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エッセイ437:謝 志海「忍びよる子供の貧困」

最近新聞等、メディアの見出しで時々目にする「子供の貧困」。どこの子供の貧困を意味するのかと思えば、日本だった。これは信じられないことだ。日本の子供はみんなゲーム機を持ち、小学生のうちからスマートフォンを持っている子もたくさんいる。もちろん身なりも貧困とは到底信じられない。

 

日本経済新聞の記事を読み進めてみると、厚生労働省がまとめた国民生活基礎調査で、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子供の割合を示す「子供の貧困率」が、2012年に16.3%と過去最高を更新したという。前回の2009年の調査から0.6ポイント悪化している。なるほど、数字ではっきりと現れているのだ。子供は労働しておらず、収入が無いので、親の所得からの算出方法となる。同省は子供の貧困率上昇の理由として母子世帯が増えていることを指摘している。女性は派遣社員や、非正規雇用として働いている人が多いので、世帯収入が低くなるのも必然とも言える。世帯収入で子供の貧困を測るなら、正社員で終身雇用の父を持つ子供、またはその父親と仕事をしている母(共働き)を持つ子供との世帯収入の差は格別に大きいだろう。正直なところ、個人的視点だが日本の子供のイメージは、先述の通り物に恵まれ、親はお受験のために塾や習い事に惜しみなくお金を掛けていると思っていた。私は、貧困率の上昇もさることながら、この収入格差が気になってきた。収入格差によって、様々なチャンスに恵まれる子とそうでない子の差が拡大されることは、今後の日本に何か悪い影響をもたらすのではないかと。

 

親の所得はそれぞれ違えど、子供達は格差無く教育を受けるチャンスがあれば良いのではないだろうか?日本は、塾通いが主流になっている。生活が苦しい家庭は塾の月謝を捻出出来ず、子供に学習習慣を身につけさせることすらできないのか?そもそも何故日本の子供は塾に通うのだろうか。一番は受験対策だろうが、もう一つは学校の教育力が落ちているからということだ。信じがたい事実だが、OECDの調査によると、日本政府支出の教育に占める支出は32カ国中31位である。学校教育が十分でないなら日本の子供の塾通いはしばらく続きそうだ。このまま子供たちが親の所得格差に翻弄され続けたら、どのような日本になるのだろう?

 

親の貧困環境が子供の貧困に深く影響していることを、アメリカの著名な経済学者であり、コロンビア大学地球研究所長(The Earth Institute)のジェフリー サックス氏(Jeffrey Sachs)は、以前より多くの面から問題視しており、アメリカでは貧困の状況が世代を超えて伝染していて、この連鎖を断ち切るべきとしている。彼の論文によると、アメリカでは、離婚家庭に限らず、無職、病気はたまた投獄されている親の子供が貧しい地区に住み、教育レベルが低い学校に通うという貧困に閉じ込められたサイクルの中にいる。そしてそのような環境下で育った子は最終的に貧しい大人、すなわちスキルも無くまともな職につけないような大人になってしまうという負の連鎖が続く。このような貧困状態の子供の増加は国の経済成長をも鈍らすと警鐘を鳴らす。サックス氏が更に強調するのは、これは物質的に豊かであるアメリカで起こっていることだ。先進国日本でもこの負の連鎖は有り得ない話では無いのではなかろうか。

 

手遅れになる前に、子供の貧困とその連鎖を食い止めるには?その解決策もサックス氏が教えてくれる。彼が昨年発表した論文「苦しむ子供たち、苦しむ国」では子供たちに平等の機会を与える事を徹底すべく、公的資金を投資すべき、としている。日本には「子ども手当」があるが、うまく機能しているのだろうか?次回の調査で日本の子供の貧困率が下がることを期待する。

 

英語版エッセイはこちら

 

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<謝 志海(しゃ しかい)Xie Zhihai>

共愛学園前橋国際大学専任講師。北京大学と早稲田大学のダブル・ディグリープログラムで2007年10月来日。2010年9月に早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学、2011年7月に北京大学の博士号(国際関係論)取得。日本国際交流基金研究フェロー、アジア開発銀行研究所リサーチ・アソシエイトを経て、2013年4月より現職。ジャパンタイムズ、朝日新聞AJWフォーラムにも論説が掲載されている。

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2013年12月3日配信