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エッセイ052:キン・マウン・トウエ 「ティンジャン:ミャンマーの水掛祭」

ミャンマーには雨季と乾季、それに夏の三つの季節があります。3月下旬あるいは4月になって暖かい風が吹き、落ち葉があちらこちらに溜まり始めると、暑い夏がやってきます。夏と言えば、ミャンマーの人たちにとってのお正月である「ティンジャン(水掛祭)」が一年中で最も楽しい時だと言えるでしょう。

 

ティンジャンは、ミャンマー式の12ヶ月カレンダーのはじめの月に行われます。4日間連続で、民族や宗教に関係なく、皆が祝う一番楽しい最大のお祭りです。「過ぎ去った年の(良くなかった)ことは水に流して新年を迎えよう」という意味がある伝統的なお祭りです。この水掛祭は、11~12世紀ごろのバガン王朝時代から残っていると記録されています。このお祭りは、ミャンマーだけではなく、タイやインドなどにもあり、東南アジアでは有名なお祭りの一つでしょう。

 

ティンジャンの4日間を説明します。1日目は、「ティンジャンを迎える日」と呼ばれ、ミャンマー全国で開会式などが行われます。ほぼ毎年、4月13日です。その日から水の掛けあいがスタートします。基本的に昼間は水を掛けあう遊び、夜は街の様々なところで踊りが見られます。2日目と3日目も同様です。最後の日である4日目は、「ティンジャンの終わる日」と呼ばれています。一年に一回しかないお祭りなので、この4日間は、若者たちが一番楽しみます。

 

時代の流れにのって、ティンジャンの風景も変わってきています。昔のティンジャンは、自分の両親や先生、友人たちなどに、花などを器にして水を掛けるという伝統的な習慣でした。現在は、グループ化して、ステージから水を掛けたり、オープンカーなどで遊んだりしており、昔の風景がだんだんなくなっていきます。一日中水を掛けて遊んでも、風邪をひかないことがこのティンジャンの特徴です。私も若い頃、この4日間は家に戻らずに遊んでいました。あの楽しさは、今でも忘れられません。

 

年輩の方々は、この4日間の豊かな時間を利用して、お寺(バゴダ)へ行くことが多いです。最近は、若い人たちも自分の来世のためにと、お寺(バゴダ)へ行くことが多くなってきています。この4日間、一部の人たちは、持ち米で作る日本のお団子のような食べ物や、ココナッツゼリーなどを作り、誰にでも食べさせますが、これもこのお祭りの一つのイメージです。

 

年一回しか見られない桜花のような黄色いパドク(Padouk:Gunkiro flower)と呼ばれる花もこのティンジャンのイメージです。

 

ティンジャンが終わったら、新年が始まります。元旦には、今まで街で遊びまわっていた若者をはじめとして、ほとんどの人々がお寺(バゴダ)へ行き、お祈りをします。ミャンマーの新年の朝はお祈りから始まります。バゴダに立ち寄り、仏に手を合わせ、真心で新年の幸をお祈りします。仏教が生活の中に息づくミャンマーでは、祈ることは生きることそのものなのです。

 

元旦に、若者が年輩の方々の頭髪を洗ってあげたり、様々なお世話をしたりすることも、ミャンマーの水掛祭の伝統です。また、両親や先生方、自分がお世話なってきた人々を表敬訪問することも、まだ広く行われています。このようなことは、時代の流れによってティンジャンの風景が変わっても、未だによく見られる、仏教国ミャンマーのお正月の風景です。

 

今年のミャンマーのティンジャンも例年と変わらず、4月13日から16日まで行われ、17日が元旦です。今年の私の予定としては、この豊かな時間を家族とお寺(バゴダ)へ行くことができるのか、まもなく完成する弊社の新食品工場設備設置のために来られる日本の技術者の方々と仕事になるか、今のところ、可能性は半々です。

 

ティンジャンを撮影した後藤修身氏の写真を下記URLよりご参照下さい。
http://www.ayeyarwady.com/photo/tingyan/tingyan.htm

 

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キン・マウン・トウエ(Khin Maung Htwe)
ミャンマーのマンダレー大学理学部応用物理学科を卒業後、1988年に日本へ留学、千葉大学工学部画像工学科研究生終了、東京工芸大学大学院工学研究科画像工学専攻修士、早稲田大学大学院工学研究科物理および応用物理学専攻博士、順天堂大学医学部眼科学科研究生終了、早稲田大学工学部物理および応用物理学科助手を経て、現在は、Ocean Resources Production Co., Ltd. 社長(在ヤンゴン)。SGRA会員。
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