化機構・特任助教。2013年東京大学教養学部卒、2015年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、2020年同博士課程単位取得満期退学。専門は社会学、移民・エスニシティ研究。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員の文景楠さんより共著書をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆篠澤和久、松浦明宏、信太光郎、文景楠著 『はじめての論理学:伝わるロジカル・ライティング入門』 いつでも・どこでも・誰にでも思いを伝えるための言葉のマナー、それが論理です。「わかりやすく書くこと」を軸に論理学の基礎を学べる入門テキスト。接続表現の使い方からさまざまな論法の組み立て方、記号を用いて議論の構成を明瞭にする方法まで、豊富な事例で解説。建設的な議論に欠かせない論理学の要点を身につけましょう。 有斐閣ストゥディア 2020年10月発売 A5判並製カバー付、206ページ 定価:1,980円(本体:1,800円) ISBN:978-4-641-15081-2 ※詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150812 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • GUO Chiyang “A Stranger in his Hometown”

    *********************************************** SGRAかわらばん845号(2020年11月12日) 【1】エッセイ:郭馳洋「故郷の異邦人」 【2】寄贈書紹介:HONG_Yunshin_"Comfort_Stations" *********************************************** 【1】SGRAエッセイ#652 ◆郭馳洋「故郷の異邦人」 桜が咲き始めた3月の下旬、東京のアパートで窓の外を眺めると、暖冬最後の冬らしさを主張するかのように雪が降っている。僕にとって雪が見られるのは日本にいる時に限る。冬でも軽々と20度を超える日が多い故郷では雪なんか降らないからだ。 大学3年生の頃は、交換留学生として筑波大学に1年間在学していた。初めて日本に来たのがその時だった。交換留学の申請は地元で入学した大学2年の後半に始まったが、ようやく大学生活に馴染みはじめた僕は留学なんかに乗り気ではなかった。留学を熱望した「意識高い系」のルームメートに付き合う形で申請書を提出したものの、早くも煩雑な手続きに頭を抱えた。とはいえ、「こんないいチャンスはめったにないんだよ。今のうち行かないと後悔するぞ」と先生方から何度も言われたし、どうせ1年だけだから、人生に1度ぐらい非日常的な異国体験ができるのも悪くないと思い、逡巡しながらもなんとか手続きを最後まで完了させ、留学に旅立った。そして留学先での勉強生活を通じて学問の世界に興味を抱き、研究したいことも見つかり、結果的に日本の大学院への進学が決まった。 大学院は甘くない、けれど数年辛抱すれば学位を取って帰国し、元の日常生活に戻れるはずだ。そう思っていた僕は地元の大学を卒業したあと再び日本に渡り、修士課程を修了し博士課程にあがり、気づいたら6年半の歳月が流れた。ところがいつからか、自分のなかで「日常」と「非日常」が逆転しはじめたようだ。狭いアパートでの1人暮らしと大学院の研究生活が日常になってきて、カレンダーは大学や学会の行事で埋まっている。一時帰国は年に1回か2回程度で、帰ったあとも相変わらずレポートや論文で忙殺されていた。いったん街に出ると、かつて見慣れた故郷の景色をどこかよそよそしいと感じてしまい、近所の市場で買い物する際にぎこちない方言を操っている自分がいた。町並みに関する記憶も、地図で確認しないと同窓会が開かれる有名な店の場所すら分からないくらい薄れている。どうやら僕は、自分の故郷の異邦人になったみたいだ。 そこでふと思った。故郷とはなにか、と。そもそも、中国の南の沿岸部に位置するこの都市は僕にとって果たして故郷といえるだろうか。たしかにここに両親が住んでいる。その意味で実家というのは間違いない。だが故郷はたぶん実家以上の何かである気がする。それは、明確な輪郭を持たないにせよ、「家」を取り巻く1個1個の原風景を?き集めたようなものではないか。しかしいま、心のアルバムをめくっても、思い出の写真はそれほど出てこない。 というのも、この都市に住んでいたのは中学3年から高校3年まで、せいぜい4年間なのだ。1つの場所を故郷として胸に焼き付けるには4年という時間は短すぎたかもしれない。それ以前はずっと都市部からやや離れた小さな町(行政区画では同じ「市」の管轄下にあるが)で暮らしていた。中学2年の夏、親の転勤で引っ越しと転校を余儀なくされた。そのとき、仲間との別れや新しい環境への不安にさいなまれ、大きな抵抗感を覚えた。引っ越し先のすべては新参者の僕にとって疎ましい存在だ。毎日のように元の町に帰りたいと駄々をこねて、実際何回か戻ったこともある。そしてあそここそ真の故郷だと思っていた。 しかし、やがてインフラ整備や大規模の改築工事が次々と行われ、町の雰囲気はすっかり変わり、昔の知人たちも相次いで引っ越してしまった。あの故郷に帰ったところで、親しみのある人も物ももはや見当たらない。少し大人になったためか、単に15歳の自分を裏切った結果か、僕はあるときからあの町に帰ることを口にしなくなった。かといって、高校を卒業し大学に行ったあとも、ついに「新しい故郷」に馴染むこともできなかった。なるほど、現実の物理的な空間を占めた故郷には大した思い入れがなく、思い入れのある故郷は過去の時間にしか存在しない。帰郷という言葉さえ空しくなるほど、故郷という存在が抜け殻のようになっている。僕は期せずして故郷の喪失といういかにも現代人らしい宿命を自分なりに体験することになった。 窓を開けてみると、雪が止んだ。季節は移ろうとしている。もう少し、淡い郷愁を誘うこの移ろいを味わいたいものだ。 <郭馳洋(かく・ちよう)GUO_Chiyang> 2019年度渥美国際交流財団奨学生。2011-2012年、筑波大学に交換留学。2013年、廈門大学日本言語文学学科を卒業。2016年、東京大学大学院修士課程を修了、修士号を取得。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程に在学。日本学術振興会特別研究員(2016-2019)、東京大学東アジア藝文書院リサーチアシスタント(2019-2020)。日本近代思想史を専攻。訳書に『中国近代思想的“連鎖”』上海人民出版社、2020(原著:坂元ひろ子『連鎖する中国近代の“知”』研文出版、2009)。ほかに研究論文多数。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】寄贈書紹介 SGRA会員の洪ユンシンさんよりご著書『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』の英語版をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 ◆HONG_Yunshin(Translated_and_Edited_by_Robert_Ricketts) “Comfort_Stations”_as_Rememberd_by_Okinawans_during_World_WarII 出版社:Brill ◇書籍 ISBN:978-90-04-33866-1/出版日:2020年2月2日 ◇電子版 ISBN:978-90-04-41951-3/出版日:2020年3月2日 英語版の詳細は下記サイトをご覧ください。 https://brill.com/view/title/34321 【参考】洪ユンシン『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』 http://impact-shuppankai.com/products/detail/249 沖縄の130カ所の「慰安所」、住民は何を見たのか沖縄諸島・大東諸島・先島諸島に日本軍が設置した「慰安所」の成立から解体まで ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • XIE Zhihai “Is Corona Pandemic a Chance for Regional Revitalization?”

