SGRAかわらばん

エッセイ133:今西淳子「阪神から四川への橋渡し:留学生ネットワークによる災害看護ガイドの緊急翻訳プロジェクト」

1.留学生ネットワーク:SGRA

 

それは成都からの1通のメールで始まりました。5月16日、四川大学華西病院の胡秀英さん(2006年千葉大看護学研究科より博士号を取得、SGRA会員)から届いた「殆どの時間は救急外来で頑張っています。休みの時間は災害看護の知識を翻訳しています。中国は地震医学と看護知識が遅れています。あまり時間がないし、一人の力では弱いので、助けていただければあり難いです。とりあえず、災害現場の看護師をはじめ医療職に配ると役に立つと思います」という依頼を受け、すぐに神戸の理化学研究所の武玉萍さん(2000年に千葉大学医学研究科より博士号を取得、SGRA会員)に連絡して取り纏め役を快諾していただきました。そして、SGRAおよび元渥美奨学生のメーリングリストで翻訳ボランティアを募集。同時に、胡さんから要請のあった「災害発生初期に知っておきたい知識」と「災害復旧・復興期に知っておきたい知識」の翻訳を開始。会員が所属する別のネットワークにも呼びかけていただき、ほどなく38名のボランティアが集まりました。

 

2.災害看護拠点:兵庫県立大学大学院看護学研究科COEプログラム

 

胡秀英さんがこのホームページに辿りついたのは偶然ではありません。地震の翌5月13日には日本の恩師である千葉大学の石垣和子教授にメールで災害看護と災害医学の本と資料を要求しています。教授は、直ちに資料の送付を約束し、また、兵庫県立大学のCOEプログラムが作成管理している「ユビキタス社会における災害看護拠点の形成:命を守る知識と技術の情報館~あの時を忘れないために~」( http://www.coe-cnas.jp/ )を紹介されました。胡さんは直ちに翻訳を始めましたが、休憩時間中にひとりでするには限界があり、SGRAへの呼びかけになりました。一方、兵庫県立大学の災害看護研究班では、震災直後から、従来から掲載していた中長期のケアに加えて、中国で役立つ救急看護情報も集めホームページに掲載をしていました。中国語への翻訳は始まっていたものの中国語のホームページはまだ公開されていませんでした。

 

3.中国語ホームページ

 

5月20日、SGRAの翻訳プロジェクトが軌道に乗ったので、兵庫県立大学地域ケア開発研究所の山本あい子教授に連絡し、留学生ボランティアが行った翻訳原稿をなるべく多くの方々に活用していただくために兵庫県立大学のホームページに掲載していただきたいとお願いしたところ、すぐに、「中・長期的な看護ケアに関しましては、本学のホームページがかなり役立つと考えていますので、翻訳へのご協力は本当に助かります」とのお返事をいただきました。そして、非常にタイミング良く、同日、兵庫県立大学の中国語のページが公開されました。
http://www.coe-cnas.jp/china/index.html

 

その後、中国語版のガイドは、どんどん追加掲載され、地震から2週間後の5月27日には、当初に計画された全ての中国語のPDFファイルが公開されています。今回の翻訳プロジェクトでは、多くの方々の積極的なご協力を得、大変短期間のうちに貢献度の高い活動を行うことができたと思います。震災直後から積極的に活動を続けられている四川大学の胡秀英さんと兵庫県立大学、千葉大学看護学部の先生方に敬意を表し、また武玉萍さんはじめ即座に翻訳ボランティアを志願してくださった方々に御礼申し上げます。

 

4.翻訳ボランティアの皆さん

 

武玉萍、阿不都許庫尓、安然、王偉、王剣宏、
王雪萍、王立彬、王珏、韓珺巧、奇錦峰、
弓莉梅、許丹、胡潔、康路、徐放、
蒋恵玲、銭丹霞、宋剛、孫軍悦、張忠澤、
張長亮、张欢欣、杜夏、包聯群、朴貞姫、
李恩竹、李鋼哲、李成日、陸躍鋒、劉煜、
梁興国、林少陽、麗華、臧俐、趙長祥、
邁麗沙、馮凱、马娇娇

 

5.次のプロジェクト

 

山本先生より「こちらの当初の予想を超えて、速いスピードで状況が変化しています。被害地域の甚大さ、被害者の数の尋常ではない多さから、今後は、日本の保健師さんのような活動が必要となってきます。つまり、避難所や仮設住宅を回り、そこで暮らす人々の健康について、生活面を含めて守っていく看護職です。中国には保健師さんはおられないとのことなので、看護師さんが保健師さんの活動ができるような教育プログラムを作成しています。その内容を中国語に変更していただくことは可能でしょうか?」というメールをいただき、継続してプロジェクトが続いています。今のところ前回ほど大規模な翻訳ではないようですが、日本語から中国語への翻訳ボランティアに興味のある方は、SGRA事務局にご連絡ください。