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エッセイ157: 韓 京子「秋夕の無料帰省バス」

帰国してもう2年半が経とうとしています。帰国後、留学中の8年間の変化というものを目の当たりにして「浦島太郎」になった気分でしたが、いまだに「ここはどこ?」という心境です。 エッセイを書き始めた頃は、今韓国で流行っているものなどを中心にお伝えしていこうと思っていましたが、なんだかねた切れ気味になってしまいました。そんなところ、キャンパス内で目に入ってきたものがありました。それは「無料帰省バスの運行」についての張り紙でした。

 

もうすぐ(9月14日)韓国は秋夕(旧暦のお盆のようなもの)です。日本ではお盆は夏休み中なのですが、韓国では旧暦ですごすため毎年9月か10月と日にちが違ってきます。今年はいつもよりも早く9月の中旬で、残暑がきびしいため秋の収穫への感謝という感じがうすれてしまった気がします。

 

さて、この秋夕はお正月(旧暦)と合わせて韓国では民族大移動の日となるのですが、お正月と違って秋夕は学期中なので大学の授業は休講となることがしばしばあります。帰省の電車やバスの切符がとりにくく、休日となる前日に帰省し、連休明けの次の日に戻ってきたりするため、帰省する人数の多いクラスは休講となることが多いのです。休講でない場合でも、帰省のためやむなく欠席する学生を出席と認めたりすることもあります。それだけではなく、帰省する切符が買えなかった学生のため無料バス(学校によってはバス代を払う場合もあります)まで運営しています。この帰省バスの運行は学生福祉委員会が毎年行っているようです。無料という魅力の上に同郷の学生と帰省する楽しみまで味わえます。路線によってはお弁当やお土産も出るそうです。こういうことは日本のように交通費の高い国では考えられないことのような気がします。韓国の物価も日本並み(日本以上のものも)に相当上がりましたが、なぜか交通費だけはそれほどでもないため可能なのでしょう。また、日本だと北海道から九州までバスでというと気の遠くなるような距離ですが、韓国は日本ほど国土が長くないということもあるのだと思います。

 

秋夕は前後1日ずつを休みとして3連休となっていますが、運がよければ週末と合わせて5連休にもなります。しかし、今年は誰もが最悪と言うように土日月のたったの3日だけの休みとなりました。しかも土曜日はもともと休みの人も多いので月曜日が休みというだけです。つくづく振り替え休日制度を取り入れてほしいと思います。

 

このご時世、秋夕をめぐる行事もずいぶん簡素化されてきました。秋夕の2週間ほど前に先祖のお墓の雑草を刈る行事があります。今は火葬も増えましたが韓国の一般的なお墓は山や丘の傾斜面に土葬した封墳がほとんどでした。このお墓に芝が植えられているのですが、この時期になると雑草がぼうぼうと生い茂るため、秋夕の前にあらかじめお墓をきれいにしておくのです。これまた地方にあるため週末を利用して帰省して行います。この草刈、親戚一同が集まり一族のお墓全部(ほとんど近くに集まっています)をするため相当な時間と労働力を要します。今は、多くの人が実家を離れて暮らしており、また少子化に伴い家族構成員が減少しているため、実際この草刈をすることは非常に大変なことです。予定した日が雨になることも多く、実際私も(まだ1度しか参加したことはありませんが)ちょうど台風がきていたため大変な経験をしました。そこで現れたのが、草刈代行業者です。帰省する費用より業者さんに頼むほうが安上がりだし、地元の業者なので週末にこだわらずいつでもできるということもあり、最近では大盛況らしいです。

 

数年前から法事の際のご先祖へのお供え物の料理を代行して作ってくれる業者があらわれたり、その料理を持って連休を利用した海外旅行先でご先祖への法事を行う人もいるというニュースを聞いたりしましたが、こうも変わっていいものかと思ってしまいます。

 

このような韓国内のめまぐるしい変化の流れに乗れず、私一人取り残されてしまうような気がします。「浦島太郎」の結末ってどうだったかなと、気になる今日この頃です。

 

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<韓 京子(ハン・キョンジャ)☆ Han Kyoung ja>
韓国徳成女子大学化学科を卒業後、韓国外国語大学で修士号取得。1998年に東京大学人文社会系研究科へ留学、修士・博士号取得。日本の江戸時代の戯曲、特に近松門左衛門の浄瑠璃が専門。現在、徳成女子大学・韓国外国語大学にて非常勤講師。SGRA会員。
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