    *********************************************** SGRAかわらばん844号(2020年11月5日) *********************************************** SGRAエッセイ#651 ◆謝志海「コロナ禍は地方創生のチャンスとなるか?」 新型コロナウイルスの到来によって、我々の暮らしが一変してしまった2020年。まずは人口密度の高い都心の住民から生活習慣の変更が余儀なくされたのではないだろうか?通勤ラッシュを避けるべく企業が次々と打ち出す在宅勤務は主に大企業が始めたが、在宅勤務のインフラが整っていない会社や、サービス業など在宅勤務が成り立たない人は、どこに浮遊しているかもわからないコロナウイルスに怯えながら通勤していたのだろう。外出すればどこへ行っても「密」を避けられない都会の暮らしがこんなにもネガティブな目で見られるとは。 その間、東京から100キロ離れた私の住む北関東の地方はというと、車社会なので「密」になることはないと呑気なものだった。連日のテレビの報道でコロナコロナと大騒ぎなのが嘘のように、ラーメン屋の行列は道路にはみ出さないようにするため、相変わらず密な行列だった。そして人々は綺麗に真っ直ぐな線を描いていた。こういう時も日本人は日本人だなぁと思った次第である。スーパーやドラッグストアに行けば、コロナ前となんら変わりない人出で、レジもまた密着して並んでいる。(現在は距離を置いた立ち位置を示すシールが床に貼ってあるようになった。) 同じテレビ報道を都会と地方問わず日本全国でしていても、こんなにも受け止め方の差があるように思うのだ。 では、地方の暮らしや生活の実態を、都会に暮らす人はどのくらい把握しているのだろうか?「リモート○○」が定着するかしないかの頃から言われ始めた、都心から地方への移住。これは在宅勤務、あるいは週に一、二度の出勤で残りは在宅勤務で良いのなら狭くて家賃の高い都会ではなく、地方の広い家に住み、用事がある時だけ都心に行けばいいじゃないかという考えで、これにより地方が活性化することも期待されている。今年7月に発売された「週刊東洋経済」のコラムでも1ページを使い「郊外や地方に引っ越して、より広々とした住環境の中で、仕事や子育てを」することについてのメリットをたくさん紹介していた。しかし今地方に住んでいる私としては、地方への移住はそんなにたやすいものではないと思うのだ。 以下にまとめるのは、私の住む市と私の勤務地のある隣の市を実際に見て回ったり、車窓から観察してみたりした今の地方の現状と、コロナ禍において地方移住を考慮するときに知っておくべきことを伝えたいと思う。まず、コロナの影響かどうかわからないが、お店の閉店が止まらない。6月に久しぶりに街を歩き回って大変驚いた。主に個人が開いていた飲食店以外でも、雑貨や衣料品のお店の閉店が多い。しかしそれだけではない。日本の誰もが知っている居酒屋チェーンやファーストフード店もまたどんどん撤退している。撤退時に看板を外していかないので、車でしか移動しない人は閉店したことに気づいていないと思う。 また、「週刊東洋経済」の同じコラムには、都会の人々が地方に移住することにより「例えば副業が認められるのであれば、都市部の会社に対してはテレワークを行いつつ、地元企業にアドバイスをしたり勤務したりする人も出てくるだろう。そうすれば、地方の企業活動の活性化や産業育成という観点でも、プラスの効果が得られる」とあった。これが実現すればなんとも素晴らしいことだが、これは都会に住む人だから言えることではないだろうか?東京から新幹線で1時間足らずのこの土地は、東京と同じようには暮らせないのだ。これは大げさではなく、例えば、仕事終わりに家路に着くまでの間、郵便ポストに手紙を入れ、ATMで現金をおろし、スーパーやコンビニで買い物、その後ドラッグストアにも寄る。こういったことを都会に暮らす人々は特に深く段取りを考えずとも日常的にやっていることだろう。 しかしこの土地はそれぞれの全てが離れている。車でしか辿り着けない所が多いだけでなく、用事を済ませたい場所と場所の距離が離れている上、その間に公共交通機関がない。車でしか移動できないのだ。移ってきたら、まず地元の銀行口座を開き、車を購入しなければならない。なぜなら、この県はメガバンクの支店とそのATMが無いに等しいぐらい少ない。幅をきかすのは地元の地方銀行で、それならどこにでもある。私もとうとう数年前に必要に迫られ、地元の銀行に口座を持った。車も移住後、結局3年以内に購入を余儀なくされた。 転勤/転職ではなく、今回のテーマであるコロナ禍においての地方移住を目的として、想定される現実をシュミレーションしてみよう。例えば、本職は東京にオフィスがあるテレワークで、その合間に地元の企業に貢献すべく担当者と会うとなれば、車が必要であり、そこへ辿り着くまでの時間もかかる。全ての地元企業が駅前にオフィスを構えているとは限らない。ではその地元企業の近くに住まいを構えればいいではないか?とすると、例えば本職の方のオフィスで会議があるなどで出社しないといけない時、最寄りの電車の駅まで家族に車で送ってもらう必要があるだろう。ではせっかく手に入れた車で東京オフィスまで乗り付ければいいと言うかもしれないが、ご存知の通り、高速代がかかるし、都心は駐車料金が高い。 同じく車がらみの話になるが、子育て世代が家族で地方に移住となると、奥さんが車を運転できなければならないし、大半が夫婦で1台ずつ車を持たなければならないだろう。なぜなら子どもの送迎はだいたいがお母さんの役目だ。私の家の最寄り駅の駅前ロータリーは毎朝車から降りてくる制服を着た学生、なかには私服の大学生らしき人も多いが、そうした家族を送るためのちょっとした渋滞がおきている。中高生となるとこれに塾の送迎も加わる。都会でバリバリ働くお母さんが、毎日子どもの送迎に時間を奪われることなど、想像できるのだろうか? そしてもっと小さい子世代の「子育て」というのもまた都会とは違う。公園というものが住宅地とリンクしていないのもこの土地の特徴で、公園の近くに居を構えていない人以外は、しっかりした公園で遊ばせようとなると、車を出す必要がある。都内によくある、住宅地にぽつんとあるブランコしかない公園、というのがあまりないので、子どもを短時間でも近所の小さな公園で遊ばせる、もしくは小学校高学年ぐらいの子たちが自分たちで近所の公園で遊ぶという光景も、東京とは違い住宅街では見かけない。 また、都会の生活で多く利用されているアマゾンフレッシュやスーパーによる生鮮食品の宅配はほとんど無い。食品の宅配は生協の一択となる。コロナ禍で大層注目を集めたUber_Eatsや出前館は存在すらしていなかった。今年9月中旬からやっと市内でUber_Eatsが始まった。しかし、Uber_Eats がさかんになる前に飲食店がどんどんお店を閉めてしまったら、どうなるのだろう。 そして実はお店だけでなく、家も空いたままのものが多い。昨年、まさに新幹線が停まる駅前にタワーマンションができた。マンション建設と平行して駅からのペデストリアンデッキも延伸させ、駅直結マンションをうたい、建つ前から完売御礼だった。しかし入居が始まっても空き部屋が目立っていた。コロナウイルス感染拡大で様々なメディアでリモートワークや地方移住が話題になり、あのタワーマンションもいよいよ入居者が増えるかと思いきや、家に投函されるチラシにそのマンション広告が部屋タイプも様々に何戸も紹介されていた。「投資用マンション」「投機目的にどうぞ」とうたい文句も添えられていた。現在も相変わらず広告チラシは届いている。 ここまで、地方の現実ばかり書いたが、きっと元々地方出身者にとっては車社会なことなど百も承知だろう。そういう人々にとっては地方移住も抵抗ないだろう。メディアに取り上げられるのは都心の人々がたくさん行き交う映像ばかり、観光地でもないような地方の市町村の実態が見えてこない。気楽に地方移住を高く評価するような事を言う人に限って、都心に住んでいるのではないかと思う程、東京と地方の暮らしは違う。もちろん東京のような大都市に住むのが一番であり「無敵の暮らし」とは言えず、都会で暮らすことの落とし穴のようなものもあるだろう。 たとえコロナウイルスがなかったとしても、地方創生はこの国の重要な課題の一つである。わたしの住む市はこれまで、観光地と特産物の広報活動には力を入れている。これからは住みやすい地、自然災害の少ないエリア等、アピールできるものはどんどん発信して、地方側から都会の人間を呼び込むことも必要であろう。同時に、路線バスの本数を増やすなど、移住者がすぐに町になじめるようなインフラ整備も行うべきだろう。 <謝志海(しゃ・しかい)XIE_Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • LEE Taekjin “Owner of the Goose that Laid the Golden Eggs”

    ********************************************* SGRAかわらばん843号(2020年10月29日) 【1】エッセイ:李澤珍「『金の卵を産む鵞鳥』の飼主」 【2】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(最終案内) 「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」(11月1日オンライン) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#650 ◆李澤珍「『金の卵を産む鵞鳥』の飼主」 ある人が、毎日1個ずつ金の卵を産む鵞鳥を飼っていた。その飼主は、鵞鳥の腹の中に大きな金の塊があるのだと考え、その腹を切り裂いた。が、中は他の鵞鳥たちと同じであった。 余りにも有名で多くを語る必要はないだろうが、この話は古代から伝わるイソップ寓話中の一篇である。紀元前6世紀頃のアイソーポス、英語読みのイソップという人によって語られたとされるイソップ寓話は、主として動物を主人公とする短い物語と、それに添える教訓・啓蒙的な言辞から構成されるのが一般的である。 後世のイソップ寓話編訳者および再録者たちは、この「金の卵を産む鵞鳥」の話について「今もっているものに満足し、むやみに欲張ってはならない」という趣旨の教訓を伝えるものと捉え、欲望に耐えきれず鵞鳥の腹を切り裂いた飼主の行動を愚かなものとする評言を付しているのがほとんどである。3世紀頃のバブリウス版から、現代日本でも最も広く読まれているシャンブリ版にいたるまで、欲望への戒めの伝統は忠実に受け継がれてきたのである。すなわち、金の卵を産む鵞鳥の飼主は2千年近くも世のそしりを免れることができなかったといえよう。 なるほど、確かにこの話の展開から見る限り、飼主を擁護する余地はなさそうだ。しかし、もしも鵞鳥の腹を切り裂いて原作の寓話とは異なる結果が出たらどうだろうか。仮定の話だが、飼主の思った通りに金の塊でも出てきたとしたら、あるいはせめて金の卵を産む仕掛けが見つかったとしたら…。いやいや、鵞鳥の腹から金の塊が出るなんて常識的にとうてい考えられない、と仮定の前提そのものが否定されるかもしれない。しかし、そう言い切れるだけの十分な科学的な根拠はあるのだろうか。 もし金の卵を産む鵞鳥が存在するならば、その鵞鳥の体内では何が起きているのか。これを科学的に解明しようと試みた人がいた。アメリカの生化学者で(SF)作家のアイザック・アシモフは、SF雑誌『アスタウンディング』1956年9月号に「金の卵を産む鵞鳥」という短編を発表した。その筋書きはこうである。1955年、テキサスのある農園主が飼っている一羽の鵞鳥が金の卵を産んだ。それを知った農務省は研究チームを立ち上げ、金の卵とそれを産んだ鵞鳥に対する科学調査に乗り出した。その結果、鵞鳥の肝臓の中で酸素18が金197へと転換されるという推論が提示された。 鵞鳥が金の卵を産むという寓話の世界の出来事を科学的に解明しようとしたバカ真面目なところも含めて非常に興味深い発想のあふれるフィクションであるが、特に私が注目したいのは、結局鵞鳥の腹を目の前で裂きひろげることができなかった研究者たちの次の言葉である。「わたしたちは、《金の卵を産む鵞鳥》を殺す勇気はなかった」。