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エッセイ390:葉 文昌「トルコ旅行記(その2)」

翌日、フェリーでボスポラス海峡を渡ったアジア側を散策した。「アジア」といえども建物や雰囲気はヨーロッパであった。トルコ人も私にはアジア人ではなくてヨーロッパ人に見える。散策していると、一行の中の何人もが鼻がムズムズしてきてくしゃみが続いた。通りにあるすべての銀行のATMを見ると画面の強化ガラスが蜂の巣状に割れている。そして道路標識は押し倒された状態で歩道に横たわっている。広告看板には「UTAN! Polis」という落書きが。意味は分からないがその類の落書きは世界共通なので簡単に想像できよう。きっと昨日はここでもデモがあって、くしゃみは残った催涙ガスのせいなのであろう。でも店はちゃんと開いていて、それらの破壊以外は平常通りだった。

 

旅の後半は飛行機で400㎞離れたアンタルヤへ行った。地中海に面したリゾート地である。海沿いにはパステルカラーのリゾートマンションが続く。イスタンブールの気温は20度前後でとても気持ちよかったが、アンタルヤは40度の暑さだった。タクシーには空調がない。日本や台湾だったら汗が噴き出していたに違いないが、トルコではさほどの苦痛にはならなかった。乾燥しているので汗がすぐ蒸発して涼しく感じるのだろう。乾燥のせいでトルコではすぐ喉が渇き、水分と塩分の補給が必要になる。トルコではミネラルウォーターとアイランという塩味のヨーグルトが随所で売られている。アイランは塩味である以外は日本や台湾のヨーグルトと全く同じ味であったが、体が塩分を欲しがっているせいか、やみつきになった。

 

アンタルヤ滞在中は日帰りで世界遺産のパムッカレにも行った。車の中からトルコの地形を眺めることができた。山はわずかな草に覆われているか、はげ山が多かった。東アジアだったらこういう山は雨で土砂崩れを起こしているだろうが、ここには鉄砲水がないので大丈夫そうだ。パムッカレの観光客は殆どがロシア人であった。寒いロシア人が暖かいトルコにあこがれてよく観光に来るのだそうだ。道路沿いの売店もロシア人観光客を乗せたバスが来るたびに溢れかえり、ロシア人観光客は沢山のお土産を買って帰って行く。

 

お店に行くと試食を薦められる。食べてみたい気持ちはあるが、試食したら押し売りされてしまうという警戒心が働いて断ってしまう。日本や台湾ではたとえ買わないつもりでも試食するのだが。実際にはトルコのお店だって消費者心理を販売の手段としているわけではなく、「美味しければ買えばいい」程度に思っているのかも知れない。また、街で地図を広げて場所を確認している時、大学生風の若者が親切に場所を教えてあげると言って来た。心の中で「気をつけろ!」という警戒が先走ったが、結局はとても親切な若者だったのである。言葉も文化も知らない場所にいると警戒心が高まるが、自分の邪推を醜悪と反省した。

 

中東の料理の特徴は羊肉である。かつて羊肉は苦手であったが、学生の頃に渥美財団のバーベキュー会でケバブ(羊の串焼き)を食べて羊肉が好きになった。羊肉はたっぷりのクミンをかけて焼く。羊肉もクミンも自己主張が激しい。でも一緒だととても相性がよい。更にそれらはビールともよく合う。ドネルケバブという豪快なファーストフードもある。東アジアでも見かけるようになったが、肉片を円筒状に積み重ねて、側面から焼きながらそぎ落としてナンやパンで包んで食べるものである。羊肉100g入りが10リラ(500円)、150g入りが15リラ(750円)であった。最後の3日間は毎日このドネルケバブを食べ続けた。帰国直後は自分の汗が羊肉臭いことに気づいた。中東の人が持つ匂いだ。目から鱗であった。体臭は人種固有のものではなく、食に起因するものだった。

 

初めての西アジア旅行は刺激的な経験となった。幾つかの国に行ったことがあるヨーロッパに比べると、今回のトルコは異文化度が高かった。異文化の交わる所は創作活動が盛んになるそうだが、これほど刺激が多ければ芸術文化が盛んになるのも頷ける。

 

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葉 文昌「トルコ旅行記(その1)」はここからご覧ください。

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) Yeh Wenchang>

SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2001年に東京工業大学を卒業後、台湾へ帰国。2001年、国立雲林科技大学助理教授、2002年、台湾科技大学助理教授、副教授。2010年4月より島根大学総合理工学研究科機械電気電子領域准教授。

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2013年10月23日配信