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エッセイ368:マックス・マキト、ミカエル・トメルダン「マニラ・レポート2013年冬」

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参加者87名。協賛企業3社(フィリピン大学建築学部トメルダン教授と建築家のギレス氏のおかげで)。さらに2日後、フィリピン大学経営学部のラゼリス博士のラジオ番組に、セミナーの参加者数人が出演してセミナーの成果をアピールした。フィリピン大学で開催された第15回日比共有型成長セミナーは、世界各地のSGRAグループが(東京の支援を受けずに)単独で開催しても大成功できることを示したと思う。

 

既に15回目となる共有型成長セミナー・シリーズであるが、今回初めて、開会式においてフィリピンの国旗掲揚と国歌斉唱を行った。実をいうと、本セミナーの準備のための運営委員会において、委員のそれぞれが太平洋戦争における自分の家族の経験を分かち合った後、全員が日本の国旗掲揚と国歌斉唱を行っても良いという決断をした。しかし、日本側の意見を尊重して、今回のセミナーでは、日本の国旗掲揚と国歌斉唱は実施しなかった。フィリピンと日本はこの共有型セミナーの開催団体が帰属するふたつの国であるので、次回セミナーでは、日本の国旗掲揚と国歌斉唱も予定されている。運営委員たちの熱い希望は、第二次世界大戦の恐怖を忘れることはないが、そこから一歩踏み出して、真の深い比日関係を築き上げていくことである。

 

第15回セミナーは、セミナー・シリーズの2本の柱となるテーマ「製造業とKKK」(第15回セミナーのテーマ)と「都会と農村の格差とKKK」(第14回セミナーのテーマ)を具体的に繋げる点において有意義であった。KKKとは効率・公平・環境という意味である。最初の繋がりは、午前中にモラカさんとウイさんが発表した「持続可能農業における輸入代替」である。これについて、メディナ博士とマキトは、2名の発表者と協力しながら、「Downstream Integrated Radicular Import-Substitution(DIRI;川下で統合された幼根的輸入代替)」モデルとして研究を開始している。

 

2番目の繋がりは、フィリピン大学建築学部が企画した午後のセッションで、社会企業家のビジネスチャンスと住宅の提供における竹の役割に焦点を当てたものである。2年前のセミナーで、フィリピンの建築における竹材の可能性について話し合ったことがあったが、当時は、このテーマの展開は困難であった。しかし、今回のセミナーで、竹材に関する知識や関心が幅広いことがわかり注目している。建築家のタン氏は竹に関するモノづくりがフィリピン職人の2600年の遺伝子であると指摘した。サルゼル氏は、この危機に迫られている伝統技術が科学的方法によりいかに保護され、改良できるかを話した。テソロ博士は竹の生物学などを紹介して、供給不足の推定を述べた。建築家のレガラ氏は、公営住宅の供給不足、非伝統的な市民住宅の建材(竹を含む)の規格を制定しなければならないと話した。オソリオ氏はベトナムの大型竹材工場の例を紹介したが、フィリピンの場合は「裏庭方式」を提案した。建築家のシ氏は、最も人気がある建材であるコンクリートについて、環境に優しい日本的な方法を紹介した。

 

3番目の繋がりは、「都会と農村の格差とKKK」というテーマで開催された第13~14回共有型成長セミナーで私が発表した「Giant Leap And Small Step(GLASS 飛躍小歩)効果」の再確認である。当初は、このGLASS効果はフィリピン国内の労働移動においての発見だったが、今回のセミナーで、GLASS効果がフィリピンの海外労働移動にも見られることが確認できたし、この効果の抑止により、フィリピン出稼ぎ者の送金が拡大することも判明した。フィリピン政府の海外フィリピン人委員会のベニレス氏とカルボ氏からのコメントをいただいた。

 

その他の発表は労働課題と深く関係するものばかりであった。セミナーの共同主催者がフィリピン大学の労働・産業関係学院であるから当然である。サレ学院長は基調講演で、IT産業はあまり雇用の効果がないという興味深い仮説を提示した。テオドシオ先生は労使関係における、相互信頼の低さを嘆き悲しんだ。ラセリズ博士はフィリピン企業の倫理を研究すべきだと強調した。平川先生と河合博士によるベトナム製造業の調査研究と、平川先生とマキトによるフィリピン製造業の調査研究についての発表もあった。ベトナムの研究は、ベトナムがいかに「中所得経済の罠(middle income trap)」を回避できるかを述べたが、フィリピンの研究はフィリピンがいかにそこから脱出できるかを論じた。

