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エッセイ230:温井寛「第3回在日本中国朝鮮族国際シンポジウム」報告

SGRA研究員の李鋼哲さんにお願いして、環日本海総合研究機構事務局長の温井寛様に12月に東京で開催されたシンポジウムの報告を書いていただきましたのでご紹介いたします。尚、李さんからは「お蔭様で大盛会でした。われわれはお金もなく、事務所もなく、専門スタッフもない状況ですが、国内外から200人参加してくださり、内容も非常に充実していました。渥美財団も名義後援してくださってありがとうございました」というメールをいただきました。

 

■ 温井 寛「第3回在日本中国朝鮮族国際シンポジウム」報告

 

「東北アジア共同体の可能性とコリアン・ネットワークの役割」をテーマにした国際シンポジウムが12月12日、東京の目白大学で開かれた。このシンポジウムは2001年12月の第1回、2005年11月の第2回に次ぐ第3回目となる。そこでシンポジウムの概要の紹介と若干のコメントを述べたい。

 

今回の国際シンポジウムは、日本にある朝鮮族研究学会(李鋼哲会長)が中心となって組織したもので中国の朝鮮族民族史学会(黄有福会長)、韓国の東北亜共同体研究会(李承律会長)の三者の共催で開かれた。冒頭あいさつに立った北陸大学教授でもある李鋼哲氏は、日本の政権交代で登場した鳩山政権が「東アジア共同体」構想をかかげていることを踏まえ、「国境を越えるアクターとして国家間・民族間の交流に重要な役割を果たしているのは朝鮮民族にほかならない」と指摘。そこに、このシンポジウムの国際的意義があると強調した。 基調講演では、最初に中国民族大学教授でもある黄有福氏が「グローバルコリアンネットワークと東アジア共同体」と題して問題提起。東アジアには2000年前から経済文化交流の歴史があり、それを踏まえて朝鮮民族がネットワークを形成して東アジア共同体構築の先頭に立つよう訴えた。

 

次いで延辺科学技術大学副総長でもある李承律氏は「東北アジアにおける経済秩序の新たな変化と国際協力」のテーマで基調講演。「東北アジア人」である朝鮮族は「多様な文化意識と多重知能をそろえている人材グループとして、超国家主義的な国際協力の媒体として登場」と役割を強調した。日本の朝鮮族研究学会副会長の笠井信幸氏(アジア経済文化研究所首席研究員)は「東アジアの三つの波」と題して東北アジアにおける交流の推移を分析しながら、地域共同体とネットワークの関係性に言及した。 また企業・経済人フォーラムでは、劉京宰・アジア経済文化研究所長が「未来型としてのグローバル固体と世界ネットワーク」と題して特別講演。世界が自由貿易化に向かっているとしつつ、「縦横無尽の志向を持つネットワークだけが強い競争力を持つ」と指摘、閉鎖性と排他性をこえる「グローバル固体」の結集の重要性を強調した。

 

シンポジウムでは基調講演を踏まえた「共同体構築とコリアン・ネットワークの役割」、特別講演に沿った「コリアン企業人ネットワーク構築の課題」について、それぞれのパネルディスカッションが行なわれ活発に議論が展開された。 若干のコメント。その一つは、日本の新政権が「東アジア共同体」をかかげているのと符丁を合わせたようなテーマの国際シンポジウムであり、極めて時宜を得たということである。しかも来賓には和田春樹東大名誉教授のほか、昨年の参議院選挙で初の韓国系国会議員として当選した白真勲氏があいさつに立ったことは非常に示唆的である。将来的には日本政府の関係者も参加できるような展望で今後の取り組みを期待したい。 二つには、学会としての体裁を整えてきたということ。

 

前二回のシンポジウムは中国朝鮮族研究会として開かれたが、研究会は2年前に発展的に改組し学会になった。そこで今回は国際シンポジウムの前に「歴史・外交」「経済・社会」「文学・言語」「共同体・アイデンティティ」の四つの分科会で学術発表が行なわれたのである。

 

筆者が参加した分科会で注目したのは、1910―20年代の中国間島地域(現在の延辺地域)における牛の検疫をめぐる中国と日本の対応の分析であった。植民地支配の末端における国家権力のせめぎ合いと住民の反応は未開拓の分野であり、一層の研究の深化が望まれる。 三つ目はシンポジウムの持ち方である。今回は中国、韓国からの参加者も多く、使用言語は基本的に韓国朝鮮語で行なわれたが、三分の一は日本人の参加であり十分に理解ができたとはいえない。通訳費用の問題はこの種のイベントの悩みのタネだが、少なくとも日本に軸足を置く学会である以上、まず日本人の賛同者を獲得する工夫の必要があるように思われる。

(ぬくい・ひろし:旧INAS=環日本海総合研究機構)

 

シンポジウムの写真

 

 

2010年1月6日配信