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エッセイ093:範 建亭「上海の日本人コミュニティー」

中国の最大都市である上海は、今やアジア有数の国際都市でもある。経済の発展とともに、上海に住む外国人は爆発的に増加している。上海の統計データを見ると、12万人ぐらいの外国人が長期滞在しており、中でも日本人は約3万人で一番多くなっている。また、外務省の「平成16年の海外在留邦人数調査統計」によると、上海の長期滞在邦人数は3万4千人で、世界の都市ではニューヨーク、ロサンゼルスに次いで第3位となっている。

 

しかしながら、実際に上海に住む日本人の数は統計データを遥かに超えている。出張や旅行といった流動人口を含めると、常時10万人程度の日本人が上海にいると言われている。上海は常住人口1800万人の大都会であることを考えると、日本人が10万人と言ってもたいした存在ではない。だが、上海在住の日本人は群れて住んでいるから、結構目立っている存在であり、中国最大の日本人コミュニティーを形成しつつある。

 

在上海の日本人は主に三つのエリアに住んでいる。最も集中しているのは市内西部の虹橋エリアと古北エリアである。虹橋エリアには日本領事館があり、日系企業も沢山集まっている。古北エリアは虹橋エリアのすぐそばであるが、そこは主に日本人が生活する場所であるから、日本人向けの賃貸マンション、スーパーやレストランなどが非常に多い。日本人学校もこのエリアにある。

 

もう一つは浦東エリアである。浦東は市中心部より黄浦江を隔てている地域であるが、この十数年間で急速な発展を遂げ、中国を代表する金融街や開発区が形成されている。そのため、近年、浦東に住む日本人も急速に増えている。上海にある二番目の日本人学校は浦東エリアにあり、2006年に開校されたばかり。ちなみに、二つの上海日本人学校の児童・生徒数は2500名を超えており、世界一の日本人学校となっている。それは、上海の生活条件の向上に伴い、家族帯同の在留邦人が急増しているということを反映している。

 

日本人が集中的に住んでいるエリアは、異国を感じさせない「ミニ日本」のようにみえる。日本料理店なら寿司、焼肉、カレー、とんかつ、うなぎ等々、何でも揃っているうえに味も結構いける。また、日本の食材を売るスーパー、日本人向けのパン屋、美容院、マッサージ屋などがあちこちにある。飲み屋、クラブなども少なくない。上海生まれ育ちの私も古北エリアにいくと、これは本当に同じ上海の光景なのかと目を疑うほどである。

 

日本人は群れて住んでいるから、それらのエリアには日本人入居率がほぼ100%を占める賃貸マンションが沢山ある。私はたまにそのエリアの日本料理店で食事するが、日本人が住んでいるマンションには入ったことがない。だが、私の妻はいま家庭教師として日本人(主に現地駐在員の奥様)を相手に中国語を教えているから、彼女からいろいろな話を聞いて、その住宅地の様子が大体分かるようになった。

 

日本人向けの賃貸マンションはほとんど高級住宅地に立地され、日本料理店やコンビニ、幼稚園などが併設されているものも珍しくない。入り口の受付や警備員といったスタッフは全員中国人だが、みんな日本語ができ、挨拶も非常に丁寧である。夕方になると、たくさんの日本人の子供たちがロビーで走ったり、遊んだりしている。そこに入ったら、いつも「まるで日本だ」と思うと妻は言う。

 

日本人向けの施設や環境が整っているため、上海に長期滞在しても日本に居るのとあまり変わらない生活を送ることができる。あまりの便利さと住み心地のよさで、逆に日本に戻りたがらないという話もよく聞く。

 

私の留学生仲間の一人は、3年前会社の派遣で日本から上海に駐在するとき、一番の悩みは日本人の妻と娘3人が一緒についてきてくれないことであった。やっと駐在の2年目に上海で一家の団欒を実現したが、3年の任期を終える段階でそろそろ本社に戻る時期がやってきた時、今度の悩みはなんと妻と娘たちがあまり戻りたくないことである。原因は上海での生活は、日本以上に住みやすく、生活水準も高いからだという。

 

整備されつつある上海の生活環境は、日本人の海外生活での不安を和らげるができ、とてもいいことだ。しかしその一方で、異国のことを常に意識して、地元の人との交流も深めるべきではないだろうかと思う。

 

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<範建亭(はん・けんてい ☆ Fan Jianting)>
2003年一橋大学経済学研究科より博士号を取得。現在、上海財経大学国際工商管理学院助教授。 SGRA研究員。専門分野は産業経済、国際経済。2004年に「中国の産業発展と国際分業」を風行社から出版。
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