推論を立証し、鵞鳥の体内で金が作られるメカニズムを明らかにするために、鵞鳥の腹の中を直接見て調べるのは絶対欠かせない作業である。しかし、研究者たちは、だった1羽しかいない鵞鳥を解剖することはできなかったのである。この言葉に対する解釈は色々あるだろうが、古代から非難されてきた飼主のためのある種の弁護として受け止めることも可能ではなかろうか。 よく考えてみると、飼主の行動を「欲望」と結び付けて問題とする共通理解の背後には、鵞鳥の腹の中に金の塊なんか詰まっているはずがないという観念が大きく影響しているような気がする。言い換えれば、鵞鳥の腹に金の塊は存在しないと考えるのが常識的で理性的な判断だから、彼の行動は反常識的で反理性的なものになるわけで非難されるべく、彼がそのような行動をとったのはやっぱり欲望に負けたからだ、という論理が、古代から飼主の行動を戒める見方を支えてきたように思うのである。しかし皮肉なことに、欲望を諷刺しながらも、結局毎日一個ずつ金が得られるという、安定した金の入手による幸福追求を正しい選択として奨励している。果たして飼主の行動は、欲望にくらんで犯した反常識的・反理性的なものとして非難ばかりされるべきものなのか、疑問を拭いきれない。 今一度問い直してみよう。鵞鳥の腹の中から金の塊が出てきたとしたら、あるいは金の卵を産む仕掛けが見つかったとしたら、飼主への見方はどうなるだろうか。おそらく鵞鳥を切り裂かせた原因として戒められた「欲望」は、ふと思いついたことをすぐ実行に移した「実践力」として、また勇気のある行動をもたらした「原動力」として称賛されるかもしれない。 <李澤珍 LEE_Taekjin> 東京大学大学院総合文化研究科博士課程在学中。専門は日本近世・近代文学、特に日本におけるイソップ寓話受容の歴史について研究している。主な論文に、「古活字版『伊曽保物語』の出版年代再考」(『国語国文』87―7、2018年)、「『伊曽保物語』版本系統の再検討―B系統古活字本の本文異同を中心に―」(『近世文芸』106、2017年)、「明治初期のイソップ寓話受容における『伊曽保物語』の影響について―渡部温編訳『通俗伊蘇普物語』を中心に―」(『超域文化科学紀要』21、2016年)等がある。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(最終案内) 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンライン(Zoom)で開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。今回は、聴講者はご自分のカメラとマイクはオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください テーマ:「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 時間:2020年11月1日(日)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(東京時間) 方法:Zoom_Webinarによる 主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:清華東亜文化講座、北京大学日本文化研究所 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_bAKs7Yo7QYu1Kj9DBaQqMQ お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 江戸時代後期以降、日本には西洋の諸理論が流入し、絵画においても、それまで規範であった中国美術の受容とそれを展開していく過程に西洋理論が影響を及ぼすようになっていった。一方、絵画における東洋的な伝統や理念が西洋の画家たちに影響を与え、さらにそれが日本や中国で再評価されるという動きも起こった。本フォーラムでは、その複雑な影響関係を具体的に明らかにすることで、日本近代美術史を東洋と西洋の思想が交錯する場として捉え直し、東アジアの多様な文化的影響関係を議論したい。日中同時通訳付き。 ■プログラム 【講演】稲賀繁美(国際日本文化研究センター) 「中国古典と西欧絵画との理論的邂合―東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 渡邊崋山から橋本関雪までの画人がいかに中国の美術理論を西洋理論と対峙するなかで咀嚼したかを検討する。とりわけ「気韻生動」の概念がいかに西洋の美学理論に影響を与えたかをホイスラーからアーサ・ダウに至る系譜に確認するとともに、それが大正期の表現主義の流行のなかで、いかに日本近代で再評価され、「感情移入」美学と融合をとげ、更にそれが、豊子愷らによって中国近代に伝播したかを鳥瞰する。この文脈でセザンヌを中国美学に照らして評価する風潮が成長し、またそれと呼応するように、石濤が西欧のキリスト教神秘主義と混線し、東洋研究者のあいだで評価されるに至った経緯も明らかにする。 【討論】 劉暁峰(清華大学歴史系) 塚本麿充(東京大学東洋文化研究所) 王中忱(清華大学中文系)/高華シン(中国社会科学院文学研究所)代読 林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) ※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。 日本語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/J_SGRAChinaVForum14.pdf 中国語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/C_SGRAChinaVForum14.pdf ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • XIE Zhihai “Let’s Think about Global Environment Now ー Decarbonization”

    ********************************************* SGRAかわらばん842号(2020年10月22日) 【1】エッセイ:謝志海「いまこそ環境問題を考える(脱炭素編)」 【2】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(再送) 「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」(11月1日オンライン) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#649 ◆謝志海「いまこそ環境問題を考える(脱炭素編)」 コロナから何か一つでも良いことがもたらされたとすれば、経済活動の休止による二酸化炭素の排出量の激減ではないだろうか。しかし、知っての通り一時的なもので、これは長く続かない。地球温暖化対策とは、持続可能な経済発展をしながら取り組まなければならない。その一つはエネルギー政策だ。石炭や石油などの化石燃料の使用を減らしてゆき、再生可能エネルギーへの代替を加速させる「脱炭素社会」を目指すことが地球温暖化対策の近道となる。 2015年にパリ協定で定められた「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という目標を実現するため、多くの国々は「脱炭素」に向けて動き出している。脱炭素と言うと、まずは石炭の利用を減らす、あるいはやめることだ。石炭火力発電は二酸化炭素排出量が、天然ガスを使う同規模の火力発電と比べ約2倍になる。先進国のうちイギリスは2025年、フランスは2021年、カナダは2030年までに石炭発電を「やめる」と宣言している。そして2016年に、これらの国々が率先して脱炭素連盟(PPCA)を立ちあげ、すでに33ヶ国と29の自治体が参加している。 では、日本はどうだろう。現在稼働中の石炭火力発電所は約140基ある。また、東南アジア等の途上国、例えば、ベトナムで2024年の稼働を目指す「ブンアン2」という大規模な石炭火力発電所を手がけている。日本はG7の中では、いまだ海外で石炭火力発電所を新設している唯一の国だ。パリ協定に参加している日本は、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年よりも26%削減する目標を設定したが、他の先進国と比べると、脱炭素に関してはあまり積極的ではなかったことで批判を浴びている。現に2019年12月国連気候変動サミットCOP25の開催期間中、環境NGOの「気候行動ネットワーク(CAN)」から不名誉な賞「化石賞」を受賞した。しかも2度目の受賞である。これを受け、小泉環境相がCOP25のスピーチで「我々は脱炭素化に完全にコミットしているし、必ず実現する」と誓った。 それ以来、日本の石炭火力発電政策は少しずつ変化が起きはじめた。まず注目されるべき点として、2020年7月3日、経済産業省は稼働中の石炭火力発電所140基のうち、旧式で二酸化炭素の排出量が多い約100基を2030年までに休廃止すると発表した。これと同時に、日本政府は石炭火力発電所の輸出支援条件を厳格化する方針を決めた。これは脱炭素への大きな一歩を踏み出したともとれるが、完全に石炭をやめるまでには踏み込んでいないということでもある。 なぜ日本はまだ石炭発電を止められないのだろうか。それには、国内と海外の二つの要因が考えられる。国内では、3.11以降、原子力発電所はほとんど止まったため、いわばなし崩し的にコストが最も低い石炭火力発電の割合が増えた。現在、日本の電力供給は、石炭火力発電が30%以上を占めているため、そう簡単にはすべての石炭火力発電所を廃止することはできない。また、東南アジア等の途上国で今もなお石炭火力発電所の開発を進めており、日本が参入し続けないと、中国、インド等の新興国が入ってきてしまい、石炭火力発電所建設という大きな海外市場を失うことを恐れているのだろう。 これらの要因にとらわれず、国連のグテレス事務総長が指摘した「石炭中毒」の状態から脱却するには、再生可能エネルギーへの再認識が必要だ。例えば、石炭火力発電のコストが低く、再生可能エネルギーのコストが高いという認識はもはや正しくない。2010年からここ十年、太陽光発電のコストは80%も下がった。Bloomberg_New_Energy_Financeによると、2030年までに、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電のコストが石炭発電のコストを下回る見込みだという。また、海外市場について、石炭発電所よりむしろ再生可能エネルギー技術を輸出した方が、経済的利益も国際社会からの評価もはるかに上がるだろう。 脱炭素への実現には、やはり再生可能エネルギーの普及が欠かせない。政府が掲げた目標は、2030年まで再生可能エネルギーを22~24%まで上げる、同時に石炭火力はわずか数パーセント減で26%としている。この目標は見直すべきだろう。例えば、経済同友会は2030年の再生可能エネルギーの割合目標を40%にすべきだと主張している。3.11後に孫正義氏が設立した「自然エネルギー財団」(東京)は目標を45%にすべきだと提言している。日本政府は真に再生可能エネルギーを主力電力化とすることを目指しているならば、より大胆に再生可能エネルギーの導入をすべきだ。そうすれば、「脱炭素社会」の実現もそう遠くないだろう。 <謝志海(しゃ・しかい)XIE_Zhihai> 共愛学園前橋国際大学准教授。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイト、共愛学園前橋国際大学専任講師を経て、2017年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンライン(Zoom)で開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。