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エッセイ747:ノーラ・ワイネク「グリム童話とアーキタイプ」

グリム童話はヨーロッパの文化的遺産であり、世界中で愛されている童話の一つでもある。グリム兄弟が編集した童話には、豊かな人間の内面に対する洞察が含まれている。しかし、昔の人の単なる物語ではなく、無意識に常識を共有し、感情やトラウマを昇華する重要なツールでもあった。

 

グリム童話は人間の共通の心の構造であるアーキタイプ(心理的原型)を体現する物語を多く含んでいる。アーキタイプは人間に生まれ持ってそなわる集合的無意識で働く「人類に共通する心の動き方のパターン」である。ユング心理学の中核的な概念で人間の共通の心の構造でもあり、無意識に作用する力を持つ。人間の不可解な部分を理解し、何を望んでいるか、そして何を恐れているかを理解するための重要な要素だ。

 

名作『シンデレラ』を分析してみよう。アーキタイプを象徴する要素がたくさん含まれている。主人公は母親を失った孤独な少女であり、悪意ある義母と義姉たちに虐待されている。家庭の状況に対して自分自身を犠牲にしているように見えるが、彼女の真の力は内面にある。彼女は偽りのない心、博愛、そして自己犠牲精神を象徴するアーキタイプを体現している。

 

シンデレラは魔法使いである「フェアリーゴッドマザー」というアーキタイプともつながっている。フェアリーゴッドマザーは無限の可能性を象徴し、新しい始まりと成長をもたらす力を代表する。シンデレラに魔法をかけ、魔法のカボチャの馬車と美しい衣装を与える。これらのシンボルは新しい可能性と、自己変革を象徴する。また、シンデレラに「真実を言いなさい」という言葉を残すが、これは自分自身を認識し、自分自身を表現するための重要性を強調するアドバイスでもある。

 

そして王子との出会いを通じて、シンデレラは愛のアーキタイプを体現する。王子はシンデレラの魂の深い部分を理解し、彼女を愛することができる。この愛の関係は自己認識と成長を促し、シンデレラを真の幸福へ導く。ユング心理学的な観点から見ると、私たちが内面に持つアーキタイプを通じて、潜在意識の深い部分を認識することが可能となる。

 

『白雪姫』は美と嫉妬というアーキタイプを体現する物語である。白雪姫の美しさは彼女を破滅に追いやり、王妃の嫉妬心を引き起こす。王妃は魔法の鏡に自分の美しさを問い、鏡が白雪姫を美しいと答えたことで、白雪姫を殺すために彼女を追い詰める。この物語は美と嫉妬のアーキタイプが、人間の深層心理にどのように作用するかを示している。

 

『ラプンツェル』は自由、成長、そして愛のアーキタイプを体現する。主人公は塔に閉じ込められ自由を奪われている。しかし、自分自身を表現する方法を見つけ、自分自身を解放する。王子との出会いを通じて愛を見つけ、自分自身の成長につながる新しい始まりを迎える。この物語は人間が自由を手に入れ、自己表現を追求するプロセスが、成長と愛につながることを示している。

 

このように、グリム童話は人間の深層心理に影響を与えるアーキタイプを体現する物語を多く含んでいる。ユング心理学的な分析を通じて隠された意味を理解することができ、私たちは自分自身をより深く理解し、自己受容と成長を促すことができる。グリム童話は人間の心の深い部分を探求するための貴重な資源であり、人生の新しい始まりを迎えるためのヒントを提供している。私たちの人生において何か障壁に直面した時、グリム童話を読むことをお勧めする。きっと様々な問題に対して、より深い理解を与え、何らかの解決策もしくはヒントを提示してくれるだろう。

 

 

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<ノーラ・ワイネク Nora Beryll WEINEK>
オーストリアのウィーン出身。2011年日本文化研修留学生として琉球大学に1年留学。2013年オーストリアのウィーン大学日本学学部卒業。2017年一橋大学大学院社会学研究科の修士課程卒業し、博士課程に進学。

 

 

2023年10月5日配信