SGRAかわらばん

エッセイ238:張 桂娥「新羅千年の都~雨の慶州を巡る冬の旅~(その2)」

空腹を抱えながら午前中の見学プログラムをこなし、午後一時過ぎ、やっとランチタイムに。大衆食堂っぽいレストランで韓国料理の食べ放題コースでした。味もそこそこおいしいし、料理の種類も豊富なので、本国の観光客はもちろん、外国人の私もいろんな料理にチャレンジできて、満足感が味わえる昼食でした。

午後のツアーは、満腹感による睡魔との闘いから始まりました。ちょうどうまい具合に眠りこけた頃に、石窟庵への遊歩道入り口付近に到着。バスガイドの元気な韓国人おばさんに促され、いやいやながらバスを降りた私は、石窟庵にたどり着くまでの長くて険しい道のりにさすが閉口しました。しとしと降り続ける寒い雨の中、泥濘状態の道を進み、凍った地面で足を滑らせたりしたアクシデントも。しかし、根気強く歩いて、吐含山(Tohamsan)の頂上にたどり着くと、そこには、花崗岩を重ね、人工的に作り上げた石窟寺院のような荘厳な洞窟があり、その窟の真ん中には高さ3.48mの本尊仏像が安置されており、まるで私たちを待ち受けているように、静かに迎えてくださったのです。

新羅時代751年に着工し、30年に渡って作り続けられ完成された石窟庵には、本尊仏像のほかに、前室と窟入り口左右の壁には八部神衆、仁王及び、四天王などの立像を始め、石窟庵内部の至る所に詳細まで彫刻された仏像が、およそ40あまり現存しているといいます。ここでも陸さんの精彩に富んだ解説の御蔭で、石窟庵の見学ポイントを伝授され、仏像の美を十倍楽しむことができました。心身とも満たされた充実感に包まれ、帰り道では、寒気も眠気も疲れも、どこかへ吹っ飛んだかのように、うそみたいに軽快な足取りでバスに戻れました。本当に陸さま様でした。

そして、このシティーツアーのハードスケジュールの極めつけは、世界文化遺産として指定されている韓国の代表的な寺院である、あの華麗な新羅文化の歴史を髣髴させる仏国寺の見学でした。現在総面積が12万余坪に至る仏国寺境内には、大雄殿を中心に多宝塔、釈迦塔など世界的に有名な宝物があるほか、韓国の国宝も含む多彩な宝物が合わせてなんと7000あまりも残っているといいます。この洗練された新羅の芸術と仏教文化をそのまま語り伝える韓国の重要文化財を散策している間に、境内に漂っている静粛な雰囲気に圧倒された私は、頭に思い浮かべる言葉が一つもないことに気づき、ただ沈黙を保ったまま、新羅芸術の美を自分なりの感性で楽しむことに意識を集中しました。

歴史の勉強が苦手な私にとっては、消化不良な遺跡ツアーになりそうですが、相変わらず熱のこもった陸さんの説明に終始熱心に聞き入っている今西さんと石井さんの真剣な表情を見ると、きっといい勉強になる充実した歴史の旅に違いないと確信しました。旅行の達人になるためには、出発する前の事前勉強が鍵ですね。

日が暮れかかる頃、慶州教育文化会館に到着。部屋で一息ついた後、全員ロビーで集合。レストランの送迎バスで「韓牛」の焼肉名店へ移動。フォーラム前夜の歓迎レセプションが開かれました。丸一日のシティーツアーで全員少し疲れがたまったのと、翌日に控えるフォーラムの準備に心がとらわれたせいか、みんなの口数がめっきり減ってしまったような気がしました。食事の合間に、フォーラム運営関係者たちが打ち合わせに取り組んだりしていましたが、オブザーバーとして気楽に出席した私は、霜降り「韓牛」の極上焼肉の誘惑に負けて、超美味なお肉を黙々と口に運んだだけでした。フォーラムを成功させたい一心の韓国SGRAメンバーたちに、大変申し訳ございませんが、本当に美味しかったです。ご馳走様でした!

翌日、フォーラムは午後二時からなので、陸さんの通訳案内で今西さん、石井さんと私の四人は、観光ツアーの第二弾を決行しました。行く先は新羅時代の遺物が集結された国立慶州博物館でした。晴れ女の名にかけてご利益を蒙ろうとしても慶州の神様には通じないようで、途中で雨が降り出しました。

慶州博物館の2千余坪の敷地には、本館を始め第1別館である古墳館、第2別館である雁鴨池館、野外庭園があり、総2千700余点の遺物が展示されています。本館には慶州とその周辺地域から見つかった各種遺物を、古墳館には新羅古墳から出土した遺物を、雁鴨池館には雁鴨池から出土した代表遺物を展示していますが、陸さんは最も思い入れの強い、博士論文にもとりいれた、野外庭園に展示されている四天王石像について詳しく説明してくださいました。また石窟庵でよく見られなかった各種大小の仏像のレプリカも間近で見学できてよかったと思います。

昼食後、午後二時よりフォーラムが開催されました。研究発表の記録やプログラム実施の詳細及び成果については、金賢旭さんの報告をご参照ください(来週のかわらばんで配信予定)。

2月10日10時半、慶州から釜山の金海国際空港へ直行。帰途の高速道路は平日なので、大きな渋滞もなく順調でしたが、実の詰まった3泊4日の釜山慶州の旅を振り返ると、駆け足視察みたいにあっさりと終盤を迎えてしまうような気がして名残惜しくてなりません。

一方、帰りの便の中では、飛行機で片道一時間と少しであっという間に着いちゃう国なのに、なぜか今まで積極的に理解しようとしなかった自分がいることに、疑問を投げかけて問い詰めないではいられませんでした。東アジアに生きていながら、東アジアに目をつぶりがちな生き方に納得できなくなる今日この頃、私を受け入れてくださった韓国SGRAの皆さんの心の広さにあらためて敬意を表したいと思います。

韓国の皆様、カムサミダ!!お疲れ様でした。

張 桂娥「新羅千年の都~雨の慶州を巡る冬の旅~(その1)は、ここからご覧ください。
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<張 桂娥(チョウ・ケイガ)☆ Chang Kuei-E>
台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本近現代文学、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科助理教授。授業と研究の傍ら日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。
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2010年3月3日配信