SGRAかわらばん

エッセイ395:今西淳子「SGRAより感謝をこめて」

2006年9月から始めたSGRAかわらばんが、おかげさまで500号になりました。ここまで続けられましたのも、1600名を超える読者の皆様、SGRAや渥美国際交流財団をご支援いただいている皆様のおかげと、心より感謝申し上げます。今年は、渥美財団の設立20周年でもありますので、あらためて活動を紹介させていただきます。

 

1993年に父、渥美健夫鹿島建設名誉会長が亡くなり、遺志をついで家族で小さな留学生奨学財団を設立しました。当初より多国籍で知的なネットワークを作りたいという希望があり、日本の大学院に在籍して博士論文を執筆中の留学生を対象に奨学支援を始めました。ちょうど同時期から始まったインターネットの普及のおかげもあり、まもなく、想定以上に素晴らしい、優秀で意欲的な外国人研究者のネットワークができあがり、これを活かしたプロジェクトをするために、2000年7月に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立しました。関口というのは、渥美財団事務局のある場所の名前で、関口からグローバルに発信していこうということで名づけられました。

 

SGRAは、渥美財団の奨学生に限らず、世界各国から渡日し長い留学生活を経て日本の大学院から博士号を取得した知日派外国人研究者が中心となって活動しています。学会のような特定の専門家ではなく広く社会一般を対象に、日本語を公用語として、グローバル化に関わる様々な問題をテーマに、日本国内および海外にてフォーラムやセミナーを開催し、日本と諸外国の相互理解の増進を図っています。国際的であること、学際的であること、そして日本で研究した高学歴の研究者のネットワークであることが、SGRAの特長です。

 

SGRAは専門や興味に基づいて自主的に結成された知日派外国人研究者(留学生、元留学生)による7つの研究チーム(①グローバル化と地球市民、②構想アジア、③環境とエネルギー、④ITと教育、⑤宗教と現代社会、⑥東アジアの安全保障と世界平和、⑦東アジアの人材育成)が担当して企画から携わり、日本国内でフォーラム、ワークショップ、スタディツアー、カフェ(小規模な講演会)等を開催しています。さらに5か所の海外拠点(中国、韓国、フィリピン、モンゴル、台湾)において、帰国留学生が中心となって現地の機関と共同で、各地で毎年1回以上フォーラム等を開催しています。

 

講演録はレポートとして発行し(発行部数800部)関係者や支援者の他、国内の各大学留学生センターや、海外の日本研究所等に配布しています。レポートのいくつかは英語、中国語、韓国語にも翻訳して発行ています。活動の詳細はどうぞホームページでご覧ください。 http://www.aisf.or.jp/sgra/

 

SGRA設立以来13年間で国内フォーラムを45回、海外拠点におけるフォーラムやシンポジウムを44回開催し、レポートを65冊発行しました。また、さらに多くの方々にSGRAの活動を知っていただくために、2006年9月よりメールマガジン「SGRAかわらばん」を発行し、世界各地の知日派外国人研究者の声(日本語エッセイ)とSGRAフォーラム等の案内を毎週水曜日に無料配信しています。

 

アジア未来会議は、このような活動の集大成として、2013年3月のバンコク会議を皮切りに始めたSGRAの新事業です。日本に留学し現在世界各地の大学等で教鞭をとっている方々、その指導を受けた若手研究者の皆さん、研究所や企業等で研究や活動を続けている方々、日本の大学院で研究を続けている留学生(研究者)の皆さん、そして国際交流に関心のある日本の研究者の方々に、交流・発表の場を提供して「アジアの未来」について議論していただくことによって、知日派外国人研究者のネットワークの強化を図ることを目的としています。グローバル化が進む現代においては、社会のあらゆる次元において、物事を多面的に検討することが必要となっていますから、アジア未来会議では、自然科学、社会科学、人文科学を包括する広範なテーマを設定することによって、専門学会とは違った国際的かつ学際的なアプローチを試みています。

 

第2回アジア未来会議は、2014年8月22日(金)~24日(日)に、インドネシアのバリ島で開催します。テーマは「多様性と調和」です。インドネシアは多民族国家であり、種族、言語、宗教は多様性に満ちています。そのことを端的に示すのは「多様性の中の統一(Bhinneka Tunggal Ika)」というスローガンです。さらに、アジア未来会議の発表者は、平和、グローバル化、環境、持続性、成長、公平、人権、健康、幸福、文化、コミュニケーション、イノベーション等のサブテーマとも関連づけることを推奨されます。自然科学、社会科学、人文科学を超えた、学際的な議論が期待されています。現在、発表論文、ポスター発表、作品展示を追加募集中です。締め切りは2月28日です。

 

第2回アジア未来会議では、一日目に開会式・基調講演と3つのフォーラムおよび作品展示を、二日目に円卓会議と200を超える論文発表による分科会およびポスター発表、三日目には見学会を行います。参加人数は、基調講演が 500人~800人、分科会は300~400人を見込んでいます。並行開催する 3つのフォーラムのテーマは、「環境リモートセンシング」、「中国台頭時代の東アジアの新秩序」、「アジアを繋ぐアート」です。さらに、円卓会議「これからの日本研究」と「ポスト成長時代における日本の未来を考える」、および自主企画「SGRA福島レポート」などを企画中です。

 

アジア未来会議は、オブザーバー参加も大歓迎です。フォーラム「アジアを繋ぐアート」では、舞踊、陶器、服飾についての研究報告と同時に展示や公演も予定されています。特に、バリ島のバロンダンスと奈良県無形文化財に指定されている曽爾村の獅子舞の同時上演は、自信をもってお薦めします!

 

オブザーバー参加ご希望の方も、どうぞオンライン登録してください。

 

現在、政治情勢の悪化が心配されるアジアですが、どのような時でも、一番大事なのは、人と人との交流、あるいは、あちら側の人をも理解しようとする想像力と包容力を持つことだと思います。SGRAは極めてささやかな活動ではありますが、少しでも国境を超えてお互いの立場を配慮するお手伝いができたら嬉しいと思っています。

 

毎週SGRAかわらばんを読んでくださる皆さんに心から感謝申し上げ、今後ともご支援いただきますよう、お願い申し上げます。

 

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<今西淳子(いまにし・じゅんこ) IMANISHI Junko> 学習院大学文学部卒。コロンビア大学大学院美術史考古学学科修士。1994年に家族で設立した(公財)渥美国際交流財団に設立時から常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく、知日派外国人研究者のネットワークの構築を目指す。2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立。また、1997年より異文化理解と平和教育のグローバル組織であるCISVの運営に加わり、(公社)CISV日本協会理事。

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2013年12月18日配信