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エッセイ179:葉 文昌「上海旅行で感じたこと」

中国に長期出向中の友人を訪ねて、2泊3日で上海に出かけた。中国の旅は実に十年ぶりであり、前回は、民間レベルでは言葉が通じるという油断から恐喝紛いの商品の押し売り、官レベルでは日本にある中国大使館で発行された台湾同胞証が帰国間際の出国審査で偽造と疑われて別室で尋問を受けるなど散々な経験を受けたので、恐る恐るの中国旅行となった。

 

午後1時過ぎ、マカオ経由の飛行機は5時間かけて上海浦東機場に到着した。空港はとても現代的で、事務員の服装も亜熱帯的台湾のそれよりしっかりしていた。一方で東アジア随一の空港であるにも関わらず利用客はまばらだった。不景気のせいであろうか。空港からリニアモーターカーを経由して市内の地下鉄網につなぐことができた。市内に出ると高層ビルが目立ち、近代都市の様相を見せていた。

 

早速上海の高級団地にある友人宅に向うのであるが、団地の庭には7、8人程度の子供が一緒に遊んでいた。その光景に少し意外性を感じた。中華圏ではあまり子供を外で遊ばせないからである。案の定、それは全部日本人であった。恐らく親は傍のコーヒーショップで我が子を見守っているのだろう。中国人の親が子供を外に出したがらないのは大事な一人っ子を外で遊ばせるのは危険と思っているのと、家で勉強させたいと思っているからである。台湾でも切手集め等、静的な趣味がいいとされており、「切手集めをする子どもは悪い子どもにならない」とさえ言われる。このような環境の中で、趣味も情熱も社会性もない、灰色に近い国民に育っていくのであろう。つい最近韓国、日本と台湾で活躍しているアメリカ人から、韓国人はアグレッシブ丸出し、日本人は表面的には礼儀正しいが内的にはアグレッシブ、そして台湾人はとてもおとなしいとの印象があると言われた。もっともである。台湾の家庭教育は”Boys be mild”なのだ。これは中国も同じで、都市化への人口集中が進むとともに深まっていく可能性がある。

 

翌日は中国のベニスと言われる周荘へ行った。ついその前に台湾の九分に行ったのであるが、九分は殺風景な建物群の中に風情ある建物がポツンポツンと残されている状況であった。殺風景の方が多いので嫌な気分の方がいい気分を上回る。だから一日回ると多少まいる。一方で周荘は殺風景な建物は一つもなく、だから数百年前の中国にタイムスリップした気分に浸ることができて楽しかった。台湾の国民は台湾中国直通便で中国人観光客が麗しき島(Formosa)に殺到して経済効果をもたらすことを目論んでいるようだが、絵に描いた餅である。台湾のメディアは国民に真実を伝えて欲しいものだ。グローバル化によって国内の選択と集中がこれまで以上に求められるが、台湾の観光地は選択されるべき優位性はない。

 

夜は上海で一番美味しい上海蟹が食べられるレストランへ行った。台湾でこれまで数回、上海蟹を食べたのだが、未だに2000円に見合う感動を得た覚えはない。接待でよく食べる友人に「美味しいか?」と聞いても「一匹2500円もするのだからうまくないとは言えないだろう」と、答えにならない答えが返ってくる。早速食べてみたのであるが、やはり2500円を使うなら、東京で2500円のお寿司、台北でウチワ蟹の塩焼き1匹食べた方が感動する。恐らくは資源に人口が見合ってないゆえの需給バランスによるものであろう。だから中国では日本的な感覚で「一般的」なものでも日本より高くなる可能性がある。もちろん安いものは安いが、しかし安かろう悪かろうな物をたくさん頂くより、いいものを少しだけでも頂いたほうが感動は大きい。これは台湾でも思うことでもある。因みにショーロンポーは上海料理であるが、台湾の方に軍配が上がった。台湾の中華料理の水準は中国より高い。台湾で選択される部分があるとしたら中華料理であろう。

 

二次会は飲み屋へ行った。飲み屋にもいろいろあるが、話によると日本人ビジネスマンは人によっては中国で遊びまくっているとのことである。しかし、台湾も豊かになって中国への事業展開が進むと中国で同じことをしているし、お金持ち中国人でやはり同じことをしてる人も多くいるだろう。だから台湾人として「日本人は悪い」とは言えないのである。需要があれば違法でも供給があるので、日本や台湾でもあったように、貧しさから娘を売ることもある。これは強制連行であり、自国内の慰安婦問題である。ジンギスカンがヨーロッパまで侵攻する過程で略奪をくり返したことを二度とおきないように反省させるのはいいが、しかしそれより自国内の進行形の問題にエネルギーを費やした方が社会はよくなる。そしてこのようなことを避けるには自国の経済を他よりよくすることしかないのである。

 

台湾に居ると、日本のお米、日本のお菓子、とにかく「日本」がつくと台湾のより高級になる。悔しいが、確かに日本の米やビールは台湾のより美味しい。しかし友人から聞く話によると、中国では台湾のお米、台湾の果物、とにかく「台湾」がつくと高級品になるようだ。うれしい気もするが、嫌な気もする。うれしいのは台湾のものを高く評価してくれている人がいることだ。嫌なのは、お隣なのに更に水準が下の人々がいることである。これは近所の国同士で階層構造ができていることであり、地域の安定にならない。将来のアジア地域の安定には中国の発展を望むしかいい方法はないのである。

 

2泊3日の短い旅行であったが、10年間の上海の目覚しい発展と、友人が中国で楽しく過ごし、ビジネスも発展していることも確認できた。中国に行くことの不安は今後もあるだろうが、次はもう少し長く滞在して違う場所を見てもいいかと思う。

 

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<葉 文昌(よう・ぶんしょう) ☆ Yeh Wenchuang>
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2000年に東京工業大学工学より博士号を取得。現在は国立台湾科技大学電子工学科の助理教授で、薄膜半導体デバイスについて研究をしている。
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