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エッセイ071:範 建亭 「『数字』の迷信」

7月の上海は梅雨の時期なので、雨が多いが、かなり蒸し暑い。ある日の昼間に、私はいつもどおり自宅の書斎で研究に熱中していたところ、パーンと突然の爆竹に驚かされた。その爆竹は、ビルの10階ほどの高さまで飛んできたのだから、目の前で聞こえたその音は非常に大きかった。中国では、新年、結婚や引越しなどのようにおめでたい事があるとき、爆竹を鳴らして、邪気や悪気を祓い財や福を呼び込むという慣習がある。関係者以外の人にとって、普段静かな住宅地で突然、何の予兆もない爆竹音に驚愕させられることは少なくない。その時、中国で生きるには、心臓が強くないと酷い目に遭うだろうといつも思う。

 

だが、その後も遠いところから何回かの爆竹音が聞こえたため、この日の出来事はちょっと不思議だと思った。なぜかいうと、雨天に爆竹を鳴らす人はあまりいないからだ。夜のニュースを見るとなるほどと事情がよくわかった。この日は7月7日であったため、雨にもかかわらず結婚するカップルが普段より多かったという。2007年7月7日というめったにない吉日だから、中国だけでなく、海外でも結婚ラッシュが続いたようだ。西洋では、「7」はラッキーセブンとして吉の数字だとされることが多い。カジノのスロットマシーンやブラックジャックでは、「777」は幸運の数字であるように、それが並ぶ日も当然縁起のよい日だとされる。

 

ところが、中国では最も縁起のよい数字は「7」ではなく「8」だ。それは、「8」の発音が發(ファー)という音に通じるので、「發財(お金が儲かる)」と言う意味で「8」が好まれるわけだ。逆に「4」は“死”の発音に結び付けられるから不吉の数字とされており、車のナンバーなどには避けられている。その点は日本においても同様であり、「4」が嫌われることは周知の通り。病院などの階数や部屋数に「4」を付けないのが一般的である。刑務所さえ、それを付けることを嫌うという。さらに、14と24はそれぞれ「重死(じゅうし)」「二重死(にじゅうし)」と同じ発音であるからタブー視されている。

 

また、日本では「9」も「苦」の連想があるので、「4」についで嫌われる。だが、中国では「9」が「久(長い)」などの意味で縁起のよい数字とされている。このように、中国人の数字の好き嫌いは日本人と随分違うし、その他の国とも異なっている。数字は本来世界に共通する「言葉」で象徴的な意味を持ってないはずであるが、それにまつわる迷信の意味を含まれると、国によって人々に歓迎される、されない数字と二分化してしまう。その理由は単なる語呂合わせであり、その他の科学的や合理的根拠は一切ないと誰もわかるが、数字に対する人間の「こだわり」には実に根深いものがある。

 

中国では八の数字は大変縁起ものだから、究極の数となっている。電話番号から住所、部屋番号、車のナンバーなどまで、なんでもそれを選ぶ傾向がある。それが個人の生活範囲を超えて、政府の行動にも捉えられる。来年の夏季オリンピックは北京で開催されることになっているが、開幕式の時間はなんと2008年8月8日午後8時であるから、魔法の数字だ。それ以上に縁起のよい時間帯はもうないだろう。

 

数字に深い感情色彩を付け加えることは可笑しいが、回りの皆さんがそれに従うと、信じないより信じたほうが心強くなるに違いない。だから時代が進歩しても、数字の迷信はまったく変わらない。その関連で妄想すると、4444年4月4日という日に、中国と日本は大変な社会的混乱が生じるだろうか。さらに、7777年7月7日、または8888年8月8日には、世界そして中国は何が起こるかも全然想像できない。

 

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<範建亭(はん・けんてい☆Fan Jianting)>
2003年一橋大学経済学研究科より博士号を取得。現在、上海財経大学国際工商管理学院助教授。 SGRA研究員。専門分野は産業経済、国際経済。2004年に「中国の産業発展と国際分業」を風行社から出版。
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