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エッセイ062:太田美行 「『気づき』から理解のための『アクション』へ」

これまで留学生の友人や、仕事の上で日本に住んでいる外国人とたくさん交流してきた。だからちょっとやそっとのことでは驚かないつもりでいたけれど、どっぷりと仕事でお付き合いするとやはり「違い」の壁にぶつかってしまう。

 

シンクタンク、日本語教育業界を経て、昨年まで日本にあるヨーロッパの会社で働いていた。普通におしゃべりをしたり、友達づきあいをしていれば問題ないが、日々の業務の中ではこの「違い」が誤解等を生んでいたように思う。

 

具体例を挙げよう。「私の知っている日本」(日本人全員とは言いません)では部下の信用を得るには、朝早くに来て皆と一緒に働きながら一体感や信頼を作ってくというモデルがあるように思う。それが部下やチームとの信頼構築へのプロセスとして機能する。一方でそうではない考えを人々もいる。「マネージャーの仕事をする」と主張する考え方だ。「指示をすること」に重点を置いており、皆がどうすべきなのかというプランの部分に力を注ぐ。例えば、マネージャーは何をすべきか部下に指示しておいて自分は早く退社したり、長期休暇を取ったりする。

 

どちらか一方が良くて他方が悪いということをいうことではない。ここで言いたいのはその考え方の違いが、どういう反応を生むかだ。一方からは「現場の実態を知らないのに指示だけ出している」「私たちの気持ちをわかろうとしない」という思いを抱かせ、もう一方は「なぜ自分の言うことに従ってくれないのだろう?」といらつきを感じさせる。どちらも悩む。双方とも「国が違うから考え方も違う」とは思っているのだろう。しかし仕事のスタイルに対する考え方の違いが日常の中で生む、こうしたささやかではあるが後に大きな誤解を生むであろう違いが「なぜ」なのか、なかなか踏み込んで原因究明するまでは至っていないようだ。だからとても単純なことが原因でもそれが見えず、感情的なわだかまりを残してしまうことがある。

 

特に日本語を話せる人に対しては、そのすれ違いの度合いが深い。「言葉が話せる=やり方を理解している」との先入観があるからだ。そしてその先入観は多くの場合、全くの無意識である。

 

例えば逆のパターンで、英語を話す日本人(私)の例をあげよう。私は英語をある程度話すことができる。だから外国人上司とのコミュニケーションは全く問題ないかというと、そんなことはない。なぜなら私の英語は日本でラジオの英会話番組で覚えたものが中心で、実践を在日外国人相手にしていたため、主張のタイミングや方法などが欧米流とは違っており、言葉以外の部分で苦労することが多い。そして私の上司や他の外国人マネージャーも苦労していただろう。日本語の論理構成を使って、英語で話していたのだから。

 

こうした問題を解消するにはどうしたらいいのか私なりに考えてみた。結論は極めて単純で、異文化理解のワークショップを定期的に開くというものだ。特定の文化について「この国の人はこう考えます」という講義型のものではなく、参加型のもので「○○○の時にはどうしますか?」という質問に答えさせていき、一通り答えが出揃ったら今度は「それはどうしてですか?」「なぜそう考えるのですか?」と聞いて発想の違いを浮き上がらせるワークショップだ。特定の文化理解を深める場合もあるだろうが、「違い」にぶつかった時に「なぜ?」につなげる。とても単純なものだが意外と面白く、違いを浮き上がらせていけそうな気がする。参加者はきっと「この人はこんな発想のしかたを持っていたのだ」と驚くに違いない。そして違いに気づくことから更に「ではどうする?」と、次のアクションに繋げるのがこのワークショップの目的だ。その事がわかれば、何かを説明するときにでも説明のしかたが変わってくるだろう。欧米の人はこうしたワークショップに慣れているだろうが、日本を初めアジア諸国ではまだ少ないので、やる価値はあると思う。

 

本当はこうした異文化理解ワークショップを学生時代にやるべきだと思う。現在の大学では留学生との交流サークルなどで行っているのだろうが、もう社会人になった人たちには会社内でぜひやって欲しい。外国人の多い職場の人は経験からこうした考え方の違いを感じ、自分なりの分析をしているようだが、多くの日本人にはそこまでの経験はまだない。個人の経験の積み重ねがそれぞれあるなら、それを繋げていくことでもっと大きな結果が得られるのではないだろうか。

 

日本で学んでいる留学生、元留学生の皆さんも「表面的な違い」をみつけるだけではなく、ぜひその次の「なぜ?」にまでいって問題を掘り下げ、その奥にある「考え方の違い」を見つけて欲しい。そして得られたものを共有して欲しい。それだけでは問題解決にはならないかもしれないが、テレビから流れる異文化間の衝突のニュースを聞くたびに、そして日本人、外国人の同僚の、ため息交じりのつぶやきを聞くたびに心からそう思う。

 

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太田美行☆おおた・みゆき
1973年東京都出身。中央大学大学院 総合政策研究科修士課程修了。シンクタンク、日本語教育、流通業を経て現在都内にある経営・事業戦略コンサルティング会社に勤務。著作に「多文化社会に向けたハードとソフトの動き」桂木隆夫(編)『ことばと共生』第8章(三元社)2003年。
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