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エッセイ098:奇 錦峰「中国の大学の現状(その3:学生の質②)」

三番目の特徴は怠け者。“80後”たちは、子どもに家事をさせない家庭で育てられたものが圧倒的に多いから、怠け者になってしまうのは当然だ。大学に入って寮生活をするまで靴下を洗ったこともない人がいっぱいいるそうだ。大学の集団生活(ある意味では独立した生活)を送らなければならなくなったときから、洗濯ぐらいはするはずだろうが、今の学生は全てをコインランドリーに頼る人が多いそうだ。

 

広州の大学城では恐らく8割の人が朝寝坊である。土日はもちろん、平日も! ぎりぎりの時間に起きて、朝食を持って、自転車(宿舎から教室までせいぜい500mなのに、学生の6割が持っている)で飛ぶようなスピードを出して、始業ベルの鳴る前後に教室に入り、一日の勉強は朝食を始めるのと同時にスタート!教師たちにとっては、まるで台所で講義を始める感じだ(プ~ンと美味しい香りがどんどん飛んでくる)。涼しい季節なら、窓を開けて新鮮な空気をいれればいいが、夏は辛いよ!(広州では年間約5ヶ月間はクーラーが必要)—-窓を閉じているから、教室の中は10時ぐらいから変な臭いで一杯—-先ずは口臭(朝食後口をすすがないから)、それに、汗、足……。信じられないでしょう?今の大学のクラスは平均100人、多い場合は200人、どんなに少なくても50人だよ。では、「なぜ注意して止めさせないの?」と思う方もいらっしゃると思う。それは少数の行動ではなくて、半分以上の人がこうしているからです。しかも注意してもほとんど聞いてくれない!だが僕は我慢づよい。毎年、最初と二回目の講義の時、食事する人、遅刻する人に警告する。三回目には追い出すのだ—食事する人は、どうぞ外でごゆっくり!始業のベルが鳴ったらドアをロックしてしまう——これが講義中の飲食、遅刻を止めさせる僕の戦術だ。

 

台湾の柏楊氏が書いた有名な『醜い中国人』という本によれば、中国人が外国人に嫌われる悪いところは、「汚い、混乱、うるさい」という三点だそうだが、今の“80後”たちは更に上回ると思う。教室、食堂……学生のいるところはうるさくてたまらない。また想像してみてください。教室の中の数百人の学生や、食堂の中の数千人の学生が騒いでいる様子を!

 

次に、学問の習得について言わせてもらう。学生の本業は勉強だ。しかし“80後”たちの中には、勉強をさぼっている人が少なくないようだ。これは判断上の間違いかもしれない。というのは、前回すでに述べたように、中国の大学は1990年の後半から毎年募集する学生数を増やしているから、勉強しない人が大学でも増えるのは当然である。日本の言い方で“猫も杓子も大学生”という時代になってしまったのだ。勉強するということ自体は、それほど難しいことではないかもしれないが、誰でも好き、誰でも我慢できるというものでもない。さぼる人のほうが多くなると、本当の努力家が埋もれてしまうので、前に述べたような“判断ミス”が出てしまう恐れが大きい。(そうだったら努力家のみなさんには御免なさい)。

 

コンピューターが普及したためでもあるが、字もよく書けない人がいっぱいいる。半分以上の学生がローンをして勉強しに来ているのに、遊びが多すぎて必要な単位をとれなくて落第することも少なくない。もっとも、真面目に勉強しても卒業後の仕事が見つからないから、今現在の人生を楽しんだほうがマシだと思う人も少なくないようだ。1990年代の大学生と比べ、今は授業中にノートをとる学生が少ない。なぜノートをとらないのか聞いたら、「多分、教科書に全部あるだろう」と答えるのだ。「ないよ」と言ったら、「もう覚えたよ」と……。こんな馬鹿なことにはもう数え切れないほどぶつかっている。本当に冷たくて、何にも無関心、ぼうっとしているやつもけっこういる。

 

学生の質が落ちたもう一つの原因は、学生数が爆発的に増えているから、以前のように教師が一人一人学生の面倒をみることが今や不可能になってしまったことだ。さらに、今の教師の責任感は、一世代前の教師たちと比べると落ちている(すでに述べたように今は社会全体のモラルが滅びてしまった時代だ)。勿論、勤勉な学生だって多いのだが、こういう努力家は学問的には問題ないようだが性格が弱い。これは前に述べたように、両親と4人の祖父母からの溺愛の世界で育ってきたからで、例えば、人と付き合いにくい、団体行動がとれない……。

 

以上は人類社会が21世紀の間、たくさん苦労して歩んできた今の時代に、中国大陸でしか見られない現象だと思う。よその国の新人類も親の世代と合わないということは、もちろん沢山あるだろうけど、中国の“80後”ほどではないと僕は確信する。つい最近、11月末の中国広東省の地方紙(<南方日報>、<広州日報>等)には、指名手配の犯人が百名(本当に丁度この数字なのか?)があった!!!新聞に写真付きの“指名手配令”を載せるということは、僕にとっては初めて経験したことだ。しかも、ほとんどが“80後”だった!広東省(省というのは中国の一級行政地区で31個ある)という狭い範囲なのに、逃げている犯人がこれほどいるということだから、刑務所はどれほど犯人で一杯か想像できますか?

 

今の中国の大学生が全部、上述したような駄目なやつばかりというのは言い過ぎかもしれないけど、真面目な人が段々減っているのは事実だ。“大学(本科)の「名誉」(証書)、専科の「レベル」、専門学校の「能力」、中学校の「考え方」、小学校の「性格」”という言い方が一時はやっていたことを思い出すと、一体“80後”世代のどこが我々と我々以前の世代と共通なのか、僕はいつも迷ってしまうし、またこの世代がこの国をどのようにしていくのかひどく心配してしまう。だが、海外へ留学している若者たちの大半は本当に人間らしい正常な教育(人徳と知識)を受けて育てられていると僕は期待している。
(つづく)

 

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<奇 錦峰(キ・キンホウ) ☆ Qi Jinfeng>
内モンゴル出身。2002年東京医科歯科大学より医学博士号を取得。専門は現代薬理学、現在は中国広州中医薬大学の薬理学教授。SGRA研究員。
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