今回は、聴講者はご自分のカメラとマイクはオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください テーマ:「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 時間:2020年11月1日(日)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(東京時間) 方法:Zoom_Webinarによる 主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:清華東亜文化講座、北京大学日本文化研究所 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_bAKs7Yo7QYu1Kj9DBaQqMQ お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 江戸時代後期以降、日本には西洋の諸理論が流入し、絵画においても、それまで規範であった中国美術の受容とそれを展開していく過程に西洋理論が影響を及ぼすようになっていった。一方、絵画における東洋的な伝統や理念が西洋の画家たちに影響を与え、さらにそれが日本や中国で再評価されるという動きも起こった。本フォーラムでは、その複雑な影響関係を具体的に明らかにすることで、日本近代美術史を東洋と西洋の思想が交錯する場として捉え直し、東アジアの多様な文化的影響関係を議論したい。日中同時通訳付き。 ■プログラム 【講演】稲賀繁美(国際日本文化研究センター) 「中国古典と西欧絵画との理論的邂合―東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 渡邊崋山から橋本関雪までの画人がいかに中国の美術理論を西洋理論と対峙するなかで咀嚼したかを検討する。とりわけ「気韻生動」の概念がいかに西洋の美学理論に影響を与えたかをホイスラーからアーサ・ダウに至る系譜に確認するとともに、それが大正期の表現主義の流行のなかで、いかに日本近代で再評価され、「感情移入」美学と融合をとげ、更にそれが、豊子愷らによって中国近代に伝播したかを鳥瞰する。この文脈でセザンヌを中国美学に照らして評価する風潮が成長し、またそれと呼応するように、石濤が西欧のキリスト教神秘主義と混線し、東洋研究者のあいだで評価されるに至った経緯も明らかにする。 【討論】 劉暁峰(清華大学歴史系) 塚本麿充(東京大学東洋文化研究所) 王中忱(清華大学中文系)/高華シン(中国社会科学院文学研究所)代読 林少陽(香港城市大学中文及歴史学科) ※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。 日本語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/J_SGRAChinaVForum14.pdf 中国語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/C_SGRAChinaVForum14.pdf ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • BAO Lianqun “Language Measures in China during COVID-19 Pandemic”

    ********************************************* SGRAかわらばん841号(2020年10月15日) 【1】エッセイ:包聯群「コロナ流行期の中国の言語対応」 【2】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(再送) 「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」(11月1日オンライン) 【3】寄贈本紹介:岡本真希子『殖民地官僚政治史』(中国語版) ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#648 ◆包聯群「コロナ流行期の中国の言語対応」 新型コロナウイルス感染症が発見されて間もなく、中国政府は軍の医療チームを含む延べ4万2千人以上の医療関係者を、全国各地から武漢市をはじめとする湖北省の16都市に派遣した。その際、「抗疫」、「援鄂(鄂は湖北省の別名)」、「最前線」、「出征」という中国語語彙がメディアをはじめ、各医療チームのスローガンにも多く見られるようになった。医療関係者はコロナと「戦う」覚悟で湖北省(最前線)に出向かっている(出征)というニュースがメディアによって繰り返し報道され、全国的に「緊張」が走っていった。実はこの時、医療現場では「コロナ」以外にもう一つの「戦い」が始まっていた。それは人々の日常生活や社会活動に欠かすことができない重要な「武器」である「言葉」との「戦い」であった。というのは、湖北省に派遣された医療関係者を困らせることが起きたからである。つまり、患者の中に年配者が大勢いたため、まず「言葉」が通じないという問題が出てきたのである。方言の障害によってコミュニケーションがうまくとれず、治療に支障が出たのだ。 皆さんご存知のように、中国には56の民族がいて、その分言語も多いと思われがちであるが、ここで指摘したいのは、少数言語は別として、中国語の方言間の差異も大きいという点である。中国では、昔は「山を一つ越えれば、言葉が通じない」と言われるほどであった。標準語がすでに普及している日本からみると、この「言葉」が通じないという状況は考えられない光景だろう。しかし、現時点においても中国では、標準中国語(普通話Putonghuaとも言う)が標準日本語のようにすべての地域に普及しているわけではない。学校で教育を受けられなかった人々は標準中国語を話すことができるとは限らない。特に今回のような場合、学校教育をきちんと受けられなかった年配者、あるいは地元の方言しか話せない人々は、外部の人との意思疎通に問題が起こりかねない。 中国湖北省の方言は大きく3つに分けられる。即ち、西南官話、江淮官話とGan方言である。これらの方言はさらに細かい方言に分けられる。湖北省に派遣された医療チームは主に西南官話の武漢、荊州、宜昌、襄陽の各方言、江淮官話の孝感、黄石、鄂州、黄岡方言およびGan方言の咸寧方言などを話す9つの地域で治療に当たっていた。これらの方言を全国から応援に来た医療関係者が知らないか、または標準語をあまり知らない患者さんが医療関係者の問いに答えられないか、方言で返してくるということが起こり、何を話しているかをお互いに理解できず、聞き取れないことがあったので治療にまで影響を及ぼしはじめていた。 最初に派遣された中国山東大学斎魯病院の医療チームが湖北省黄岡市に着いた時、現場で働く医療関係者が言葉の違いにいち早く気づいた。医療関係者と患者との意思疎通に障害が起き、治療の有効性に影響を及ぼしはじめたため、看護師のZ氏が自ら対策を考え「自救」に乗り出した。最初の『看護師と患者とのコミュニケーションブック』(『護患溝通本』)を2月1日までは作成し終え、職場である大別山地域の医療センターで実用化しはじめた。その後、山東省から第5次で派遣され、2月9日に武漢に到着した同大学医療チームのG氏も言葉の問題に気付き、現地の医師や大学の関係者に協力してもらい、武漢に到着してからわずか48時間以内に『湖北省を支援する国家医療チーム武漢方言実用ハンドブック』(『国家援鄂医療隊武漢方言実用手册』)を作成し、現場で使用しはじめた。 北京語言大学言語資源先端イノベーションセンター(語言資源高精尖創新中心)の李宇明氏は、中国山東大学斎魯病院の医療チームが自ら『武漢方言実用ハンドブック』を編集したことを報道によって知り、すぐに多数の大学や研究機関及び企業などと連携を取り、「戦疫言語サービスチーム」(戦疫語言服務団)を立ち上げ、わずか3日間で『コロナ感染対策湖北方言通』(『抗撃疫情湖北方言通』)という「製品」を作り、「最前線」の医療関係者や患者らに湖北省の9つの方言と標準中国語の対応語彙や会話などを提供した。『湖北方言通』には感染対策や治療のためによく使われる156の語彙と75の文が選定されている。 現場への言語対策としての「製品」の形式は多種多様である。ウェブサイトネットバージョン、オンライン電話相談サービス及びネット上のテキストなどがあり、音声データとマイクロビデオも継続的に再生できるようになっている。またウィーチャット(WeChat)バージョンもある。標準中国語と方言の文と語彙が対応しているため、QRコードをスキャンすれば音声再生システムが起動され、音声放送ができる。そして『融合媒体ポケットブック』も手帳の形で印刷され、さらにTikTok(抖音)バージョンも作られた。それ以外に、方言翻訳ソフトも使用され、インテリジェントによる音声発信システムや医療アシスタント電話ロボット、そして日本ではあまり知られていないが、噂であるか否かを確認できる「奇虎360」会社の検索サイトまで登場した。湖北省や武漢市政府からビデオ同時通訳サービスも提供された。こうして「言葉」の壁を乗り越えていったのである。 後にこれを活かし、『コロナ感染対策外国語通』(『疫情防控外語通』)、『コロナ感染対策「やさしい中国語」』(『疫情防控“簡明漢語”』)なども短期間で作成され、現場や外国人に提供された。「やさしい中国語」は日本の言語サービスとして、在日外国人に提供されている「やさしい日本語」からヒントを得て作られたという。「戦疫語言服務団」の「災害言語サービス」対応に参加した機関や業種は多く、500人以上の人々が参加していた。医療関係者だけではなく、他の分野からもこうした膨大な規模の人々が動きだして言語対策を取り、「災害言語サービス」を提供していたことがわかった。 <包聯群(ボウ・レンチュン)BAO_Lianqun> 中国黒龍江省出身。東京大学から博士号取得。大分大学経済学部・教授。中国言語戦略研究センター(南京大学)研究員。TOAFAEC『東アジア社会教育研究』編集委員。SGRA会員。専門は社会言語学、中国北方少数言語。『言語接触と言語変異』、『現代中国における言語政策と言語継承』(1-4巻)などの著編書多数。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンライン(Zoom)で開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。今回は、聴講者はご自分のカメラとマイクはオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください テーマ:「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 時間:2020年11月1日(日)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(東京時間) 方法:Zoom_Webinarによる 主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:清華東亜文化講座、北京大学日本文化研究所 後援:国際交流基金北京日本文化センター ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_bAKs7Yo7QYu1Kj9DBaQqMQ お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 江戸時代後期以降、日本には西洋の諸理論が流入し、絵画においても、それまで規範であった中国美術の受容とそれを展開していく過程に西洋理論が影響を及ぼすようになっていった。一方、絵画における東洋的な伝統や理念が西洋の画家たちに影響を与え、さらにそれが日本や中国で再評価されるという動きも起こった。本フォーラムでは、その複雑な影響関係を具体的に明らかにすることで、日本近代美術史を東洋と西洋の思想が交錯する場として捉え直し、東アジアの多様な文化的影響関係を議論したい。日中同時通訳付き。