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エッセイ470:謝 志海「子どもとスマートフォンの関係性における大人の役割」

最近の子どもに関する事件は、彼らが所持するスマートフォンが密接に関わっている。夏休み後半には、愛媛県で同級生に暴行を繰り返し、その画像をLINEで拡散した中学生が逮捕されるという事件があった。似たような事件が日々報道されているが、なかなか改善策が見出せずにいる。それは、スマートフォンと共に成長した子どもが大人になった状態を、我々がまだ見ていないからではないか。急速に変化する子どもたちのネット環境により、ネット上でのいじめや、被害者にも加害者にもなりうる犯罪が起きてしまうようになった。

 

おそらく小中学校の教育現場では最重要課題の一つであろう。しかし、どれだけ学校で先生が注意喚起しても、生徒たちのLINEのネット上でのコミュニティには入れない。また親が子どもに与えるスマートフォンにフィルタリング機能を搭載したとしても、写真や動画のアップロードは防げない。ひとたび画像や動画がネット上にあがって拡散されてしまったら、学校や親はおろか警察さえ完全に削除することはできないだろう。教育現場ではどのように対処しているのだろう。

 

所変わって、私の出身地である中国でも状況は同じで、子どもとスマートフォンの関係については社会問題になっている。スマートフォンを使ったLINEと同じようなアプリ、「微信」(WeChat)で友達同士いつもつながっていないと気が済まないネット依存症の若者が多い。もちろん大人も便利に使っている。フェイスブック、ツイッターが使えない国だが「微博」(Weibo)なるツイッターと極めて似た機能を持つミニブログ、前出の微信、チャットの「QQ」、ネット上で人とつながり、意見を交換する場はいくらでもある。こうなると中国も世界に負けないネット依存大国だ。そして子どもとスマートフォンの関係性だが、日本と同様、国が定めた法令はないが、各学校が、授業中はスマートフォンを先生に預ける等の対応をとっている。こちらも各学校や、教育機関の手腕が問われるところだ。

 

日本ではLINE上での仲間外れなど、LINEばかりが目立っているが、LINEに追いつけ追い越せで、次々と新しいアプリが開発されている。最近の学生の間での流行りはスマートフォンで撮った動画をアプリで編集し投稿することだそうだ。インターネットのスピードが早くなり、Wi-Fiへのアクセスが増えたことで、動画は(ファイルのサイズが)重いという問題が払拭された。

 

先日、青少年育成団体に所属する方々と話す機会があったが、スマートフォンの使用で懸念しているのは、LINEだけではなく、芸能人を起用して派手にテレビコマーシャルを打つオンラインゲーム。これは父兄の方までハマっていることもあり、子どもとゲームを引き離すことが難しく、とても困っているようだ。また、最近トラブルが多いのは、不用品を売る専門のアプリで、18歳以下は使えないなどの制限がかかっていないものがあることが問題だそうだ。すなわち、18歳以下の子どもがアプリを操作し物が売れたら、お金を手にすることが可能になってしまう。次々と開発され便利で楽しい機能満載のアプリ、我々大人の方がついていくのに精一杯で、子どもへどのくらい悪影響を及ぼすのかまで想定しきれていないのが現実かもしれない。

 

このまま放っておくわけにはいかない子どもとインターネットの関係性。まずは親が現状を知り、家での利用時間の制限などモラル作りをしてあげ、子ども自身が上手にスマートフォンと付き合えるようになるのが理想だろう。

 

学校側は、父兄へのお願いとして大人のスマートフォン利用、すなわち自身のスマートフォンとの関係をも省みて欲しいとお願いしているそうだ。これは我々にとっても耳の痛い話である。ただ我々はスマートフォンが無かった時代も良く知っているが、今の子どもはそうではないことが問題だ。ネット上での何気ないやりとりが人を傷つける凶器になったり、事件に巻き込まれるなどの恐ろしいものになり得ることを良く理解させ、子どもたちが自分の身は自分で守れるように導いてあげないといけない。

 

 

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<謝志海(しゃ・しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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2015年10月8日配信