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エッセイ435:張 桂娥「ゴー ホーム アゲイン、ふたたび飯舘村に~再生への長い道のり~故郷とともに生きる勇者たちに寄せて」

あの日から3年半も過ぎて、避難先で眠れぬ夜を耐えてきた多くの帰還困難区域に住んでいた元住民たちを目の前にして、心から応援しているから復興に向けてがんばろうと軽々しく口にするのは、どんなに無責任な綺麗ごとだろうかと、思い知らされた2泊3日の飯舘村スタディツアーでした。

 

そもそも、今回の飯舘村スタディツアーにはるばる台湾から参加しようと決心した動機は、原発事故による放射能汚染被害の現状を台湾の大学生や国民たちに知ってもらい、被害者たちの未だに癒えぬ心の痛みを少しでも分かち合おうという漠然とした大義名分でした。実際現地入りして目の当たりにした<景色>といえば、整然とした風格ある町並みの中に立ち並ぶ立派な空き家の群れ、色づき始める里山に囲まれた田舎の綺麗な佇まいに不気味な影を落としている黒い袋の山、早秋の乾いた青空に聳えるはずだったのに無造作に置き去りにされている屋敷林居久根(いぐね)の切り株、がらんとした牛舎に張り巡らされた蜘蛛の糸に引っかかった虫の死骸など、留学時代に何度も足を運んでいた麗しき東北地方とは大きくかけ離れ、変わり果てた、見るも無残な光景でした。

 

かつて観光客として訪ねた福島の在りし日の面影を偲んでみたいという期待を胸にやって来た、この地域とは縁もゆかりもない私でさえ、目の前に繰り広げられた殺風景なシーンに心が痛んでやまないのに、何百年も前からこの地域に住み着き、先祖から受け継がれた土地を守り続け、鬱蒼と繁る山林をこよなく愛してきた元住民たち――あまりにも理不尽な形で未来の子孫に誇るべき故郷を根こそぎ奪われてしまった元住民たちの悲痛な心中を察すると、慰める言葉が見つかるはずもありませんでした。ただただ圧倒され、何もできなかった自分の浅はかな思い上がりを悔やんだり、いったい何しに来たのかと自分を責めたりしていました。

 

そんな中、自己嫌悪の渦に飲み込まれそうな私に、まぶしい光をいっぱい差し込んでくれる勇者たちと出会いました。

 

飽くなきチャレンジ精神で時代を先駆けるハイテクで放射能汚染と真っ向勝負に出る田尾陽一さんを始めとする<ふくしま再生の会>のメンバーたち、全く収束の見通しがつかない現状に苛立ちを感じながらも冷静沈着な判断力と圧倒的な行動力でコミュニティ再生活動を牽引する菅野宗夫さん、グローバルなネットワークを築き風化しつつある放射能汚染問題を世界中に向けて発信するためメディアの第一線を走り続けるジャーナリストの寺島秀弥さん、相馬地域に根ざした<真手(までぃ)>の信条を貫き惜しまぬ情熱で周りの人をあたたかく包み込む大石ユイ子さん、時に心が折れても故郷を思う気持ちを挫かない若者魂に光る佐藤健太さん、そして今でも足繁く通い続け、50年先、100年先にふくしまを故郷として誇れる若者のために、汚染された地域の再生という挑戦を命がけで活動を続けているボランティアの人々たち。

 

弱音を吐く代わりに、淡々とやるべきことに全力を尽くし、機敏なフットワークでプロジェクトをこなしている彼らの後ろ姿を見ているうちに、自分にできることが何かを考え始めました。なんて不思議なことでしょう。どんなに絶望的な災難に直面しても諦めずに己の恐怖と戦いながら苦難に立ち向かう人間の尊い姿を見ると、周りにいる人間は誰でもおのずと逞しくなり、みんなの輪に加わり一緒についていきたい気持ちがわいてくるのだと、気づかされたのです。

 

思い返せば、情に流されて何もわからないままにこのツアーに参加したのかもしれませんが、そこで出会った人々の真摯なる振る舞いと勇気ある行動に触れ、どこか放射能汚染に怯えていることを素直に認められない自分の心の弱さと向き合う機会を手にしました。その弱さを乗り越えないと、飯舘村の再生プロジェクトに何らかの力になれないと、大きな課題を手土産に持ち帰りました。まだ具体的に何ができるかは明言するのは難しいのですが、台湾に戻ってから機会さえあれば、飯舘村スタディツアーで見たことや体験したことを大学生に話したり、意見を交わした住民たちの考え方や再生活動の関連情報を周りの人たちに共有したりしております。

 

ふくしま相馬地域や飯舘村の住民たちの痛みを分かち合える日まで、まだ長い道のりです。ただ、諦めてしまってはいけません。ふくしま被害者の心の叫びを世界へ向けて発信するのも非常に有意義なことですが、うわべだけの理想論で終わりがちの復興支援ではなく、もっと地に足の着いた現実味のある活動に視野を移さねばならないと痛感した今回のツアーでした。私を含めて、スタディツアーに参加した一人ひとりの意識のささやかな変化をきっかけに、一日も早く実効ある行動に繋がればと期待しております。

 

 

英語版エッセイはこちら

 

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<張 桂娥(ちょう・けいが)  Chang Kuei-E>

台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本近現代文学、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科助理教授。授業と研究の傍ら日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。

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2014年11月26日配信