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エッセイ484:謝志海「日本の景気の今後はインド次第?」

テクノロジー、インターネットの急速な発展によってボーダレス化が進むが、それと矛盾するかのように国際社会の問題がより複雑化している。学者やアナリストであっても、2016年に経済や世界情勢がどのようになるかを予測するのは極めて難しい。

 

世界経済の目下の懸念は、昨年から続く原油安、中国経済の減速、EUの先行きの不透明さ、そして米国企業の伸び悩みであろう。その上、日本では1月末に日本銀行が初のマイナス金利を発表した。その後日経平均は乱高下から下落の一途をたどっている。先日、斜め読みした日本経済新聞のある証券アナリストの予測では「日経平均が上昇基調に転ずるには、インドの経済成長が加速するなど新たなテーマが必要になる」。アセアン(ASEAN)ではなくインド。今回はここに注目したい。

 

インドは今経済に限らず様々な事象で注目を浴びている。しかし日本に住んでいると、インドの情報が思いのほか入ってこない。日本人はカレーが大好きだというのに。そんな遠い国インドが日本人にとって身近になりつつある。ソフトバンクの孫正義社長が後継者に選んだのは、日本人ではなくインド人であった。このニュースはその後継者が得る巨額の役員報酬の額とも相まって、大々的に報道された。と同時に、孫社長がインド企業へ多額の投資をしている事も知られることになる。2014年にはモディ首相も来日し、日本人のインドへの関心はますます大きくなっている。

 

インドの経済成長は日経平均を押し上げる程のパワーを持っているのだろうか?インドそしてインド人について知れば知るほど、日本とインドとはなんと真逆の立場であろう。日本は世界に先駆け高齢化と人口の減少が止まらない。一方インドは国民の約半数が25歳以下、人口密度の高い国で、中国のような人口のコントロールも行っていない。人口は増え続けている。もうそれだけでも若くてエネルギッシュなイメージに圧倒される。

 

そして気付けばインドは優秀な経営者輩出国となっていた。世界的な大企業のCEOはインド人が名を連ねている。「インド人CEO、世界を制す」という特集を組んだ雑誌、日経ビジネス(2015年9月28日号)の「なぜインド人CEO?」のコラムに3つの理由が分析されていた。

 

1.英語やITスキルなど世界に通用する能力を持つ人材の層の厚さ、2.多様性を前提とした考え方や経営手法が多国籍企業にマッチ、3.厳しい環境で培われた我慢強さや創造性や変化対応能力である。これらが日本の経済に影響を与えるのは不思議ではない気がする。そしてこの3つの理由のいずれも今の日本人に不足しているのではないだろうか?孫社長もそれに気付いたがゆえに後継者を日本人から選ばなかったのだろうか?

 

何もインド人が最強で、日本人はそうではないと言っている訳ではない。インドには問題がたくさんある。根強いカースト制度、多様な宗教国ゆえの宗教間の対立、男性が支配的な社会。しかしその複雑な社会で粘り強く這い上がることが、グローバル世界に生きる術なのかもしれない。

 

私の出身地中国、今住んでいる国日本、そのどちらとも違うインドへの関心が冷めやらぬ今日この頃である。

 

 

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<謝志海(しゃ・しかい)Xie_Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

 

 

2016年2月18日配信