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学外国語学院日本言語文化系) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 【講演】稲賀繁美(国際日本文化研究センター) 「中国古典と西欧絵画との理論的邂合―東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 渡邊崋山から橋本関雪までの画人がいかに中国の美術理論を西洋理論と対峙するなかで咀嚼したかを検討する。とりわけ「気韻生動」の概念がいかに西洋の美学理論に影響を与えたかをホイスラーからアーサ・ダウに至る系譜に確認するとともに、それが大正期の表現主義の流行のなかで、いかに日本近代で再評価され、「感情移入」美学と融合をとげ、更にそれが、豊子愷らによって中国近代に伝播したかを鳥瞰する。この文脈でセザンヌを中国美学に照らして評価する風潮が成長し、またそれと呼応するように、石濤が西欧のキリスト教神秘主義と混線し、東洋研究者のあいだで評価されるに至った経緯も明らかにする。 【討論】王中忱(清華大学中国文学科)、塚本麿充(東京大学東洋文化研究所)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科)他 ※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。 日本語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/J_SGRAChinaVForum14.pdf 中国語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/C_SGRAChinaVForum14.pdf -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】寄贈本紹介 SGRA会員の江永博さんより翻訳本をご寄贈いただきましたのでご紹介します。 -------------------------- 原作: 岡本真希子『植民地官僚の政治史-朝鮮・台湾総督府と帝国日本-』三元社、2008年2月。 訳本: ◆岡本真希子著 郭(女+亭)玉、江永博、王敬翔訳『植民地官僚政治史:朝鮮、台湾総督府与日本帝国』上(制度編)・中(人材編)・下巻(構造編)、台大出版中心、2019年10月。 概要: 1895年から半世紀、「帝国日本」は台湾・朝鮮などの植民地統治のために、膨大な植民地官僚群を生みだしてきた。本書は、これら植民地官僚群に関わるさまざまな制度、高級官僚の人材や異動の動態を明らかにしながら、民族問題と植民地官僚制の複雑な相関関係、そして本国―植民地を架橋する50年の政治史を論ずる。全巻は3部10章で構成され、制度(第1部)・人材(第2部)・構造(第3部)の角度より植民地を「官僚王国」にした膨大な植民地官僚群について検討する。 三元社『植民地官僚の政治史』【電子書籍版】URL: http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/220.htm 台大出版中心『植民地官僚政治史:朝鮮、台湾総督府与日本帝国』URL: http://www.press.ntu.edu.tw/index.php?act=book&refer=ntup_book01114 ネットショップ(博客来)『植民地官僚政治史:朝鮮、台湾総督府与日本帝国』URL: https://www.books.com.tw/products/0010836585 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Invitation to SGRA China V Forum #14

    ********************************************* SGRAかわらばん840号(2020年10月8日) 【1】第14回SGRAチャイナVフォーラムへのお誘い(11月1日オンライン) 「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 【2】SGRAレポート紹介 レポート第76号「日中200年―文化史からの再検討」 レポート第88号「日中映画交流の可能性」 ********************************************* 【1】第14回SGRAチャイナVフォーラム「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」へのお誘い 下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンライン(Zoom)で開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。今回は、聴講者はご自分のカメラとマイクはオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください テーマ:「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 時間:2020年11月1日(日)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(東京時間) 方法:Zoomによる 主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共催:清華東亜文化講座(予定)、北京大学日本文化研究所 ※参加申込(下記URLより登録してください) https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_bAKs7Yo7QYu1Kj9DBaQqMQ お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612) ■フォーラムの趣旨 江戸時代後期以降、日本には西洋の諸理論が流入し、絵画においても、それまで規範であった中国美術の受容とそれを展開していく過程に西洋理論が影響を及ぼすようになっていった。一方、絵画における東洋的な伝統や理念が西洋の画家たちに影響を与え、さらにそれが日本や中国で再評価されるという動きも起こった。本フォーラムでは、その複雑な影響関係を具体的に明らかにすることで、日本近代美術史を東洋と西洋の思想が交錯する場として捉え直し、東アジアの多様な文化的影響関係を議論したい。日中同時通訳付き。 ■プログラム 総合司会:孫建軍(北京大学外国語学院日本言語文化系) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団) 【講演】稲賀繁美(国際日本文化研究センター) 「中国古典と西欧絵画との理論的邂合―東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 【討論】塚本麿充(東京大学東洋文化研究所)、林少陽(香港城市大学中文及歴史学科)他 閉会挨拶:董炳月(中国社会科学院文学研究所)(予定) ※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。 日本語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/J_SGRAChinaVForum14.pdf 中国語プログラム http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/10/C_SGRAChinaVForum14.pdf ■発表要旨 渡邊崋山から橋本関雪までの画人がいかに中国の美術理論を西洋理論と対峙するなかで咀嚼したかを検討する。とりわけ「気韻生動」の概念がいかに西洋の美学理論に影響を与えたかをホイスラーからアーサ・ダウに至る系譜に確認するとともに、それが大正期の表現主義の流行のなかで、いかに日本近代で再評価され、「感情移入」美学と融合をとげ、更にそれが、豊子愷らによって中国近代に伝播したかを鳥瞰する。この文脈でセザンヌを中国美学に照らして評価する風潮が成長し、またそれと呼応するように、石濤が西欧のキリスト教神秘主義と混線し、東洋研究者のあいだで評価されるに至った経緯も明らかにする。 ※なお、本フォーラムでは講演を契機とした活発な議論が展開されることを期待し、事前に講演内容に関連する以下の論文を紹介する。 ◆「岡倉天心」関係: 稲賀繁美「天心・岡倉覚三と五浦―イギリス・ロマン主義特輯号の余白に―」 https://inagashigemi.jpn.org/uploads/pdf/170925hikaku.pdf 稲賀繁美「岡倉天心とインド―越境する近代国民意識と汎アジア・イデオロギーの帰趨」 https://inagashigemi.jpn.org/uploads/pdf/Okakura0411.pdf ◆橋本関雪の周辺: 稲賀繁美「表現主義と気韻生動―北清事変から大正年末に至る橋本関雪の軌跡と京都支那学の周辺―」 https://inagashigemi.jpn.org/uploads/pdf/150331nihonkenkyu.pdf ◆近代の南画復興と日中交流: 稲賀繁美著 王振平訳「論豊子愷《中国美術在現代芸術上勝利》与日訳作品在接受西方思想時的媒介作用」 https://inagashigemi.jpn.org/uploads/pdf/0910kawamotosensei.pdf ◆サン・ディエゴでの中日美術交流に関する会議の報告: 稲賀繁美「日本美術と中国美術の<あいだ>(上)石橋財団国際シンポジウム(2018年11月2-4日)に出席して」 https://inagashigemi.jpn.org/uploads/pdf/aida244.pdf 稲賀繁美「日本美術と中国美術の<あいだ>(下)石橋財団国際シンポジウム(2018年11月2-4日)に出席して」 https://inagashigemi.jpn.org/uploads/pdf/aida245.pdf [講師略歴] 稲賀繁美(いなが・しげみ) 国際日本文化研究センター教授。1988年東京大学大学院人文科学研究科比較文学比較文化専攻博士課程単位取得退学、1988年パリ第七大学(新課程)博士課程修了。博士(文学)。東京大学教養学部助手、三重大学人文学部助教授を経て、1997年国際日本文化研究センター助教授、2004年より国際日本文化研究センター教授。専門は比較文学比較文化、文化交流史。 主な単著書に『絵画の臨界:近代東アジア美術史の桎梏と命運』、名古屋大学出版会、2014年1月、『絵画の東方 オリエンタリズムからジャポニスムへ』、名古屋大学出版会、480頁、1999年、『絵画の黄昏:エドゥアール・マネ没後の闘争』、名古屋大学出版会、467頁、1997年、共著書に(編著)『東洋意識:夢想と現実のあいだ 1894-1953』、ミネルヴァ書房、京都、2012年4月20日、『東洋美学と東洋的思惟を問う:植民地帝国下の葛藤するアジア像--国際シンポジウム 第38集--』国際研究集会報告書38、国際日本文化研究センター、京都、2011年3月31日(本文は英語)、(編著)『異文化理解の倫理にむけて』、名古屋大学出版会、名古屋、2000年がある。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】SGRAレポート紹介 過去のチャイナ・フォーラムの講演録をSGRAレポートとして発行いたしましたのでお知らせします。PDF版は下記リンクからダウンロードしていただけます。冊子本についてはSGRA賛助会員と特別会員へ第76号は6月に送付済、第88号は11月に送付予定です。会員以外の方でも冊子本をご希望の方はSGRA事務局までご連絡ください。 ◆レポート第76号「日中200年―文化史からの再検討」(日中合冊版) http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/china/2016/15575/ 劉建輝(国際日本文化研究センター教授) 第9回SGRAチャイナ・フォーラム「日中200年―文化史からの再検討」講演録 2020年6月18 日発行 従来、東アジアの歴史を語る時、ほとんどの識者が古代の交流史と対比して、近代の抗争史を強調し、両者の間に一つの断絶を見出そうとしてきた。