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エッセイ035:羅 仁淑 「北朝鮮核!韓・日・米の立場を大胆に推測する」

2006年10月9日、北朝鮮が大胆にも核実験を行い、1980年代から懸念されてきた北朝鮮の核問題が顕在化した。世界中に激震が走った。

 

不思議なほど私の心は平穏だった。恐怖感はそれほど感じなかった。
徹底した反共教育で育ったはずなのに。
他の人々はどうだろう。
核実験の同日から一部のインターネット新聞やポータルサイトには以下のような祝賀、安保不感症、いい加減な予想を表すコメントで一杯であった。

 

・北朝鮮の核は韓国のものとも言える。民族の自信がみなぎる出来事だ。7000万人民族が慶祝すべき出来事だ。韓民族であることが誇らしく感じる日だった。10月9日は「ハングルの日」だが、ハングル創作に匹敵するほど光栄であり、すぐにも祝日に指定しよう。
・いまやわが民族も核を保有するようになった。核を盾に弱小国から強力な民族に成長しよう。北朝鮮を批判するより、韓半島の平和のために核が必要である当為性を国際社会に説明しなければならない。
・北朝鮮が核開発に成功したので、米国が強硬策に出る余地は減った。周辺国への被害を考慮し、核を持つ国を先に攻撃することはないはずだ。

 

いつの間にか北朝鮮の核実験ニュースにもそれほど恐怖感を感じなくなっている自分自身にも驚いたが、一部とはいうものの、ネチズンのコメントには開いた口が塞がらなかった。朝鮮戦争以来、南北関係は半世紀にもわたる熾烈な対抗の歴史であった。南北首脳会談が実現(2000年)し、宥和政策へ転換して5年余りしか経っていない。反共・親米思想で固まった私の頭はまだまだ適応機能不全状態の混乱模様だ。

 

日本の政調会長と外務大臣が「核保有論議は必要」と発言した(10月15日、18日)。当然、国内外から激しい反論の洗礼を受けた。国内に限ってみるだけでも、与党内から発言の自制を求められたり、有力紙が社説で扱ったり、国会でも野党4党から当人の罷免が要求されたり、それに対する答弁書が閣議決定されたり、などなど。

 

その結果は?
当人は無傷で、聞いただけで身震いするほどの「核」という言葉に国民の耳だけが慣れた。もしかして隣国の核保有を機に国民の核への拒絶意識を和らげるための国ぐるみの脚本・演出・製作?

 

日本は唯一の被爆国としてNPT(核拡散防止条約)やCTBT(包括的核実験禁止条約)など国際条約の遵守と核軍縮決議を毎年国連総会に提案しており、「持たず、作らず、持ち込ませず」という「非核三原則」を国是の1つとしている。そして北朝鮮の核問題の解決を目指す6カ国協議のメンバー国でもある。日本が核を持つことは想像を絶するほど難しい。だからこそ、隣国の核保有は脅威であると同時に核保有のための空前絶後のチャンでもあり得る。

 

一般教書演説(2002年1月)のなかで、北朝鮮を「悪の枢軸」であると高らかに批判したアメリカの立場は?6カ国協議の再開の見通しが強まり、核問題で何らかの合意が成立するとの期待が高まる最中、北朝鮮と「真剣な協定」を結ぶことに懐疑的な立場を固執し対北朝鮮強硬派で知られる国務次官が辞表を出した(2007年1月)。このことから米国の譲歩による合意の可能性を示唆する性急な見方も出ている。確かに苦しい立場に置かれているような感触だ。

 

やはり核は持ってしまえば強くなるのか!?
持つもの同士の均等関係が生まれるのか!?
それでみんなそれに惹かれているのか!?

 

みんな捨てても均等関係は成立するだろうに。

 

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羅 仁淑(ら・いんすく)博士(経済学)。SGRA研究員。
専門分野は社会保障・社会政策・社会福祉。
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