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エッセイ337:マックス・マキト「マニラ・レポート2012年春」

2012年4月26日にフィリピン大学で開催された第14回日比共有型成長セミナーは、今まで13回マニラで開催してきた同セミナーにとって歴史的転換期だったと言っても過言ではない。

 

セミナーは午前9時半から、同月2度目のマニラ訪問の今西淳子SGRA代表とフィリピン大学労働・産業連携学部(SOLAIR)のサレ学部長の開会式で始まり、午後6時の参加証明書の贈呈式で終わった。

 

今回のマニラ・セミナーのテーマは「都会・農村の格差と持続可能な共有型成長」というものであった。この格差は「効率」を重視しすぎた結果であって、「公平」や「環境」を犠牲にしがちになっているという考えが根本にある。

 

開会式の後、参加者は建築学と社会科学との2つのパラレル・セッションに分かれた。建築学は「持続可能な環境と防災」というテーマで、社会科学は「水資源管理と農業・貧困」というテーマで進められた。セミナーに参加した2名の日本人である今西代表と中西徹先生は、偶然にも、原子力エネルギーがいかに日本社会の問題になっているかについて言及した。僕は、最後に都会・農村の貧困問題について発表し、両者を分けて考えないほうがいいではないかと提案した。

 

たくさんの方々のご支援のおかげで、今回は、これまでのセミナーを大きく上回る成果を得ることができた。成果の一つは、参加者の人数(84人が登録)と分野の広さである。従来は、発表者が2~3人だったが、今回のセミナーでは、公募による23本もの発表があった。

 

発表要旨のリスト

 

また、従来のセミナーでは、経済学者の発表が中心だったが、今回の発表テーマは経済学だけでなく、建築学、工学、農学、経営学という広い分野に亘り、発表者のバックグランドも大学、政府、市民団体という広い社会構成組織をカバーした。因みに、SGRAの一部助成を受けて、この発表者の中から13名が来年の3月に上海で開催される第一回アジア未来会議(AFC)の自然科学と社会科学シンポジウムに参加することになった。ほかに自費参加する人も数人いるようである。日本の仲介により、フィリピンと中国の友好関係に更に貢献できればと思う。

 

第14回マニラ・セミナーの実績のもう一つは、セミナー企画委員会の拡大であった。従来セミナーの企画はSGRAフィリピンが行っていたが、今回から発表者や参加者自らの企画への参加が実現しつつある。それはSGRAの学際的・国際的という方針への賛同はもちろん、フィリピンにおけるSGRAの活動の基本的な目標である共有型成長、さらには「Eの三乗(Efficiency x Equity x Environment =sustainable shared growth)」がより多くの人々から賛同を得たからである。「Eの三乗」を日本語に訳すと、「3K(効率・公平・環境)」であり、環境的にも持続可能な共有型成長を意味する。

 

企画委員会で、この「Eの三乗」をフィリピン語にもすべきだという意見を受けて、「KKK(Kahusayan(効率)、Katarungan (公平)、Kalikasan(環境))」と呼ぶことにした。フィリピン人にとって「KKK」はフィリピン革命に関連する深い意味がある。それは、19世紀のフィリピンでスペインからの独立を目指してアンドレス・ボニファシオらによって結成されたカティプナン(タガログ語:Katipunan)という秘密組織のことである。カティプナンという名前はタガログ語の正式名称「Kataastaasang Kagalanggalangang Katipunan ng mga Anak ng Bayan」(母なる大地の息子たちと娘たちによるもっとも高貴にして敬愛されるべき会の意)の短縮形であるが、「KKK」というシンボルマークでも知られる。その「KKK」を掲げたSGRAセミナーを通じて、企画委員たちの心には「フィリピンを変えよう」という使命感が燃えているようである。

 

このSGRAフィリピンの使命に、フィリピン大学SOLAIRが賛同してくださり、セミナーの前日、今西代表とサレ学部長によって、MEMORANDUM OF AGREEMENT(提携書)が調印された。これからも、このような形でセミナーを開催していく予定である。

 

5月5日、第14回セミナーの反省会をフィリピン大学で開催し、第15回セミナーをいかにより良いものにするかについて話し合った。企画委員全員が、これからKnowledge Management Center(知識管理センター)を実現すべきだという意見をもっていた。それを受けて、SOLAIRから場所を提供してもいいというありがたいお話もあったが、最初は、仮想的(VIRTUAL)に始めたほうがいいということで合意した。そのために、第14回セミナーで活躍した渥美財団のサーバーを拠点として、今後も更に活動を活発化していきたい。マニラ・セミナーで生産されている知識をSGRAのフィリピンの活動にもっと利用していくために、きちんと知識を管理すべきであるということである。その一環として、第14回セミナーの発表に基づいて、ディスカッション・ペーパーという一般向けの論文を集めて、最終的にオンラインで公開する英文のSGRAレポートとしてまとめようという動きが始まっている。そのためにフェイスブックにも議論の場を設けた。この知識管理センターをいかに実現するか議論中である。

 

次の第15回マニラ・セミナーでは、(建設業界を含む)製造業と持続可能な共有型成長というテーマに戻り、第14回セミナーと同様、発表者を公募する予定である。今までは企業からの参加が少なかったが、次回からは企画委員の協力を得て、もっと広い範囲に呼びかけたい。これもSGRAがめざす「多様性のなかの調和」という理念に沿ったものだと思う。

 

第14回セミナーの写真集

 

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<マックス・マキト ☆ Max Maquito>
SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。フィリピン大学の労働・産業連携大学院シニア講師。
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