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エッセイ097:奇 錦峰「中国の大学の現状(その2:学生の質①)」

前回、近年の中国の大学生数の爆発的な増加を紹介した。今回は、現在の1623万人の在校生を含めた近年の大学生及び卒業生の基本的な「質」について言わせてもらう。この世代は、1980年に中央政府が産児制限—つまり“ワンカップルが一人の子供を生む”という政策—いわゆる「一人っ子政策」を実行してから生まれた。そこで、中国では、この世代を“80後”(バーシーホウ)と通称している。人間を評価するには、どこでも、まずその人の基本的な「質」、つまり人柄と能力から始めるだろう。それでは、この非常に特殊な“80後”世代の人柄や学問習得能力はいかがだろうか。

 

“80後”たちは、生まれたその瞬間から、二人の両親と四人の祖父ちゃんと祖母ちゃんに注目され、愛されて育てられた貴重な“後人”である。赤ちゃんから、幼稚園、小学校、中学校、高校それから大学までず~っと愛ばかり—もしくは過剰な愛(溺愛)をいただきながら人生を渡ってきた人たちである。愛を余分にもらうのはその人の好運だろうけれど、こんな環境で育った“80後”が奇形に成長してしまうのは当たり前ではないだろうか。こういう連中は、親及び周りの人々から愛情溢れる世話をしてもらいながら大人になった為、世の中には“他人がいる” “他もある”という常識は全然知らないようなのだ!エゴイズム、我がまま、怠け物、冷たい、厭人癖、善悪知らず—言わば信用できない人が多い。これは現在の中国の大学の在校生を含む大半の“80後”たちの人柄で、一般の人々が抱く彼らに対するイメージ、想像を遥かに超えてしまっているはずだ。

 

第一の特徴は、自己中心、我がまま、エゴイズム。“80後”世代の価値観、誇りと恥の感覚は、我々の世帯とは大分違う。自分の価値、自己実現などを強調する彼らの意識の中に“自分”以外誰もいない—他人は勿論、親のことも同じだ!ここで、たくさんの苦しい親たちのことを言わせてもらおう。中国の大学生は一つの特殊かつ重要な市場になっていると市場の分析者たちが言う。調査によると、この世代はIT等新技術の電子電化製品、化粧品、ファッション、特にブランド製品を買うのが癖になってしまっているそうで、間違いなくこの癖がこの連中たちの将来の消費習慣にも強く影響を与える。特に大学三年生や四年生になると化粧品及び服装品の消費が“噴水みたいに急に上がってくる”そうだ。この市場が2010年には3000万元になると推測されている。(2006年6月の<Asian Times>及び<Global Times>の調査による)。

 

中国のどの大学のまわりにも、いろんな店がずらっと並んでいて、1623万人の大学生が恐らく50万人の自営業者を養っているのではないだろうかと上述の分析者たちが言う。だがこのお金は自分で稼いだものではない。労働力が余っているから、中国の大学生はアルバイトをするチャンスはあまりない。つまりこのお金は親からもらうのだ。経済が遅れている地域の学生も、親が失業した(この国では「仕事場のポジションから降りてきた」と言う)家庭の子どもも、もちろん豊かな家庭の子どもも、できるだけ高級な消費財を使っている。パソコン、携帯電話、MP3 (或いはMP4)この三つが今の大学生の“日常必需品”になってしまったが、ごく“普通”のこれらの商品を買うのにも、一般の家庭収入の二ヶ月分は必要だ(これらを持っていない学生がいるかな?)。

 

