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エッセイ047:江 蘇蘇 「Culture Difference と Generation Gap の狭間(1)」

この時代にもなれば、ほとんどの人がカルチャーショックを受けたことがあると思う。公の場で平気でキスをする欧米人カップル、どこででも大声を出して喧嘩するアジア人(日本人を除く)、電車の中で眠くなくてもとりあえず目をつぶって下を向いている日本人。初めてこういった状況に出会った時の戸惑いや驚きも、時間が経てば空気のように感じる。そして上級者となればむしろそんな文化を自分で実践してしまう。キスをしているカップルがいたら目のやり場に困っていたのに今は自分たちでも駅の改札でしてみたり、彼女が文句を言いながらその場を立ち去るところを彼氏が後から追いかけたり、電車に乗っている時間が貴重だと思い一生懸命人間観察に励んでいた私も、周りが寝ていて観察の収穫がないからなのか、12時間睡眠した直後でも平気で眠りについてしまう。人間の順応性は素晴らしいと思う。

 

しかし、そんな私でも理解し難いこともある。まず、友達づきあいである。中国では仲良くなったら女の子は腕を組んだり、手をつないだりしてスキンシップを取って「友情表現」をする。そんな環境に慣れた私は日本人の友達の腕に触れただけで、「あ、ごめん」と謝られてしまう。Culture Shock!日本に来て一週間でこの日本文化を習得し、自分を抑制しながら生きてきたが、どうやら中国の血がいまだ濃く、今でも無意識に日本人の友達に接近して歩いたりしている。これに気づいたのも友達の一言のお蔭で、「すーすー、もう少し右を歩いて!私縁石に乗ってしまいそう」。どうも左側を歩いていた友達が接近してくる私をずっと少しずつ避けていたらしい。この文化の真の理由は分からないが、友達曰く、「レズに勘違いされるから」で、そのくせお泊りする時は同じベッドで寝るのをちっとも構う様子がない。理解不可能!

 

日本人は恥ずかしいと思うことが多い。大声を出した時、階段で躓いた時、女の子が電車で競馬新聞を読んでいる時。とにかくいっぱい。競馬新聞を読んで研究して馬券を買うのは立派な趣味だと思うのだが、「そういうのは一人で、家で、こっそりよ。親父くさいって思われるから恥ずかしい」というのが日本人の見解みたい。じゃあゴルフは一昔前まで親父さんたちのスポーツだったのに、今は宮里愛選手が大ヒットしているのはどう説明が付くのか。「それとこれは違うよー」。なにがどう違うのか中国人の私にはさっぱり分からない。

 

大声を出すと言えば、私は日本人の女の子がよく発する「きゃー」を尊敬している。この一言にいろんな意味や状況が込められている!ある日、後ろを歩いていた友達が急に「きゃー」と叫んだ。すごいトーンの高い声にびっくりして振り向いたら、友達が転んで地面に倒れている。慌てて助けつつ習得したのが、日本語の「きゃー」は非常事態の時に使うということ。そんなある日、横に並んで歩いていた友達が、また急に「きゃー」と叫びだしたので、転んでからじゃあ遅いと思い慌てて手を差し出したら、その子は前のほうに向かって走り出した。前のほうに知り合いがいたらしい・・・「きゃー、お久しぶりー」。その後レストランでご飯を食べていたらまた「きゃー」と言うので知り合いかと思いきや、「きゃー、おいしそう!」だそうである。まあ、「きゃー」も人によってはトーンが高かったり低かったり、声が大きかったり、小さかったり、「きゃー」が「わぁー」になったりもする。言葉を習い初めで、いろんなフレーズに敏感だった私にとっては最も悩ましいこの「きゃー」、今では聞こえても反応しなくなっている。野次馬な性格を持つ中国人は街中で「きゃー」が聞こえたら、きっと飛んでいって何事かを突き止めないと気がすまないのに、私はもう聞いて聞こえぬふりで歩き出す。そんな私を中国人の友達は無感情な人と言う・・・

 

高校生にもなれば日本人は両親と遊ぶのを嫌う。理由は「つまらない」とか、「親は口うるさい」とか、一番理解できないのが「親と遊んだら友達が一人もいないと思われるから」である。中国ではいくつになっても親とショッピングしたり、旅行したり、遊園地に行ったりする。家族だから一緒に過ごすのは当たり前。反抗期は生理上あるものの、日本人みたいに必要以上にひどくはない。親と全く口を聞かない、親の言うことを聞かない、しまいには、ぐれる。こんな理不尽なことまで「反抗期だから」とか「難しい年頃だから仕方ない」と親までが庇護する。これもまた本当に理解できない。そんな日本人に比べて私はむしろ反抗期がないように見え、そんな私を日本人もきっと理解できないと思う。(続く)

 

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江 蘇蘇(こう・すーすー ☆ Jiang Susu)
中国出身。留学する父親と一緒に来日。日本の高校から、横浜国立大学、大学院修士課程・博士課程を卒業。専門分野は電子工学。現在、(株)東芝セミコンダクター社勤務。SGRA研究員。
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(このエッセイは、筆者の承諾を得て、2005年度渥美国際交流奨学財団年報より再録しました)