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エッセイ050:葉 文昌 「台湾版テレビ番組捏造事件」

最近日本では関西テレビのあるある大事典での偽造が発覚し、社長の辞任にまで発展した。これほどまでに世論の力が強いことは羨ましい限りだった。台湾の番組は台湾製品のように粗末で且つ新味がないばかりでなく、偽造も日常茶飯事のように行われていたのだ。ところが、日本の事件の影響か、台湾でも変化が起きはじめたようだ。

 

台湾でのこれまでの映像の偽造については、例えば「中国時報」という新聞で指摘されているように、テレビ会社は次のように現場に指図するようだ。「土石流がない?昔の映像を使え」。「強盗の映像がない?とにかく夜のニュースまでに映像を作れ」。これまでも、洪水に関する報道で、レポーターが膝までの洪水を、撮影時だけ座って上半身まで浸っているように見せている滑稽な映像が、インターネットを通じて流されたこともあった。これではニュースなのか茶番劇なのか見分けがつかないので、私はもうテレビは見ないことにした。

 

しかし先週、台湾の世論もまんざらではないと思える出来事が起きた。それは大手テレビ局のTVBS社が、銃撃指名手配者が机にライフル銃等4丁を並べ、対抗する暴力団を威嚇する映像を、一大スクープとしてニュースに流したことから始まった。TVBS社によれば手配者が威嚇相手に送ったビデオを入手したとのことだった。この映像に世論は仰天し、「テレビ局は暴力団の威嚇を肩代わりしていいのか」とTVBSは非難の嵐にさらされた。

 

そして、暴力団抗争勃発の懸念から警察が動き出した。その後、事件は急転回する。この映像は入手したビデオではなくTVBS記者が暴力団員に要請されて撮った映像であることが判明した。すなわちビデオを入手したのではなく、自ら脅迫ビデオの作製に加担したことになる。TVBS社の上層部は知らなかったとして記者を解雇した。しかし現場担当者だけを解雇しただけで収まるはずはない。その後、台湾でメディアを管理・処罰する国家通訊伝播委員会(NCC)は200万元の罰金と、社長と副社長の辞任を命じた。またビデオの主人公も裏表両社会から追跡令を受けた挙句に警察に逮捕され、実はおもちゃだった「銃器」4丁が押収された。これで社会事件としての様相は収拾に向かいつつあるようだ(注)。

 

この件で、台湾のメディアは、あまりにも視聴率にこだわりすぎたあまりにショッキングな映像の追求に汲汲となってしまったと反省しているようだ。また事件の検証はしっかりするべきで、このようなスクープを濫発すべきではないという呼びかけも行われている。この件により、長い目で見れば、遅れている社会でも向上していることを実感した。台湾の国民としてはうれしい限りである。三日坊主でないことを望んでいる。

 

(注)この事件は、最近は政治色を呈するようにもなっている。国家通訊伝播委員会(NCC)は行政院管轄下ではなく、野党が過半を占める国会が設立させた独立機関である。TVBSは国民党寄りとされるメディアであり、立場的には野党の候補を支持し、また事ある毎に政権批判をしてきた。この事件で与党は厳罰をNCCに望むが、野党はそれを望まない。最初NCCはTVBS社に最大3日間の放送停止をするとしていたが、結局は罰金200万元という軽い罰が発表された。しかし世論のせいかその後一転して社長等上層部の辞任を命じた。この罰が重いかどうかは別として、NCCが一会社の人事にまで口出しするのもおかしな話である。残念なことではあるが、あらゆる問題が政治問題に発展すれば是も非もない。これが台湾の現状なのである。

 

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葉 文昌(よう・ぶんしょう ☆ Yeh Wenchuang)
SGRA「環境とエネルギー」研究チーム研究員。2000年に東京工業大学工学より博士号を取得。現在は国立台湾科技大学電子工学科の助理教授で、薄膜半導体デバイスについて研究をしている。自慢はデバイスを作る薄膜堆積設備の大半を手作りで作ったことである。
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