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エッセイ041:今西淳子 「活躍するSGRAの仲間たち:広州・香港(1)」

1月28日朝、広州で宿泊していたホテルへSGRA会員の奇錦峰さんと胡炳群さんが迎えに来てくれました。内モンゴル出身の奇さんは、広州滞在がもう4年目で、広州中医薬大学で教えています。トヨタの系列会社に勤める胡さんは、名古屋と広州と大連を飛び回っていますが、今回は私の訪問にあわせて、奥さんとお嬢さんも一緒に広州に来てくれました。奥さんは仕事の関係で名古屋に居ることが多く、お嬢さんは普段貴州省のおじいちゃんとおばあちゃんと暮らしているけど、これからお正月のお休みなので名古屋に行くそうです。

 

まずは、奇さんの大学の研究室がある広州大学城へ。2004年9月より、広州にある大学の殆どが、こちらに主なキャンパスを移し、もともと農地だった面積17平方kmの川の中州が、あっという間に30万人の学生と教員と職員が住む大学都市になってしまったという、中国でしか実現できない大開発プロジェクトです。300億元(約4500億円)を超える巨額な資金が投入されたとのことです。そもそも広州に来るたびに、空港や高速道路や催事場などのインフラの素晴らしさには圧倒させられますが、私にとっては、ぴかぴかの建物よりももっと感心するのが植栽です。公園や街路樹はもとより高速道路の下まで草木が植えられています。大学城でも、計画が始まったらまず木を植えたのではないかと思うくらい、周囲はさまざまな木が植えられています。亜熱帯の気候ですから、数年たったら立派な森になるでしょう。しかも一歩「城」をでると、果樹園の緑が続き、道端で農民がスターフルーツやパパイヤの果実を売っていました。最近は、このような農家が経営するレストランが流行っているそうですが、奇さんの学生さんも下痢で大変だったというので、旅行者には無理そうです。

 

お正月休みの始まる日曜日だったので、キャンパスは閑散としていましたが、奇さんの研究室を見学しました。空き部屋はあるけど内装がまだなので、研究室は3名共同で使っているということでした。このビルは、建てられてからもう2年以上たっているのにこの調子です。日本ではもったいなくて考えられない建設工程ですが、中国に限らず、アジアに限らず、世界規模で見渡してみれば、そんなに驚くほど珍しいことではないように思います。工事が止まっている建設現場なんて結構ありますよね。ヨーロッパの都市でも数百年かけて完成した大聖堂などもよくありますし、できるところまで建てて再開できる条件が整うのを待つという感じです。尚、このように大学を郊外の一箇所、しかも川の中州に移したのは、学生が市内で反政府運動を起こすことを防ぎ、何か起こっても管理しやすくする目的があったと、香港の方に伺ったことがあります。

 

無理を言って、大学城のそばにある奇さんのマンションを見学させてもらいました。広州の住宅開発は「凄い」の一言に尽きます。たとえば、奇さんのマンションは、珠江のほとりにあり、塀に囲まれ警備員に守られた門からしか出入りできない広大な敷地に、数十棟の建物が立ち並び、共有部分には美しい亜熱帯の木々が植え込まれ、屋外プールも屋内プールもある高級マンションです。建物も、日本の団地とは大違いで、窓が大きく、エレベータを各階2軒だけが共有するような作りで、外壁はパステルカラーで塗られています。ここに限らず広州の高層マンションのデザインはとても綺麗ですが、このようなスタイルは香港の建築家が始めたようです。そして、このようなマンション群が、広州市内や郊外に本当にたくさんあり、しかも今もどんどん開発されています。ただし、香港人が投機買いしているので使っていない部屋も随分あるとのことです。

 

このような新興の住宅開発地区で気づくのは、制服をきた警備員の多さです。門では必ず人の出入りをチェックしていますし、訓練が行き届いているようで、私たちが通ると直立敬礼してくれます。しかも門番だけでなく、かなりの人数が巡回チェックしています。それだけコミュニティーの秩序を守ることを大切にしているとも言えますが、逆に、これだけ警備員を配備しないと、秩序が乱される危険があるとも言えそうです。警備員の多さは、外部からの侵入者の阻止だけでなく、住人がお互いに気持ちよく暮らすための対策のように思えます。

 

奇さんの部屋は、4LDKで150平米。奇さんは大学教授、奥様は歯医者さんです。右肩あがりの経済成長の中、現物を担保にローンができますから、夫婦とも専門職で共稼ぎをしたら、このようなマンションが買えるのです。たいていの人が10~15年のローンをして購入したものだそうです。ただし、厳密に言えば、中国では土地の所有権ではなく、70年とかの借地権です。でも、中国の方々は、そんな先のことはあまり気にしないみたいです。この開発区の一番高いマンションは、川沿いのデュープレックス(2階建て)ですが、3ベットルームで6千万円くらいでした。ここは広州市内からはかなり離れているのにですよ。奇さんのマンションの価値も、買った時と比べ、既にかなり上がったそうです。実は、私は、昨年、広州市内のマンションを訪ねる機会があったのですが、どこも同じような開発でした。夫婦共働きで、どちらかが外資系企業で働いているような家庭が多かったように思いますが、だいたい皆さん3LDK以上で、100平米以上のマンションでした。決して超富裕層ではない、豊かな中間層が急激に育っていると感じました。

 

中国は「平均」で語ってはいけないと言います。「中間層」といっても、中国の全人口の平均というわけではありません。広州は、中国で一番豊かな都市であり、政治の首都北京からも遠いので、人々がそれなりの財力をもってかなり自由に物事をとらえ行動している、と言う意味での「中間層」です。その人数は、中国の人口比の中ではわずかかもしれませんが、絶対数でいえば既に人口が数千万人の国の中間層の人数に達しているかもしれません。私は、子どものキャンプのNPO組織のプロモーションのために、2001年頃から毎年広州に通っていますが、最初はフォルクスワーゲンと三菱の自動車ばかりだったのが、あっと言う間にホンダとトヨタになりました。しかも、アコードは日本より大きいアメリカ仕様ですし、ランドクルーザーのよう高級車も少なくありません。次回は、中国の自動車の話をしたいと思います。(続く)

 

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今西淳子(いまにし・じゅんこ)
学習院大学文学部卒。コロンビア大学大学院美術史考古学学科修士。1994年に家族で設立した(財)渥美国際交流奨学財団に設立時から関わり、現在常務理事。留学生の経済的支援だけでなく、知日派外国人研究者のネットワークの構築を目指す。2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立。また、1997年より子供のキャンプのグローバル組織であるCISV(国際こども村)の運営に参加し、日本国内だけでなく、アジア太平洋地域や国際でも活動中。
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