ではこれらのものを何に活用していると思いますか?調査で分かったのは、パソコンは基本的にインターネット、MP3 、MP4 は音楽、映画、携帯電話は同じ建物の違う部屋からか、隣の建物からの連絡及びお喋り、恋人同士の終わらない愛……。忘れないで!中国大陸全土の大学はほとんど全寮制だよ!特に広州大学城の場合、各宿舎の各部屋(4人~6人で共有)には内線電話が付いているのに!信じられますか?—遠い町或いは田舎で自分の為に苦しく辛い生活を送っている親には、電話をかけて挨拶をする人が少ない。電話をするとしても、お金が欲しいときだ!なんて酷いことだ。親の苦労(お金を稼ぐため)、悩み(子供の勉強のための借金)、ひいては健康状態(彼らの親たちは1960年ぐらいの生まれの人が多い—もう中壮年で健康に問題がでてくる)を気にする人は何人いるのか。子供のときから贅沢な生活を送ってきたから、物を大事にする、節約するということをまず知らない、日常用品は頻繁に新品に交換し、浪費は驚くほどだ。学生の話によると日常用品をちょっと長く使うと周りの人にあざ笑われるそうだ。何でも使い捨てぐらいにすればその人はクールだ!

 

第二の特徴は、礼儀正しく行動しないこと。全社会のモラルが滅びつつある現在、大学生の中でもルールを守ることを大事にしない人がだんだん増えている。いつも好きなように行動する人は少数ではない。例えば、遅刻することを全然気にしない、授業中はものを食べたり、勝手に出入りしたりして、大学の教室なのにまるでレストランに出入りしているように自由自在だ。試験中のカンニング、それから性開放(時間単位の部屋—日本のラブホテルにあたる)ひいては同性愛もあるそうだ。“ネット時代”及び“グローバル化”の現在、中国の伝統文化に合わないエログロ、セックス(中国のYAHOOに「大学生、コンドーム」を入力して検索してごらん!)、株、商売など、昔の大学生の中では聞いたこともないことが、今の“80後”世代ではしょっちゅう見られることらしい。数年前から官庁の衛生部門が大学生たちにコンドームを無料で配っていること、コンドームの自動販売機をキャンパスのどこかに設置していることなどから、今の学生がどうなっているのか想像できるのではないだろうか。

 

もう一つ困った例を言わせてもらおう。広州の大学城は中国ではもちろん、恐らく世界でもナンバーワンの大学都市だと思う。珠江という川の中にある“小谷囲”という43.3平方キロの島に、大学10校、約40万人の大学生が勉強、研究および生活をしており、この10校の大学の教職員たちが市内の元のキャンパスにある職員寮からバス、地下鉄あるいは自家用車で通っている。大学城の中の道路は、20キロ離れている広州市の中心部と比べられないほど空いているけれど、2年前にオープンしてから交通事故が何回も発生し、車に轢かれた学生も数人あった。なぜだろう?“80後”たちが交通ルールを守らないからだ!大学城での交通事故は、100パーセント学生の責任。信号が赤なのに平気で歩くからだ。広州の大学城は楕円形の島で、全10校すべて、真ん中が生活エリアで、教室、研究室および実験室等はすべて周辺に位置している。授業が終わって、宿舎、食堂に行くのには必ず島の中の二本ある環状道路を横断するのだが、横断歩道橋と隋道(トンネル)があってもそれを利用する人は、ほ~んとうに一人もいない!!!

 

想像してください!前回、授業の終了後の階段の様子を書いたけど、今度は万単位の大学生がワーと道路を横切る“景色”!警察も困って、学生たちの集団信号無視行動にギブアップして、最近ラッシュアワーには車両を外環の道路(これが島の一番端にあり、三本目の大通りだ)を利用するよう交通制限を始めた。交通ルールを守らないのは中国でごく普通に見えることだが、21世紀の大学生なのに親の時代と同様に交通信号を無視するというのは、自分の身分に合わない“時代遅れ”の行動なのではないだろうか?
(つづく)
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<奇 錦峰(キ・キンホウ) ☆ Qi Jinfeng>
内モンゴル出身。2002年東京医科歯科大学より医学博士号を取得。専門は現代薬理学、現在は中国広州中医薬大学の薬理学教授。SGRA研究員。
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