たしかに政治、外交だけに目を向ければ、日中、日韓などの間に戦争も含む数多くの対抗や対立が頻発し、ほとんど正常な隣国関係を築くことができなかった。しかし、もしこの間の三国間の文化的交流、往来の足跡を精査すれば、そこには近代以前とは比べられないほど多彩多様な事実、事象が存在していることに気付くだろう。そしてその多くはいずれも西洋という強烈な「他者」を相手に、互いの成果、経験、また教訓を利用しながら、その文化、文明的諸要素の吸収、受容に励む努力の跡にほかならない。その意味で、東アジア、とりわけ日中韓三国はまぎれもなく古来の文化圏と違う形で西洋受容を中心とする一つの近代文化圏を形成していたのである。 ◆レポート第88号「日中映画交流の可能性」 http://www.aisf.or.jp/sgra/combination/china/2019/15787/ 第12回SGRAチャイナ・フォーラム「日中映画交流の可能性」講演録 2020年9月25日発行 いまや中国は世界第1位のスクリーン数と第2の映画製作本数を誇る映画の一大市場であり、日本も世界第4位の映画製作本数を維持している。世界の映画産業のひとつの中心は、まさに東アジアにあると言ってもよいだろう。本フォーラムでは、この映画大国である日本と中国の40年にわたる映画交流を、日本と中国の側からそれぞれ総括を行い、意見交換を行い、今後の展望を検討することを目的としている。 刈間文俊氏は、1977年の中国映画祭から字幕翻訳に携わり、これまで100本に近い中国映画の字幕を翻訳し、中国映画回顧展のプロデュースを行うなど、日本での中国映画の紹介に携わってきた。王衆一氏は、日本映画に精通し、「人民中国」編集長として多くの日本の映画人と交友を持ち、「日本映画の110年」を翻訳し北京で出版している。日中の映画交流の歩みを現場で知る二人の発表をもとに、日中双方の識者による討論を行う。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Jaeun YUN “Lessons from Corona Measures and the Japan Model”

    ********************************************* SGRAかわらばん839号(2020年10月1日) 【1】第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」報告 【2】エッセイ:尹彦在「SGRAカフェを終えて:半年間のコロナ対策の教訓と日本モデル」 【3】寄贈本紹介『グローバル関係学4:紛争が変える国家』 ********************************************* 【1】第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」報告 現在、全世界が様々な形でコロナウイルスと向き合っている。各国政府はもちろん、あらゆる団体や個々人まで何らかの対応を取らざるを得ない状況だ。ウイルスの危険性が完全には判明していないため、気を緩めることも難しい。世界中どこでもこのような認識を前提に、対策がとられている。 2020年9月19日(土)に開かれた今回のSGRAカフェのテーマ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」もまさにここに焦点が当てられていた。渥美財団ホールを会場としてスタッフを含め20人余りが参加し、世界各地からZoomでの参加者も50人に達した。誰もが認識している現実問題のため高い関心が寄せられた。15時にスタートした今回のSGRAカフェは17時に公式イベント(講演・報告・質疑応答)が終了し、後半の「懇親会」(1時間)では自由な雰囲気の中で議論が行われた。 まず、日本、とりわけ東京の対応について最前線で戦っている大曲貴夫先生(国立国際医療研究センター国際感染症センター長)よりお話をいただいた。クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)や第一波への対応の問題点を踏まえ、次第に対応が改善されていった。検査体制が整備され、待機時間は飛躍的に減らされた。まだ特効薬はないものの、治療法が改善された結果7月から始まった第二波では、死亡者や重症者多少減少した(高齢者は依然として油断はできない)。 大曲先生の30分間の講演後、韓国(金雄熙_仁荷大学教授)、台湾(陳姿菁_開南大学副教授)、ベトナム(チュ・スワン・ザオ_ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員)、フィリピン(ブレンダ・テネグラ_アクセンチュアコンサルタント)、インド(ランジャナ・ムコパディヤヤ_デリー大学准教授)の順で元渥美奨学生のみなさんの現地報告(Zoom)が続いた。 韓国からはIT技術を活用した追跡・隔離措置とともに、国内政治の複雑な状況がもたらした感染拡大についての説明があった。コロナ対応が単純に感染症対策にとどまらず、政治問題に飛び火する構図が良くわかる。初期からコロナを抑え込んでいた台湾からも、奏功したIT技術の役割とともに経済との両立問題(国境開放)が述べられた。ベトナムでは国を挙げての対策がとられたが、気のゆるみで第二波の際には苦戦した。現在は厳しい政策の下、落ち着きつつある。宗教的な儀礼としての疫病退散も紹介された。フィリピンとインドでは依然として感染拡大が続いている。フィリピンは数多くの出稼ぎ労働者の帰国という悩ましい問題を抱えながらコロナと戦っている。インドでもIT技術を通じたコロナ対策が導入されているものの人口の多さゆえに対応に苦慮している。 質疑応答(16時半より30分間)は会場とZoom接続の参加者の両方からリアルタイムで行われた。東京の満員電車問題、コロナの後遺症等についての質問が大曲先生に出された。満員電車の場合は、高いマスク着用率を考えると危険性はそれほど高くないが、後遺症については十分注意する必要があるとの説明があった。大曲先生も自らリポーターに積極的に質問を投げかけたのが印象的だった。質疑応答の後、会場+オンラインの「ハイブリッド懇親会」も用意され、比較的自由な雰囲気で各国の状況や教育現場の課題等の話が交わされた。 過去にお世話になったとある奨学財団では、9月にようやく顔合わせ会を開催したと聞く。それを考えると、渥美国際交流財団のスタッフの方々の安全かつ楽しい交流会への取り組みには感謝申し上げたい。今回のSGRAカフェはある意味、新たな試みとして他の交流団体にも十分参考となり得ると思う。司会としても有意義な経験だった。 (文責:尹在彦) 当日の写真は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/09/14thSGRACafe_Photo.pdf 当日のアンケート集計結果は下記リンクよりご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/wp-content/uploads/2020/09/14thSGRACafe_Survey.pdf 当日の録画(YouTube)を下記リンクよりご覧いただけます。 https://youtu.be/YQRFkt18Pp8 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】SGRAエッセイ#646 ◆尹在彦「SGRAカフェを終えて:半年間のコロナ対策の教訓と日本モデル」 米国の調査会社ピュー・リサーチが最近、興味深い調査結果を発表した。14カ国を対象としたこの調査では「感染症の拡散を重大な脅威と認識しているか」が問われた。どの国が最も強く脅威を感じていたのか。1位は89%が「重大で脅威である」と答えた韓国で、2位は88%の日本だった。誤差を考えるとコロナへの両国民の脅威認識はそれほど変わらないと言って良いだろう(調査期間は6~8月)。他に米国78%、英国74%で、最下位はドイツの55%だった。極めて緩い対策を取ったスウェーデンも56%と低かった。 韓国のマスコミの報道ぶりや政府の派手な対応を見ていると高い脅威認識は十分うなずけるものだ。しかし、日本でこれほど脅威認識が高いのは意外だった。マスコミのコロナ報道は抑制的で、政府や自治体の対応も急速に緩くなっていったからだ。ここで浮き彫りになったのは、日本のコロナ対策というのは「非常に高い脅威を感じた個々人の努力で国全体を牽引している」ということだ。強制的措置がなかったにもかかわらず、JR各社が過去最大の赤字に陥るほど人々の移動は急減した。「日本モデル」というものがあるとするならば、それは個々人の行動変容の徹底ぶりだろう(これはたやすく真似できるものでないため、本当に「モデル」と呼べるかには疑問が残るが)。 今回のSGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」で感じたのも、各国のリポーターの報告と日本のケースとの「温度差」だ。ベトナムを除いた5カ国(日本・韓国・台湾・インド・フィリピン)は民主主義体制だが、移動制限や個人情報を基にした追跡技術が用いられている。「コロナ拡散を抑え込むため」という名目で一定程度、人権侵害が許されている。罰金刑を伴う移動制限やマスク義務化、営業制限は欧米諸国でも導入されている。もちろん、韓国や台湾は過去の失敗経験が一種の「社会的予防接種」として効果を発揮した側面も否めない。社会的合意のもとでの規制措置が採用された。数多くの島から成り立っているフィリピンや、膨大な国土と人口を擁するインドも強力な移動制限に踏み切るしかなかった。 日本は強硬路線をとらなかったものの欧米諸国のような「感染爆発」は起きていない。個人的には、コロナ禍の中で注意深く観察しているのが「コロナ・マスク否定論者の集会(反ロックダウンデモ等の反政府集会)」だ。そういった集会への参加者はいわば「反知性主義者」とも言うべき人々だが、それにしても欧米諸国が大切にしてきた価値を反映したものと言えなくもない。 また、少なからぬ日本のマスコミは韓国の感染症対策を「全体主義的」という論調で報じていたが、筆者は「韓国も民主主義国」と信じているため、やりすぎた措置と考えられる時にはいつでも激しい反発が出ると見ていた。それが8月15日の「反政府デモ」として表れる。デモ参加者については極めて愚かな行動だったとは思うが、欧米とは違う形とはいえ韓国も民主主義体制であることを証明したと思う。 それを考えると、日本の場合はやはり「異例」としか言いようがない。強権的な措置もなかったが、世論調査の半数以上が政府の対策に不満を表しつつも市民らの見える形での反発は非常に弱かった。渋谷で「ノーマスクイベント(クラスターフェス)」は開かれたものの、欧米や韓国と比較すると「みすぼらしい」ものだった。「自粛」という形での「自発的移動制限」が実行され、お盆休みにも新幹線の利用は大幅に減少した。これは個人の自由を強調する欧米諸国や権威主義体制の名残のある韓国・台湾にも、権威主義体制の中国・ベトナムにも属さない「日本的特徴」だ。 政府やマスコミとは別に「強く脅威を感じる個々人の対応が日本のコロナ対応を引っ張ってきた」といえるのではないか。否定的にのみ捉えられるいわゆる「自粛警察」もその意味では「日本モデル」を構成する一部分だ。地方のみならず、豊島区役所の職員さえ自粛警察と化した現象(営業中の飲食店を脅した疑いで逮捕)は見逃せない。他国では自粛警察の役割を本物の警察が担っており、ここでも日本の特殊性は鮮明に見えてくる(現代刑法は私的制裁を禁じるため、自粛警察をそのまま助長するわけにはいかないが)。ある意味、金田一耕助が警察より先に事件を解決する文化の継承(?)と言えなくもない(ちなみに筆者は横溝正史のファンだ)。 しかしながら、日本の緩い政策が経済的後退を防げなかった点は必ず考慮しなければならない。筆者の住んでいる国立市や隣の立川市の繁華街では閉店が相次いでいる。老舗の文具店(創業81年)やステーキ店(同30年)等が閉店してしまった。ある程度コロナの脅威を抑え込まない限り、経済の持ち直しは困難になるだろう。 SGRAカフェの報告から明らかになったのも、経済と防疫の両立が容易ではないということだ。 