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エッセイ239:シェルマトフ・ウルグベック「ウズベキスタンの結婚式」

ウズベキスタンの人々の生活のなかで結婚式の存在は非常に大きい。ここでいう「存在が非常に大きい」というのは、人々が生活のなかで他人の結婚式に係ることが非常に多いという意味である。その理由は、ウズベキスタンの結婚式の規模にあるといえる。すなわち、ウズベキスタンでは、結婚式を構成する多くの行事が存在すると共に各行事に参加する人も多い。まず、ウズベキスタンの結婚式の行事を簡単に紹介する。なお、ここではウズベク人の結婚式を前提にしていることをあらかじめお断りしておく。
 
ウズベキスタンの結婚式は、原則として婚約式、朝のオシュ(プロフ)、ザークス、披露宴(狭義の結婚式)、新婦による朝の挨拶、チャッラリー、オタチャキリクからなる。

そもそもウズベキスタンでは、お見合い結婚が一般的であり、結婚に至るまで、若者は20―30回くらいお見合いを経験することは稀ではない。婚約式は、新婦の家で行われる。婚約式には新郎側から両親と親戚、新婦側から両親、親戚と近所の人が参加する。

次に行われる朝のオシュは、結婚式の不可欠な行事である。新郎側も新婦側もこの行事を主催し、親戚、友達、家族の知り合い、近所の人など、結婚する相手の親戚と知り合いにオシュ(プロフ:お米、人参、肉などから作る料理)やその他の料理をご馳走する。いわゆる食事会である。この食事会は、朝の早い時間、午前5時ころから開始する。出席する人は男性のみである。出席する人の数は、主催する家族によって大きく異なるが、平均は400人くらいであろう。また、食事会に伝統的な歌を歌う歌手が呼ばれるので、出席者は、歌を聴きながら食事をする。同日の午前11時ころには女性が出席するオシュ食事会が開かれる。近年、都会の人は、(朝の)オシュ食事会のために広いレストランを貸し切りにするが、地方では、オシュ食事会の会場として家の庭を利用したり、または家に接する道路を閉鎖してテーブルを配置した仮会場を利用したりする人が多い。

オシュと披露宴との間、新郎、新婦および新郎新婦の友達は、ザークスという行事に参加する。そもそもザークスの目的は、日本でいう結婚届けの提出であるが、結婚届け提出後に、参加者は、車で貸し切りになっているレストラン(会場)に移動する。会場で様々な料理が用意され、会場を盛り上げるために歌手が呼ばれる。

夜の披露宴は、結婚式の主な行事であり、日本の披露宴と共通する点が多い。ただ、ウズベキスタンの場合、少なくとも一人の歌手が必ず呼ばれ、その歌手は、会場を盛り上げるために披露宴中ずっと歌っている。経済力のある家族の場合、全国的に有名な多くの歌手や芸能人が登場し、披露宴が日本の紅白歌合戦に該当する豪華なイベントになることもウズベキスタンの結婚式の特徴であろう。

披露宴が終わったら、新郎は、原則として新婦を新居となる自分の家に連れて帰る。そして、一夜明けると新婦は、その家で大勢の人の前で数回にわたってお辞儀をする。これは、新婦による朝の挨拶という行事である。

これだけでは結婚式が終わったとはいえない。披露宴が終わってから2日後にはチャッラリーが行われる。チャッラリーとは、新婦の両親が新郎、新婦(娘)および新郎の両親、親戚と友達をもてなし、新婦側と新郎側がお互いをよく知り合うための会である。近年、チャッラリーの会場としては、広いレストランが用いられる。ここでも、様々な料理が用意され、歌手が呼ばれる。

チャッラリーが終わってから1―2週間後にはオタチャキリクが行われる。オタチャキリクとは、新婦側と新郎側がお互いをよく知り合うための会であり、その意味でチャッラリーと同様の目的のために開かれる。ただ、オタチャキリクでは、新郎の両親が新婦の両親、親戚をもてなす。ここでも、様々な料理が用意され、歌手が呼ばれる。

このように、ウズベキスタンの結婚式では、各行事に参加する人の数が多いのと同時に行事自体の数も多い。そのため、一つの結婚式に係る人の数が日本の結婚式より遥かに多い。そして、人々の生活に対する結婚式の影響も日本より大きいといえる。このことは、新郎新婦の職場の関係者が結婚式に参加するときに、顕著である。すなわち、結婚式のために、新郎または新婦と同じ職場の上司、同僚および後輩たちがどこかで集合し、一緒に入場し、退場する。朝のオシュの場合、退場した後に皆で職場に向かって行くこと、夜の披露宴の場合、早めに仕事を終わらせ、皆で披露宴会場に向かって行くことが一般的である。また、結婚会場での音楽が会場の外でもよく聞こえるため、結婚式をしていることが結婚に直接に関わっていない人にも明確に知られる。

ウズベキスタンの人々は、結婚式の在り方を大事にし、現在も守ろうとしているが、結婚式に多くの手間および膨大な費用がかかることは明らかである。そのため、近年、結婚式の在り方については国内で批判の声が頻繁に上がっている。批判の内容は、結婚式をより簡易にし、無駄遣いをなくすことである。その批判を支持する人は多いものの、結婚式が伝統としてウズベキスタンの社会に深く根付いているという現実もある。今後、ウズベキスタンで結婚式の在り方は大きく変わっていくのか。社会の変遷が反映される問題であるため、今後の展開を注目していきたい。

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<シェルマトフ・ウルグベック☆ Shermatov Ulugbek>
ウズベキスタン出身。タシケント世界経済外交大学国際法学部卒業。2003年、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科修士課程修了。2003年-2005年、ウズベキスタン法務省経済法立法部で勤務。2006年、明治大学大学院法学研究科博士課程入学。現在、同研究科所属。SGRA会員。
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2010年3月24日配信