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エッセイ737:カキン・オクサナ「疲れている心を癒す日本の美しい自然~省エネでも行ける混雑ゼロのお出かけスポット*東京編*~」

博士論文を書いていると、精神的に疲れることが多い。論文を書いていなくても、生きるだけで大変な世の中なので、ストレスや疲れが溜まりやすい。疲れている心を癒すために様々な方法があるが、私にとって効果があるのは、自然が美しく、人混みがなく、落ち着いているところに出かけることである。自然と体の力が抜けて深呼吸ができるようになり、心と体がリラックスするのだ。満たされた気分になり「よしもうちょっと頑張ろう!」という気持ちになる。去年は週1でそういうところへ出かけたからこそ、論文を完成することができたのではないかと思う。経験を生かし、今回は心を癒すお出かけスポットを紹介したい。

 

最初は、留学生の間では意外と知られていない国立科学博物館所属の自然教育園だ。東京メトロの白金台駅から歩いてすぐのところにあるこの公園は、東京の他の公園とはちょっと違う。小石川後楽園や新宿御苑のような庭園ではなく、まるで本物の森だ。散策するための歩きやすい道や橋などがあるが、様々な植物が森のように自然と生えている。高い木がずっしり並んで周りの街の姿を隠しているので、都内にいることを忘れる。普段は片道3時間の遠い山などに行かないとこの感覚を味わえないだろう。日常を忘れてゆっくり散歩を楽しむのにうってつけだ。

 

どの季節も美しいが、紅葉の時期は特にだ。紅葉の名所は庭園やお寺などが多いが、庭園の紅葉の木は大きくなりすぎないように枝切りされている。しかし、自然教育園では枝切りされていないため、紅葉の木も非常に高い。真っ赤に染まった高い木が並ぶ絶景を都内で見ることができるのはここだけではないかと思う。まだ元気が残っていたら、隣の東京都庭園美術館に寄ってみてほしい。近代の建築や歴史が好きな人は美術館を楽しめるし、庭園も非常に美しい。

 

もう一つのお勧めは横浜にある三溪園。横浜は、みなとみらいや山下公園などが有名だが、人気スポットは人だらけで余計に疲れる。しかし、三溪園は山下公園からバスで10分ほど離れた静かなところにあって、混んでいない。実業家の原三溪によって1906年に公開されたこの庭園は、非常に広くて歩きがいがあり、梅の咲く時期は特に奇麗だ。東京湾をのぞむ上から眺める港の景色も良い。だが、一番の目玉は、京都や鎌倉などから移築された建造物だ。歴史的に貴重なものが多く、日本の建築や歴史を知りたい人にはぴったりだ。また、三渓園の周りは豪邸が並んでおり、ぶらぶらしながら現代建築を見るのも面白い。

 

最後は、桜の咲く季節にぜひ一度行ってほしいところだ。花見の名所はどこも非常に混んでいて、桜を見に行く気にならない人もいるだろう。だが、今回紹介するところは、目黒川の桜に美しさで全く負けていないのに全然混んでいない石神井川沿いの桜だ。石神井川は長いが、お薦めはJR、東京メトロ王子駅のすぐそばにある音無親水公園から東武東上線・中板橋駅までのコースだ。石神井川の旧流路を整備して造られた風変わりな公園で、それだけでも見る価値があるが、そのまま川沿いを歩くと5キロぐらいずっと桜が続く。目黒川のように屋台などはないが、その代わり人も少なく落ち着いて桜を楽しむことができる。好きな音楽でも聴きながら桜並木を眺めて歩くのは最高に癒される。

 

ストレスが絶えない毎日だが、たまには気分転換に美しい景色を見に行って心を癒そう。

 

<カキン・オクサナ Oksana KAKIN>
2021年度渥美奨学生。国立研究大学経済高等学院(HSE University)アジア・アフリカ研究所日本学科講師(サンクトペテルブルグ)。お茶の水女子大学大学院博士課程修了(社会科学博士)。研究対象は現在の日本社会と文化、ポップカルチャーとファン。9年間の日本留学を経てふるさとへ帰り留学経験と専門知識を生かし、日本語を始め日本文化論、日本社会の社会学、東アジアの文化経済学など教えている。

 

 

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2023年4月13日配信