SGRAかわらばん

エッセイ705:モハマド・ハフィズ・ヒルマン・ビン・モハマド・ソフィアン「ディープ・ワーク」

現在、SNS(会員制交流サイト)は普遍的なものになり、人間の生活を変えつつあります。もちろん良い方向に変わっているところがたくさんあります。情報を早く拡散したり、長い間離れている人と接続したりすることができます。一方、世間では大目に見られているSNSの悪いところも紛れもなくあります。色々ありますが、最近注目を浴びているのが人間の気を散らすことです。「SNSを使うことによって気が散る」ということについて、詳しく説明しなくてもこのエッセイを読んでいる皆さんはなんとなく分かると思います。SNSを人生に導入し使いすぎることによって、自分の本当のポテンシャルを引き出すことができなくなると思います。この問題を解決し、人生を変えたい人は少なくないと思いますが、そのような方にジョージタウン大学のカル・ニューポート教授が著した『ディープ・ワーク(Deep Work)』という本を強くお薦めます。生産率を上げるのに、この本は不可欠だと思います。

 

ディープ・ワークというのは「認知能力を限界まで押し上げ、注意散漫のない集中状態で実行される活動」と定義します。著者は現在の世界で首尾よく生き残るために、このディープ・ワークを実行できる能力を身につけないといけないと述べています。SNSのように気を散らすものは自分にとって良くないので、完全にではなくてもできるだけそこから自分を離さなければなりません。これによって集中力を手に入れることができます。ディープ・ワークがなぜ大事かというと、現在多くの場合、脳とメンタルを使用する仕事が求められているからです。周りをきちんと観察すれば、誰でも分かると思います。

 

言わずもがなですが、世界は「自動システム」という将来に向かっています。自動運転の車をはじめ、スマートハウスやロボットなどという最先端技術・サービスが普及しています。この技術・サービスのコストが下がりつつあり、庶民にとっても手頃な値段になっています。現代のあらゆる会社はこの最先端技術・サービスに関わっているため、それらの会社に「ソフトウェア部」が存在しています。この「ソフトウェア部」は時間がたつにつれて大きくなり、大事な部署になると思われます。将来はソフトウェアに関わる仕事が多くなり、それに関連するジョブチャンスも多くなると考えられます。複雑なソフトウェアのスキルや知識を得るためには誰にとっても集中力が必要で、ディープ・ワークがとても重要であると考えられます。

 

さあ、ディープ・ワークの大切さは分かったけど、そのスキルを手に入れるにはどうすれば良いかと皆さん戸惑っているでしょう。著者は詳しく書いていますが、私が個人的に使っており、お薦めしたい方法を説明します。それはフェイスブックやインスタグラムなどのSNSの使い方を変えることです。現在多くの人が24時間、SNSを使っています。いつでも、どこでも。起床したらすぐ最初にSNSをチェックします。レストランで順番を待っていたら、すぐポケットから携帯を出しSNSをチェックします。これは非常に悪い習慣です。これによって脳が「つまらなさ」に慣れず、常に刺激を求めるようになります。そのため、複雑で大変なタスクに取り組むときに集中できなくなり、仕事の質が低下します。これを解決するために、一日にSNSをチェックする時間を決め、守るようにします。例えば、昼の12時と夜の8時にそれぞれ45分間だけSNSをチェックする、などです。その時間帯以外はできるだけSNSのチェックを控えます。これで脳が「つまらなさ」に対して鍛えられ、メンタルの強い人になることができます。結果として、集中力が上り、大変なタスクを実行することができます。

 

ディープ・ワークの本を読み、それをできるだけ自分の人生に取り入れた結果、人生は180度変わりました。学部3年生の時、プログラミングと画像処理の課題・研究をしなければならないことになりましたが、当時機械工学の学生だった私は非常に困りました。短時間でこの複雑で難しいことをできるだろうかと自分の能力を疑いました。ちょうどその時、ディープ・ワークの本に出会って夢中で読みました。この本から学んだことをすぐに実行しました。最初は自分の時間の使い方の習慣を変えるのが大変でしたが、だんだん慣れるようになりました。時間がたつにつれて、難しいプログラミングのスキルすら手に入れることができました。皆さんもぜひディープ・ワークの本を読み、自分の一日の生活に取り入れてみてください。人生が良い方向に変わると思います。

 

 

英語版はこちら

 

 

◇モハマドハフィズ・ヒルマン・ビン・モハマド・ソフィアン Mohd Hafiz Hilman Bin Mohammad Sofian
2021年度渥美国際交流財団奨学生。マレーシア出身。芝浦工業大学機能制御システム専攻博士。研究テーマは「Semi-Automated Active Learningによるディープラーニングのための画像アノテーションにおける作業時間の削減に関する研究」。現職は日立Astemo株式会社システムアキテックチャーエンジニア。

 

 

2022年5月12日配信