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エッセイ389:葉 文昌「トルコ旅行記(その1)」

島根の友人5名と9月にトルコへ旅行した。初めてのイスラム圏への旅である。松江から最も手頃で早い航空便は、岡山空港発、ソウル仁川経由でイスタンブール行の大韓航空だった。朝6時に松江を出て、翌日2時(現地時間夜8時)頃にイスタンブールのアタチュルク空港に到着した。人からなのかそれとも店からなのか、空港ロビーに降り立った時からケバブのにおいがしていた。クミンかマトンかあるいはそれらの混ざり合った匂いである。日本は発酵大豆の匂い(味噌か醤油)、台湾は八角の匂いがするそうだ。たしかに私も最近台湾に帰ると八角か小籠包の匂いが気になる。自分は無色無臭と思っていたらそれは間違いなのである。

 

空港からタクシーで旧市街地のホテルへ向かう。高速道路の作りや雰囲気が台湾と似ている。それは「緻密度」だろうか。昔台湾から新潟へ出張したとき、アスファルトと道端のコンクリートの継ぎ目の緻密さに感激したことがある。作業員(職人)のこだわりの主張を感じた。これが緻密度である。予算たっぷりに建物を作ったとしても、或いは先進国の建設会社が作ったとしても、見える外装は現地の職人の手で完成されるので、経済的に余裕があるほど完成品の緻密度は高くなる。トルコの経済水準は台湾と同程度なので、同じような緻密度なのだろう。

 

途中で雑貨屋があったので、イチジクを一個買った。皮は紫色で枝の付け根から半分に裂くと真二つに割れて綺麗に断面が見える。日本のと比べると皮は薄く、中身は色が赤く乾いていてとても甘かった。調べてみるとイチジクの原産は中東とあった。いくら他の土地で人工的に品種改良しても、土地と気候が適した原産に敵うわけがない。果物は日本や台湾では輸入制限があり、現地だけでしか味わえないことが多いので、海外旅行で楽しみにしていることの一つである。

 

翌朝、ブルーモスク、トプカピ宮殿、地下宮殿と回る。ブルーモスク内部のパステルな色使いは今でも通用する落ち着いたデザインだと思う。またトプカピ宮殿の幾何学的な窓格子も印象的だった。かつて富が集まった場所の工芸品は緻密度が高い。いずれも最高の職人が仕上げたものだからである。すべて人の手によるものなので、時代に関係なく、最高の職人による彫刻や建築を見比べることができる。各国のかつて栄えた時代の工芸を見れば、特定の人種が職人芸に秀でているのではないことがわかる。近代の日本の工芸品は緻密度がとても高いが、これも同じ事が言える。

 

夜になれば、世界三大料理の一つとされるトルコ料理とお酒の至福の時間となる。出発前の情報によればトルコは穏健イスラム派のエルドアン政権により、飲酒が昔よりも制限されたとあるので、酒が飲めないことを心配していた。しかしいざ到着してみると、青いEFESビールののぼりがあちらこちらにあって安心した。結局はイスタンブールではどこでも普通に飲めたので、トルコ万々歳である。

 

一行はタクシム通りの近くの予約したレストランへ向かった。タクシム広場では普通に観光客が歩いていたが、その一角では大勢の機動隊員とその車両が陣取っていて、物々しさを感じた。その日はオリンピックが東京に決まった日。それがきっかけで政府への不満が爆発してデモや暴動が起こることないかと心配しながら通り過ぎた。どこの人ですかと聞かれてたので、私が「Taiwan」と返せば「Good。 I don’t like Japan」と、同行者が苦笑する場面もあった。国際連合ツアーの良さもあるものだ。店でトルコ料理とビールを堪能し、気持ちよく酩酊して店を後にする。

 

トリム(路面電車)に乗るために再度タクシム通りに出た途端、群衆のシュプレヒコールが聞こえて来た。タクシム通りの100m先は人で溢れかえっており、群衆の中心でもある交差点から黒煙が立ち上っていた。そして一部がこちらに向かって走ってくる。スポーツ競技の前のような胸の高鳴りを感じた。同調心理だろうか。こういう時は何も考えずに群衆に吸い込まれる人も多そうだ。でもここは野次馬根性を捨て、トリム乗車を諦め、逆方向から抜けることにした。途中、早歩きで群衆に向かう50人程の機動隊とすれ違う。小路をすり抜けて大通りへ出た。大通りは相変わらず車で満ちているもののデモはなく、その静けさに安堵した。ホテルへ直行し、次の日の為に早めの休息を取った。 (つづく)

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう)  Yeh Wenchang>

SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

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2013年10月16日配信