半年間のコロナウイルスとの戦いからの教訓は「感染拡大期に経済と防疫の両立は極めて困難であること」だ。コロナが弱毒化した明確な証拠やワクチンの開発がない間は、これは変わらないだろう。恐らく来年も今年のような「抑制と拡大の繰り返し」が続くのではないか。これまで「希望的観測」が次々と裏切られてきた経験からは、やはりそう考えざるを得ない。最悪を想定した上でのコロナ対策がむしろ最も効果的かもしれない。 <尹在彦(ユン・ジェオン)Jaeun_YUN> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学大学院博士後期課程。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交政策・国際政治理論。共著「株式投資の仕方」(韓国語、2014年)。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【3】寄贈本紹介 SGRA会員で大東文化大学講師のミヤ・ドゥイ・ロスティカさんより共著書をご寄贈いただきましたので、ご紹介します。 ◆末近浩太・遠藤貢編『グローバル関係学4:紛争が変える国家』 中央政府の機能不全や非国家主体の台頭、国民国家を前提としない国家の出現など、従来の枠組みを越えた紛争が起こっている。シリア、イラク、ソマリアなど紛争下と紛争後の諸国の両方を取り上げるとともに、紛争後に民主化を進めたインドネシア、ミャンマーやエボラ出血熱の危機に対処したシエラレオネも分析し、紛争による国家破綻の状況と人々の国家観を比較の視座から解明する 著者:末近浩太編、遠藤貢編 発行所:岩波書店 刊行日:2020年9月16日 ISBN:9784000270571 体裁:四六・上製・カバー・216頁 定価:本体2,600円+税 詳細は下記リンクよりご覧ください。 https://www.iwanami.co.jp/book/b527914.html ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Baraniak-Hirata “Culture Shock from Gender Division of Roles in Japan”

    ********************************************* SGRAかわらばん838号(2020年9月24日) 【1】エッセイ:バラニャク平田・ズザンナ「カルチャーショックを招いた日本のジェンダー役割分担と私の留学経験」 【2】国史対話メルマガ#22を配信:秦方「個人的な経験から学問へ」 ********************************************* 【1】SGRAエッセイ#646 ◆バラニャク平田・ズザンナ「カルチャーショックを招いた日本のジェンダー役割分担と私の留学経験」 初めて来日してからいつの間にか10年も経った。2010年に子どもの頃から遠い夢のように思っていた日本にやっと足を運ぶ機会を得たのだ。当初、1年間の交換留学が終わった後、ヨーロッパに帰る予定だったが、まさかその後ずっと日本で生活することになるとは予想さえしていなかった。気がつけば、大人になってからほとんどの人生を日本で過ごし、いつの間にか日本で家族を持つようになって、日本は私の「home」になった。 振り返ってみると、この最初の1年間が私のその後の人生の選択に大きな影響を及ぼした。日本学科が専攻だったイギリスの大学生の時に女性文化とジェンダーに興味を持ち始めたため、交換留学先として、日本の大学で初めてジェンダー研究を目的とする施設を設立したお茶の水女子大学を選んだのだ。正直、お茶大が女子大であることについてあまり深く考えず、他の大学と何も変わらないだろうと思っていた。しかし、この女性だけの環境で、本当にあらゆる人間の経験にはジェンダーが関連していると初めて感じた。その考えのきっかけとなったのは、私のカルチャーショックだった。 この1年間の中で最も強いカルチャーショックは意外なものだった。来日後の最初の数ヶ月の間にたくさんのものにびっくりして、確かに毎日のように新しいことを発見していた。しかし、来日前から長年日本について学んでいたからか、普段、外国人が衝撃を受けているもののほとんどにはすでに馴染んでおり、案外びっくりするものではなかった。だが、私のカルチャーショックの体験は思いがけない方向からやってきて、ジェンダーと日本の女性文化への関心をより強化して、大学院の進学先の選択肢に大きく影響した。 そのカルチャーショックは他の学生との会話だった。ある日、留学生と日本人の学部生が一緒に受講している一つの授業の中で、「将来何になりたいですか?」という問いについてディスカッションをした。「将来何になりたい?」の質問と言えば、どんな国でも子どもの頃から何回も聞かれるだろう。人気の答えがある一方、個人差が出てくる大人になると十人十色の場合が多いだろう。しかし、この授業に参加していた日本人の女子学生の圧倒的な人数は「専業主婦」と答えた。主婦や主夫になりたい人にこれまで1人も会ったことがなかったので、その答えにはピンとこなかった。なぜ日本人の女子学生は主婦を目指すのか?しかも、主婦を目指すのであれば、なぜ彼女らは大学に入学したんだろうと疑問に思ったからだ。気になりすぎて、授業後に日本人の友達に聞いてみた。すると、あまりにも冷静で論理的な回答にまたショックを受けた。 日本では、専業主婦になりたくても高等教育が不可欠だそうだ。「大学を卒業すれば、良い職場に就職できて、そこで高年収の夫と出会えるから」と説明されたのだ。今振り返ると、日本ではこの論理は当たり前のものだと思っている人は多いんじゃないかと思うが、当時、21歳だったヨーロッパ文化の価値観で育った私にこの考え方は大きな衝撃を与えた。 まず、20代にもまだなっていない学生が自分の教育の選択肢を将来の結婚のことを予想して選んでいることに驚いた。だが、この考え方に関して教育の非重要性よりも衝撃的だったのは、このような女子学生が抱く冷静な恋愛関係の戦略が広く普及していることだった。結婚や結婚相手のことをこれまで一切気にしていなくて、日本の現状を知らずにナイーヴだった私には、まだ出会いもしていない男性との結婚を予期して自分の将来の日常生活と仕事を決め、そのために紙切れ扱いにしかならない高等教育の卒業証明書を得ることに納得がいかなかったのだ。 日本人女性が憧れている将来の「仕事」の選択肢に大きな文化の違いを感じた。なぜ私と同じ大学で、同じ教育を受けている女子学生は女性として目指しているものがそこまで違うのだろう?そして、なぜ(旧共産主義の国で育った私に)時代遅れのようにしか聞こえない「仕事」が日本でそんなに憧れられているのだろう?なぜ女性の夢はそんなに違うのだろう?と、あの授業が終わった後、長い間に頭の奥にずっと残っていた。 来日してから10年が経って、日本でパートナーと出会い、結婚して、子どもができ、日本の女性の状況とジェンダーについてたくさん学んだが、今でも日本とヨーロッパのジェンダー格差について同じようなことを考えるときがある。結局、今の日本では、「女性が輝く社会」などと女性の社会進出が幅広く叫ばれているが、このような「専業主婦願望」の学生の意識改革を起こさなければ、日本社会は変わらないんじゃないかと考える。 <バラニャク平田(ひらた)・ズザンナ Zuzanna_Baraniak-Hirata> 渥美国際交流財団2019年度奨学生。ポーランド出身。2012年マンチェスター大学人文科学学部日本研究学科を卒業してから来日。2016年お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ジェンダー社会科学専攻・開発・ジェンダー論コースにて修士号取得。現在同学のジェンダー学際研究専攻・博士後期課程在籍中。埼玉大学経済学部・埼玉大学大学院人文社会科学研究科非常勤講師。専門分野は文化人類学、ジェンダー論。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】「国史対話」メールマガジン第22号を配信しました。 ◆秦方「個人的な経験から学問へ」 1998年の蒸し暑い夏のこと、今も鮮明に覚えています。当時、私と家族は4つの荷物を持って、江蘇省の小さな市から汽車に乗って天津の南開大学に勉学の機会を求めてやってきました。当時の交通状況からすると、この旅はおよそ12時間かかります。汽車に乗るのは初めてではありませんでしたが、汽車という現代的交通手段が私をより広い、憧れの世界に導いたことに初めて気がついたのはあの時でした。 天津という北方の大都市は私にとってどのような意味を持っていたのでしょうか。私が大学生になって学部に入ったばかりの1998年に、天津が私に非常に生き生きとした印象を与えてくれたのは、その輝かしい歴史ではなく、また全国上位のランキングにある南開大学の名誉でもありませんでした。それは初めてマクドナルドが食べられたこと、都市の地下鉄に乗れたこと、初めて他の省から集まってきた大学のルームメートと知り合って、それぞれ違う方言や生活方式を持っていることに気づいたことです。天津という都市は、私が大学で受けた教育により深い印象を与えてくれたと言っても過言ではありません。 続きは下記リンクからお読みください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kokushi/J_Kokushi2020QinFangEssay.pdf ※SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。国史メルマガは20日ごとに配信しています。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。また、3言語対応ですので、中国語話者、韓国語話者の方々にもご宣伝いただきますようお願いいたします。 ◇国史メルマガのバックナンバーおよび購読登録は下記リンクをご覧ください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************
  • Nahed ALMEREE “Proposal Style”

    ********************************************* SGRAかわらばん837号(2020年9月17日) 【1】エッセイ:ナーヘド・アルメリ「プロポーズ・スタイル」 【2】第14回SGRAカフェへのお誘い(9月19日)(最終案内) 「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 ********************************************* 【1】 SGRAエッセイ#645 ◆ナーヘド・アルメリ「プロポーズ・スタイル」 卒業が近づいてくると周りの人たちから卒業後の計画について訊かれることが多くなった。特に卒業するのが数年間にわたって勉学をし続けた大学院生の場合、最初に訊かれることは卒業後の仕事に違いない。仕事の次は、特に女性で未婚の場合は、結婚や相手がいるかどうかの質問が必ず出てくる。 私は日本文学が専門なので、博士号を取得するために2011年9月に日本に留学した。8年あまりの時間をかけて、去年(2019年)の12月に書き上げた博士論文をもとに、先月(2020年3月)博士の学位を取得した。これから帰国する予定だが、帰国後の仕事と生活について訊かれるのは当然のことだろう。そんな中で昨年気に留まったことがある。これまでも話題になったことはあったが、あまり具体的な内容にまで触れられることがなかった、結婚に先だつ「プロポーズ」をめぐる話で、色々と驚くことがあった。 「なんてプロポーズすればいい?」「ナーヘドさんはなんてプロポーズされた?」というフレーズをなぜかわからないが、去年、仲が良くて年齢的にも同じくらいの日本人の知り合いや友達から聞くことが多かった。特に日本人の若い男性がプロポーズの言葉・場所・タイミングでとても頭を悩ませてしまうことがわかった。それに、プロポーズするときのプレゼントと高級ホテルやレストランなどの場所にもお金をかけてしまう男性が少なくないようだ。なぜそこまで頭を悩ませてお金もかけてしまうのかと驚き、その理由を訊いてみた。