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エッセイ065:葉 文昌 「台湾通勤電車における車内行為に関する一研究」

日本の通勤電車では新聞、雑誌、本を読む人や、情報端末(携帯電話)を操作する人が台湾と比べて多い印象が僕にはある。本といっても専門書から大衆雑誌まで、ピンからきりまであるが、例え大衆雑誌と言えども、それは情報であって脳に刺激を与えていることには変りないので、国民教養レベルの底上げに繋がると思っている。携帯インターネット情報も同じことが言えるであろう。

 

したがって、一国の通勤電車の車内行為を見れば、その国の社会人の知識レベル、更には情報化度を見ることができる。そこで今回、台湾通勤通学族の通勤電車内での時間の有効利用について調べてみた。調査地は台北通勤電車の淡水線、時間は午前9時半と午後6時半の各一回、であった。サンプル人数はそれぞれ170と221人、全車両内の座っている人に絞った。

 

その結果、車内行動は1.只座る 2.うたた寝 3.読書 4.新聞 5.おしゃべり 6.電話 7.電話メールとネット 8.電話ゲーム 9.化粧に分けることができた。また、台湾では老若限らず仏経をブツブツ読む人が多く、今回の調査でも1、2人いたが、思考の刺激になってないので3.読書よりも、1.只座るに分類した。漫画については、表現方法が活字から絵画に変っただけで、思考に刺激を与えることには本と変りはないので、3.読書に分類した。

 

結果は下記に示す通りとなった。

 

 座 寝 読書 新聞 喋り 電話 メール ゲーム 化粧
朝 54% 16% 13% 6%  6%  2%  0.6%  0%   2%
夕 40% 31%  9% 4%  9%  5%  0.5%  1%   0%

 

朝、夕時に只座る人と寝る人が合わせて70%と71%と同程度であるが、寝る人は朝が16%であるのに対して夕は2倍の31%に増えた。やはり台北でもサラリーマンは仕事に疲れているのであろうか。

 

続いて読書と新聞のような知的活動だが、朝は合わせて19%であるのに対し、夕方では13%と減った。その代わりお喋りと電話している人数が合わせて8%から14%に増えた。夕方では友人と同伴して帰宅する人が多くなる結果であろう。ところで台湾ではどのような書物が好まれているかを紹介しよう。日本で電車でよく見られる書物に週刊誌があるが、台湾では週刊誌は少なく、ジャンルも限られている。人口が日本の1/5程度だからだ。その上、例えば台湾ビジネスウィークの値段は80元〔280円〕であり、これは台湾におけるバイトの時給である。一方で日本では週刊誌はバイト時給の1/2である。これがおそらく台湾で雑誌を読む人が日本ほどない原因であろう。台湾では読書対象は多くが小説、ビジネス書と試験勉強であった。また新聞については、最近は無料の新聞が配られており、読まれた新聞の半分はこのような新聞であった。台湾の無料新聞の質がどうであれ、レベルの底上げには繋がっているであろう。情報は国民レベル向上の視点から、公費を使ってまでも安くしてもらいたいものである。

 

最後はメールとネットである。朝夕ともに1%未満であった。これはおそらく日本と比べると遥かに少ない。台湾では携帯のショートメールは使うが、Eメールの使用は殆どない。またちょっと前に携帯電話で写真を撮って他人に送ったことがあるが、相手にインターネットでダウンロードしないと見れないと言われた。電子技術を楽しむよりも、”カメラ付き”、”300万画素”、”大画面液晶”の面子的なもので携帯を買っているようだ。台湾の若者は台湾メディアの影響でX世代(考え方が新しくて得体が知れないという意味でつけられた)との自意識が高い割には実際の新技術適応力は日本と比べると低いのが悲しい。因みに携帯をいじる人は少なくないものの、一部はゲーム遊びである。

 

以上が台湾の通勤電車の車内行為の調査結果であった。残念ながら日本との比較調査はできないが、それは日本に限らず世界各国の読者の皆さんが通勤電車に乗って人間観察しながらこの台湾の状況と比較してみればよい。案外そこから国民意識の全体像が見えるかもしれない。

 

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葉 文昌(よう・ぶんしょう ☆ Yeh Wenchuang)
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2000年に東京工業大学工学より博士号を取得。現在は国立台湾科技大学電子工学科の助理教授で、薄膜半導体デバイスについて研究をしている。
自慢はデバイスを作る薄膜堆積設備の大半を手作りで作ったことである。
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