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エッセイ173:洪 玧伸 「アジアに一つしかない碑:宮古島の<慰安婦>のための碑建立までを中心に(その1)」

韓国における「光復会」と「慰安婦」問題

 

「また、慰安婦問題か。いつまで謝罪すれば済むのか」と、戦争責任問題やアジア太平洋戦争による被害者の声を「反日」とする右傾化を、日本でよく目にする。実は、韓国においても、過去の問題によって現在の日韓関係の妨げになる行動、つまり「反日」感情を煽る行動をしてはいけないとの批判が、若い世代や政治家の発言でよく見られる。問題は、その懸念にあるわけではない。歴史的な研究や省察なしに印象だけで物事を考えようとする無意識が問題である。また、このような右傾化の背後に、利害関係に基づく「自己愛」的な傾向があるのが問題であると、私は考えている。

 

去る11月3日、32期独立運動関連団体が、「慰安婦」のための祈念館建立に反対する声明文を出した。「戦争と女性のための人権博物館」と称される「慰安婦」のための祈念館は、韓国の「西大門独立公園」内に建設される予定で、ソウル市から建築許可を得たばかりであった。「西大門独立公園」は、植民地時代に、日本に抗して独立運動をしていた方々が拷問を受けた場所で、「民族の聖地」とされているところである。32期独立運動関連団体は、その「民族の聖地」に「慰安婦」の祈念館の建築許可を出したのは「(独立公園内の博物館建設は)独立運動をさげすむことで殉国烈士に対する名誉毀損」と規定した。(『国民日報』(韓国)、2008年11月3日参照)

 

このような韓国国内の動きは、時代に逆流するものであるとしか言いようがない。「慰安婦」問題は、1996年の国連人権委員会の特別報告者ラディカ・クマラスワミ氏の日本政府に対する勧告、1998年に国連人権委員会で受理されたゲイ.J.マクドゥガル氏の報告書などにより、国際的にも女性に対する深刻な人権侵害であったことが知られることになった。米国下院、カナダ、オランダ、ヨーロッパ議会、つい最近は韓国国会でも同様な勧告決議が出された。10月30日には国連の自由人権規約委員会が日本政府に対して、審査報告書及び勧告をだした。その中で「慰安婦」問題に対し、「生存している慰安婦に十分な補償をするための法的・行政的な速やかな措置」と「法的責任を認め、被害者の多数が受け入れられる形で謝罪」を勧告している。このような日本政府への勧告に世界が注目している理由は、「慰安婦」問題が、ただ単に日韓関係に留まらない「女性の人権問題」として世論化されているからである。

 

「光復会」の動きは、時代の逆流であると共に、いわゆる「日本軍に性を奪われた女性」を「恥」として捉える、韓国社会の根強い家父長制や男性中心的な考え方を暴露するものである。「独立運動」をした人々のための「民族の聖地」には、「慰安婦」の人々はふさわしくないというのだから。それ対して、韓国の女性団体・人権団体などが相次ぐ抗議文を出しているが、こういう動きにいち早く反応した日本からの原稿が、11月5日、韓国のハンギョレ新聞に掲載された。中原道子 早稲田大学名誉教授の投稿原稿である。本原稿は、「慰安婦」問題が単に日韓関係の問題ではなく、国際的な人権問題であることを主張した上、次ような言葉で締めくくった。

 

日本軍の性暴力被害をうけた一人一人の女性の苦しみを記憶し、  全世界の戦時性暴力の被害者を悼み、  二度と戦争のない平和世界を祈ります。

 

実はこの締め言葉は、去る9月7日に宮古島に建った日本軍「慰安婦」のための碑文である。2007年、韓国、日本、沖縄、そして、世界各国の人々と協力して沖縄宮古島に「慰安婦」を悼み、その記憶を永遠に未来の世代につたえるために追悼碑「女たちへ・平和を愛する人たちへ」を建立した。そして、上記の碑文を「慰安婦」とされた女性たちの故郷の12の言葉で刻んだ。オーストラリア、中国・台湾、グアム、インドネシア・マレイシア、日本、韓国、ミャンマー、オランダ、タイ、フィリピン、東チモール、ベトナムの言葉である。この運動に参加し中原道子教授は、国際的なメッセジーを、今度は、逆に韓国に発信したのである。

 

本稿では、このような韓国の状況に対して、むしろ、日本からの発信の拠点となっている「宮古島における慰安婦のための碑」の建立過程・除幕式の様子などを伝えることにする。(続く)

 

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<洪ユン伸(ホン・ユンシン)☆ Hong Yun Shin>

韓国ソウル生まれ。韓国の中央大学学士、早稲田大学修士卒業後、早稲田大学アジア太平洋研究科博士課程在学中。学士から博士課程までの専攻は、一貫して「政治学・国際関係学」。関心分野は、政治思想。哲学。安全保障学。フェミニズム批評理論など。現在、「占領とナショナリズムの相互関係―沖縄戦における朝鮮人と住民の関係性を中心に」をテーマに博士論文を執筆中。SGRA会員。

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(2008年12月2日SGRAかわらばんで配信)