 

パラレルセッションがなかったので、参加者は、真の多分野の学際的で国際的なセミナーを享受できた。確かに、SGRA日比共有型成長セミナーにおいて、或いはフィリピン自体において、KKKが達成できるかどうかというのは、専門分野、社会構造(企業・政府・市民社会)、国家あるいはその中間にある、用心深く保護されている壁を破れるかどうかにかかっている。

 

第16回セミナーは、既に今年の8月開催の方向で検討されている。この話がより真剣に話されるのは、3月8~10日にバンコクで開催される第一回アジア未来会議(AFC)の後になる。第14回セミナーの発表者が、15人のフィリピン代表団として参加した。第16回目セミナーの運営委員会に参加ご希望の方は、SGRAフィリピン事務局( [email protected] )にご連絡ください。

 

最後に、この場をお借りして、第15回セミナーの司会者のラゼリス博士、トメルダン氏、デアシス氏に対して特別に感謝の意を述べたい。今回、第1回アジア未来会議の準備で忙しいSGRAの今西淳子代表が欠席だったのは残念であった。

 

また、日比共有型成長セミナーと関連することを以下に報告したい。

 

第15回日比共有型セミナーに参加したメディナ博士とベルガラ神父は、2013年3月2日に東京大学(駒場キャンパス)で開催された国際シンポジウムで、「共同体資源に基づく環境に優しい農業:持続可能な発展と多様性のための戦略」というテーマで発表した。マキトはDIRIモデルを日本で紹介した。このシンポジウムにSGRAが参加できたのは、フィリピンの都会の貧困と持続可能な農業を研究されている東京大学の中西徹教授のおかげです。詳細はここをご覧ください。

 

第14回日比共有型成長セミナーでも発表された以下の2本の論文は、光栄にも、第1回アジア未来会議で優秀論文として選ばれた。

 

・”Community-Life School Model for Sustainable Agriculture Based Rural Development (農村開発中心の持続可能農業のためのコミュニティ生涯学習モデル)” by Rowena Baconguis and Jose Medina.

 

・”The Migration Link Between Urban and Rural Poor Communities: Looking at Giant Leaps and Small Steps(都会・農村コミュニティ間の移民リンク:飛躍と小歩の模索)” by Ferdinand Maquito

 

同時に、第14回日比共有型セミナーでも発表された次の論文が、第1回アジア未来会議で優秀発表賞として選ばれた。

 

・”Barangay Integrated Development Action in Kapangan Towards WASH (水衛生へ向けてカパンガンにおけるフィリピン社会の基本単位であるバランガイの統一開発)” Jane Toribio, Delfin Canuto, Roberto Kalaw

 

第15回日比共有型セミナーで発表された以下の論文は、ベトナムのアジア太平洋経済センター20周年と日越関係40周年記念の一行事としてハノイで開催された「労働移動と東アジアにおける社会経済発展」シンポジウムで発表された。

 

・”Patterns in Overseas Filipino Worker Flows: In Search for the Giant Leap And Small Step (GLASS) Effect (海外フィリピン労働流出におけるパターン:GLASS効果の探求)” by Ferdinand C. Maquito

 

このシンポジウムにSGRAが参加できたのは、フィリピンの専門家として私を招いてくださった早稲田大学のトラン・ヴァン・トウ教授のおかげです。ハノイのシンポジウムでは、フィリピンの出稼ぎ者をできるだけ帰らせて国内経済に役に立てるようにすべきだという私の提言に、トラン教授も同感であることを表明してくださいました。

 

第15回日比共有型成長セミナー関係の資料

 

第15回日比共有型成長セミナーの写真集は下記のリンクからご覧いただけます。 写真集1 写真集2 Facebook写真

 

アジア未来会議については、下記リンクをご覧ください。 第1回アジア未来会議報告

 

 

マニラ・レポート2013年夏(第16 回日比共有型成長セミナー」はこちらからご覧いただけます。

 

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<Max Maquito マックス・マキト>

SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。

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2013年3月20日配信