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エッセイ751:趙炳郁「ワクワクは大事かも」

この春、博士課程の卒業で大学と大学院の9年間の学生生活が終わり、教員としての生活が始まった。留学生活を終えてそれほど時間がたっていないが、教員として感じたことを書いてみようと思う。

 

子供の頃、ロボットが登場する漫画を見ると男の子はワクワクする感情に包まれ、部屋で大騒ぎするものだ。私も同じで10歳の頃に「ガンダム」という漫画を初めて見て、似たような感情を持った。10年くらいたって高校生になった時も精神的に成長できておらず、ロボットを見るとワクワクしたが、子供の頃とは少し違って、勉強を頑張って良い大学に行けば、いつかあんなロボットを作れるだろうという期待感でそのような気持ちになったと思う。

 

1年間浪人して、2012年にやっと希望する大学の希望する学科に入学することになったが、実際に大学に行ってみると考えていた学問と適性が少し違っていたようで、実習や実験の時間は、もっと知りたいという思いより、面倒くさいと思うことの方が多かった。学部時代は新しいことをすることに対して、ワクワクすることより義務感でやることが多く、大学院への進学は決まったものの将来への確信がなかったので、まず軍隊に行ってくることにした。

 

軍隊は大学よりもさらに退屈な義務感しかない生活だった。毎年決まった行事があり、マニュアルがあり、新しいことをするよりも現状を維持することが重要な集団なので、私のように思い通りに動きたい人には満足できない場所だったが、学ぶことは多かった。

 

無事に兵役を終え、2018年から大学院生活を始めた。不思議なことに学部4年生の時にも研究したことがあるのに、今回は自分が主体的に研究をすることになったからか、高校や子供の頃に感じたワクワクする感情を8年ぶりに感じた。私の研究分野は細胞に関するもので、予測される結果が分かりにくいからかもしれないが、結果的に興味を持つようになり、そのまま博士課程に進学した。博士課程では思ったより楽しく研究を行うことができた。もちろん帰宅はいつも深夜で、審査を準備する最後の半年は言葉で表現できないほど大変だったが、いつも私の意見を尊重して指導してくれた指導教員のおかげで無事に卒業することができた。

 

今は同じ研究室で助教として学生の研究指導をしており、学生の頃とは比べ物にならないほど義務と責任が増え、ワクワクする機会が少なくなった。しかし、皮肉なことに研究室のボスは「研究は常にワクワクする気持ちでやるものだ」という持論をお持ちで、今はどうやって人をワクワクさせるかを常に考えながら日々を過ごしている。最近、初めてオムニバス式の大学院の授業を行う機会を得た。理論の説明1時間と簡単な実験30分程度の授業だったが、やはり過去の学者が見つけた真理を面白く伝えるのは難しい。それでも実験では「これワクワクするね!」と言ってくれた学生がいて、少し嬉しくなった。これが最近のワクワクのポイントであり、しばらくは現状を楽しみたい。

 

 

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<趙炳郁(ジョウ・ビョンウク)JO Byeongwook>
2022年度渥美奨学生。2023年3月東京大学大学院情報理工学系研究科にて博士号取得。博士(情報理工学)。2023年4月より東京大学大学院情報理工学系研究科助教。専門は機械工学、組織工学、バイオエンジニアリング、マイクロ流体工学。

 

 

2023年11月23日配信