SGRAメールマガジン バックナンバー

YUAN Xiaoyu “Future Research Agenda”

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SGRAかわらばん898号(2021年11月25日)

【1】元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」

【2】寄贈本紹介:楼慶西著、李暉・鈴木智大訳『中国の建築装飾』

【3】SGRAレポート『岐路に立つ日韓関係』(日韓合冊版)ご紹介
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【1】SGRAエッセイ#688

◆元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」

近年、日本では子どもの間のいじめでパソコンや携帯電話等が使われることは珍しくない。「ネット上のいじめ」とは、携帯電話やパソコンを通じてインターネット上のウェブサイトの掲示版などに特定の子どもの悪口や誹謗・中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うものを意味する。一方、いじめを受けた子どもがツイッターやLINE上でつぶやいたSOSが「放置」され、自殺という最悪の事態に至ってしまうこともあった。

さらに、子どものいじめや自殺などの相談にSNSのLINEを使ったところ、電話よりも相談件数が増えることが分かった。「SNSは若者にとっていちばん身近なので、相談に活用できるよう対応することが必要だ」と言う意見も強い。いじめの防止につなげようと、千葉市の市立中学校は2016年度から子どもたちが毎日持ち歩く生徒手帳に、いじめに遭ったり目撃したりしたときの対応やネット上の相談窓口を記載する取り組みを始めたという。ネットいじめを低減する重要な要因、解消のために必要な要因は何であると考えられるのだろうか。教育者にとって、この点を明らかにすることが喫緊の研究課題である。

中国では2017年に国家教育部が初めて「いじめ」の定義を明確に示したが、その後の対策はまだはっきりとしていない。中国でいじめ問題に人々が関心を寄せるようになったのは、ごく最近のことにすぎない。長い間、多くの中国人は子どもの間のいじめは免れられないことであると考えていた。一学年に250名くらいの児童・生徒が在籍しているとの報告があり、生徒数が多いことが影響していると考えられる。

いじめが起こる場面では傍観者が最も多い。傍観者の多くは、いじめをする人が悪いと思い、いじめられている人はかわいそうな人であると思っているが、どうしたら良いか分からないという状態にある。中国では、多くの児童・生徒は学校側からいじめについて認識を尋ねられた場合に、知りうるすべての真実を学校側に伝えると答えている。いじめを傍観している児童・生徒は、いじめを解決する上で鍵となる人物といえる。いじめが先進国ほど表面化していない中国においては、学級づくりでは多くの傍観者を取り込んで、良い雰囲気を構築することが極めて重要なことであり、いじめを減らす有効な方法になると考えられている。

良い雰囲気の学級を作ることはいじめの予防教育につながる。日本でも、いじめの早期発見と早期対応を促す教師のあり方として、教師が子どもに信頼されることと共に、教師の意識を変えることが必要であると指摘されている。いじめがないことを前提に児童・生徒たちに接するのではなく、いじめが存在する可能性を前提として子供に接することで、早期に的確な対応を取ることが可能となる。これからの研究課題は、教師がいじめをどのように把握するか、教室全体がいじめ防止・抑止に結び付く雰囲気をどのようにつくり出すかという点になるといえる。

<元笑予(げん・しょうよ)YUAN Xiaoyu>
2008年来日、中国南開大学の日本語学科を卒業して、埼玉大学教育学部の研究生、修士を経て、東京学芸大学大学院で2020年9月に教育学博士号を取得。専門は教育心理学。現在、玉川大学教育学部非常勤講師として勤務しながら、東京学芸大学個人研究員として研究を進めている。

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【2】寄贈本紹介

SGRA会員で奈良文化財研究所アソシエイトフェローの李暉さんからご寄贈いただきましたのでご紹介します。

◆楼慶西著、李暉・鈴木智大訳『中国の建築装飾』

中華世界の中心である紫禁城などの宮殿建築から、四合院といった伝統的住宅に至るまで、中国建築の屋根、扉・窓、基壇等に施された建築装飾を、彩色・彫刻・文様ほかあらゆる側面から分かりやすく読み解く。中国建築史研究の大家による詳細な解説とオールカラーの美麗な写真により、豊富な具体例を示しながら、時代や地域を越えた中国建築の歴史、さらにそれらの底流にある中国文化に対する理解をも深める一書。
日本語版オリジナルの各種索引(建築用語等、建築物・庭園、地名)を完備。さらに訳者による「中国建築用語解説」を掲載し、レファレンスとしても有用。

発行:科学出版社東京(株)
発売:(株)国書刊行会
発売日:2021/07/21
判型:B5判 ISBN:978-4-336-07234-4
ページ数:263頁 Cコード:0052
定価8,580円(本体価格7,800円)

※詳細は下記リンクをご覧ください。
https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072344/

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【3】SGRAレポート第95号『岐路に立つ日韓関係』(日本語・韓国語合冊版)のご紹介

SGRAレポート第95号のデジタル版をSGRAホームページに掲載しましたのでご紹介します。下記リンクよりどなたでも無料でダウンロードしていただけます。SGRA賛助会員と特別会員の皆様は冊子本をお送りしました。会員以外でご希望の方はSGRA事務局へご連絡ください。

第19回日韓アジア未来フォーラム講演録
◆『岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか』
2021年11月17日発行

http://www.aisf.or.jp/sgrareport/Report95.pdf

<フォーラムの主旨>
歴史、経済、安保がリンケージされた複合方程式をうまく解かなければ、日韓関係は破局を免れないかもしれないといわれて久しい。日韓相互のファティーグ(疲れ)は限界に達し、日韓関係における復元力の低下、日米韓の三角関係の亀裂を憂慮する雰囲気は改善の兆しを見せていない。尖鋭な対立が続いている強制徴用(徴用工)及び慰安婦問題に関連し、韓国政府は日本とともに解決策を模索する方針であるが、日本政府は日本側に受け入れられる解決策をまず韓国が提示すべきであるという立場である。なかなか接点を見つけることが難しい現状である。
これからどうすればいいか。果たして現状を打開するためには何をすべきなのか。日韓両国政府は何をすべきで、日韓関係の研究者には何ができるか。本フォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ4名ずつ招き、これらの問題について胸襟を開いて議論してみたいと考え、日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行った。

<もくじ>
第1部:講演および指定討論
【講演1】岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか—-日本の立場から
小此木政夫(慶應義塾大学名誉教授)
【指定討論1】小此木先生の講演を受けて
沈揆先(ソウル大学日本研究所客員研究員)
【講演2】岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいか—-韓国の立場から
李元徳(国民大学教授)
【指定討論2】李元徳先生の講演を受けて
伊集院敦(日本経済研究センター首席研究員)
第2部:自由討論
金志英(漢陽大学副教授)、西野純也(慶應義塾大学教授)、小針進(静岡県立大学教授)、朴栄濬(国防大学教授)
第3部:質疑応答
司会アシスタント 金崇培(忠南大学招聘教授)
あとがきにかえて 金雄煕(仁荷大学教授)

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★☆★お知らせ
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