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エッセイ235:韓 京子「ここは雪国かい!」

今夜も雪です。とにかく今年の冬は寒い。寒いだけじゃなくすご~い雪でした。1月はじめの大雪は夜中に降り出したのですが、積もる積もる。よく積もるな~と思ってながめていました。久しぶりの大雪に「しんしん」と雪が積もるってこれだったよねって当時は興奮しておりました。

一気に降り積もった雪はソウルや近郊(その後の降雪では地方も)をパニックに陥らせてしまいました。雪に強いと思っていた韓国が意外ともろかったのです。以前、東京に留学していた頃、ちょっと降った雪のために終電に近い電車が橋の上で止まったことがあって、「韓国じゃありえない」と言ってたのですが前言撤回です。まったく交通麻痺状態でした。冬休みではあったのですが、集中講義期間でその日は折しも試験の日。朝から、「学校のホームページに今日と明日全講義休講って出てますが、本当に行かなくてもいいんですか」と学生から問い合わせの電話で、その深刻さに気付きました。ちなみに集中講義のあった某大学は構内がすごい坂道なのです。スキージャンプの競技用のような……。休講のおかげで私は外に出なくて済んだのですが、妹(友達の弟も)は車で30分の勤務先に4時間近くかかってやっとたどり着いたそうです。直接運転する自信はなく、覚悟を決め武装をして地下鉄での出勤でしたが途中で何度も引き返したくなるほど過酷な道のりだったようです。中には登山用のアイゼンを装着して歩く人もいたそうです。

とにかく、何日も除雪作業が行われず家を一歩出ると、「ここは雪国かい!」って思わずつっこみたくなるほど辺り一帯が雪でした。100年ぶりの大雪といわれるのですが、そう言われても、「経験者生きてません」って感じでした。とりあえず、車道の除雪から始まったのですが、除雪というより雪を片方に片付けるようなもので、車線が雪で見えないだけでなく、片道一車線がなくなっている状態でした。道路はその後、ブルドーザーとショベルカーとダンプトラックが出動し、除雪作業をしてくれたのですが、路面は思い切り傷んでしまいました。それでも幹線道路ならば山積み状態の雪を別の場所へと運んでくれるのですが、車道でない道や団地内の道はところどころにできた雪の山がずーっとそのままでした。 知り合いの先生は酔っ払って転んだ拍子に半端な除雪作業のため出来たこの小さな氷山に顔面をぶつけ、めがねは真っ二つに破壊、額と頬から大量出血するはめになってしまいました。一瞬、酔いが醒め「いったいどうして。何にぶつかったんだ」って思ったそうです。

ここ数年雪が困るほど降るってことはめったになかったので、なんかなつかしい気もしました。待てど待てどバスは来ない。坂道は3歩進むと2歩下がる。滑らないよう摺足で歩くせいで足はかちんかちんで感覚なし。何年ぶりかに味わったしもやけ。そして、なつかしい思い出を想起させてくれたものがもう一つあります。出ました。またまた登場。都心のスキー。私がこれをはじめて見たのは25年も前のソウル市江南区○○洞。ニュースに出たのを見て、そういえば昔もいたなあと思っていたら、出現地域も同じでした。一族かも知れません。翌日のニュースによると道路交通法違反らしいです。まあ坂道の多い地域ですし、やってみたいという心情も理解できるのですが、法律は守りましょう。罰金の額が大きくないので再発しそうな気はします。罰金関連で付け加えると、これからは自分の家の前に積もった雪を 片付けないと罰金が科されるそうです。

気温が上がると、今度は新たな問題発生。大雪だったのでちょっと気温が上がったところで完全に雪は溶けるはずがなく、あちらこちらの建物でできたつららが落下したり、ちょっと溶けてまた凍りを繰り返してできた氷の塊が屋上から落下するという、ぞーっとする光景が繰り広げられています。除去作業ができなかった学校構内のある建物には今でも「接近禁止―氷落下注意」の張り紙が貼られバリケードが置かれています。

雪が降るとはじめは白くきれいでも、数日たつと道も車も非常に汚くなります。洗車くらいすればと思うのですが、氷点下14度の世界では 凍るので洗車不可能なんです。どの色の車も、また、高級車であってもみんなどろどろでいっしょでした。笑える光景でした。

一方、塩化カルシウムや塩化ナトリウムという除雪、融雪剤はまきすぎて在庫がなくなり、塩そのものをまいたりもしたらしいです。膨大な量を使ってしまい、土壌や河川の塩分濃度が高くなるとかで問題視されています。車にも悪く、きちっとあらわないと錆びてしまうそうで気温が氷点下じゃなかったある日、みんな洗車にかけつけ、すごい行列になっていました。車も車なのですが、私は今年購入したロングブーツがところどころ白いしみができてしまい、革にも影響あるよな、うかつだったと泣いております。ソウルの2010年の1月は、心が錆びてしまいそうな冬でした。

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<韓 京子(ハン・キョンジャ)☆ Han Kyoungja>
韓国徳成女子大学化学科を卒業後、韓国外国語大学で修士号取得。1998年に東京大学人文社会系研究科へ留学、修士・博士号取得。日本の江戸時代の戯曲、特に近松門左衛門の浄瑠璃が専門。現在、檀国大学日本研究所学術研究教授。SGRA会員
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2010年2月10日配信