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エッセイ654:金信慧「社会福祉における交流活動―山形県高畠町での経験を通して」

 

私が所属している立教大学コミュニティ福祉学部(コミュニティ福祉学研究科)と山形県高畠町では、2001年4月から地域連携プログラムのひとつである「高畠プロジェクト」を始めた。2010年11月には相互友好協定を結び、さまざまな形での連携交流を続けている。具体的には実習や演習、農業体験や調査研究など、毎年双方からの提案による活動が繰り広げられている。

 

高畠町は山形県の南東にある人口約2万3千人の町で、ぶどう「デラウエア生産量日本一」など、農業の盛んな町として知られる。この町は「まほろばの里」と呼ばれている。「まほろば」とは、「周囲を山々で囲まれた、実り豊かな土地で美しく住みよいところ」という意味の古語である。山形新幹線高畠駅を降りると、南に飯豊連山、西に朝日連峰、東を蔵王山に囲まれ、米、野菜、果物の豊かな土地を目にすることができる。

 

立教大学と高畠高校の高大連携交流事業として11年目を迎えた2019年6月19、20日の2日間、私は立教大学の大学院生講師として派遣され、福祉を選択している生徒を対象にした講義とディスカッション形式の特別授業を行った。このプロジェクトは高等教育を受講させることで高校生の知的欲求を開発し、山形県内各市町村の未来の地域コミュニティを担う人材を育てることを目的としている。

 

1日目の「社会福祉基礎」では、4月から初めて社会福祉を学ぶ2・3年次生徒約50名を対象に社会福祉を学ぶ面白さを中心に、私が社会福祉の道に進んだきっかけや、韓国と日本の社会状況、両国における福祉の今後の課題などについて講義をした。

 

2日目は、1年間を通して自ら設定した課題を研究する「社会福祉研究」のクラスで、私が大学院で行っている研究の内容について講義をした後、3年生6名が課題研究の発表を行った。生徒がそれぞれ取り組んでいる課題研究のテーマは、孤独死や無理心中、高齢者の介護問題、高畠町の観光案内、地域再生の方法など多様で興味深く、議論を深めることができた。

 

生徒からは、私が講義の中で取り上げた少子高齢化、人口減少社会、消滅可能性都市の事例について「今までは少子高齢化という問題について深く考えたことがなかったけど、他人事ではなく、私達1人1人がこれらの課題について考えて行かなければならないと思いました。今の世代からできることを少しずつ積み重ねていこうと思います。この問題をより多くの人に知ってもらい、危機感を感じてもらうことが大きな第一歩だと思いました。」などの感想が寄せられ、私が高校生に一番伝えたかったこと―「社会福祉」は単なる高齢者やしょうがい者の介護問題ではなく、われわれの生活と密接に関連した「自分事」として捉えること―をしっかりと受け止めてくれたことに感動した。

 

また、「金さんは現在韓国と日本をまたにかけて自殺の問題の解決法を研究していて、現在の問題に背を向けないで、まっすぐに向き合って生きている金さんがとてもかっこよく感じました。私も社会問題に背を向けないで、社会のために貢献できる人間になりたいです。」というある生徒の感想文は特に胸に響いた。自分が取り組んでいる研究―韓国と日本の自殺問題と予防対策―の意義を改めて考えるよい機会となった。

 

高畠高校での特別講義だけでなく、1泊2日の間、高畠高校の評議員(元高畠町役場の職員)の方のお宅にホームステイをして得たこともたくさんある。たとえば、日本の茶道や着物の体験、ぶどう農園の作業など、普段はできない大変貴重な経験が出来た。また、奈良県桜井市の安倍文殊院、京都府宮津市の智恩寺(切戸の文殊)とともに、日本三文殊の一つに数えられる亀岡文殊(大聖寺)をはじめとして、高畠ワイナリー、瓜割石庭公園、安久津八幡神社など、高畠町の観光スポットを案内していただいたこともとても楽しかった。

 

これからも私の研究領域である「社会福祉」を媒介として、日本と韓国さらには世界における交流活動を続けていきたいと強く思っている。

 

<金信慧(キム・シンヘ)KIM Sinhye>
渥美国際交流財団2019年度奨学生。東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科修士課程修了(社会福祉学の学位授与)。立教大学大学院コミュニティ福祉学博士課程修了(単位取得満期退学)。韓国社会福祉士(国家資格取得)。日本社会福祉士(国家資格取得)。

 

 

2020年11月26日配信