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エッセイ560:李志炯「30代、愛、結婚について」

 

今年、自分の年齢が30代後半に入ることに気づき、少し驚いた。卒業したばかりで正式な会社員になったこともないままこの年齢に向かうなんて、ちょっと恥ずかしい気持ちもあった。だが、やりたい勉強に集中している人にはよくあることではないかと自分を慰めた。一方、仕事は歳をとっても自分が頑張れば何とかなる気がしたが、結婚は歳も重要であるため、自分が頑張っても望む結果を手に入れることは難しい気がした。だが、日本の厚生労働省(平成28年度人口動態統計特殊報告・婚姻に関する統計)の公開資料で年々平均婚姻年齢が上がっているのを見て、私はそんなに遅れていないともう一度自分を慰めた。

 

一方、30代は心理的、生理的に大きく変化する時期なので、これが結婚に及ぼす影響についても考えるようになった。心理的な問題としては、以前は考えていなかった経済的な側面、愛の持続性、私生活の確保なども考慮するようになり、これらを基に合理的な結婚とは何かについて考えるようになった。生理的な問題としては、主に出産のことを考えるようになった。さまざまな媒体で医学技術の進歩により40代でも健康な赤ちゃんを産めると言われているが、まだ高齢出産のリスクは大きいだろう。私は同年代の異性との結婚を望んでいるため、出産も結構気になるようになった。以前は結婚すれば出産は当たり前だと思っていたが、今は環境によって様々なのだと思っている自分に気づき、少し驚いた。

 

これらのことを考えると結婚について強迫観念が生じるようで、頭が痛くなる。そして、いつも結婚に対する考えは一周回って以下の質問に帰結する。

 

「結婚とは何か?」

 

日本の民法上では婚姻と表現されており、広辞苑では婚姻の定義として、「結婚すること」とした上で、「夫婦間の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で、その間に生まれた子が嫡出子として認められる関係」とある。学術的には結婚は配偶関係の締結を指し、婚姻は配偶関係の締結のほか、配偶関係の状態をも含めた概念として用いられている(文化人類学事典、1987年)。たしかに婚姻が結婚より上位概念のようだが、現代社会では結婚を婚姻と同様な概念として考えているようだ。

 

これらの定義をみると、性的結合が社会的経済的結合より重要であると感じられる。一般的に性的結合は愛を基盤にする行為であるため、結婚において愛が占める割合は最も大きいと考えられる。筆者も愛が最も重要であると思うが、その愛が結婚生活の中でどれだけ維持できるのかが気になる。「愛は900日の旋風であります」という言葉がある。アメリカのコーネル大学の研究によると、愛の寿命は平均18ヶ月~30ヶ月であることを明らかにした。愛に落ちると脳の大脳基底核に位置する神経核である尾状核が活性化されるので、愛の妙薬と称するドーパミンが増加し、さらなる幸福感を感じるという。

 

また、他の研究では、フェニルエチルアミンやオキシトシンやエンドルフィンなどが愛を長く維持できるようにしてくれると論じられている。しかし、時間が経つとこれらは減少し、その代わりに理性的判断を行う大脳皮質の活動が増加するため、この視点から相手に対する見方に変化が現れる。そのため、愛の寿命が終わる前に子供を産んで男女間の愛が家族に対する愛に代わる必要があるという意見を示す進化心理学研究者も多数いる。

 

たぶん、多くの人は男女間の愛を家族に対する愛にうまく入れ替えていると思う。それで、男女関係としての愛は少し減るかもしれないが、それでも配偶者を愛し、自分の子供を愛することで自分の家庭をうまく維持していると思う。しかし、結婚により相手の人が恋愛の対象から家族(配偶者)に変わることに乖離を感じ、その入れ替えに失敗する人もいる。特に、人によっては結婚後にも結婚前と同様に配偶者からの男女間の愛を求めるが、相手との愛の相違によって男女間の愛を諦める場合もある。それで、ドーパミンやフェニルエチルアミンやオキシトシンなどが抑制され、愛の寿命がさらに短くなる場合もある。

 

こうなると結婚生活の意味や家族の意味や自分の存在についてもう一度深く考えることにならざるをえないと思う。この考えの方向性によって結婚生活が大きく変化するだろう。考えの方向性に基づく行動パターンはさまざまであるが、メディアでよく出てくるのが不倫の話である。また、配偶者に内緒で通帳を作り、財産を備蓄し、いつでも離婚できるような状態を保っている人の話も聞く。これを手伝う専門弁護士まで現れている。さらに、男性の間では定年退職で離婚されることを恐れている人も増加している。

 

このようなニュースと接するたびに現代社会で生きている既婚者たちは結婚して本当に幸せだと思っているのか疑問になる。また、どんな気持ちで生活しているのかも気になる。まだ愛は残っているのかも気になる。歳をとるほど結婚について慎重になる中、このようなニュースに接するとますます結婚に対する漠然的な不安が増加する。このようなニュースが結婚生活を代弁するものではないことは認識しているが、万が一のことまで考えるようになった今の年齢では看過できない部分もある。

 

平均婚姻年齢が上昇している現代社会における筆者のような年齢の未婚者は、結婚についてどのように考えればよいだろうか。

 

<李 志炯(イ・ジヒョン)Lee Ji-Hyeong>

2007年、啓明大学(韓国)産業デザイン科卒業。2007年6月来日。2012年、千葉大学大学院工学研究科デザイン科学専攻修士課程修了。2011年~2013年、千葉大学発ベンチャー企業BBStoneデザイン心理学研究所研究員。2017年、千葉大学大学院工学研究科デザイン科学専攻博士課程修了。工学博士。2018年、第一工業大学建築デザイン学科助教。韓国室内建築技士・日本ユニバーサルデザイン検定の資格を保有。

 

 

 

2018年3月8日配信