すると、社会的に男性にはそのようなことが求められている傾向が強くなっていることがわかった。そして相手の女性にとってプロポーズされた時のことは、女性同士のおしゃべりの恰好の話題になり、それで盛り上がることもわかった。 母国のシリアと日本のプロポーズ・スタイルの違いが大きいので、グーグル検索で「プロポーズ」をキーワードに打ってみた。予想以上のリンクがヒットした。プロポーズのときに何を言うか、どのタイミングでどのような場所を選べばいいかを提案しているページがたくさんあるのを見てがっかりした。 私は彼氏と日本に来る2年前から付き合っているが、なんてプロポーズされたか覚えていない。そもそも彼から直接「プロポーズ」とはっきり言えるようなことがあったかも覚えていない。それは私にとって、おそらく他のシリア人女性にとっても重要ではない。 シリアやその隣国では、男性と女性が互いに相性が良くて、互いのことを気に入っていることに気づくと、意図的に相手がいる場所に居続けたり、偶然であったかのように相手の通学や通勤タイミングを狙ってそこに現れて、そこで話しかけるまで時間をかけて、段々と会う時間や話す時間を長くしたりするようなことをする。国が違っても男性と女性の付き合いはそのようなことで始まることが少なくないでしょう。勿論シリアでは男性の方が積極的である。そしてそういった始まりから自然に恋人同士になり、互いの状況と互いのことをよく知り合ったうえで、付き合いを結婚に繋げることを決める。 結婚を決めるということは、恋人同士が話し合い、タイミングを決めたうえで、女性が母親に相手の男性のことを伝え、その母親が父親に話を伝え、女性が両親の合意を得られたら、相手の男性に知らせる。すると、今度は女性が両親に、相手の男性が両親を連れて婚約のことを進めるために訪問してくるタイミングについて相談して決める。決めたタイミングで男性が両親と一緒に相手の女性の家族の家を訪ねる。そこで、彼の父親が女性の父親に「あなたのお嬢さんを我が息子の嫁にもらえたら光栄です」と言って、女性のことを息子の嫁として求める。すると、女性の父親が「こちらこそ、私の娘と貴方の息子さんが結ばれ、私たちが一つの家族になって光栄です」と言って、家族間で2人の付き合いが認められ、2人の父親を通じてのプロポーズのもとで、婚約パーティーを行なう。婚約後に数週間、または数ヶ月間を空けて、結婚式の準備が整えられたら、結婚式を挙げる。これはシリアと隣国の伝統的なプロポーズの手順だ。父親たちを通じたプロポーズをした方がエレガントで女性が喜ぶ。 婚約パーティーを行なうまで、男性が女性に喜ぶようなプレゼントをあげたり、2人が好きそうなレストランで食事をしたりする。最初の段階にくれるプレゼントは花が多い。高い店で買った花ではなく、薔薇やジャスミンなど道端にたくさん咲いている花を摘んだものが多い。気に入った段階から真面目な付き合いになると、時計やカバンなど基本的に小さくて実用的なプレゼントをくれる。だが、どんなにプレゼントをくれても、相手の男性にどんなに「好きだ」とか「愛している」とか言われても、それが、両親を連れて、互いの父親を通したプロポーズに展開しないと、女性は喜ばない。そしてそのプロポーズの場所は女性の家族の家に決まっている。男性は両親を連れて果物やお菓子を持って女性の家族の家を訪ね、後は2人の父親たちに任せれば良い形で進む。 日本で社会的に素敵だとされているプロポーズ・スタイルを知った時、シリアとは違って日本の若者の間のプロポーズでは本人たちが主役となっていることが、男性の負担がどうしても重くなってしまう理由なのではないかと思った。伝統的でつまらないものだと思われるかもしれないが、シリアで生まれた私にとっては、当然ながら、親にサポートされ、親に見守られている中でのプロポーズの方が素敵だと思う。特に、インターネットやSNSで、男性にプロポーズの言葉・場所・タイミングなどが提案されていることを疑問に思う。 プロポーズ・スタイルは国や世代によって異なっていることは当然だが、社会の個人化が進んでいる日本で、家族を作る重要なステップであるプロポーズについてネット上に提案が山ほど提示されている状況を見ると、これから家族を作る時に、知らないうちに個人としての自発性や積極性が段々と闇に葬られてしまうのではないかと感じた。そして女性の方がプロポーズをめぐる理想を高くしていては、男性が自信を無くしてプロポーズの機会が少なくなるだろう。近代社会の在り方やSNSなどにあおられるプロポーズではなく、理想が高くない自然な成り行きのプロポーズこそが現実的な結婚に繋がるのではないかと思う。 日本に留学して9年近く在留しているが、大学院卒業が迫ってくると同時に、周りの人々からいろいろ訊かれるようになって、気に留まった「プロポーズ」についての私の考えである。 <ナーヘド・アルメリ Nahed_ALMEREE> 渥美国際交流財団2019年度奨学生。シリア出身。ダマスカス大学日本語学科卒業。2011年9月日本に留学。2013年4月筑波大学人文社会科学研究科に入学。2020年3月博士号取得。博士論文「大正期の童謡研究――金子みすゞの位置づけ」は優秀博士論文賞を受賞し、現在出版準備中。8月末シリアに帰国、ダマスカス大学日本語学科で教鞭をとる予定。 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- 【2】第14回SGRAカフェへのお誘い(最終案内) SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす皆さまに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺い議論をする<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回はオンラインZoomと渥美財団の会場とを繋ぎ、バーチャルとリアルを組み合わせて開催します。皆さまのご参加をお待ちしています。 ◆第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 日時:2020年9月19日(土)(日本時間)15時00分~17時00分 参加方法:オンライン(Zoom)または渥美財団へご来訪かを参加登録時にお選びいただけます。 言語:日本語 会費:無料 定員:オンライン100名/渥美財団ホールでの参加15名 (人数に達した時点で申込を締め切らせていただきます) 参加申込(下記リンクから): https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_73VDxBKBTBWzXdhjhSh3ow 問い合せ:SGRA事務局 [email protected] ◇プログラム 14:45 Zoom接続開始 15:00 開会 15:10 講演:大曲貴夫「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 15:40 各国リポート5ヵ国(1人5分程度) 16:20 質疑応答(会場+オンライン) 17:00 終了 17:00~ご希望の方々によるZoom懇親会(18:00頃終了予定) ◇趣旨 世界を席巻する新型コロナウイルス(COVID-19)。各国は感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指して試行錯誤を繰り返しています。 今回のSGRAカフェでは、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫先生をお招きしてお話を伺うと共にアジア各国からのリポートを交えて、今世界で何がおこっているのか、どのように向き合うべきかを考えます。 更に「感染症とリスクコミュニケーション」、「防疫の国際協力」等の議論も行いたいと思います。 ◆講演「国際的観点から見る日本の新型コロナウイルス対策」 大曲貴夫(おおまがり・のりお)国立国際医療研究センター国際感染症センター長 新型コロナウイルス感染症の診断、治療、感染防止対策が医療上の大きな課題となっている。この感染症が社会全般特に経済に及ぼす影響は極めて大きく、その影響が今後数年以上継続すると予想されているなかで、今後この感染症にどのように向き合っていくべきかについて、私の意見をお伝えしたい。 ◇司会 尹在彦(ユン・ジェオン):一橋大学大学院国際関係論専攻/元新聞記者(2020渥美奨学生) ◇各国リポーター 【韓国】金雄熙(キム・ウンヒ):仁荷大学国際通商学科教授(1996渥美奨学生) 【台湾】陳姿菁(チェン・ツチン):開南大学副教授(2002渥美奨学生) 【ベトナム】チュ・スワン・ザオ:ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員(2006渥美奨学生) 【フィリピン】ブレンダ・テネグラ:アクセンチュアコンサルタント(2005渥美奨学生) 【インド】ランジャナ・ムコパディヤヤ:デリー大学准教授(2002渥美奨学生) 詳細は下記リンクをご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/schedule/2020/15740/ 【事前接続テスト】2020年9月7日(月)15:00~16:00にZoomの事前接続テストを実施いたします。テストをご希望の方は、SGRA事務局へ参加申込メールアドレスをお知らせください。担当者より折り返しご連絡を差し上げます。接続方法、ミュート機能のON/OFFの切り替え、チャットの見方などについてご不安な方はどうぞお気軽にこの機会をご活用ください。テスト時間内であればいつでも接続、参加可能、出入り自由です。 ********************************************* ★☆★お知らせ ◇「国史たちの対話の可能性」メールマガジン(日中韓3言語対応) SGRAでは2016年から「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」円卓会議を続けていますが、2019年より関係者によるエッセイを日本語、中国語、韓国語の3言語で同時に配信するメールマガジンを開始しました。毎月1回配信。SGRAかわらばんとは別にお送りしますので、ご興味のある方は下記より登録してください。 https://kokushinewsletter.tumblr.com/ ●「SGRAかわらばん」は、SGRAフォーラム等のお知らせと、世界各地からのSGRA会員のエッセイを、毎週木曜日に電子メールで配信しています。どなたにも無料でご購読いただけますので、是非お友達にもご紹介ください。 ●登録および配信解除は下記リンクからお願いします。 http://www.aisf.or.jp/mailmaga/entry/mailing_form/ ●エッセイの転載は歓迎ですが、ご一報いただければ幸いです。 ●配信されたエッセイへのご質問やご意見は、SGRA事務局にお送りください。事務局より著者へ転送します。 ●SGRAエッセイやSGRAレポートのバックナンバーはSGRAホームページでご覧いただけます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/active/sgra/ ●SGRAは、渥美財団の基本財産運用益と法人・個人からの寄附金、諸機関から各プロジェクトへの助成金、その他の収入を運営資金とし、運営委員会、研究チーム、プロジェクトチーム、編集チームによって活動を推進しています。おかげさまで、SGRAの事業は発展しておりますが、今後も充実した活動を継続し、ネットワークをさらに広げていくために、皆様からのご支援をお願い申し上げます。 http://www.aisf.or.jp/sgra/kifu/ 関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)事務局 〒112-0014 東京都文京区関口3-5-8 (公財)渥美国際交流財団事務局内 電話:03-3943-7612 FAX:03-3943-1512 Email:[email protected] Homepage:http://www.aisf.or.jp/sgra/ *********************************************