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エッセイ294:キム キョンテ「日本での日々」

日本と韓国は違う国です。あたりまえな話ですが、たまにそれを忘れてしまいます。他国で生活するのが初めてであった私が、「ちょっと長い旅行」程度に思って生活を始めたところが、渡日初期の失敗だったかも知れません。

 

「お互いに違った所を認めない共同体化は望ましくない」と考えていた私としては恥ずかしいことでした。当然、小さい差異一つ一つが、大きく感じられてきました。銀行では口座を作ってくれない、自転車は買ったが、駐輪場がない (空きは1年半待ちなさい、と話す管理人おじさんの平然とした顔に衝撃)。空きがでたとしても1ヶ月の駐輪料が自転車の価格を軽く超える(ネットで買った自転車は2500円、駅前駐輪場は1日100円)。しかしそれが日本ですよね。1ヶ月くらい過ぎたらずいぶん慣れました!

 

さて、「生活」ですので、旅行に来たら滅多にいかないところを探して行くのも私には意味深い事でした。初めての外国生活なので、路上ののんびりした猫も新鮮に感じられるくらいでしたので。

 

本郷から東京ドームに行く途中、道に迷って寄ってしまった「菊坂」。本郷はもともと文人の里で有名らしいが (例えば、夏目漱石の小説にも出てくる東京大学構内の三四郎池はひとりで弁当を食べたりする綺麗な場所ですが・・寂しいですね-)、最近は五千円札の樋口一葉のゆかりの場所で人々を寄せています。彼女が住んでいた昔のままであるような下宿と、お金を借りた質屋、隠れている可愛い坂坂、古い銭湯。そして 樋口一葉を愛する女社長が運営するカフェのあんみつは美味でした。

 

私は現在、亀有というところに住んでいますが、近くに柴又があります。はい、「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。 帝釈天で産湯をつかい・・」のその寅さんの柴又です。参道とお寺の風情に一目ぼれ、今は「男はつらいよ」シリーズにすっかりはまっています。一編一編が人間の喜怒哀楽。いつも笑いながら、泣きながら、鑑賞しています。時には柴又で買ってきた草団子やせんべいを食べながら・・。

 

神田神保町の古書店巡りも楽しみのひとつです。ちょっとおかしいかもしれませんが、私は憂鬱になったら、書店に行きます。いろんな本を観るだけでいい気分になります。古本はまた違った味があります。きれいな古本もいいんですが、私は経てきた主人の痕跡が残っている本のほうが好きです。神保町の本屋はだいたい老舗で、敷居も高く、主人の愛想ない表情も少し怖いんですが、(また、値段が結構高いのであまり買えないんですが) その落ち着いた雰囲気、いつまでも変わらないそんな雰囲気が好きです。

 

それを感じながら、充分見物したうえで、三省堂に行って本を買います。(笑)

 

この6ヶ月、私の日本は本当に美しいものでした。今、大きな自然災害で苦しんでいますが、すぐに、日本の美しい春が戻ると信じています。

 

この6ヶ月、勉強の面においても、人生の面においても、大きな転換点になりました。残った6ヶ月、これからどういう変化が待っているかまだ分かりませんが、きっと素晴らしいものではないかと期待しています。

 

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<キム キョンテ ☆ Kim Kyongtae>

韓国浦項市生まれ。歴史学専功。韓国高麗大学校 韓国史学科博士課程。2010年から東京大学大学院人文社会研究科日本中世史専攻に外国人研究生として留学中。研究分野は中近世の日韓関係史。現在はその中でも壬辰戦争(壬辰・丁酉倭乱、文禄・慶長の役)中、朝鮮・明・日本の間で行われた講和交渉について研究中。

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2011年5月15日配信